3Dプリンタの元祖
目次
加工機の完成
パーソンズの構想ではパンチカードを使用していましたが、NCMM は紙テープを使用しました。
当時は、紙テープは重要メディアで、さまざまな分野で使用されたため、いくつかの「標準規格」が存在した。
そして、NCMM は壊れやすい真空管を250本と、リレーを 175本も使用した、巨大で繊細なマシンでした。
実験第1号機として、性能は満足のいくものでしたが、とても工場に置けるような機械ではありません。
この実験機の完成をもって、空軍からの資金援助は終了します。しかし、NCMM はまだ実用化には至っていません。
代わって資金援助を行ったのが、加工機械製作の大手、ギディングス&ルイス(Giddings and Lewis : 以下 G&L)社でした。
これ以降は、工場に置けるような、実用を目指した開発に変わってゆきます。
1955 年には、G&L から NCMM をベースとした新型の加工機械、「Numericord」が発売されます。
この機械は、紙テープではなく磁気テープを使用していましたが、NCMM とほぼ同じものでした。
Whirlwind
当初は、NCMM への「形状データ」の入力を、紙テープへ人がパンチを行うことで行っていたようです。
しかし、完成した 1952年と言えば、Whirlwind 1 (以下 WWI) の完成した年でもあります。
そこで、形状の入力を Whirlwind に行わせよう、という試みが始まります。(というか、おそらくはこのために、WWI と紙テープを共通化したのでしょう)
詳細は不明ですが、1952年から 1954年にかけてはジョン・ラニアン(John H. Runyon)が、1955年にはアーノルド・シーゲル(Arnold Siegel)がこの作業を行っていたようです。
1953年には、ラニアン名義で、NCMM制御のための WWI プログラム(サブルーチン群、となっています)のレポートが書かれています。
(MIT の図書館の蔵書にあるようですが、僕は残念ながら読んでいません…スキャン PDF なども見当たりません)
シーゲルは、どうやらこの「サブルーチン群」を、使いやすくまとめ上げたようです。
非常に簡単ではありますが、形状を定義するテキストを用意し、プログラムに読み込ませると、サブルーチン群を利用して適切な「NCMM制御のプログラム」を紙テープに出力します。
つまり、クロスコンパイルを行うのです。
1955 年に、シーゲルが改良した時の文書を読むことができます。
このころ Numericord が発売されたので、NCMM だけでなく、Numericord でも使えるようにプログラムを改良した、という報告書です。
しかし、シーゲルの言語は、同僚のダグラス・ロス(Douglas T. Ross)の言葉を借りれば、「マクロアセンブラのような」「暗号のような」ものでした。
言語であることに間違いはないが、人間にとっては非常にわかりにくく、「簡単に形状定義ができる」と言えるようなものではなかったのです。
今回の趣旨ではないので詳細な解説は行わない。興味のある人は、次のような点に気を付けて、読解してみてほしい。
・言語は、最初に形状の定義を行い、その後切削する経路を定義する。
・図の言語部分上部は形状定義で、下部が経路定義。形状は変数に代入するような書式になっている
定義について
・点(Point)、円(Circle)、直線(Straight line)の3つの形状が定義可能。
・定義名は形状を意味するアルファベットで始まり、区別する数字を付ける。
・円の接線(Tangent) を求めるには、円の形状の前に T を前置する。
・交点を求める場合は、原点に近い(Near)、遠い(Far)を、N F の前置で示す。
経路について
・各行最初の数字は、刃の移動スピード
・点を1つ示した場合は、切削せずに指定位置に移動する
・形状を2つ示した場合は、1つ目の形状を削りつつ、2つ目の形状に移行する