歯車の奏でる音楽
「社会の歯車」では、連載開始当初から3つの機械を軸に話しをする予定でした。
1つは連載2回目ですでに取り上げている「計算機」、1つはつづく3回目で取り上げている「時計」。
そして、最後の一つは10回目にしてやっと登場。「自動演奏機械」です。
自動演奏機械、というとなんだか仰々しくて、どんな機械だろうと思う人もいるかもしれません。しかし、実際にはいろいろなところでお目にかかっているものです。
一番身近なものはおそらく「オルゴール」でしょう。もしかしたら家に時報として音楽を鳴らすからくり時計があるという方もいるかもしれません。
(最近のからくり時計は、電子音を使っていたりして味気ないのですが)
サーカスが来るときにピエロが人集めにならしているストリートオルガンも自動演奏機械ですし、高級なところでは自動ピアノなんていうものもあります。
商品名になりますが、「ニケロディオン」という自動ピアノのシリーズでは、ピアノのなかに木琴やドラムまで納めてしまい、賑やかな演奏を可能にしています。
今回はそれらの自動機械のなかでも比較的親しみやすく、それでいて見慣れない「オルガニート」を紹介いたします。
オルガニート
オルガニートは、名前のとおりオルゴールに非常に似た機械です。
著者の所有するオルガニート。国内で売られているものでは、もっとも安いものの1つで、3000円で購入(詳しくはこのページの最後に)。
通常は綺麗に装飾された共鳴箱に収められていて、1万円から2万円程度である。
ただ違うのは、オルゴールでは1つの機械にたいして1つの曲しか演奏出来ない(高級機ではそんなことはないが)のにたいして、オルガニートでは自由に曲を変えられ、それどころか自分で曲のデータを作ることも出来ることです。
この違いは、オルゴールでは楽譜を「鉄板」の上に「爪」をつけたもので表わすのにたいして、オルガニートは「厚紙」に「穴」を開けたパンチカードで表わすことから来ています。
オルガニート用パンチカード。写真は先頭部分だけだが、かなり長い紙が使われているので、短い曲なら1枚に収めることが出来る。
余談だが、歯車機械とパンチカード、そしてコンピューターという流れは当ホームページ(魔法使いの森)のもっとも得意とするところ :-)
鉄板加工はだれにでも気軽に・・・というものではありませんが、厚紙に穴を開けるだけなら、だれにでも出来ますよね?
このパンチカードをオルガニートにセットし、手回しのハンドルを回してやれば見事に音楽を演奏してくれます。
演奏データが厚紙なので、張り合わせて長い紙をつくってやれば長い曲を演奏することも出来ます。ここらへんの自由度もオルゴールと違うところです。
パンチカードをオルガニートに通しているところ。ハンドルを回すと、写真左手から右手に向けてカードが動いて行く。
カードの上には針金ばねによってカードを押さえる板がある。本体右端のローラーが手前のハンドルに連動しており、カードを動かす。ローラーの下には音を出すための仕組がある。
それでは、オルガニートはいったいどのようにしてパンチカードを読み取り、音楽を演奏しているのでしょうか?
オルガニートも、オルゴールと同じように櫛状の振動板を爪が弾くことで音階を出します。
オルゴールと違うのは、オルゴールが振動板を弾くための「爪」を筒や円盤の上に並べているのにたいして、オルガニートでは爪は最初から振動板の下に固定されていることです。
オルガニートの仕組(模式図)。
これは1音分の図なので、実際にはこれが音階分並んでいる。
振動板を弾く爪は4つの爪を1つの円盤に取り付けた、歯車状のものになっています。
ハンドルを回すと、ハンドルに連動したローラーがカードを送ります。このとき、カードに穴があいていると爪が引っかかり、歯車状の爪が90度回転します。
このとき、次の爪が振動板を弾いて音を出します。
今回紹介したオルガニートは、小樽オルゴール堂「銀星館」で入手したものです。
通常はオルガニートは共鳴箱つき1万円前後で販売されているのですが、小樽オルゴール堂では共鳴箱なしのものが3000円から入手できます。
小樽オルゴール堂は、その経営母体である「BLUE HOUSE」が今年(1997年)はじめに倒産したため、1月いっぱい閉鎖されていました。しかし、有名な観光地であることを考慮して、2月1日から運営を再開したそうです。
私も先日訪れ、オルゴール堂オリジナルのオルガニート楽譜を数点買ってきました。クラシックから最近のヒット曲まで、売るだけあって出来の良いものがそろっています。
しかし、後で気がついたのですがJASRAC(日本音楽著作権協会)の承認シールはどこにも貼っていなかったような・・・ (^^;