業界話。
20年たったら書く、という方針でやってますが、20年前のこの時期は空白期間です。
配属されていたプロジェクトが急にお蔵入りになって、次のプロジェクトに配属されるのだけど、このプロジェクトはさんざん時間がかかった挙句、仕様も決まらないままに雲散霧消。
手相占いのヒットで気をよくしたオムロンの持ち込み企画だったのですが、やろうとしていることが野心的過ぎた。
顔を認識して人相を取り、似顔絵を描くと同時に人相占いの結果を印刷しよう、というものでした。
オムロンの持ち込みなのでオムロン側の機材スペックが決まらないと詳細を決められなかったのだけど、数カ月かかって「基礎研究からやり直す」ということに。
結局、オムロンは数年後に似顔絵を作ってくれるシール機を作ります。
当時の技術としてはすごいのだけど、それほど話題にならなかったのではないかな。
この期間、暇だったのでST-Vに「Comet」の基礎部分を移植したのを覚えています。
ST-Vは、「4つの頂点を指定して変形ポリゴンを作る」ことができたけど、単に「線で四角を描く」こともできたし、「2つの頂点で線を引く」こともできた。
でも、こんな機能があることを、企画の方ではあまり知らなかったのね。
プログラマーだから「普通は使わない機能がある」って面白さからそれを活用したゲームを作ってみた形。
ライブラリは基本的に普通のスプライト・ポリゴン表示を想定して作られていたし、そのライブラリをうまく使ってハードウェアの深い機能を使う、という実験になった。
これは後で役立ちました。
ところで、1996年7月27日に、セガサターン用のモデム、XBANDが発売になっています。
20年たったのでこの話をしましょう。
7月27日は、機器の発売日。
「パソコン通信」と「インターネット」(と当時は言われていたけど、WEB ブラウジングのこと)ができます。
メインとしては通信対戦ゲームなのだけど、サービス開始は1か月後だった。
なんだ、そのやる気のなさ。
今のようなネットつなぎ放題の時代だと想像もつかないかもしれませんが、当時は電話を使って通信を行ったので、時間課金。
市内への通信だと3分10円だけど、市外になると値段が上がり、距離に応じて30秒10円程度にまでなります。
通信速度だって遅い。14.4Kbps。
今の光回線が 1Gbps … 1,000,000Kbps くらいだから、5ケタ、1万倍ほど違います。
ちなみに、XBANDは当時としてもスペック低めでした。
1996年夏ごろだと、PC向けに販売しているモデムは 28.8Kbps が普及モデルで、33.6Kbps が高価な新製品。
「おもちゃ」として安くする必要があったのでしょうが、いきなり将来性に疑問符がついていた。
サーバーだって非力で、日本全国からのアクセスに耐えるようなサーバーと電話回線をセガが用意できるわけもありません。
そこで、セガのサーバーはマッチングだけを行います。
東京のセガのサーバーまで…遠距離なので高いけど電話をかけます。
でも、これは必要なデータをもらってすぐに切断されるから、10円で済みます。
ここでもらう必要データが、「マッチングを希望している、近隣に住むユーザーの電話番号」。
もちろん、ソフトが電話番号を知るだけで、ユーザーには見せません。そして、即座に電話をかけ直します。
これで、市内(もしくは近隣)のユーザーと直接接続できます。
ちなみに、マッチングできそうなユーザーがないと待たされるのですが、この場合は「電話を受ける」側になるので、電話料金が不要になります。
電話料金は安く抑えられるし、サーバーを介さないのでタイムラグは最少に抑えられるし、なかなかうまく考えたシステムだと思います。
#電話番号は「知られないつもり」なのだけど、ダダ漏れ。
掛ける側は並列につないだ電話の受話器を取れば音でわかるし、受ける側はナンバーディスプレイがあればかけてきた人の番号がわかってしまう。
発売に先駆けて、社内でβテスターが募集されました。
応募資格は、サターンのすぐ近くに電話線があり、モジュラージャック対応していること。
この当時、まだモジュラージャックに対応していない家も多数ありました。
#NTT民営化は1985年。それ以前は電話機の一般販売もされておらず、交換する必要などなかった。
そのため、住宅の「電話線」は壁から直接出ており、モジュラージャックではないのが普通だった。
僕は、パソコン通信やるために、自分の部屋にモジュラージャック工事してあった。
面白そうなのでテストに参加しました。
このときに完成していた「対応ゲーム」は、バーチャファイターリミックスの通信対戦版のみ。
βテスターですから、対戦開始時刻、対戦結果などを細かく残す必要もあります。
1対戦10円、という換算で電話代は後で支給される約束だから、とにかくたくさん対戦すること。
人数が少ないから集中してやらないとマッチングできない、ということで、1時間程度の期間を決めて集中して遊んだはずです。
たしか、最初の数人との対戦は普通に遊べました。
対戦後「続ける」か「別の人と対戦する」かを選ぶのね。
両者続けるを選んだら、そのまま次の対戦が始まる。
というのも、電話をいちいち切らずに続けたほうが電話代は安くなるから。
でも、このときは出来るだけ多くの相手とやる約束だったので、次々人を変えます。
何人目かで、対戦中に動きが止まり、ゲームにならなくなります。
リセットして続けても、次の相手も同じ。
この後何度か繰り返しても同じ状態で、集中プレイ時間の1時間を過ぎたので終わりにしました。
翌日、対戦がまともにできなかったことを報告します。
通信記録などからすぐに相手が調べられ…通信できなかったときはすべて、同じ部署の後輩とマッチングしていました。
人数が少ないから「近隣の相手」が限られて、違う人を探しても同じ人に当たってしまっていたみたい。
すぐに「電話回線を調べさせてほしい」という打診がありました。
電話回線品質が悪くてノイズが乗っているのではないか、という疑いです。
それは構わないけど、普段パソコン通信やっていて不都合はないですよー。
…回線品質を調べる機械を持ってきて調査したけど、問題なしでした。
さらに数日後、後輩の家と僕の家の間で通話状態にした際の通信品質も調査されます。
これも、特に悪くはない。
機材が悪いのではないか、ということで、僕のセガサターンを調査することになり、持っていかれました。
代替機として、会社からHiサターンが貸与されます。
しばらく後に調査報告を聞いたのですが、結論としては「何も悪いところはない」そうです。
ただ、使用機材と電話回線の両側の組み合わせの「相性」があって、すべてが問題のない品質であっても、通信がおかしくなる現象が生じることがわかった、とのこと。
えー、それって一番まずいやつじゃないの。
つまり、「どこにでもある環境で不具合が出る」ということだよね。
指摘したら、担当者の人は乾いた笑いで「その通りで困りものなのだけど、今から対処する時間はないんだよ」と。
そのまま発売されたそうです。
テストは行ったけど、「正常動作を確認」する目的で、不具合を見つけ出して対処するためのものではなかった模様。
ところで、いまだにセガサターンは返してもらっていません。
僕はセガサターンを購入したはずなのだけど、今家にあるのはHiサターン。
Hiサターンは日立から発売された OEM なのだけど、本来別売りだったムービーパックが最初から入っている高級機種。
なので、別に文句はないんですけど。
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