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2016-02-18 秒殺(1)
2016-02-19 秒殺(2)
2016-04-09 スカイターゲット
2016-04-12 タタコット
2016-04-13 2度あることはサンドア~ル
2016-04-16 スポーツフィッシング2
2016-04-29 お昼ご飯の思い出
2016-06-30 Comet
2016-07-28 セガサターンモデム
2016-08-04 手相占い特別版
2016-08-26 108項目チェックリスト
2016-10-11 ジュラシックパーク
2016-10-27 ダイナマイト刑事
2016-11-25 マジカル頭脳パワー!!
2016-12-22 ここらでコラムス
2016-12-23 コラムス 97
2016-12-24 コラムス 97 に影響を与えたもの
2016-12-25 コラムス 97 の音楽
2016-12-26 コラムス 97 余談
2016-12-27 コラムス 97 サターン版
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そろそろ、昔話を再開しましょう。
記憶にはなく、ネットで記録を探しても見つからないのですが、1996年の AOU エクスポは、おそらく2月の16~17日。
毎年、2月第3週の金・土にやっていた…と思いますので。ちょうど20年が過ぎたところ。
で、このショーに出品予定だったのですが、間に合わずに出せなかったゲームの作成に参加していました。
この後、このゲームはロケテストもしないまま開発中止になっています。
つまり、どこにも披露せずにお蔵入り。関係者以外誰も知らないはず。
そんなゲームの話を書いてよいのか、と自分でも迷いますが、20年もたっているのだからそろそろ書いても良いでしょう。
ファイナルアーチの海外版 (Super Major League) の開発が終了したのは、1995年の暮れのこと。
開発が終わり、チームは解散。僕はすぐに別のチームに配属になりました。
このチームが作っていたのが、ST-V の縦スクロールシューティングゲームで、この時点での仮タイトルが「秒殺 - Second kill」でした。
先に書いた通り、開発中止したので正式タイトルはありません。以降「秒殺」と呼びます。
セガって、ほとんど縦シュー作ったことがない。
いや、皆無とは言いませんが、経験が蓄積されるほど頻繁には作っていないのです。
でも、まだこのころは縦シューというのはゲームの重要ジャンルの一つでした。
社員の中でも、縦シューが好きだという人は結構いた。
そういう人たちが集まって、ST-V の性能なら新しい縦シューが作れる、と会社に掛け合って開発をしていたのが、秒殺でした、
縦シューは上に書いたように重要ジャンルなのですが、稼げるジャンルではありませんでした。
お店にとっては、ゲームの種類を揃えるために2~3台は置いておきたいけど、良くてトントン、場合によっては投資を回収できないジャンル。
だから、できるだけ安く作らなくてはなりません。
ST-V は発売前から、3D が使えるのに非常に安価なボード、とされていました。
安価なら縦シューを作るのに十分。3D なら、他社が出せないような新しい表現ができる。
そうした「新しい縦シューのジャンル」を作り出すのがプロジェクトの目標でした。
でも、新しいジャンルの創出って、言うほど簡単ではないのよ。
ST-V の実機が動き始めるはるかに前から、縦シュー好きの企画の人が、アイディアを温め続けていました。
ただ、実際の 3D がよくわかってないから、申し訳ないけどアイディアのほとんどが「机上の空論」。
3D だったらこんなことができる、あんなことができる…と、空想を膨らましているだけで、実際に作ってみないとわからない「3Dの欠点」には一切気づいていない。
企画先行型の落とし穴です。
たとえば、3D でパースを付けた街の上を飛べることになっているのに、地上物と空中物を同じ弾で倒せることへの違和感は考えていなかった。
パースがついているから、そもそも「弾の真下にいる」地上物は、俯瞰したカメラでとらえた画面の上では、弾と重ならないのです。
でも、座標上では重なったことになるから、「敵に当たった」と判断することになる。
この程度なら、画面の見た目で重なることを優先、で済むのですが、一事が万事そんな調子。
3D にする、3D の表現を取り入れる、ってかなりややこしいことでした。
そもそも縦シューの開発経験が乏しく、ノウハウがない、というのも問題でした。
秒殺のメインプログラマは、手相占いでメインプログラマをやった先輩。
怒首領蜂など、CAVE系の縦シューが大好きでした。
自分が好きだから一応かなり研究して、基礎部分を作り上げます。
でも、「遊ぶのが好き」という観点で研究したとしても、実際に作ってみないとわからないことがある。
このときに作成した基礎部分、それほど設計が良くありませんでした。
そして、企画担当者は彩京シューティングが好き。
僕は、チームに入るときに企画の方から「ガンバードを遊び込んでほしい」といわれました。
彩京の当時のヒットゲームの一つね。
#僕は縦シューはそれほど好きなジャンルではないのですが、仕事でやるのだからソフトを購入して、クリアできる程度にはやりこみました。
だから、ガンバードはそこそこ好きなゲームの一つ。
ゲーム好きでないとよくわからないかもしれないけど、「縦シュー」といっても会社ごとに個性が違い、ゲーム内容はかなり異なります。
CAVE系のゲームは、アクション性が強くてパターンを作りにくい。反射神経が勝負です。
でも、彩京のゲームはパターン化しやすい。敵の弾もそれほど自分を狙ってこないため、繰り返し遊んで記憶することが大切。
さて、メインプログラマーが CAVE 好きで、企画が彩京好き、というのは困った問題を引き起こしました。
最初に CAVE のようなゲームを想定したプログラムを作ったのに、企画書ではそうではない動きばかり要求されるのです。
チーフ以外に2名のプログラマがいましたが、それぞれに担当したボスの動きなどの必要性から、元のプログラムをコピーして改造し、微妙に違うプログラムが多数存在する状態になっていきます。
コピーが多数あるので、バグが見つかった時には全部を修正しないといけないし、そもそもメモリを無駄遣いしている。
だんだん収集がつかない状態になっていきました。
僕がチームに入ったのはそんな時。
メインプログラマの先輩が、手相で一緒にやった僕の腕を信頼してくれ、僕をチームに入れるように部長に掛け合ったのです。
しかし、これが難題でした。
先に書いたように、秒殺のプログラマーは僕のほかに3人。
メインは、先に書いたように手相のメインプログラマの先輩でした。
手相の時は、この先輩と2人でプログラムを作りました。
もう1人、手相でご一緒した先輩がサブプログラマをしています。
…僕とメインの二人が手相の時のプログラマだったのに、もう1人一緒にやったプログラマがいる、というのは計算に合いませんね。
この人、手相の時は企画でした。
手相の前に作った占いもヒット、手相は大ヒットで、そのまま企画を続けるのに実績は十分…と思うのですが、なぜかプログラマに転向。
入社前は個人でゲームを作っていたようで、プログラムも、企画も、グラフィックもできる人でした。
この方とは、後に別のゲームでまたご一緒することになります。
あと一人、メインプログラマーと仲の良い後輩で、僕よりは当然先輩の方。
以前に書いたけど「わくわくタマ&フレンズ」作った人。
この方とも、後に別のゲームでまたご一緒しました。
この話、長いので次回に続きます。
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別年同日の日記
申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 |
秒殺のプロジェクト進行は、予定よりも遅れていたようです。
本当なら、春のゲームショーには参考でも良いので出展するはずだった。でも、このペースでは出展が微妙。
だから、とにかく仕様書が作られ、先輩プログラマ3人が猛烈な勢いで実装していました。
プログラマならわかると思いますが、猛烈な勢いでプログラムするときって、品質は二の次になる。
とにかく動けばよい、という形で、類似ルーチンを切り張りして、似て非なるプログラムがどんどん増殖します。
これを3人でやっているのです。
人のプログラムに手を出してしまうと混乱するから、誰かが作ったルーチンを改造したいときは、コピーして改造する。
その改造ルーチンを別の人が使いたいときは、さらにコピーして改造する。
類似ルーチンが増えすぎ、どこかにバグや仕様変更があった時は、全部に手を加えないといけません。
管理が煩雑化しますし、何よりもメモリの無駄遣いでした。
途中から投入された僕の仕事は、このプログラムをすっきりと整理する、ことでした。
ただし、ショーが迫っているため、3人の作業を邪魔してはなりません。
混沌が追加され続ける作業を止めずに、混沌をなくすのです。
例えば、敵が弾を撃つことを考えてみましょう。
弾を動かすプログラムと、その弾を発生させるプログラムがあります。
発生時は、その弾を撃つ敵キャラクターの位置から弾が発生し、プレイヤーの操作する自機を正確に狙って飛ぶように移動方向が定められます。
そして、そのパラメータに従って、弾が動き続けます。一定速度でまっすぐ飛ぶ、のです。
秒殺でも、当然こうしたプログラムが最初に用意されたようです。
でも、縦シューやる人ならわかるけど、敵弾って自分を狙うばかりではないよね。
例えば、自分とは関係なしに、一定のパターンでばら撒かれる弾がある。
そういう動きを企画書で指示されたため、弾の発生プログラムがコピーされ、「角度」を渡せるように拡張されます。
さらに、弾を同時に3発、15度の角度を開けて撃つような指示があり、「散弾角度」や「同時発射数」が指示できるような拡張もあり、「弾の速度」などを変えられるような拡張もされています。
弾を動かす方のプログラムも、最初は弾の速度が一定だったのが、速度可変になったり、途中から加速する、自機を狙うホーミング弾を動かす…などなど、拡張されます。
これらがすべて、「少しづつ違う別のプログラム」として作られてしまっているのです。
これらを何とか整理してほしい、というのが僕に与えられた仕事でした。
まず、弾のデータを保持する構造体を整理しました。
多数あるプログラムごとに、少しづつ違う構造体があったのを、全部共用できるように。
ミソは「特殊処理ルーチンへのポインタ」を持たせたこと。
ポインタが NULL なら線形の動きをしますが、ポインタが存在していれば特殊ルーチンを呼び出します。
これは、ホーミング弾や加速弾などの特殊な動きに使われます。
あとは、線形でも速度が変えられるように「速度」パラメーターを持たせたり、その程度。
発生プログラムのほうは、自機を狙うかどうかのフラグ、発射角度、同時発射数…など、非常に多くのパラメータを受け取る関数を用意します。
先ほど書いた「特殊ルーチンへのポインタ」も、ここでセットできるように。
でも、引数が多すぎると使いにくいですし、今までのプログラムを全部書き換えないといけなくなる。
そこで、今までの関数と同じ体裁で、内容は「書き直した関数を適切に呼び出すだけ」の関数(ラッパ関数)を用意します。
これで、今までのプログラムはそのまま動くし、今後特殊な弾が必要になっても、多数のパラメータを適切にセットすれば、プログラムを改造する必要はなくなるはず。
といっても、一部で今までの構造体を直接アクセスするようなプログラムもありました。
そういう箇所は、個別対応で書き換える必要がありました。
#簡単にいえば、共通部分をまとめたスーパークラスを作り、処理の違う部分は個別のメソッドとしました。
継承クラスとしてメソッドをオーバーライドしたものを作ることで、多様な動作を作り出せます。
…と、オブジェクト指向の知識があればそう説明できるけど、使用言語はC言語でした。
2016.4.29追記
前提となるゲーム技術を解説しているページを見つけました。
というか、かつて存在したページが、Wayback Machineに保存されていた、という形かな。
上記ページの説明では「タスクシステム」と呼んでいますが、処理とデータをメモリブロック(上記記事ではワークと呼んでいる)内でひとまとめにする技法です。
上記ページでは「ギャラクシアン発祥説」を唱えているけど、、ギャラクシアンではこの技法は使われていないそうです。と、付記しておきます。
以下は、上記ページの内容を読んで理解した、もしくはすでに知っていた人向けの解説。
タスク生成がインスタンスの生成になります。
汎用ルーチンを使うなら(=クラスを継承するなら)、ワーク内のデータは位置を揃える必要があります。
上記記事で解説していませんが、例えば「画面に表示するキャラクター」のクラスであれば、X Y 座標とキャラクタの ID などをワーク内の共通位置に持てば「キャラクタ表示」関数を共通化できます。
ワーク上に処理関数へのポインタを置いて呼び出すのはメソッド呼び出しになり、ポインタの書き換えはオーバーロードに当たります。
キャラクタクラスを継承して「敵」のクラスを作ったとします。
あたり判定など、共通の処理は敵全体の共通処理です。
敵の動きなどは種類ごとに異なるので、「敵の動き」というメソッドを作ります。
(処理関数へのポインタを持たせる)
敵の共通処理の中で、このメソッドを呼び出すようにしておけば、敵の処理自体は共通化したままで、個別の動きは変えられるわけです。
僕が入る前の「秒殺」のチームでは、他の人が作ったタスクシステム上にすでに存在していた「画面表示キャラクター」用のクラスは使っていたのですが、そのクラスの下に敵の種類・敵弾の種類ごとに別々のクラスを多数作ってしまっていました。
僕の作業は、これらの多数のクラスの「スーパークラス」として、「敵」や「敵弾」のクラスを作り、個別の敵・敵弾は、そこからの派生クラスとした、というものになります。
以上、追記終わり。
大切なのは、すべてを統合した「巨大関数」について、詳細な仕様を残しておくこと。
呼び出し方法はもちろんのこと、どこのプログラムが、どんな理由でつくられており、実際にどのルーチンで呼び出されたときに有効になるか。
これを整理して文書化しておきます。
そうしなくては、「プログラムが理解できないから、いじってバグが出るのが怖い」という理由で、またコピーが増えることになります。
どこにどんな意味があるのか、実際どこで使われているのかが明確になっていれば、手を加える際にも間違いが減りますし、実際に影響がありそうな部分で動作の互換性を確かめられます。
弾だけでなく、敵の動きやボスの動きなども同じように統合していきます。
そもそも、チーム配属された時点で、僕はプログラムは一切理解できていないわけです。(まだ見てもいないのですから)
プログラムの理解から初めて、こうしたプログラム整理をするだけで、配属から1か月くらいかかった記憶があります。
しかし、1か月というのはショーへの締め切りを意味していました。
今後拡張しやすいように内部を整理する、という作業だけに追われ、結局ショーに向けての「拡張」を開始することができません。
ショーへの出展は見送り、と決定されます。
正直なところ、ここまで頑張ってきた企画・プログラマの面々には申し訳ないのですが、急に投入された僕から見ると、この時点でのゲームは全然面白くない。
形だけを突貫で整えた、というだけで、バランス調整などが入ってません。
ゲームの面構成も、今すぐ使えるプログラムを組み合わせた、という感じでバラエティに乏しい。
どの面も同じように見えます。
そのことは、企画者もわかっていたようです。
ショーへ出展しない、と決まった時点で、「間に合わないとわかっているから手を付けなかった」部分の拡張に入ります。
僕は、地上の敵に複雑な動きをさせたいので、配置してほしい、と頼まれました。
ここまで、地上物は「地上に固定」されていたのね。
ところが、ここで頼まれた地上物は、テクスチャに描かれた道の上を走ることになっている。
この「道」はただの絵で、どのように動かすか、というデータすらない状況。
しかも、3D表現を活かすために、この「道」がついているのは、実は巨大な空中物の表面だという設定になっていて、3Dでぐりぐり回るのです。
そんなこと、それまで一切考えられていない。
最初は、「それらしい動き」で誤魔化そうとしましたが、多数の敵を「巨大な空中物」の表面に固定するのには無理がありました。
ちゃんと計算するプログラムを作らないとだめだ、と思い、関数をくみ上げている最中に、プロジェクトの中止が決まりました。
だから、僕はこのチームで「プログラムを整理した」だけで、何も作り上げるような作業ができていません。
中止が決まる直前、春のショーが開催されました。1996年の AOUショーね。
このショーでは、タイトーから「レイストーム」が発表されていました。
すでに人気のあった縦シュー「レイフォース」の続編でありながら、3D表現を大胆に取り入れた、新たなジャンルを作り上げていました。
#知らない人は、レイフォースのリンク先の Youtube 動画を見た後で、レイストームを見るといい。
ゲームシステムがほぼ同じで、前作を遊んだ人には違和感なく遊べるにも関わらず、画面表現が全く違う驚きがある。
狙いは全く同じ。ただし、秒殺はいまだ見せられる状態になっていないし、既存の縦シューをポリゴンで模倣するのが精いっぱいの段階で、「新たなジャンル」を感じさせるまでにはなっていません。
レイストームは、ヒットタイトルの続編で、違和感なく遊べるシステムを作り上げながら、新しい画面表現に成功していました。
どう考えても勝ち目のない勝負。プロジェクトの中止も当然でした。
メインプログラマの先輩は、本当に縦シューが好きで、このプロジェクトにかなり入れ込んでいました。
ただ、やっぱり作成経験が乏しかった。どんなに遊ぶのが好きでも、それで上手に作れるわけではない。
プログラマだけでなく、企画も含めてね。
経験が少ないジャンルって、よくあるゲームの模倣を作るのだけで精いっぱいで、新たなアイディアを入れる余裕がないのです。
メインの先輩は、このしばらく後に、家庭の事情もあって、退社して実家に帰りました。
入社直後からお世話になっていて、仕事以外の趣味分野でもゲームや本の貸し借りをしたりする仲の良い方だったのですが、その後は連絡もしていません。
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別年同日の日記
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1995年…なのだけど、いつ発売したのか記憶が定かでないため、2016年まで待ちました。
もう確実に20年超えているから、そろそろいいよね。
とはいえ、僕は同じ部屋にいただけで、それほど詳しくは知らない。
まず、作成チームは基本的に「ウィングウォー」の方々です。
見た目が似ているから「アフターバーナーのリメイク」的に捉えられることがあるのだけど、そうではない。
ただ、「気軽なフライトシミュレータ」であったウィングウォーがあまりヒットしなかったので、もっとアクションゲーム寄りに調整しようとはしていて、結果的にアフターバーナーっぽくなっていたのは事実です。
ところで、アフターバーナーって高空を飛んでいるはずなのに、地面のスクロール速度が速すぎる。
まるで、超低空飛行しているみたい。
敵も、遠くに出現したと思ったらいきなりすぐ近くにいたりする。
3Dで高空を飛んでいるはずなのに、視界が非常に狭い。
速度感を出す演出として、嘘をついているのですね。
ウィングウォーでは、ハリアーと複葉機が同等に戦えたり、ビルにぶつかっても「空中でスピンする」だけだったりという嘘はついているのだけど、飛翔感については嘘をついていない。
スカイターゲットは、ウィングウォーの延長に作られたゲームです。地面を高速スクロールするような嘘はつかない。
だから、アフターバーナーに比べて地面はずっとゆっくりスクロールする。
3Dの演算も嘘をついていないので、遠くにいる敵が、小さく、ゆっくり動く。
その間に狙って迎撃してしまえば怖くない。
…迫力を出せず、ゲームが単調になる。
そこで、巨大なボス敵で迫力を出す、という演出が重視されます。
翼長 1km の超巨大爆撃機、とか、飛ぶわけないものが空を飛んでいる。宮崎駿の世界。
これすらも、3Dパースによって小さく見えてしまうので、登場の瞬間だけカメラワークを切り替えて、巨大さを伝えようと努力する。
スカイターゲットは、極端な設定から一部では「バカゲー」扱いなのですが、そうでもしないと迫力を演出できなかったのです。
このゲーム、いろんなところで無理してます。
ボスが無暗と大きい、というのも、迫力を出すための無理。
自機が飛んでいるのを3Dで追いかけている…ように見えますが、実際には奥方向への強制スクロール。
自機の向きとカメラの向きは違うので、どこを狙って撃つのかわかりにくい。照準を出してカバーしています。
しかし、自機が動くと機体は傾き、画面全体も回転します。
これにより、左右の敵を狙おうと動くと、画面が回転して敵の位置が変わってしまい狙いが定まらない。
リアリティを求めるのか、嘘をついてゲームとして面白くするのか、どっちつかずの状態で困ったことになっています。
これ、企画者の人はかなり困っていたらしい。
実のところ、ゲームとして面白ければリアリティなんてどうでもいい、というつくり方でやっていたらしいのだけど、偉い人が噛みついた。
せっかく3Dで正確に計算できるのだから、嘘をついてはいけない。リアルにしろ、と言い出したのです。
これが、はるかに偉い人だったら、時々しかゲームを見に来ないからごまかしようもあります。
その時だけ聞いたふりして、自分の好きなように作っちゃえばいい。
でも、現場の偉い人だったのですね。
現場の人だからゲームのことわかっているはずなのに、この頃は3Dの出始めだったので幻想持っちゃってて、リアリティを目指せとか言い出す。
妥協、妥協を繰り返して、偉い人が納得する程度のリアリティを盛り込みながら、ゲームとして楽しめるための嘘をちりばめる結果になりました。
あまりヒットしなかったのは、遊ぶ人に「無理している」ことが伝わって、気持ちいいゲームになってなかったからだと思っています。
グラフィックに関しては、素晴らしいものでした。
MODEL2 のゲームって、「段ボールみたい」とか「プラスチックみたい」とよく言われました。
グラフィックの作り方に癖があって、質感を上手に出すのが難しいのね。
でも、スカイターゲットの CITY AREA …夕暮れの空で戦う演出で、ちょっとしたブレイクスルーがありました。
この話をするには、MODEL2 のグラフィックの説明から始めないといけませんね。
MODEL2 のテクスチャは、モノクロ16階調です。
そして、光源との角度を計算して、16段階の陰影がつけられます。
問題は、これが「32階調のパレット」で表現されることなんです。
32段階のグラデーションがあって、16段階の「明るさ」によって決まる位置から、16色分を使って画面表示を行う。
みんな、このグラデーションパレットを、特定の色調で、最も明るいところから、最も暗いところまで、均等割りにして作っていました。
そうしないと、「明るさ」を変化させたときに、明るさだけが変わった同じ画像に見えないためです。
ところが、最も明るいところから暗いところまで…コントラストを大きめにすると、つやつやとしてプラスチックっぽくなる。
少し抑えめにすると、角度による色の違いがほとんどなくなって、段ボールっぽくなる。
スカイターゲットの CITY AREA では、夕暮れを表現するために、自機のグラデーションを全体にかなり暗めにしました。
金属質の飛行機を表現するため、色合いは灰色系統です。
ただし、夕暮れの光が当たる、という演出で、一番明るい部分だけを、赤系統で極端に明るくなるグラデーションとしたのです。
これによって、夕日に照らされるギラギラした感じを表現できました。
先に書いた通り、MODEL2 は「モノクロ16階調のパレット」として作られています。
でも、この方法は、パレットの途中から色が変わります。モノクロではないのです。
当然、モノクロとして描かれたテクスチャも、不自然な色変化を起こします。
しかし、単体としては不自然でも、モデル全体でみればそれほど違和感がないのです。
「グラデーションを極端にして、別の色を混ぜてしまってもよい」という、ただそれだけの単純な話。
でも、スカイターゲット以前は「モノクロテクスチャ」という概念に引きずられ、誰もそうした設定を試していなかったのでした。
スカイターゲット以降の MODEL2 ゲームでは、こうしたグラフィックの描き方が普通に使われ始め、もう「段ボール」などと言われなくなりました。
最後にゲームとは関係ないことを。
発売後、あまりウケなかった、と評価が確定した後の話。
いつも話を面白おかしくすることに長けた人が、「名前が良くなかったよねー」と。
だって、「スカい」でしょ? 名古屋弁で「はずれっぽい」って意味だよ?
それ以降、このゲームを思い出すと常に、タイトルの3文字目がひらがなです。
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別年同日の日記
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タタコット。
1995年、というのはわかるのだけど、こちらもいつ発売になったのかよく覚えていません。
Youtube の画像は、海外版の ROM を MAME で動かしたところ。
エレメカだからエミュレートも大変。まだ画面にエラー表示が出ていて、遊べません。
デモ画面のみです。
#MAME のエラーではなく、機器が正しく接続されていない、というゲームプログラム上のエラー
AM1研では主にテレビゲームを作っていたわけですが、このゲームは「エレメカ」扱いです。
通常の筐体に入れることができればテレビゲームなのだけど、特殊筐体が必要。
そして、特殊筐体なのでAM4研との共同開発、という扱いだったと思います。
ゲーム内容はもぐらたたきなのですが、「穴から出てくる」のではなく、画面を走り回ります。ゴキブリが。
そのゴキブリを、ハンマーでたたきつぶす。
画面に向かって、プラスチックとはいえ思い切りハンマーを叩きつけるのですが、もちろん画面はアクリル板で守られています。
そして、叩かれた位置がわかります。
今ならタッチパネルなんて当たり前ですが、当時ゲームに応用したのは珍しい技術。
「色物」なので、安くあげる必要があり、ボードは ST-V です。
先輩プログラマが1人で作っていたのではなかったかな。
いや、もしかしたら2人くらいいたか?
日本ではあまり売れなかったと思います。
というか、最初から日本で売れるとは思ってなかったみたいなのね。
日本では、こういうゲームにはあまり需要がありません。
でも、アメリカではまだ(少なくとも当時は)こうしたゲームは人気があったの。
日本語版が完成したら、すぐに英語版を作る作業が始まりました。
英語では Critter Crusher 。
ただ英語にして終わり、ではありません。
アメリカでこうしたゲームにまだ人気がある理由は、エレメカが Gaming 対応できるためです。
これ、法律の関係で、日本ではできないこと。
ゲームで高得点を出すと、得点に応じて「シール」が払い出されます。
このシールを集めると、景品がもらえる。
200枚集めて鉛筆、とか結構しょぼいのですが、ゲームの腕を磨くことを評価してもらえるのですね。
日本だと、ゲームセンター(七号営業)は景品を出さないと決められているので、こうしたことはできません。
タタコットの筐体写真を載せているページがありました。
素晴らしいのは、すぐ下にある Cabinets : Critter Crusher と書かれているリンクで、海外版の筐体も見られること。
比べてもらうとわかりますが、前面左側、日本では何もついていない部分に、海外版では何か機械がついています。
これが、ゲーム結果によってシールを払い出す「ディスペンサー」です。
ディスペンサーは、一般化された機械があって、ゲーム終了時に得点に応じてその機械を制御すればいいだけ。
論理的には簡単な対応です。
でも、実際にはこの「シール」は景品に直結する、金券と同じような扱いです。
ミスで過不足があってはならないし、バグでディスペンサーが動いたりしないように、制御プロトコルも厳密に作られていたみたい。
簡単だと思ったら結構制御が面倒くさい、とプログラマーの人がぼやいていました。
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別年同日の日記
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2度あることはサンドア~ル、ですね。
1995年11月の発売のようです。
タントアールシリーズの第三弾。前2作はメガドライブ互換機版で作られましたが、サンドアールは ST-V でした。
作ったのは CRI こと、CSK 総合研究所。
形の上ではAM1研の外注なのですが、たしか、CRI 側から持ち掛けてきた話だったと思います。
#詳細知らないので間違ってるかもしれません。
CRI は CSK の子会社ですが、CSK はセガの親会社(当時)。ということは、CRI はセガの兄弟会社に当たります。
CRI って、FM Towns のアフターバーナーとか作ってたよね。…あまり評判良くなかったけど。
多分、これがゲーム分野での最初の作品。
その後、だんだんと力をつけ、主にパソコン向け・メガドライブ向けの移植を手掛けるようになります。
そして、業務用のオリジナルを作りたい、ということになったようです。
ただ、初めてで完全オリジナルは、やはり怖い。
CRI のチーム内に「タントアール」のファンがいたそうで、続編を任せてもらえないか、と打診があったそうです。
ミニゲームなら経験が浅くても作れるのではないか、という読みもあったのでしょうね。
タントアールは「ミニゲーム集」というジャンルを切り拓いた作品でしたが、すでにブームは過ぎており、特に続編を作ろうとはしていませんでした。
しかし、兄弟会社だということで上層部からの命令もあったようで、CRI に外注する、という形式での作成になったようです。
AM1研からは、企画者が一人参加しています。タントアールらしさを保つために。
でも、基本的に CRI が作り上げたオリジナル。
AM1研側の企画者がどの程度コントロールしたのかは知りません。
あるいは、タントアールファンがいたのは事実で、タントアールらしさを失わないようにしたのかもしれません。
いずれにしても、出来上がったのは、タントアールの正当な続編でした。
ST-V を使って画面は美しくなっていますし、ST-V らしいエフェクトも随所に使っているのですが、どこからどう見てもタントアールシリーズです。
これが、タントアールシリーズの最後の作品です。
いいですか、これが最後ですよ!
(詳しくはまたそのうち…)
サターン版発売時には、オリジナルスタッフがさらに手を加えて、CRI 名義で発売になりました。
世の中的には、アーケードはAM1研で、サターン版の移植・アレンジが CRI 、ということにされているようですが、ほぼ CRI 作品といってよいかと思います。
CRI は、移植とミドルウェアの会社と認識されているのですが、オリジナルも作れると評価してあげてください。
#先に書いたように、AM1研から一人参加して、細かなアドバイスなどを行っているのだけど。
別年同日の日記
申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 【a】 これが、タントアールシリーズの最後の作品です。 いいですか、これが最後ですよ! ←これは、「"サシっす"は断じてタントアールシリーズではない」ということも意味してるんですよね!? (2017-01-17 13:35:09) |
1995 年中に発売になったようです。詳細時期不明。
実際に釣竿を動かして釣りをするゲームです。
画面はついているけど、エレメカの範疇。
古いうえに「エレメカ」なので映像があまりありませんね。
タタコットは、AM1研と4研が共同で作ったエレメカで、AM1研作品の扱いでした。
スポーツフィッシング2も、同じく1研と4研の共同作。でも、AM4研扱いです。
AM1研はプログラム作成で協力していて、先輩プログラマが動画制御プログラムを作っていたのを見ていました。
ST-V に CD-ROM ドライブを接続して、ムービー再生させるのね。
内容的にはビデオ CD で MPEG-1 だったと思うけど、ソフトウェア再生なのか、サターンのムービーパック相当のハードウェアを使っていたのかは知りません。
開発当初、とにかく「ビデオCDを再生させる」という指示なのに、肝心のビデオCDがない。
なんでもいいからビデオCD頂戴、というリクエストに対して、なぜかエヴァンゲリオンのオープニングのビデオCDが…
まぁ、提供セガでしたからね (^^;;
当時は、MPEG1 の圧縮も普通のパソコンでは実時間の3~5倍の時間がかかっていました。
セガにはマルチメディア編集用の部屋があり、そこに非常に強力なマシンが置かれていたのですが、これでも実時間の2倍程度。
ビデオ素材を用意するのも大変だったので、手元にあったデータを使っていたのでしょう。
僕はエヴァ見てなかったのだけど、近くの席で一日中流れていたのでオープニングだけ覚えてしまいました。
スポーツフィッシング「2」なのだから、当然前作があるわけです。
宣伝チラシはあるのですが、どうも開発ボードがわからない。
海外のセガマニアが作っている、それなりに信頼のおけるサイト SEGA RETRO では、ST-V だとなっている。
でも、チラシは 1994年6月です。ST-V が発売になったのは1994年の末なので違うはず。
僕が入社したのは 1994年の4月ですが、少なくともその時点でAM1研では開発中ではありませんでした。
4月前にリリースしてしまい、チラシが後から作られたか…
いや、おそらくは、AM4研の単独開発だったのでしょう。
だから、2でもAM4研作品の扱いになった。
1も2も遊んだことがないので明確に言えないのですが、記憶では1は純然たるビデオ映像素材だけで作られていたはず。
映像にゲーム機で画像を重ね合わせ、とかやらないのです。
レーザーディスクゲームを覚えている人いるかな。ドラゴンズレアとか、ああいうゲームです。
ということは、MPEG1 なんて使わず、DVD で構わない。
プログラムも簡単な制御だけで良いので、System16 とか C2 ボードで構わない。
いや、もっと安いマイコンボードで十分だったかも。
2024.1.11 追記
制御ボードはわかりませんが、1 は LD ゲームだった、という情報が得られました。
転載許可を得ていないので、リンクのみ。
僕は本文中に「DVD で構わない」と書いてしまいましたが、DVD の発売は 1996年でした。
1 は 1994 年なので、DVD は無理ですね。LDで納得です。
セガは国内初の LD ゲーム機、アストロンベルトも作ってましたので、同じ基盤かもしれません。
追記終わり。
釣りをするゲームなので、釣竿の糸をリールで巻き取ることになります。
このゲームでは(おそらく1から)その部分に工夫がある。
糸って細いから、巻く、伸ばすという動きは目に付きにくいのね。
一方、魚が動いて左右に振られる、という動きはよくわかる。
魚の動きは、モーターで糸を左右に動かしたり、糸を引っ張ったりすることで表現します。
リールを巻くと、モーターの引っ張る力が強くなる。
一方、リールを緩めると力は弱くなる。
これで、本当に糸を巻いたり、緩めたりしているように感じられます。
魚と闘っているように思える。
この「錯覚させる」部分が非常によくできています。
テレビゲームなのだけど、この「釣っている感覚」の再現がゲームの中心なのね。
後の映像はおまけにすぎません。
だから、「1」では実写のビデオを流していただけ。
ゲームの糸の動きと映像の糸の動きが違ったとしても、そんな細かなことを気にしてはいけない。
「2」になって、ビデオ素材の上に、少しゲームらしい画面を重ねるようになりました。
それでも、画面に合わせて何かするようなゲームではなくて、釣竿の手ごたえを楽しむゲームです。
後に、この釣竿の仕組みを使った続編がさらに作られます。
映像を全部3D化して、動きと画像が合うようになります。
そうなると、もうエレメカではなく、テレビゲーム。AM1研作品でした。
その話は、またそのうち。
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別年同日の日記
申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 【JR】 初めまして、いつも楽しく読ませていただいてます。ところでスポーツフィッシング2ですがムービーパックそのものがついていたと思います。サターンに差しても動作しましたよw (2016-05-05 23:37:58) |
業界記として書きますけど、こぼれ話。
ゲームとは関係ないですが、なんとなく書きたくなったので。
僕が入る直前、セガは急成長して人をたくさん雇いました。
すると、お昼ごはんに困るのですね。
付近のお店では、大量の社員の昼ごはんを賄いきれなくなる。
部署ごとに昼休みの時間がずらされたりもしました。
これは付近のお店・会社の要望でもあったようです。
大会社の社員が一斉に昼休みを取るって、周辺住人にも影響が出るのよ。
ほんの一時期ですが、社員食堂もありました。
狭くて少しの人数しか収容できなかったし、料理は美味しくなかった。でも安かった。
今回書きたいのは、会社に出入りの弁当屋さんの話。
結構多くの人が利用していました。
月末になると、翌月分のメニュー表が配布されます。
毎日2種類のメニューがあり、欲しい日に A B どちらのメニューかを注文します。
注文できるのは、月末だけ。翌月1か月分まとめて注文です。
これで、毎日お昼までに弁当が届けられる。
これがね、非常に安いのだけど、非常に不味いの。
1食 300円でした。実際には会社が半分補助していたので、600円だったらしいのですが…
600円出してコンビニ弁当買ったら、もっとましなもの食べられるぜ? とみんな言ってた。
でも、外行くとどこの店も混んでいるし、300円というのは圧倒的な安さではあるし、結構食べている人多かったのです。
人間不思議なもので、毎日食べているとそれほど不味いとは感じなくなります。
その弁当屋のメニューの中で、好きなメニューすら出てくる。楽しみになる。
でも、注文のチャンスは月に1度しかなく、その日に風邪で休んだりすると翌月は1か月外で食べることになります。
外のご飯は、弁当よりずっと高い。でも、弁当よりおいしいです。
そして、1か月後にまた弁当を食べると…これが、すごく不味いんだ。
人間、おいしいものを食べてもそれほどわからない。
でも、不味いものを食べるとはっきりわかります。
先に書いたように、毎日続けるとすぐに慣れるのだけど。
僕が入社するよりも前の話。
先輩に聞いたので、面白おかしく脚色されているのかもしれない、と先に断っておきます。
600円って微妙な値段で、コンビに行けばそれなりのものは買える、とはいっても、コンビニは大量生産して安くしている。
出入りのお弁当屋さんは、コンビニほどの規模ではないので、600円というのはギリギリの額だったようです。
注文を増やさないとやっていけないのだけど、注文が急に減ってしまった時期があるみたい。
まぁ、理由はわかりますね。不味いからです。
困ったお弁当屋さん、部署の偉い人のところに相談に来たらしいです。
もうちょっと注文してもらうように、部署の人に呼び掛けてもらえないだろうか…賄賂を渡そうとしたんだそうです。
このことに、偉い人激怒。
賄賂に使う金があるなら、その金で少しでもおいしいメニューが作れないか考えろよ! と、周囲の目も気にせず怒鳴りつけました。
実のところ、その一件があって少ししてから、弁当の味は良くなったらしい。
…えぇっ! この不味い弁当、昔はもっと不味かったの!?
昔からの知人で、僕より先にセガに勤めていて、僕と入れ替わるような時期に退社した人に聞いた話。
以前は、弁当屋の仕入れの都合でメニューが予定と変わる、ということが時々あったらしい。
ある日、おかずとしてパック入りの小さな豆腐が入っていたとか。冷ややっこらしい。
また別の日、小さな納豆のパックがそのまま入っていたとか。
明らかに手抜きだよね。僕の頃は、そういうことはさすがになかった。
どうも、これが「昔はもっと不味かった」という状態らしい。
そりゃ、注文減りますわな。
別年同日の日記
申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 |
先日 Scratch でコラムスクローンを作ったのだけど、完成してすぐにもう一つの作品を作り始めた。
実のところ、ゲームのコア部分は2日でできて、すぐに公開していた。
でも、宣伝してないので一人見てくれただけ。
その後が…長くかかった。
仕事の合間に作っているので、実働できるのは週2日程度。
データ整理に時間がかかったり、バグがなかなか取れなかったり。
(これについては Scratch のバグを疑っているのだけど、再現方法がわからない。
もっとも、「負荷をかけすぎた」のが問題で、これは自分のプログラムが悪かったので、修正して回避した)
で、ひとまず完成したので公開です。
まずは画面の緑色の旗をクリックして、プログラムを動かします。
彗星(comet) を動かして、黄色い星を囲んでください。
赤い星は倒せません。
まとめて囲むと高得点。
星の初期配置は星座の形。だから、全88面。
ただし、途中で3面ほど、星が出てこない面があります。
暗い星しかない星座なんだよね。ボーナス面だと思って。
プロジェクトページに行けば、大画面で遊ぶこともできます。
(画面左上のマークで拡大できます)
Scratch の ID 持っている人は、左下の星とハートのマークも押しておくといいよ(笑)
これ、僕が X68k を入手して最初に作ったゲームの移植です。
詳しくは X68k のページに。
画面サイズが違う (X68k は 512x512 、Scratch は 480x320) ので、初期配置の星の位置と星座名が重なっていたりしますが、ご愛敬。
キャラクターも、当時のゲームを知っている人には大きく見えるかもしれません。
同じ 16x16 なのだけど、画面サイズが違うので相対的に大きくなっている。
いい機会なので、思い出話を一方的に語りだす。
以前聞かれて簡単に答えたけど、まとまった形にはなっていなかったので。
中学の頃、ファミリーベーシックを使っていました。
そのころから、スプライトがしっぽのようについてくるプログラムが好きで、よく作っていました。
スプライト番号を +1 しながらどんどん置いていけばいい。
番号が最大値を超えそうなら 0 に戻す。
これで、スプライトが「再利用」されて、古いものは消えていくことになる。しっぽの出来上がり。
MSX ではマウスは標準ではないけれど、HALNOTE を使っていたので購入していた。
そして、マウスをぐりぐり動かすと、やっぱりしっぽが付いてくるプログラムを作っていた気がする。
MSX でスプライトを使っていたのか、LINE でやっていたのかは覚えていない。
両方作っていたかもしれない。
LINE で描く場合は、しっぽが付いてくるのを自前で管理しないといけない。
配列をもって、過去の座標を覚えておき、ある程度古くなったら消せばいい。
そして、X68k を買ったらマウスが標準装備だった。
最初の試作として同じようなプログラムを作ったら、MSX とは比較にならないくらい高速に動く。
これでゲームになるんじゃないか、って作り始めたのが Comet 。
線を引くルーチンを自前で用意して、点を打つ前に、そこの色を調べる。
すでに何か描いてあるなら「囲んだ」ことになる。
囲んだ時、最初は星から上下左右の4方向に向かってドットを調べて「囲まれた」判定をしていた。
でも、これは遅かった。あとで「座標で計算すればいい」と気づいて、判定ルーチンを高速化した。
といっても、やはり上下左右が囲まれただけで「囲んだ」と判定していて、まじめな閉鎖領域チェックをしているわけではない。
今回のプログラムも同じ。
Comet は、大学1年の時点での、自分のゲーム哲学を反映したものだった。
今回も基本的に「移植」なのだけど、今だったら違うように作るだろうというところもある。
キャラクターは、単に絵が描けなかったので記号的になっている。
でも、同時に「テレビゲームの本質は記号操作だ」と思っていた。
この頃、絵に凝ったゲームが増え始めていて、絵は良いのだけど面白くないものも増えていた。
それに対する反発もあった。
今でもこの流れは変わっていないと思うけど、「絵を見るのも楽しみのうち」だということは理解するようになった。
綺麗な絵があるなら、それに越したことはない。
また、絵を見ることが目的なら、ゲームは簡素でつまらないくらいでちょうどいい。
今のソシャゲとか、「面白くない」という人もいるけど、絵を見たくて遊んでいる人は面白さなんて求めていない。
それが理解できないで文句を言うのはお門違い。
ゲームの楽しみ方は幅広い。巧妙で奥深いゲームのルールなんて求めるのは、そういうのが好きな一部のマニアだけだ。
Comet では、敵をたくさん囲んだ時に、100、200、300 …と得点単価が上がっていき、1000点以上には上がらない。
これは、初心者でも楽しめるように配慮したつもりだった。
100、200、400、800 …と倍々で増えていくのが当時のゲームとしては主流だったように思う。
でも、それじゃぁゲームマニアと初心者の得点差が離れすぎてしまい、一緒に楽しめなくなる、と思ったんだ。
これは思い違いだった。
例えテクニックを使用した時の得点上限を低めに抑えたとしても「テクニックで得点が上がる」という仕掛けを入れている限り、マニアと初心者の得点差は大きく開く。
でも、テクニックを使える人は、それに対する見返りがなくては面白くない。点数が上がる仕組みは必要だ。
つまり、マニアと初心者が一緒に競えた方がいい、という考え自体が間違えていた。
comet でこのことを知ったので、その後のゲームでは得点を低く抑えないようにした。
そのほうが遊んでいて気持ちいから。
マウス(初お披露目した大学祭では、トラックボールを使用)を使ったのも、初心者が楽しめるようにだった。
マニアは、コントローラー操作に慣れている。
じゃぁ、慣れないコントローラーを用意すれば、みんな同じスタートラインに立てる。
初心者にも競い合うチャンスがあるはずだ、と思った。
でも、トラックボールは時々使われているゲームがあったし、やっぱりマニアは扱いがうまかった。
このときはまだ勘違いしていて、トラックボールじゃダメだったんだ、と思っていた。
翌年「マイク入力」のゲームを作ったら、ゲームマニアの友人は、すぐにゲームルールを理解し、最適な操作方法を編み出した。
この段階に至り、コントローラーを工夫すれば初心者でも同じ位置からスタートできる、というのも勘違いだと気づいた。
マニアはコントローラーの扱いがうまいのではなく、どんなゲームを見てもすぐにルールを把握する適応力に優れているのだ。
これ、ずっと後に任天堂が Wii を発売した時にも同じことを感じた。
全く新しい操作方法で誰もが一緒に楽しめる、ゲームの在り方をリセットする意欲作…だったはずなのだけど、マニアはやっぱり適応力が高かった。
大学時代の、まだ青臭かった自分が作ったゲームなので、ある意味では黒歴史でもある。
BASIC で組んだものだからね。処理が下手な部分がいっぱいあって、スマートではない。恥ずかしいものだ。
その一方で、広く遊んでもらった初めての作品だ。
雑誌に投稿した作品がたまたま流通業者の目に留まり、市販してもらえることになった。
これで「自分の作ったゲームを多くの人に遊んでもらえる」という喜びを知ったから、ゲーム業界を志すようになった。
人生の転換点だった。
記念碑的な思い入れがあるけど、出来が悪い恥ずかしい作品。
それが Comet だったので、いつかどこかでリメイクしたい、という思いはあった。
実際、手を付けたこともあるのだけど、面倒くささが先に立って完成しなかった。
先日、コラムスクローンを作ってみて Scratch の性能が案外高いと判ったので、作ってみようと思った。
コア部分を試作したら、2日でできてしまった、というのは最初に書いた通り。
まぁ、リメイクした、と言うだけで納得してしまい、完成度は高くない。
いつか本気でリメイク出来たら楽しいけど、当面はこれでいいや。
#夢を語るなら、88星座のイラストを入れたいし、星の動きをもっと多彩にしたい。
今は初期配置が違うだけで、どの面も似たような攻略法になってしまうから。
星座の線に従って動く星、というのがあれば、星座の形にしている意味も出てくるだろう。
また、88面は長いので、季節ごとの4コースに再編したい。
…などなど、改良したい点はいくらでもある。
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業界話。
20年たったら書く、という方針でやってますが、20年前のこの時期は空白期間です。
配属されていたプロジェクトが急にお蔵入りになって、次のプロジェクトに配属されるのだけど、このプロジェクトはさんざん時間がかかった挙句、仕様も決まらないままに雲散霧消。
手相占いのヒットで気をよくしたオムロンの持ち込み企画だったのですが、やろうとしていることが野心的過ぎた。
顔を認識して人相を取り、似顔絵を描くと同時に人相占いの結果を印刷しよう、というものでした。
オムロンの持ち込みなのでオムロン側の機材スペックが決まらないと詳細を決められなかったのだけど、数カ月かかって「基礎研究からやり直す」ということに。
結局、オムロンは数年後に似顔絵を作ってくれるシール機を作ります。
当時の技術としてはすごいのだけど、それほど話題にならなかったのではないかな。
この期間、暇だったのでST-Vに「Comet」の基礎部分を移植したのを覚えています。
ST-Vは、「4つの頂点を指定して変形ポリゴンを作る」ことができたけど、単に「線で四角を描く」こともできたし、「2つの頂点で線を引く」こともできた。
でも、こんな機能があることを、企画の方ではあまり知らなかったのね。
プログラマーだから「普通は使わない機能がある」って面白さからそれを活用したゲームを作ってみた形。
ライブラリは基本的に普通のスプライト・ポリゴン表示を想定して作られていたし、そのライブラリをうまく使ってハードウェアの深い機能を使う、という実験になった。
これは後で役立ちました。
ところで、1996年7月27日に、セガサターン用のモデム、XBANDが発売になっています。
20年たったのでこの話をしましょう。
7月27日は、機器の発売日。
「パソコン通信」と「インターネット」(と当時は言われていたけど、WEB ブラウジングのこと)ができます。
メインとしては通信対戦ゲームなのだけど、サービス開始は1か月後だった。
なんだ、そのやる気のなさ。
今のようなネットつなぎ放題の時代だと想像もつかないかもしれませんが、当時は電話を使って通信を行ったので、時間課金。
市内への通信だと3分10円だけど、市外になると値段が上がり、距離に応じて30秒10円程度にまでなります。
通信速度だって遅い。14.4Kbps。
今の光回線が 1Gbps … 1,000,000Kbps くらいだから、5ケタ、1万倍ほど違います。
ちなみに、XBANDは当時としてもスペック低めでした。
1996年夏ごろだと、PC向けに販売しているモデムは 28.8Kbps が普及モデルで、33.6Kbps が高価な新製品。
「おもちゃ」として安くする必要があったのでしょうが、いきなり将来性に疑問符がついていた。
サーバーだって非力で、日本全国からのアクセスに耐えるようなサーバーと電話回線をセガが用意できるわけもありません。
そこで、セガのサーバーはマッチングだけを行います。
東京のセガのサーバーまで…遠距離なので高いけど電話をかけます。
でも、これは必要なデータをもらってすぐに切断されるから、10円で済みます。
ここでもらう必要データが、「マッチングを希望している、近隣に住むユーザーの電話番号」。
もちろん、ソフトが電話番号を知るだけで、ユーザーには見せません。そして、即座に電話をかけ直します。
これで、市内(もしくは近隣)のユーザーと直接接続できます。
ちなみに、マッチングできそうなユーザーがないと待たされるのですが、この場合は「電話を受ける」側になるので、電話料金が不要になります。
電話料金は安く抑えられるし、サーバーを介さないのでタイムラグは最少に抑えられるし、なかなかうまく考えたシステムだと思います。
#電話番号は「知られないつもり」なのだけど、ダダ漏れ。
掛ける側は並列につないだ電話の受話器を取れば音でわかるし、受ける側はナンバーディスプレイがあればかけてきた人の番号がわかってしまう。
発売に先駆けて、社内でβテスターが募集されました。
応募資格は、サターンのすぐ近くに電話線があり、モジュラージャック対応していること。
この当時、まだモジュラージャックに対応していない家も多数ありました。
#NTT民営化は1985年。それ以前は電話機の一般販売もされておらず、交換する必要などなかった。
そのため、住宅の「電話線」は壁から直接出ており、モジュラージャックではないのが普通だった。
僕は、パソコン通信やるために、自分の部屋にモジュラージャック工事してあった。
面白そうなのでテストに参加しました。
このときに完成していた「対応ゲーム」は、バーチャファイターリミックスの通信対戦版のみ。
βテスターですから、対戦開始時刻、対戦結果などを細かく残す必要もあります。
1対戦10円、という換算で電話代は後で支給される約束だから、とにかくたくさん対戦すること。
人数が少ないから集中してやらないとマッチングできない、ということで、1時間程度の期間を決めて集中して遊んだはずです。
たしか、最初の数人との対戦は普通に遊べました。
対戦後「続ける」か「別の人と対戦する」かを選ぶのね。
両者続けるを選んだら、そのまま次の対戦が始まる。
というのも、電話をいちいち切らずに続けたほうが電話代は安くなるから。
でも、このときは出来るだけ多くの相手とやる約束だったので、次々人を変えます。
何人目かで、対戦中に動きが止まり、ゲームにならなくなります。
リセットして続けても、次の相手も同じ。
この後何度か繰り返しても同じ状態で、集中プレイ時間の1時間を過ぎたので終わりにしました。
翌日、対戦がまともにできなかったことを報告します。
通信記録などからすぐに相手が調べられ…通信できなかったときはすべて、同じ部署の後輩とマッチングしていました。
人数が少ないから「近隣の相手」が限られて、違う人を探しても同じ人に当たってしまっていたみたい。
すぐに「電話回線を調べさせてほしい」という打診がありました。
電話回線品質が悪くてノイズが乗っているのではないか、という疑いです。
それは構わないけど、普段パソコン通信やっていて不都合はないですよー。
…回線品質を調べる機械を持ってきて調査したけど、問題なしでした。
さらに数日後、後輩の家と僕の家の間で通話状態にした際の通信品質も調査されます。
これも、特に悪くはない。
機材が悪いのではないか、ということで、僕のセガサターンを調査することになり、持っていかれました。
代替機として、会社からHiサターンが貸与されます。
しばらく後に調査報告を聞いたのですが、結論としては「何も悪いところはない」そうです。
ただ、使用機材と電話回線の両側の組み合わせの「相性」があって、すべてが問題のない品質であっても、通信がおかしくなる現象が生じることがわかった、とのこと。
えー、それって一番まずいやつじゃないの。
つまり、「どこにでもある環境で不具合が出る」ということだよね。
指摘したら、担当者の人は乾いた笑いで「その通りで困りものなのだけど、今から対処する時間はないんだよ」と。
そのまま発売されたそうです。
テストは行ったけど、「正常動作を確認」する目的で、不具合を見つけ出して対処するためのものではなかった模様。
ところで、いまだにセガサターンは返してもらっていません。
僕はセガサターンを購入したはずなのだけど、今家にあるのはHiサターン。
Hiサターンは日立から発売された OEM なのだけど、本来別売りだったムービーパックが最初から入っている高級機種。
なので、別に文句はないんですけど。
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厳密にいうと 20年たっていないのだけど、時事ネタなので書いてしまいましょう。
石原裕次郎記念館、という施設があります。
昭和の大スター、石原裕次郎さんのゆかりの品などを展示する施設です。
ここが、来年の8月いっぱいで閉館することに決定したそうです。
彼が幼少期を過ごした北海道の小樽市にあるのですが、25年前のオープン当初は大人気でした。
開館時点で、すでに裕次郎さんが亡くなって4年たっていたのですが、まだ人気あったからね。
往年のファンだった年配者が、バスツアーで押し寄せる新名所でした。
オープンが25年前で、これから書く話は、たしか 1998年末のこと。
開館7年目くらいの話ですね。
当初のブームがひと段落点き、ちょっと客足に陰りが…というタイミングでしょうか。
セガに対して依頼がありました。
裕次郎記念館から依頼があったのか、それとも営業が提案したのかはわかりませんが。
裕次郎記念館を訪れる人の多くは年配者で、テレビゲームなどには全く興味がない世代。
しかし、プリクラを置いたところ大人気。
裕次郎や、彼が作った芸能事務所である石原プロモーションに所属する俳優たちと一緒に記念写真が撮れる、というものでした。
この世代は占いも結構好き。
じゃぁ、あらかじめ石原プロの人々の手相を入れて置き、「相性占い」ができる手相占いを置いたらウケるのではないか?
というのが依頼内容でした。
もうちょっと詳細に書くと、「手相占いちょっとみせて」には、二人で遊べる相性占いモードがあったのね。
同性でも友人としての相性を占えるし、異性なら恋愛運なども占える。
1人用モードはなくして相性占い専用にして、でも実際には一人用で、あらかじめ用意した俳優データとの相性を占う、という趣旨。
プリクラは画像を変えるだけだから安い開発費で特別版を用意できるのだけど、プログラムをここまで変えると結構人件費かかります。
コストまで考えて依頼してきたのかどうかは不明。
#もし、コストを判っていた依頼なら、占いゲーム機1台に数百万出す用意があったということです。
でも、当時の裕次郎記念館なら出せたかもね…
これね、僕が会社を辞める1~2か月前に話が来たのよ。
退職に向けて引継ぎなどもして、着々と準備をしている中での話。
その時の1研には、手相占いを作ったチームの人は、デザイナーや企画も含めてすべてやめていて、僕しか残っていませんでした。
#サウンドの人は残ってたな。でも、サウンドは基本的に2研所属だったから。
部長から慰留が入りました。
まずは、3か月くらい退職する日を伸ばすつもりはないか、という形で。
僕にその気がないとわかると、会社は辞めてもいいから、この仕事の発注を受けてくれないか、という形で。
#僕は独立して仕事をするつもりで、会社の設立準備もしていました。
しかし、発注するとしても今までの給料しか出せないと言います。
それじゃぁ、辞めないのと何も変わらないよ。
会社を辞めるのって、かなり勇気を振り絞って決めた決断でした。
ここでずるずると会社にいたら、独立する決心が鈍ってしまうかもしれない、という危機感を感じました。
そして、この仕事は、きっぱりと断りました。
部長は残念そうでしたが、それでおわり。この話自体無くなってしまったようです。
裕次郎ファンで、手相による相性占いなんてやってみたかった、という人、ごめんなさい。
後知恵でいえば、会社設立後しばらくは、自分で仕事を探すものの、いい仕事あまりなかったんだよね。
だから、外注の形で受けても悪くなかったかもしれない。
その一方で、このときに飛び出したから、その後 i-mode ブームの時にうまく時流に乗れていい思いをさせてもらった、というのもあります。
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業界話の番外編。
20年たった話、ともいえるし、長い時間の話なので、最後のほうは20年たってないように思うのだけど、いい機会なので書いてしまおう。
Twitter の TL で、「デバッグの天才っているよね」という話題が盛り上がっていた。
ここでいうデバッグとは、厳密にいえば「バグ出し」のことね。バグを出現させる仕事。
念のために書けば、バグとはプログラムの動作の誤りのこと。
デバッグとは本来「バグを無くす」、つまり正しい動作にする作業の意味で、バグを出すことではない。
でも、存在するかどうかもわからないバグを無くすことは出来ない。
「バグを出す」ことこそが、デバッグの上で一番重要な作業だ。
そのことから、バグ出しのことを「デバッグ」と言ってしまう場合も多い。
デバッグプレイ、というとき、それはゲームのバグを出す目的で遊ぶことだ。
ゲームバランスなどを確認する「テストプレイ」とは異なる。
そして、デバッグの天才は天性の勘で、または執念によって、次々と誰も気づかなかったバグをあぶり出し、さらには「確実にバグを再現する」方法まで編み出してくれるのだ。
会社で働いていた時も、バグ出しの天才がいた。
完成間近で部内に置かれているゲームをプレイして、難易度が高いゲームであるにも関わらず、ノーコンティニューで2周したりする。
また別のゲームでは、ノーミス全面クリアを誰よりも早く達成する。
まず、そこまでゲームをやり込む、ということが「前提条件」となる。
そして、そこまでやり込んだ腕前を持って、あえておかしな武器ですべてのボスに挑んでみたり、弾を撃たずに逃げ回ってみたり、画面端を狙って撃ち続けてみたり、面クリアと同時にゲームオーバーになってみたりする。
とにかく、プログラマーが想定もしていないような条件を引き起こしてみる。
これが「バグ出し」で一番重要なことだ。
プログラマーはごく普通の状況を想定してプログラムを作っているから、あえて意地悪をしなくてはならない。
極端な状況でのテストというのはバグが出やすい。
チェック方法はエスカレートして、全く同時に複数のキーを押してみたり、コインが入ると全く同時にスタートボタンを押してみたり、普通のレバーではありえないが、上と下、右と左を同時入力してみたりする。
これらは、普通の方法ではなかなか難しい。
彼は、このためにワニ口クリップを結線したボタンを用意していて、コンパネを開けて、各種ボタン結線の間をショートさせてチェックを行っていた。
彼は僕と同期の企画で、新人の時からデバッグプレイで才能を見せていた。
多数のゲームのチェックをやっていたのだけど、過去にバグを見つけた部分に関しては、別のゲームでも必ず同じような状況を試すようにしていた。
それを繰り返すうちに、「いろいろなゲームに共通してバグが出やすいポイント」に気付き、チェック項目リストを作り始める。
項目が80を超えたころに、「108項目チェックリスト、って名前にしたらカッコイイと思ってるんだけど、なんか他にバグ出そうなポイントあるかな」って、明らかに目的と手段が入れ替わり始めた。
とはいえ、最終的に本当に 108項目のリストを作り上げ、その内容は実際にバグが出やすい、プログラマーが気付きにくい状況で埋まっていた。
#一部の項目は、基板ごとに分かれていた。ST-V 用チェック項目のグループとか、MODEL2用のチェック項目のグループとかあったのね。
さらに、2人同時プレイの時の項目とか、エンディングの有無でも項目が異なったりした。
だから、すべてのゲームで 108項目をチェックする必要がある、というわけではなかった。
この 108項目でどれほどのバグが出るかで、プログラムの品質をある程度推し量ることができた。
あまりバグが出なければ、そのプログラムを作った人は、「想定外」のことまでかなり考えて、きっちりしたプログラムを作っている、と言える。高品質なプログラムだ。
逆にバグが多ければ、そのプログラムは低品質だ。見た目は動いていても、他にもバグが多数あることが予期される。
そういうプログラムは、ゲーム中にも徹底しておかしな操作をして、バグを洗い出す必要があった。
ところがだ。
ある時、ゲームを作成している下請け会社から、「リスト項目の意味が分からないところがある」という問い合わせの電話がかかってきた。
最初は何の話か分からない。詳しく聞くと、彼の作った 108項目チェックリストだった。
個人的にまとめていたものだったのに、いつの間にか流出していた。
サポートに電話がかかってくるということは、公式なものだと思われている。
そして、この項目が全部 OK になればそのまま発売できる、というものだと思われていた。
とんでもない。
これらは「最低限のテスト」であって、それが OK だったら発売できる、などというものではない。
これらはプログラムの品質を推定し、どの程度デバッグを本気でやるべきかを事前検査する意味合いを持っていた。
あくまでも極秘のテスト項目であり、このテストにだけ OK を取れるように事前チェックをされてしまうと、プログラムの品質が推定できなくなってしまう。
バグを無くすには、とにかくバグを見つけ出すしかない。
しかし、バグを見つけ出す、単純で広く適用可能な方法なんてない。
そんなものがあれば、それこそプログラマが待ち望む「銀の弾丸」だろう。
だけど、少なくともバグが多そうかどうかを知るための指標を、彼は数年の苦労で作り上げた。
それがいつの間にか流出することで、指標は指標として役に立たなくなってしまった。
それどころか、下請け会社に「このチェックさえ通ればいい」と誤解させてしまった。
それはつまり、バグを一生懸命探そうという気を失わせ、プログラムの品質を下げてしまうことを意味する。
彼が作ったものは、確かに役に立っていた。
しかし、誰かが意図を理解しないままに流出させてしまった。
それによって起こったことは、彼の意図とは正反対の、品質を下げてしまう効果だった。
最初から、こんなもの作り上げないほうがよかったのかもしれない。
彼が、そう言って後悔していたのを覚えている。
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僕がセガに在籍している間に発売されたので、確か社内テストプレイ筐体で遊んだことがある。
たしかAM3研(当時)のゲームなので、僕はちっとも知らないです。
なのになぜ書くかというと、Twitter でジュラシックパーク(1994)の話題が出ていて、そこで参考にされたページを読んだから。
このページ見ると、ガンシューティングとして「やりがいがない」という評価。
理由として次のような説明になっています。
シューティングゲームの醍醐味と言えば?
ハイスコアにタイムアタック…様々あるが、その答えの前提にあるのはノーダメージやノーコンティニュー、すなわち ワンコインクリア ではないだろうか。
(中略)
だが、この「ジュラシックパーク」というゲーム
どう足掻いてもダメージを回避出来ないポイントが存在する。
それも一カ所、二カ所ではなくいくつも。
敵の攻撃力自体はそれほど高くないものの、1Pの場合は 明らかにこちらを殺しに来てるとしか思えない数の敵が押し寄せてくる 上に、攻撃を回避する手段は存在しないため、ワンコインクリアは 不可能。
これは紛れもない事実です。その意味では、残念ながらガンシューターの人から「つまらない」と言われても仕方がない。
もう一つ、上のページにも書かれていますが、ジュラシックパークは「レールチェイス」というゲームが元にあります。
レールチェイスのゲームシステムで、当時話題の映画とタイアップしたのがジュラシックパーク、と考えていい。
じゃぁ、そのレールチェイスの評価はどうかというと、こんなページがありました。
アーケードゲームでの醍醐味、1コインクリアが絶対にできないという鬼畜な難易度…というか致命的な欠陥。1人プレイだと反対側の端まで照準が届かず、敵を必ず撃ちもらす。
絶対クリアできない、という点を除いて考えてもゲーム自体の難易度は半端ではない。兵隊は早めに始末しないと勝手にダメージを受ける(ビーストバスターズと同じ)。しかし1回しか攻撃しないので大したことは無いと思いきや、これが面が進むごとに大量に出て来て、ひどい時には2人プレイでさえも捌ききれない勢いとなる。しかも時によっては障害物や、爆弾などと重なって余計回避不能なことになることがしばしば。
酷評されています。
実際、どちらのゲームもゲームが好きな人の間での評価は低いですし、僕も社内テストで遊んだ際に「面白くないゲーム」という印象でした。
でも、レールチェイスは評価の高いゲームで、後に2などのシリーズも出ています。
(これも社内で遊んだ覚えあり)
ジュラシックパークもレールチェイスの人気があったから作られたゲームで、やはり結構高評価だったはず。
ここでいう「高評価」というのは、ゲームマニアの評価じゃないです。
マニアからの評価は、上に挙げた通り散々なもの。
でも、ゲームっていうのはマニアだけの文化じゃないです。
そして、後々まで語るのはマニアだけです。
だから、誰かが記録しておかないと、後に「評価が低かったのになぜか繰り返しシリーズが出た作品」とされてしまう。
これが、自分が一切かかわっていないし、開発過程を見てすらいないのに急に記録しておこうと思った理由です。
レールチェイスの宣伝チラシがネット上にありました。
裏面の説明を読むと「アベック客やグループ客をターゲットとした」という文章から始まります。
下の方にも、大きめの赤い文字で同じことが書いてあります。
ジュラシックパークの宣伝チラシも、同じサイトにありました。
ここにも「カップルで楽しめる2P同時プレイ」「カップルやグループ客のリピート性を高める」と書かれています。
チラシに明記しちゃうくらい、アベック・カップル狙いです。
当時はゲームセンターは「誰でも遊びに来られる明るい場所」を目指していましたし、実際デートでゲームセンターに来る人もいました。
でも、ゲームセンターに来ても実は遊べるゲームが少ない、というのが問題だったのね。
当時の人気は対戦格闘。もちろん、カップル共にゲーム大好きなマニアだというのなら、二人で格闘ゲームやってもかまいませんよ。
でも、先に書いたように「誰でも遊びに来られる」場所を目指しているのだから、彼はゲーム好きでも、彼女はそうでない、という場合のほうが多かった。
ジュラシックパークが狙っているのは、こうしたお客様。
先に書いた通り、初めて遊んだときは「面白くないゲーム」という印象でした。
たしか周囲にそう言ったんじゃないかな。
そうしたら、その時一緒にいた企画の先輩が「このゲームは、狙ってこうしているからこれでいいんだよ」と理由を教えてくれました。
▼ゲームが好きな人は、上達によって「長時間遊べるようになる」ことを喜ぶ。
でも、ゲーム初心者は、激しいゲームを長時間遊ぶと疲れを感じる。
だから、短時間に楽しさを凝縮し、プレイ時間は誰がやっても同じ程度、という方がいい。
▼「ゲームを遊んだら面白かった」と感じることが重要で、上手下手はどうでもいい。
だから、激しく敵を撃ちまくる、という「体験」が中心で、敵からの攻撃を相殺するとか避けるといった概念はなくていい。
ゲームの上手下手に関わらず、ゲームオーバーになる地点も大体同じ。
▼ゲームが上手な彼氏だけプレイが続いて、彼女は隣で見ているだけ…という状況は、見ている側も遊んでいる側もつまらない。
だから、プレイヤーごとのライフとかはなくて、一蓮托生。終わるときは二人同時にゲームオーバー。
(普通のガンシューでは、プレイヤーごとに「ライフ」があり、なくなるとゲームオーバー。
しかし、このシリーズでは二人共通なので、自分のあずかり知らない理由でゲームオーバーになる)
▼こんな内容だから、1P側と2P側で「難易度」が違うのも当然。
2人同時プレイの場合、理想的には2人が対等な立場であるべきだが、このシリーズは2P側が極度に優遇されている。
ゲームっていうのは、達成すべき目的があって、その目的に立ちはだかる障害があれば成立する。
…これは僕の持論なのだけど、そう思っています。
その観点でいうと、実はジュラシックパークやレールチェイスは、ゲームではない。
ゲームなのだから「ゲームオーバーにならないこと」を目的だと考えると、1コインクリア不可能、つまり絶対に目的を達成できないのでは、ゲームとして成立しない。
でも、先輩の話をきいた上でこのゲームを「再分析」すると、目的の「読み取り方」を勘違いしていたとわかります。
レールチェイスは「レール」の名前の通り、ジェットコースターなのです。
デートで遊園地に行って、カップルでジェットコースターに乗る。それを気軽に街角のゲームセンターで体験させてくれるのが、レールチェイスです。
だから、遊園地のジェットコースターに「ゲーム性がない」と怒る人がいないように、レールチェイスにゲーム性を求めることが間違えている。
もちろん、ゲーム風の味付けはありますよ。
でも、それは「ゲームを遊んでみたい」という、ゲーム慣れしてない彼女に満足してもらうためのもの。
つまり、「彼女の接待」がゲームの目的です。ゲーム自体は手段にすぎず、目的ではありません。
だから、「ゲーム風」ではありますが、マニアが喜ぶようなものではないのです。
誰が遊んでも同じあたりでゲームオーバーとなってしまう、というのも、ゲーム慣れしていない人には激しい展開が続きすぎると疲れてしまうから。
ちょっと物足りないくらいでゲームオーバーにすると…もう少し続けたい、と彼女が言って、彼氏が財布を出してコンティニューするでしょう。
どんなに下手な人でも、一定時間は遊ばせてくれるゲームなのだから、お金を出すことにも安心感がある。
たった 100円の追加投資で楽しい時間を共有できるというのはカップルにとってうれしいことですし、収益が上がるお店にとってもありがたいこと。
無限にお金がかかるんだったら彼氏にとっても痛い出費ですが、ゲーム自体にはエンディングがあるため、投資額の上限も見えています。
つまり、誰もがうれしい構造。
これが、このゲームが高評価で、シリーズが続いた理由です。
残念ながら、現在はテレビゲーム文化は下火だと思っています。
デートコースにゲームセンターを組み込む人もあまりいないので、こうしたゲームは出てこなくなった。
でも、「文化」を維持するには、多様性こそが重要だと思っています。
特に、ゲームは遊びなのだから、皆が同じ方向を向かない、遊び心こそが一番大切。
すべてのゲームが「マニアが満足する構造」を目指すようになってしまったら、それこそ文化の終焉です。
ジュラシックパークのようなゲームが「つまらないゲームだった」というマニア目線だけで語られることのないように、この記事を残しておこうと思います。
#つまらない、と語る記事を揶揄するものではないです。
マニア目線で「つまらない」という事実を残しておくのだって大切。
別年同日の日記
申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 |
モップ!柱時計!コショウ!
1996年のいつ頃出たのかよく覚えていないのですが、公式サイトによれば7月ということになっていますね。
セガのアメリカ子会社、セガ・オブ・アメリカでも、ゲームを作ってはいました。
でも、面白いゲームが作れないのね。
今は海外産の面白いゲームもたくさんありますが、この頃のテレビゲームは、日本のものが一番面白い、と自信をもって言える状態だった。
その一方で、アメリカはアメリカで独自のゲーム文化をつくっていて、モータルコンバットなんかが大ヒットしている。
あの独特のテイストは日本人には作り出せない。もう少しアメリカで受けるゲームを勉強しろ、と上層部がことあるごとに言っていた。
そして、「アメリカに行って、アメリカ人の好きなゲームを探りながら、アメリカ人にゲームの作り方を教えてこい」ということになります。
具体的にいえば、日本から1チーム、アメリカに行って、アメリカ人と協力しながらゲームを作ってこい、ということ。
中堅ヒットゲームを数本作っていた企画の人と、やはり中堅のプログラマ、それと新人で僕と同期のプログラマが1名、アメリカに長期出張しました。
アメリカで作っていたから、どうやって作ったかは一切見てません。
時々、アメリカから作成中の ROM が送られてきます。
また、時々アメリカからメンバーが帰ってきます。
(揃って帰ることもあったし、個別に来ることもあった)
アメリカから帰ってくると、大抵はお土産がありました。
なにぶん、60人くらいいる大所帯部署だったので、「全員にいきわたるように」というと、駄菓子なのね。
これが、アメリカのお菓子って美味しくない!
いや、食文化なので否定してはいけません。でも、日本人の口に合わない、というのは事実。
「好きなようにとって食べてねー」と、事務の人(以前書いた、AM1のお母さんと言われる美人)の机に置いてありました。
チュッパチャップス200本ディスプレイとか持ってくるのだけど、日本では売っていないような、アメリカ人好みのフレーバーが多いのね。
世界的に売られているお菓子なのに、なぜ日本で売っていないフレーバーなのか? というのは、推して知るべし。
自分でいうのもなんだけど、僕は味のストライクゾーン広いです。
みんなが食べないものでも、美味しくいただいてた。
ただ、ある時持ってきた駄菓子詰め合わせに入っていた「ローファットキャンディー」は美味しいと思えなかった。
小麦粉を人工甘味料と一緒に煉り合せたような、柔らかいお菓子。
食べると、口の中に粉っぽさと、不自然な甘みが広がります。
一緒に入っていたチョコとかは人気ですぐなくなったのですが、ローファットキャンディーはいつまでも残ってました。
海外留学経験のある女性の先輩は、アメリカでは人気あるお菓子なんだよー、と言いながら食べてましたけど。
…今記憶を引き出しながら検索したら、発見しました。
Twizzlersというお菓子…だったと思います。
そうか、あの不自然な甘みはリコリスか。
先に「食文化を否定してはいけない」と書いたけど、僕としてはおいしいと思えないことが悔しくて、また挑戦する機会があったら食べてみたいと思っています。
駄菓子なのだけど日本では入手困難で、高くつくので自分で買う気はしない(笑)
でも、送ってくれた人がいたら、ちゃんと食べて(全部食べ切るとは言ってない)、改めて味をレポートしますよ。
作成中のサンプル ROM から「これって、どう見てもダイハードだよね」ってみんなが思ってました。
まぁ、アメリカで作成しているチームとしてはそのつもりだったらしく、アメリカでは版権を取得して「Die Hard Arcade」の名前で発売されることになりました。
ところが、日本では版権が取れません。別の名前が必要になりました。
元々アメリカウケを狙って作ったゲーム。
チームの人もしばらく日本にいなかったので、今の日本の流行もわからない。
そこで、アメリカチームから、「日本側でタイトル案を3つ考えて」とリクエストが来ます。
最終的には、アメリカチームがその中から選ぶことになりました。
日本側でアメリカチームの窓口をやっていたのは、同期の企画A。
同期が集まって雑談をしていた時に、なんかいいタイトル思いつかないか、と相談してきました。
相談に来た時点で、悪くない案が2つ出ていた。でも、どうしてももう一つが考え付かないそうです。
同期の企画Bが、「この2つのどちらかで十分じゃん。あと1つは、絶対あり得なさそうな名前でも入れとけば、2つのどちらかに決まるよ」と言います。
あり得なさそうな名前ってどんなのだよ…と愚痴るAに対して、Bが適当に言い放ったのが「じゃぁ、『ダイナマイト刑事』」。
Bのあまりのいい加減さに、うゎ、あり得ねぇ、いくら何でもそんなひどいの怒られるだろ、と笑いながら、3つ目の案として書き加えられます。
1週間ほど後、アメリカから返事がきます。
チームメンバーの満場一致で「ダイナマイト刑事」に決まった、とのこと。
提案した企画Bが一番驚いて、なぜか周囲に謝り始めてました。
ダイナマイト刑事、というフレーズがなぜ「あり得ない」とまで言われ、選ばれたことが驚きだったのか、説明しないとわからないかもしれません。
ダイナマイト自体は明治期から日本にも入っていましたし、戦争にも工事にも使われました。
この言葉自体は馴染みのもので、取り立てて言うことはない。
でも、1950年代の戦後復興期には、大型工事が繰り返し行われます。
それらの工事ではダイナマイトも多用され、一般にも耳馴染みのある言葉になっていきます。
そして、1958年、小林旭が「ダイナマイトが百五十屯」を歌い、大ヒット。
小林旭は「マイトガイ」と呼ばれ、主演映画「爆薬(ダイナマイト)に火をつけろ」が作られるなど、「ダイナマイト」が一気に流行語になります。
僕も生まれるずっと前の話なので、細かなことはよく知りません。
でも、色気のある女性を「セクシーダイナマイト」などと呼んだのもこの頃。
#ちなみに、「トランジスタグラマー」も同じころで、対になる概念。
話は変わって、映画やテレビでは刑事ドラマというジャンルは初期からありました。
勧善懲悪はお話の基本。
連続もので、毎回悪いやつが出てきて、懲らしめる立場の人がいて…となると、警察官や探偵を主人公にするのは理にかなっています。
特に、ただの事件ではなく複雑な「犯罪」を捜査する刑事が主人公となるのは必然と言えました。
テレビが急に普及した 1960 年代からこうしたドラマは人気があり、1970年代には大ジャンルとなります。
ギャグマンガ「がきデカ」の連載開始は 1974年。
刑事ドラマのブームの先駆けとなる「Gメン'75」は1975年。
でも、1980年台初頭にはもうブームは収束しています。
1986年に「あぶない刑事」の再流行がありますが、このときは半分コメディになっている。
1996 年にもなると、「ダイナマイト」は完全に死語でしたし、「刑事」は流行を逃した言葉でした。
その言葉をあえて組み合わせた、というのが「あり得ない」と言われた理由ですし、アメリカチームに選ばれたときに、発案したことを謝っていた理由でもあります。
ちなみに、1996年の秋に、「あぶない刑事」が映画で復活し、再び流行となります。
2016年にも続編の劇場公開がありました。
他にも、刑事ドラマは以前ほどの人気ではないものの、一定の人気を持つジャンルとして残っています。
また、1997年には、SMAP が「ダイナマイト」という曲を発表。
わざと「微妙に外したダサさ」を狙った曲でしたが、面白がられて「ダイナマイト」が流行語として微妙に復活します。
今となっては「セクシーダイナマイト」って名前の洋服ブランドや音楽バンドが存在するのね。
そんなわけで、今見ると「ダイナマイト刑事」ってそれほど違和感ないんですよ。
でも、命名された当時は、明らかに「あり得ない」名前だった。そのインパクトがすごかった。
そして、そのインパクトの強さゆえに、アメリカチームも全員一致でこれを選んだのでした。
ゲーム内は、日本語版も含めてアメリカチームで作っていました。
でも、国内プロモーションは、先に書いた企画Aの担当。
このAが、当時エバンゲリオンにものすごくハマっていて、宣伝用 WEB ページとか、広告とかがすごく影響を受けている。
さすがにもう当時のページはないのですが、
waybackmachineには一部が残されています。
キャラクターの名前なんかも、全部Aが考えたのではなかったかな。
作成チームの人ではないので名前は表に出ないのだけど、ダイナマイト刑事の方向性を決めた結構重要な人物。
彼はダイナマイト刑事2の時も国内事務を担当しています。
…おっと、今 waybackmachine を見ていたら、最終選考に残った3つの名前が書かれてた。
今見ると、3つともひどいな。当時でもひどいというネタになっているけど。
さらには、その3つの名前になる前の仮タイトルも明かされていた。
仮タイトルは、悪くないけどインパクトが足りない。
3つとも「インパクト重視」で決められていたのかもしれない。
(当時聞いたかもしれないけど覚えてない)
ずっと後の話。サターン版発売に際して、アメリカチームの企画チーフが、ミニゲームを入れたいと言い出した。
サターン版持っている人は知っているね。
起動すると、まず「ディープスキャン」という、非常に古いゲームが動き出す。
ここの得点により、本編である「ダイナマイト刑事」のクレジット数が決まる。
クレジット数によってコンティニューの回数が左右されるので、結構重要。
同様の試みとしては、NAMCO がプレイステーションの「リッジレーサー」で、ロード中にギャラクシアンを遊べるようにしていた。
プレステ・サターンの前のゲーム機は、スーファミにしてもメガドラにしても、ROMカートリッジだった。
電源入れたらすぐ遊べる。
でも、プレステやサターンはロード時間が長い。これは、当時としては「許せない」ことだった。
そこで、このロード中でも楽しめるように、最初に非常に小さなプログラムをロードして動かし、そのゲームを遊んでいる裏で本編をロードする、という策。
メモリの小さなプレステでは、作るのは大変だったとおもう。
(サターンは、ゲーム中に次のデータをロードしたりするための、CDキャッシュメモリを搭載している)
もちろんナムコは特許を取っていて、他の会社が真似することは出来なかった。
たしか、初期の頃に他社が同じようなことをやって、ナムコから訴えられている。
(リンク先では訴訟例が上がっているが、その前から注意を受けてゲーム発売停止、とかあったはず)
でも、ダイナマイト刑事では、同じようなことをした。
最初は、ナムコから訴えられるんじゃないか…と心配していたけど、しばらく後にちゃんと回避していることを知った。
ナムコの特許は「ロード中の楽しみを提供する」ものだ。
でも、ダイナマイト刑事のディープスキャンは、本編でコンティニューに必要になる「クレジット」を稼ぐためのもの。
ナムコの特許は「ロード中の楽しみ」だったので、ロードが終わったあとにゲームが一区切りした時点で終了となる。
でも、ダイナマイト刑事では何度でも遊べた。「ロード中の楽しみ」を提供しているわけではない。
だから、特許には抵触していないのだ。
…もちろん、ディープスキャンのゲーム中に裏でダイナマイト刑事本編をロードしているんですけどね。
技術的に似通ったものだとしても、目的を別のものとすれば特許は回避できる、という例です。
翌日追記
書いてしまってから、法的問題なので確認しておこうと思ってナムコ特許読みました。
うーん、上に「回避している」と書いてしまいましたが、回避していると言い難いかもしれない。
上に書いた内容は、当時聞いたままです。
違うから大丈夫だったんだよ、と部内の法務関係をやっていた先輩に聞いたような覚え。
当時は特許書類なんて簡単に読めませんでしたからね。今はネットで見つけ出せますが。
ダイナマイト刑事のサターン版を作成している時点で、ナムコが特許を持っている認識は確かあったと思いますし、それでも「大丈夫」と言って作っていたはず。
そして実際、訴えられてはいません。
特許というのは、抵触したから即アウトというものではなくて、「訴えられたら」ダメなものです。
セガの法務部は、当時それほど強くなかったので、事前交渉があったようにもあまり思えない。
(でも、訴える前に「警告」されて、何か取引したために訴訟を回避できた、という可能性はあり)
僕はドリームキャストは持っていなかったので、ダイナマイト刑事2は持っていません。
でも、こちらのミニゲームは、「ロード中に入る」のではなくなっているようで、やはり特許を気にしたのかもしれません。
2016.11.27追記
十数年ぶりにサターンを引っ張り出し、ダイナマイト刑事を遊びました。
…上に書いたこと、全面的に間違えていました。
ディープスキャンは、「ロード中ゲーム」ではなくて、ダイナマイト刑事のタイトル画面から選択して遊ぶようになっていますね。
当初はロード中ゲームとして作っていた覚えがあります。発売までの間に、特許回避のために変えたのでしょう。
そして、今遊ぶとサターン版は恐ろしくテンポ悪いな…
ST-V では、ROM からのロードだったのでシーンの間がテンポ良く進むのですが、サターン版ではシーンが変わるたびにテクスチャデータなどを読み込むので、いちいちまたされてテンポが悪くなっています。
文句言いながら最後まで遊んでしまいましたが。
久しぶりに遊んでも、最後までやってしまう程度には面白いゲームでした。
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正確に出荷時期を覚えていないのですが、1996年11月だったらしい(Wikipediaによる)ので、そろそろ書いても大丈夫でしょう。
企画とプログラムは同期で、「エジホン」を作ったコンビだったはず。
(グラフィックなどは別の人ではなかったかな)
「マジカル頭脳パワー!!」と、NEC から持ち込まれた音声認識 LSI を組み合わせたゲームを作る、というミッションが決まっていて、上層部から割り振られた仕事だったようです。
なので、どういう経緯でそういう組み合わせになったのか、などは知りません。
マジカル頭脳パワー!!は、当時の人気クイズ番組。
クイズ番組と言えば知識や知識に裏付けられた「勘」を競うものがそれまでの普通でした。
でも、マジカル頭脳パワー!!は、知識を一切問わなかった。「ひらめき」とか「注意力」を競う内容で、パズルを解いたり、間違い探しをしたりする問題が多く出題されました。
昔は「クイズ番組」はテレビの花形の一つでした。
大抵は、博学に自信のある視聴者がクイズに挑戦し、その知識を見せつける。
もしくは、芸能人でも博識の人間を集めて、その知識を競い合う。
いずれにせよ、知識を競う番組形式で、見ている人も一緒に考えつつ、知識を得ることもできました。
マジカル頭脳パワー!!は、従来のクイズ番組とは違う方法論で大人気となりました。
出てくる問題は、ちょっとしたひらめきや注意力を問うもので、知識なんて必要ない。
間違い探しとか、言葉の共通点探しとか、そう言った問題ばかりで、視聴者は「知識に感心する」よりも「一緒になって楽しむ」ことが要求されます。
でも、あるころから「簡単な問題でも気づかない」人を見て優越感を持つような番組になっていった。
クイズ番組ではなく、バラエティ番組としての側面を強く打ち出したのです。
この場合、簡単な問題であたふたしているのを見るほうが面白い。
そのため、クイズではなくパーティゲームのような単純な遊びを、芸能人が楽しそうにやっているのを見る番組に変わりました。
でも、これが大成功。
「簡単そうに見えるのに失敗する」人を見ていると、本当は難しいのではないかと気になり、試してみたくなります。
パーティゲームだから学校などで友達を集めて遊んでみないと、試すこともできない。
番組を見たことが無い人にも番組内容を伝える効果があり、口コミで視聴者層が広がります。
本当に、当時「知らない人はいない」ほどのヒット番組でした。
さて、それほどのヒットだからこそ「ゲーム化せよ」という指令が下るわけですが、これが難しい。
クイズ番組だったら、そのままクイズゲームにできます。
でも、実際には多数の芸能人が出演し、キャーキャー言っているのを眺めるバラエティ番組なので…
そうでなくても、人気のあるネタのゲーム化って難しいです。
人気があるからこそ、元ネタに手を加えすぎると「なんか違う」と言われかねない。
かといって、手を加えないとゲームにならない。
そこで、冒頭でも書いた通り、エジホンを作ったメンバーに仕事が割り振られました。
エジホンだって、かなり無茶ぶりの「原作付きゲーム化」でしたが、上手く作り上げました。
同じように、無茶な原作付きゲームを、同じメンバーに任せようというのです。
すでに書いた通り、マジカル頭脳パワー!!は芸能人がキャーキャー言うのを楽しむ番組になっていました。
これ、絶対にゲーム化できない部分ね。番組の重要な柱の部分が、ゲーム化に向いていない。
でも、番組と同じような画面構成を作りたい。
回答者席があって、誰かを座らせておきたい。
当然オリジナルキャラクターを作ることになるのですが、当初はそのうち一人が「ドロボウ」というキャラクターでした。
顔に無精ひげはやして頬かむりをして、背中に唐草模様の風呂敷背負ってるの。
企画者は気に入っていたようですが、真っ先に上からダメ出しをくらい、違うキャラになりました。
エジホンのキャラも濃いのだけど、この人の考えるキャラは正直なところよくわからない。
頬かむりと風呂敷と無精ひげを取り去り、ただの「太ったおじさん」になったキャラを見た企画者、「これじゃ部長だよ」と一言。
周囲に同意を求める口調だったのですが、苦笑いしか出ませんでした (^^;
#別に部長に似ていたわけでもない。ただ、部長命令でそうなったので何か言ってやりたかったみたい。
ゲーム内容としては、3人まで同時参加できる早押しクイズです。
クイズ内容自体は、番組初期に使われたクイズと基本的に同じ、間違い探しとか、「立体化した文字をいろんな角度から眺めて文字を当てる」など。
でも、普通のクイズゲームと違うのは、答えをマイクに向かって言って、音声認識で正解かどうかを決める部分。
先に書いた通り、NEC の音声認識 LSI を使うことが前提だったからね。
マイクは高価なので、1本しかつけられません。
でも、モーターがついていて、ボタンを押したプレイヤーの方に向いたのではなかったかな。
この音声認識、ネットでの評判を見ると「精度が悪くて、正解を言っても不正解になる」と怒っている人もいます。
開発者の名誉のために、ここは是非書いておかねばなりません。
精度が悪かった場合は、ほぼ確実に、筐体の設置方法を間違えているのです。
NECの音声認識 LSI は、雑踏の中でも音声認識ができる、優れモノでした。
それくらいでないとゲームセンターの中で使えないからね。
でも、そのためにセッティングが必要なのです。
音声入力用マイクとは別に、周囲の音を得るためのマイクが必要です。
マジカル頭脳パワー!!は、ゲーム筐体の上に、テレビ番組と同じロゴを描いた「板」を載せるようになっていました。
この板の裏に、周囲の音を拾うためのマイクが入っています。
板があるため、「回答者」の声が直接届かず、周囲の音を中心に拾うことができるのです。
でも、この板をちゃんと設置してあるゲーム機、驚くほど少なかったですね。
ただの宣伝用の板だと思われたのか、店舗の人が正しく設置してくれなかったみたい。
#ネットで検索すると、現在・もしくは過去に置かれていたゲームセンターの写真などが多数見つかります。
それらを見ても、半分程度しか板が乗っていません。
もし板がついていても、ただ乗せるだけではだめで、マイク端子を接続しなくてはなりません。
でも、やっぱり店舗の人はそこまでやってくれない。板を載せれば見た目的には整うので、それで完成と思われちゃう。
ちなみに、マジカル頭脳パワー!!に限らず、専用筐体のゲームでは「店舗搬入後に組み立て」って多いです。
一般的なエレベーターに乗るサイズに作っておかないといけないけど、店舗内では大きくして目立たせたいからね。
大抵は目立たせるためだけのものなので、店舗の人が設置してくれないことは多いのだけど、時折今回挙げた例のように、「ゲームにとって必須の機能」がつけられています。
もちろん、機能的に重要なので「組み立てマニュアル」があって、必ず守るように書かれているのだけど、そこまで書いても読んでもらえてないのね…
#今では写真プリント機の背後にカーテンが付くのは当たり前だけど、最初の頃はあれも設置してもらえなかった。
ついでなので、音声認識チップについて。
企画もプログラマも同期だったので、音声認識なんてすごいことをどうやって制御しているのか、と聞いた覚えがあります。
たしか、この NEC の LSI には、認識前に「認識候補」を6種類くらい登録できるのだそうです。
認識候補は、ローマ字で登録します。音を要素として判別するには、一番使いやすい形。
音声が入力されると、LSI は認識を行い、候補の中でどれが一番近いかを「確率」として返します。
一番高い確率の言葉がしゃべられたのだろう、と考えて、後は正誤判定を行う。
正解以外にいくつかの「誤答例」を入れるのですが、間違いやすい答えを入れるだけではダメです。
それだと、外れていても正解に似た言葉を言うと正解になってしまう。
だから、良くある誤答例と一緒に、正解に似ているけど違う言葉を入れておかないといけない。
ここら辺、わざと似た言葉を言ったりしながら試行錯誤があったようです。
ところで、この LSI 自体は、後に任天堂が Nintendo64 向けソフト「ピカチュウげんきでちゅう」(1998)で使ったものと同じです。
ピカチュウ~は僕の好きなゲームの一つなのだけど、音声認識に失敗して思わぬ行動をとっても、「ピカチュウだから」で済んでしまうので、上手い設定だと思いました。
#初期の AIBO で、AI の機能が低いからこそペットらしかったのと同じ。
AI は饒舌でないほうが、何か考えているように見える。
以前書いた、ST-V で3人同時プレイのゲームでクレジット表示が規定通りに作れなかった、というのはこのゲームのこと。
あの記事を書いた時点では、ゲーム名など特定されないように詳細ぼかしてましたけど。
簡単に概要を書くと、ST-V では複数人数同時プレイのゲームでは、同じ行にクレジット表示を出さないといけない、という規定があったのね。
でも、この規定自体がおかしかった。
クレジット表示には他にも規定があって、すべてを満たそうとすると「二人同時」以外のゲームは作れなかった。
というか、当時は対戦格闘が流行していたので、二人同時ゲームのことだけ考えて規定を作っちゃったのだろうね。
でも、現実問題として三人同時のゲームを作っているわけです。それが「作れない」という仕様が悪い。
行をずらしたかも、と先の記事では書いていたけど、日本のテレビ番組のゲームは日本でしか売らない、と割り切って、海外向けの情報表示はないものとして無視したかもしれません。
このゲーム、タイトル画面に「日本テレビ系列 木曜 夜7:54から放送中」というような表示を出していました。
これは、是非入れてくれと番組側から要望があったみたい。
でも、この何気ない一文に、すごい苦労していたのを知っています。
だって、すでに長寿番組で、過去に何度か時間帯が変わっているのです。
今後も変わらないとは限らない。単純に宣伝文を入れればいい、というわけではない。
それどころか「日本テレビ系列」とすら限られていない。
地域によってはテレビ朝日系列やフジテレビ系列の局が放映していましたし、時間帯が違う場合もありました。
だから、設定画面で局や時間帯表示を選べるようになっています。
さすがに、分は一分刻みとかには出来なかったはず。「54分」か「00分」「30分」しか選べなかったのではないかな。
系列局に関しては、将来想定外の局で放映することがないとも限らないので、「〇チャンネル」という表示にしたり、もしくは局は書かずに放送時間だけにしたりもできたはず。
最悪の場合、この表示はなくすこともできました。「放送中」ではなくなるかもしれないしね。
ゲームの本筋とは関係のない、たった一行の表示だけど、企画者がかなり頭を悩ませていたのを覚えています。
でも、「設定項目が多すぎるので該当地域の店舗がちゃんと設定してくれるか心配」とも言っていたような気が。
必要なマイクも設置してくれないような店舗が多いので、こんな細かな設定までしてくれない気がします…
2016.12.04 追記
NEC の LSI について、もう少し後の時代の「音声認識」の詳細を書いたものがあったのでリンクします。
技術に興味のある方はどうぞ。
書かれたのは 2000 年なので、マジカル頭脳パワー!!などに使われたシステムの後さらに4年間研究されていて、性能が向上しています。
でも、基本的な考え方は同じ。
(リンク先文章は、ハイエンド向けの ULTALKER-V の説明から入ります。
これは考え方から違うもので、認識できる単号数の制限もありません。
そのあとの ULTALKER-C が、マジカル頭脳パワー!!などで使われていたもののバージョンアップ版に相当します)
別年同日の日記
申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 |
最初に書いておきますが、没ゲームの話です。
ここから書くゲーム、作成中止になったので世に出てません。
たしか、1996年9月のショーが終わって、ひと段落ついた後だと思いました。
あたらしいプロジェクトに配属されます。
当時は、2月に AOU ショー、9月に AMショーという2大ゲームショーがあって、そこでのお披露目を目指して動いているプロジェクトが多かったのね。
会社上層部から降りてきた指令でした。
「新しいコラムスを3か月で作れ」。
3か月って、かなり無茶なスケジュールです。
当時は1本半年くらいが普通。急げば4~5ヵ月に短縮されることはありましたが、3か月じゃ何もできません。
今時落ち物作れっていうんだから、何かキャラクター立てて対戦だろうなぁ…とか、部長からふんわりとした指示が出ます。
任された企画者が最初にやった仕事は、「3ヵ月でできるわけないでしょ」と部長にねじ込んで、まぁ、実際には6ヵ月かかっていいんじゃないかな、と言質を取ることでした。
企画は同期のM。
プログラマーは、僕ともう一人。
手相では企画、秒殺ではプログラマとして、一緒に仕事をした先輩Hさん。
それともう一人、「最初のちょっとだけ」で、スタックコラムスのプログラムを作った先輩が参加しました。
基本のプログラムを組んで、すぐに別プロジェクトに異動しましたけど。
話を2か月ほど前に遡らせます。
そのころ、Nintendo 64 で、スーパーマリオ 64 が発売されています。
企画Mが研究のために遊んでいたのですが、シーンの切り替わりの際に、星の形やクッパの顔などの形にワイプが入ります。
Mはこのエフェクトに驚いたようで、こんな画面切り替え効果他のゲームで見たことなかったけど、これは N64 の性能が無いとできないものなの?
と僕に質問してきました。
そのころ僕は特に急ぎの仕事もなく暇だったので、「画面切り替え効果」のエフェクトを作ってみせます。
星形ワイプはもちろん作ったけど、Mの思いつくままに20種類くらいのワイプを作ったのではなかったかな。
これ、中にはサターンで普通つかわれない機能を使ったようなものもありました。
普通つかわれないのはゲーム中だといろんな制約があるからで、「ワイプだけの実験」だから使えたのだけど。
さて、そのままMと一緒に仕事をすることになったので、ワイプを作りながら実験した画面効果をゲーム中に使おうとします。
目標としたのは、派手な戦闘演出でした。
ぷよぷよに始まった対戦パズルですが、「対戦ぱずるだま」以降は、フィールド全体に大きなキャラクターグラフィックを重ねるのが普通になっていました。
じゃぁ、コラムスでもやろうよ…となったのですが、ただ他のゲームを真似するだけでは面白くない。
両方のフィールドは分離しているのだけど、同じ背景を共有することにして、2人のキャラクターが戦っている雰囲気にしよう。
「連鎖」で攻撃すると、攻撃した側が相手側に進んでいるように見える形で、背景をスクロールする。
連鎖が多ければ、その分スクロールは速くなる。
ある程度以上大きい連鎖が発生するときは、「連鎖前に」予告を出すようにする。
具体的には、連鎖が組み上がった瞬間にゲーム進行が一瞬停止して、発火点となる石から、画面全体に光が広がるようにしたのですね。
これで、連鎖中に相手側が「すぐ対処しないとやばい」と焦るようになる。
…いや、つまりアニメのドラゴンボールのような戦闘の雰囲気を出したい、ということですね。パズルなのに。
他にも、「挑発」という操作をすることでメリット・デメリットがあるとか、いろんな細かなアイディアが出ました。
まだ絵はあまりできていなかったので、仮の絵を入れて「気持ちいい動き」を追及したり、演出面にこだわっていました。
一方でコラムス本体のゲーム性をどういじるか、という難しい課題もありました。
コラムスって、一人で黙々と遊ぶように作られたゲームデザインです。
対戦にして「邪魔」とか落とすと、ゲームが破綻してしまう。
通常時はコラムスでいいのだけど、何かをきっかけに「消える」条件が緩くなって、大量に溶けていくように…
と、漠然と考えながらいろいろなルールを試すのですが、どうも決め手になるいい案が出ないのです。
改造できないっていうのは、それだけコラムスの基本システムが練り込まれているということですけどね。
詳細忘れたけど、「宝石に絡みつくように稲妻が伸びて行って、まとめて消える」なんてプログラムも試した覚えが。
仮の絵で稲妻の動きとかそれらしく作ったのだけど、結局ゲーム的に面白くなくて没にしました。
あと、ルールがらみでは「邪魔」をどれくらい降らせるか、という計算式の作り方を、Mに教えたのもよく覚えている。
「連鎖数に応じて、こんなイメージで数が増える式を作りたいんだけど、どうすればいい?」
と簡単なグラフを示しながら聞かれたので、表計算で式を立ててグラフ化する方法を教え、納得いく曲線になるまで式を自分でいじってもらったの。
ゲームのルールでも、実際の数式が複雑に絡む部分って、「プログラマーでないと計算できない」と思われている節があったのね。
でも、プログラムして、確かめて、調整して…だと試行錯誤の時間が無駄に長くなる。
あらかじめ表計算でイメージを掴んでもらうことで、開発効率上がりました。
これ、自分で考えるのだったら、簡単なプログラム書いてしまいます。
だから「表計算ってそんな使い方もできるんだ」って驚きだった(笑)
先に仮の絵を入れたと書きましたが、元企画でプログラマのH先輩から借りた資料をスキャンしたものです。
H先輩は、同人誌を自分で作ってコミケに参加してた人。
(企画出来て、絵が描けて、プログラムもできた人です。)
で、同人誌もいっぱい持っていて、Mがイメージを伝えたら、いくつか見繕って持ってきてくれました。
その中からMが気に入ったものを使っていたわけです。
同人誌って、別に18禁なものではないよ。
商業誌と違って、お話よりも「イラストの雰囲気重視」な人も多いから、イメージ固めるうえでは役立つのね。
こうした絵を使っているうちに、全体のイメージが固まってきました。
キャラクターは、魔法使いという設定にしよう。
コラムスだから宝石の名前の付いたキャラクターで、それぞれが魔法使い。
ホウキに乗って飛んでいる状態で戦うので、先に書いた「攻撃による高速スクロール」も活きてくる。
コラムスって宝石が6種類あるので、6人と対戦することにして、主人公は「宝石かどうか微妙な石」だな。
自分が宝石であると認めてもらうために、他の宝石に挑む…と。
微妙な宝石って何だろう、というMに対し「珊瑚とかどう?」と僕。
あーなるほど。じゃぁ、誕生日はやっぱ3月5日って設定で…とか言ってたら、H先輩から「あ~るか!」と突っ込み。
#わからん人には全く分からん話だな。
何を作るときでもそうだと思うのですが、もやもやした状態からだんだんイメージが固まっていく過程って、楽しいのね。
まだ無責任にいろんなアイディアが試せる時期ですし。
形ができ始めたころに、タイトル案も考えていました。もちろん無責任に。
「ここらでコラムス」というのはその時に出たアイディア。
その後は、企画書なんかには常にこのタイトルが書かれていました。後ろに(仮)ってついてたけど。
ゲームのタイトルって、4文字程度に縮めて呼びならわされます。
その際に「こここら」って呼んでもらいたい、というのがMの意見。
Mは言葉遊びとか好きでした。
さて、ここら辺まで作るのに、2ヵ月くらいかかっていたと思います。
そのころ、会社の役員が部署に視察に来て「そういえば、以前に作れと言ったコラムスどうなった」と部長に尋ねたのです。
部長が僕らのプロジェクトの席に役員を案内すると、怒り始めます。
何をやっているんだ、こんなものを作れと言ったのではない! と。
完全に伝達ミスでした。部長が、役員の意図を理解できていなかった。
9月時点で社内の予定スケジュールを見ると、年末商戦の大事な時期に、発売できるゲームが全くなかったのだそうです。
そこで「何もありません」では話にならないので、コラムスのような簡単なものでいいから間に合わせろ、というのが本来の意図。
つまり、内容を充実させるよりも、べた移植でいいから年末までの3ヵ月で完成、のほうが重要だったのです。
楽しんで作っていましたが、お楽しみはこれまででした。
「年末」までは残り1か月ちょっと。わずかそれだけの期間で、新しいコラムスを完成させなくてはなりません。
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別年同日の日記
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さて、「ここらでコラムス」に書いたように、年末の締め切りは絶対でした。
しかし、作っているゲームはダメ出しをくらい、何もない状態から、1ヵ月ちょっとでコラムスを完成させなくてはなりません。
…いや、実際にはコラムスの基本ルール部分くらいは使いまわしましたから、何もなかったわけではないのですけど。
#基本ルール程度なら、3日もあれば作れるのだけど。
まず最初におこなったのは、「初代コラムスのルールを、基本的にそのまま使う」という確認でした。
ルールって重要な部分だから、試行錯誤していると時間ばかりが過ぎていきます。
「そのままでいい」と役員は言いましたし、実際「ここらでコラムス」の時に、ルールをいじることの難しさを経験していました。
でも、新ゲームを出すのですから、何か「新しさ」を演出しなくてはなりません。
そもそも、コラムスが好きな人は、コラムスの何が好きなんだろう?
「ここらでコラムス」の開発初期に、企画Mがコラムス関連の資料をあさっていました。
その時には深く考えなかった資料もあるのですが、ここにきて考え方をまとめるのに役立ちます。
まずは、業界紙に載っていた「償却率ランキング」。
ゲームセンターにとって、基盤を購入するのは投資です。投資に見合うリターンが無くてはならない。
購入した「原価」に見合った金額を回収する、「償却」の期間を比較したランキングでした。
人気ゲームでもバカ高ければ、償却に何カ月もかかってしまいます。
一方、安いからと言って買っても、誰も遊ばなければ、やっぱり償却に何カ月もかかってしまう。
初代コラムスは、何カ月もの間ぶっちぎりの1位でした。
元々安い基盤で、ヒットしてすごく出回ったために中古価格も安い。
その後も人気が持続しているので、購入して2ヵ月もすれば償却できてしまう。
コラムスには「コラムス2」や「スタックコラムス」もありますが、そうしたものはランキングに入っていません。
初代コラムスだけが支持されている。
店舗に新ゲームを買ってもらうとしても、「償却率ランキング1位の正当な続編」なら説得力があります。
ここら辺が、役員が「コラムスのままでいい」といった理由のようです。
では、お店に置いてあるコラムスを、いったい誰が遊んでいるのだろう?
これも、週末にMが店舗に出向いて、一日中観察していたんだそうです。
店舗にもよるかもしれないけど、新宿の店舗では夕方4時ごろに、出勤前の水商売のお姉さんが遊んでいる率が高かった。
どうも「ゲームがやりたい」というより、時間があるのでちょうどいい暇つぶしを探しているようなのですね。
「ここらでコラムス」は、この頃王道だった「キャラクターを立てた対戦パズル」で考えていました。
このときの想定年齢層は、20代男性のゲームマニア。
しかし、水商売のお姉さんターゲットに考え直します。
開発期間も短いし、役員は「コラムスのままでいい」と言いました。
でも、何か新しい要素は必要だ、と皆の(というか、Mと僕の)意見がまとまりました。
初代は、中古だから償却率がいい。新しく開発してかなうわけがない。
なら、基本的にはそのままだけど、グラフィックなどは今の性能で思い切って作り直そう。
初代が好きな人からは、よく「コラムス97は視認性が悪い」と批判を受けます。
宝石が煌めくせいで、色がわかりづらくなっているのね。
でも、これは結局、「突き詰めたゲーム性」を考えるゲームマニアの意見。
初代は中古で安いんだし、メガドライブ版も出ています。
初代がいい人は初代で遊んでもらうことにしましょう。
想定ターゲットは、水商売のお姉さん。
そんなにゲームが好きでもなくて、暇つぶしで遊ぶだけ。
だから、美しい世界観で楽しんでもらえればそれでいい。
遊んでいて心地よい時間が過ごせるように。
美しく、きらびやかな画像と、心地よい音楽、効果音…
新しいコラムスは、多少ゲーム性が犠牲になっても「美しさ」を追求する。
開発期間が短いから、ぶれている余裕はありません。
この時点で、方向性は決まりました。
ST-V の高解像度モードを使い、宝石をとにかく美しく描こう、と決定します。
グラフィックは、「ここらでコラムス」で描いてもらったものを、高解像度で綺麗に描きなおしてもらって…
と、ここで一つ問題発生。
グラフィックを担当してくれていた女性の先輩が、会社を辞めることになったのです。
実は、以前から視力が急激に落ち始めていて、「グラフィックの仕事を辞めないと失明するかもしれない」と医者から言われていたのだとか。
コラムスが終わったら辞めよう…と考えていたらしいのですが、区切りを迎えたのは事実なので、ここで仕事を辞める決心をしたのでした。
代わりに、別の先輩Sさんがアサインされます。
「期間が短いので」という理由で、仕事が速い人。
Mから「とにかく美しい宝石を表示したい」という話を聞いて、S先輩は「おぅ、任せとけ!」と二つ返事。
「ここらでコラムス」で描いた絵を参考に、32x32 ドットで、宝石一つは 32 色以内で、6種類+魔宝石を…
という説明に対しS先輩から逆提案。
「アニメーションさせるから使えるコマ数教えろ。」と。
とにかくできるだけコマ数が欲しいのだそうです。
ざっと計算して、32コマならメモリに入りますね。と伝えると、じゃぁ後はいいもの作ってやるから待ってろ、と。
もう、細かな指示はなくて全部お任せです。
2~3日だったと思いますが、絵が仕上がって来ました。驚くほど美しい絵でした。
そして、宝石が回転して輝くようになっていました。
「宝石っていうのは、煌めくから美しく見えるんだ。動かさずに表現できるわけないだろう?」と。職人です。
1つの宝石に何色、ではなく、全体で 256 色に収めていました。ST-V の性能としては、それで問題なし。
光を表現する白などは共通になるので、この方が使える色数がずっと増えるのです
ただ、実際の宝石らしいカットにしたら、宝石が少し小さめに見える、という問題が出ました。
ここで、Mの判断で全部の宝石を 40x40 に大きくすることにしました。
画面に並べるときは 32x32 を基準にして、周囲の石と少し重なることになります。
宝石は全部描きなおしですが、3Dモデルなので、再レンダリングするだけです。
この際、「少し重なる」のがおかしくならないように、真横ではなく少し上から見る視点に変えています。
宝石が積み重なっているのを斜め上から見下ろしている、という視点なのね。
ちなみに、32コマで動くのは「半回転」分だけです。
裏と表は同じ形、という前提で、一周は 64コマで回ります。
アニメとしてはかなり滑らか。
宝石は、当初全部同じ角度で回っていました。
画面上に結構たくさん表示されるから、それぞれが別に回転、なんて手間をかけてなかったのね。
でも、Mが「落ちてきて接地した時のままの角度で回し続けられない?」と言います。
えー、処理能力が…と言いつつ、しばらく考え、1時間後には「できた」と動いている画面を見せます。
それぞれの宝石を回しているのではなくて、画面全体に対してたった1つの回転角度と、それぞれの宝石の「角度差分」があるだけなんだけどね。
そうしたら今度は開発後半になってから「一部の宝石だけ回転速度変えられる?」と聞かれます。
レベルアップ時の演出で、数字が横から飛んできて、当たった宝石が速く回る、ってしたいそうです。
うーん、これもしばらく考えて作りました。
回転が速くなるのは、1段の最大6個だけ。それほど処理能力に影響しない。
ここだけ角度差分をいじって、回転速度をあげました。固定の「差分」を保持しているだけだったのに、固定じゃなくなった。
他にも、「消える直前だけ回転が速くなり、遠心力で割れるような感じで」とか「接地した瞬間、列全体が少し沈み込む」とか、非常に細かな演出が入っています。
設置時の宝石の沈み込みなんて、気づいた人少ないんじゃないかな。
初代コラムスは、宝石を「回転」させる際に、宝石自体は 16dot なのですが、8dot 単位でスライドします。
3つ縦に並んでいるのが、それぞれ下にずれる。一番下は上に行く。
この際、一番下は「真ん中で切れて、上にワープする」ように表示されるのね。
これは、メガドライブのハードウェアではやりやすい処理内容です。
宝石を全部背景画面に描いているので、8dot 単位なら処理しやすい。
コラムス 97 は、宝石をすべてスプライトとして表示します。
そして、スプライトは「半分に切る」なんていう器用な表示は出来ない。
ここで、コラムスを作る前に「画面効果」をたくさん作って遊んでいた経験が生きました。
画面効果として「普通じゃない表示」を実験したために、何をどうすれば変なことができるか、をすぐに思いついたのね。
ハードウェアの話になってややこしいので詳細は省きますが、サターンには従来のハードでの意味の「スプライト」はありません。
ただ、テクスチャを高速で画像バッファに転送するハードウェアがあるだけで。
そのままではゲームを作る際に使いにくいので、これをスプライトとして扱えるような仕組みをライブラリで持たせています。
ライブラリには「スプライト」を認識するためのデータを渡してあって、番号を渡すだけでスプライト表示ができる。
このデータをいじると致命的におかしなことも起こるので、普通はこのデータはいじらない。
でも、理解していじれば、いろんなことができる。
具体的には、「スプライトの縦サイズ」を変えてやれば、途中までを表示できる。
また、「テクスチャの開始アドレス」を縦サイズと共に適切に変えてやれば、スプライトの途中から下だけを表示できる。
これを使って、スプライトを任意の位置で切って表示しています。
1dot 単位で自由に切り出せるので、初代コラムスの 8dot よりも滑らかに動かしています。
魔法石出現のタイミングを教えるゲージも、同じ方法で 1dot 単位で自由な長さの表示を行っています。
横方向にはサイズを自由に変えられないので、90度回転して表示しているのだけど。
コラムス 97 、僕がかかわったゲームの中で、一番思い入れのあるものです。
なので、数回に分けてみっちり書こうとおもいます。
関連ページ
コラムス 97 に影響を与えたもの【日記 16/12/24】
別年同日の日記
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コラムス97の思い出話の続きです。
基本的に初代と同じ、だったはずのゲーム内容に影響を与えたもの。
▼特許問題
ある程度開発が進んだ時に、「落ち物パズル特許」問題が起こりました。
カシオ計算機が「ゲーム電卓」のブームの際に作り、特許を申請していたゲームがありました。
この特許書面の内容が、「落ち物パズル」としか解釈できない内容で、実際にカシオが訴訟を起こしたのです。
訴訟相手は、「テトリス」のライセンスを持っていた任天堂と、「ぷよぷよ」を作っていたコンパイルでした。
セガは訴えられていませんでしたが、ぷよぷよの販売を担っていたので、訴訟に対抗します。
落ち物パズルは当時の人気ジャンルです。
しかも、これはサブマリン特許。特許の有効期限はずっと先でした。
特許として認めてしまうと、今後重要なジャンルを失うことになります。
会社の違いを超えて法務部が手を取り合い、カシオに対抗しようとしていました。
#特許は現在、「出願から」20年間が最大の有効期間。
でも、1995年以前に成立した特許は「成立から」20年が有効期間だった。
このため、出願から成立までをいろいろな方法で引き伸ばす手法が広まり、「サブマリン特許」と呼ばれた。
落ち物パズル特許は、1982年に出願し、12年も成立を引き伸ばして 1994年に成立している。
この特許、今見ても「落ち物パズル」の要件を見事に満たしています。
ゲーム自体は、いわゆる「落ち物」とはちょっと違うのですけど、特許というのは見た目ではなく技術が問題なので、要件を満たしていれば認められます。
僕も、なんとか回避できないかと特許書面を読み込みました。
#当時、部署で法務担当だった先輩に「技術面の理解の手伝い」を度々頼まれ、特許書面の読み方も教わっていました。
この話、どこにも書いてなかったようなので、そのうち書こう。
そして、「積み方によって得点が異なる」ことが特許の要件の一つになっていることを発見しました。
じゃぁ、得点を無くせば特許に抵触しなくなる。
だけど、得点なしでゲームとして成立するの?
社内でコラムスが上手な人に、聞いてみました。
みんなコラムスを遊んでいる時間が好きなだけで、得点はあまり気にしていない、とのこと。
ただ、宝石いくつ消した、というのは重要な指標でした。
「いくつ」というだけなら、積み方によって得点が異なる、という特許には抵触しない。
消した宝石の数だけ残し、得点は思い切って失くす、という決定が行われます。
この特許、コラムス 97 が完成したあとで、無効化されたそうです。
法務のテクニックで、「特許の無効請求」というのがあるのね。
特許になるはずがなかった、という理由を示して訴えを起こし、それが認められれば、特許そのものが消えうせる。
カシオは対抗し、分割特許を出しました。
これは、元の特許の一部要件を切り出して別の特許にすることで、「無効請求」で示された理由を回避し、無効化を防ぐ戦術。
ただし、「分割」の名前の通り、特許の範囲は狭くなります。
十分に狭くなってしまえば、その特許は回避しやすい、怖くないものになります。これも事実上の無効化。
最終的に、「無効」になったのかどうかは、実は知りません。
でも、任天堂の法務部がうまい処理をして、普通に落ち物パズル作って何の問題もないよ、という状態にはなったのだそうです。
一体、何をどうしたのかは不明。法務の人は教えてくれませんでした。
(こういうのって、相手の知らないテクニックを数多く知っている側が強いので、あまり手法を口外するものではないのです)
でも、コラムス 97 に得点がないのは、これが理由なのです。
▼ロケテスト
開発期間1か月しかなかったのに、ロケテストは2回やったのだそうです。
「そうです」っていうのは、僕が全く覚えていなかったから。
プログラムに忙しくて、ロケテスト見に行かなかったんだろうね。
企画Mが覚えていて、どうやら2回目はインカムテストを完成から発売までの間にやったみたい。
でも、1回目は開発途中バージョンを店に置き、その反応を開発に反映させるものです。
短い開発期間なのによくやったな。
僕はロケテストを記憶していないのだけど、Mの記憶によれば、ロケテスト前までは初代コラムスと基本的に同じだったようです。
でも、このルールはやっぱり難しいし、わかりにくい部分もある。
先に書いた特許問題もあります。
そこで、次のように改められました。
1) フィールドを1列広げ、1段減らす。
2) 魔宝石の出現タイミングを知らせるゲージを用意する
3) 点数を無くし、段位認定を作る
まずは、フィールドについて。
初代コラムスは、横 320ドットです。それに対し、ST-V は高解像度で 704 dot。
単純に倍にすれば 640 dot なのだけど、さらに 64dot も広くなっている。
そして、宝石のサイズは 32x32 です。実際の宝石は 40x40 で描かれているけど、画面上の並べ方は 32dot なのね。
じゃぁ、2列増やせる。左右に2つのプレイフィールドがあるので、各1列増やせる。
この頃のパズルゲームは対戦が多くて、「敵との勝負」が中心になっていたので、パズルとしては割と優しいルールにしてあったのね。
コラムスのルールはこれに比べると難しすぎて、ロケテストでもすぐにゲームオーバーになってしまう人が多かった。
1列増やすことで、少し優しくしようという狙いです。
#Mによれば「宝石を増やすことで煌めきを魅せたかった」というのもあるらしい。
なんで段を減らしたのかは…忘れた。
初代と違い「フィールドの上にも積み上げられる」ので、その分を減らしたのかも。
#ここはスタックコラムスルール。
もう一つ効用があって、それまでは6列だったので、「中央の列」が存在しませんでした。
落ちてくる宝石は、中央右寄りの列から落ちてきた。
最終的には「落ちてくる場所がふさがれるとゲームオーバー」ですから、この出現位置の判り易さは重要。
1列増やして「中央」と言い切れるのは、ルールがわかりやすくなるのです。
魔宝石は、初代でも出現タイミングがわかりにくいものでした。
というか、「時々出てくる」という程度で、明示されていなかったのじゃないかな。
好きな人は、宝石を消した数の2次関数になっているのを知っているけど。
これを、初めて遊ぶ人にもわかるようにしよう、というアイディアでした。
「あとちょっと耐えれば魔宝石が…」と思えば頑張れるし、そこで終わったら悔しくてもう一度やりたくなるし。
ところで、「魔法石」か「魔宝石」かというのも作るうえで困りました。
初代業務用では「魔法石」なのだけど、メガドライブ版では「魔宝石」になっているのね。
海外版を調べると、この表記は「Magic Jewel」で統一。
じゃぁ、「魔法石」(Magic Stone) ではなく、「魔宝石」だね、ということで、コラムス 97 では「魔宝石」表記にしています。
最後に、段位認定。
コラムス 97 の目標は「初代のゲーム性をそのまま残す」ことでした。
でも、先に書いたように点数を入れるわけにいかなくなった。
実は、初代には「魔宝石を地面に置く(何も消さず無駄にする)と高得点」というテクニックがありました。
点数が無いと、こうした部分の「ゲーム性」が崩れてしまう。
そこで、内部的にいろいろなパラメーターを計算して、最後に「段位」認定することにしたのです。
これは「得点表示」ではないので、特許を回避できます。
たしか、ロケテストに出したときは、出てくる文字が全部 8x8 の、BG 面に書かれたものだったと思います。
INSERT COIN(S) などの表示に使われている文字ね。
数字はさすがに大きな文字を作っていたかな。でも、スプライトでデザインされたアルファベット全文字を作る時間が無かった。
というのも、ST-V の高解像度モードで、スプライトで使える色数は全部で 256色。
そして、その 256 色は、宝石で全部使いきっているのです。
この宝石は、24bit カラーでレンダリングされた後に、一番自然に見えるように機械的に 256色に減色処理しています。
そのため、パレットの並びなども、使いやすさなど全く考慮されていないものでした。
その色の中から工夫して、絵を描かなくてはならないのです。
宝石を描いたS先輩は「綺麗な宝石を作る、という俺の任務は終わった。後は知らない」と逃げました。
代わりにさらに大先輩のKさん(当時デザイン課課長)が、使いづらいパレットでポチポチと文字を描くことに…
ネームエントリーに使う文字や、アドバタイズデモで説明を行っている文字、GAME OVER のロゴなど、全部Kさんが作ったものです。
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コラムス 97 の話の続きです。
通常は、サウンド担当は、ゲームが完成に近づいてからアサインされます。
…といっても、コラムス 97 は開始当初から1か月程度しか期間が無かった。
すぐに、N先輩がアサインされました。
企画Mからは、基本的に初代コラムスのイメージで、という注文とふわっとした難しい課題が与えられます。
「うるさいゲームセンターの中でもはっきりとわかる、宝石の割れる音」
と
「物静かで神秘的な、ゲーム展開によって変わるBGM」です。
注文を出したMですら、むちゃくちゃなことを言っている自覚はあったそうです。
でも、コラムスなんて地味なゲームだから、お客さんを引き込む仕掛けが欲しい。
ゲームセンターで別のゲームを遊んでいる人でも、遠くにいて「連鎖した」とわかるようにしたい、という意図でした。
N先輩の最初に作ってきた「宝石の割れる音」は、まさに注文通りのものでした。
でも、別の可能性もあるのか確かめてみたい。もういくつか作ってみてください、とお願いします。
これ、N先輩は困ったらしいです。そもそも「宝石の割れる音」なんて、誰もの頭の中にあるイメージではない。
こういう時の音って「イメージ通り」が重要なのに、そのイメージが無いのです。
いくつか作ってもらったのですが、やはり最初の音に決定しました。
でも、もう一つの注文…「ゲーム展開によって変わるBGM」の方は、紆余曲折がありました。
まず、初代コラムスのBGMを説明しないといけないでしょう。
初代コラムスの音楽は、ゲーム展開に合わせて演奏内容が変わります。
具体的には、ある程度宝石が積み上がると「ピンチの曲」に変わり、宝石が減るとまた通常の曲に戻ります。
ただ、これが急に切り替わるのではなく、それまで流れていた曲の「区切り」までは流れてから、違和感なく次の音楽に移行するのね。
曲にいくつかの「区切り点」が設定してあって、違和感なく切り替えられる工夫があるのです。
まず、そもそもそういう曲を作れるのか、という調査から入ります。
作曲のN氏が、サウンドドライバを作成した Hiro師匠に尋ねたところ、そういう機能は用意していない、とのこと。
じゃぁ、せめて展開によってテンポを変えられないか。
その程度ならできるよ、ということで、改造版サウンドドライバが届けられました。
そして、書きあげられたのがそのまま発売になった曲です。
非常にゆっくりとしたテンポの、心癒される曲。
でも、この曲ってよく考えられていて、少し速いテンポのリズムの上に、ゆっくりとした主旋律が乗る構造になっています。
通常速度で聞いていると、ゆっくりの主旋律が耳に入って、落ち着く曲です。
でも、テンポを 1.5 倍ほどに挙げてみると、リズム部分が速すぎて、煽られる感じに変わります。
宝石の積んである高さに合わせてテンポを変えることで、焦燥感を演出できるような曲なのです。
#Youtube を PC で見ると、再生速度調整ができます。
コラムス97の動画などで、1.5倍速再生してみると判り易いかと思います。
さすがN氏、いい曲を書いてくれた…と喜んでいたのですが、テストプレイ用の試遊台で音が止まります。
頻繁に内容を書き替えている開発中は気づかなかったのだけど、6時間動かせば確実に止まる、という感じかな。
サウンドドライバが暴走するようです。
Hiro師匠のところに報告が行き、修正版が作られます。
ところが、修正しても修正しても、治らない。
今度こそ治っているはず…というやり取りを何度したことでしょう。
結局、締め切り直前に「これで治らなかったら、テンポを変える、という仕様は諦める」ということになります。
…やっぱり治りませんでした。
これ、コラムス97で唯一の心残りだった点。
BGMは今でも好きだという人が多いのですが、テンポを変えることを前提に書いた曲だということはあまり知られていません。
消した宝石の数が約 2000 個になると、コラムス 2000モードとなってBGMが第九に変わります。
これは、企画Mのリクエスト。
彼は当時エヴァンゲリオンにハマっていた。
…いや、僕エヴァいまだに見てないからよくわかんないのだけど、なんか印象的なシーンで第九流れるの?
とにかく、ゲームセンター中に響くような大音響で、って無茶な注文。
これも、地味なゲームだから注目度を上げようとする策の一つでした。
でも、音楽を作っていて、本体のボリュームまでは制御できません。
Mとしては、第九以外のボリュームをすべて絞って、店舗側に筐体のボリュームを大きめに設定させよう…
というところまで考えたみたいなのだけど、さすがにそれはやめました。
でも、第九の演奏はシンプルで、音を厚めに、力強くしてある。
少しでも店中に響くように、という名残なのね。
音楽の話ではないのだけど、ついでなのでこのモードについて書きましょう。
コラムス97 では、宝石の落ちてくる速さなど、難しさを「レベル」で表現します。
コラムスでは、宝石が3個づつ落ちてくるため、「3」を単位としていることが多いです。
レベルは、宝石を 30 個消すごとに上がります。
開始時のレベルが選べるので、宝石の数とレベルは必ずしも一致しないのだけど。
さて、30*66 = 1980 個宝石を消したときに、落ちてくる宝石の速度が急に落ちます。
ゲーム中最低速度。開始時のレベル 0 よりも遅い、「レベル -1」の速度です。
そして、連続して5個の魔宝石が落ちてくる。
宝石の種類は6種類だけど、わかっている人なら全部消せます。
宝石をきれいさっぱり消し去ると、背景には作成スタッフの名前が。
少人数で作っているのがわかりますね。
この「業界記」、基本的にスタッフの名前を特定できないようにしているのですが、どうせバレるのでイニシャルで書いてます。
実は、宝石がゆっくり落ちるのは、このスタッフの名前を見てほしいからでもあります。
もう一つは、この後最高速に上げるのだけど、「集中力を途切れさせて難しくする」ための意地悪。
そして、30個消して消した総数が 2010 個になると、また一つレベルが上がり「コラムス 2000モード」になります。
先に書いたように、BGMが変わり、速度がそれまでの最高速の、いきなり2倍になります。
ついでに言えば、「接地」してから「固まる」までの速度も半減している。
一番遅い状態から、一番速い状態への落差。
もう、明らかに殺しに来ています。
当時のゲーム時間の基準は「100円で平均3分」とされていました。
ここまできたお客さんはかなり長い時間遊んでいるはずなので、そろそろ終わって、という開発者側のお願いです。
このモードでのBGMもループが非常に短いのですが、「どうせこの速度で長く遊べる人はいないだろう」という理由からだったりします。
だけどね、本来「終わりのないゲーム」であるコラムスを、時間が来たからおしまい、とはしたくなかった。
ゲームセンターの人が儲からないことには仕方がないのだけど、そのためには遊んでくれる人に納得してもらわないといけない。
ここで背景が真っ黒になるのは、そのため。
超高速にして殺しにかかると同時に、視認性を良くして「まだ戦える」状態を整えたかった。
十分戦って終わるのであれば、プレイヤーとしても満足できるでしょうから。
実際、この鬼のような難易度に応えてくれた人々がいます。
「2000 からが本番」という言葉を生み出し、コラムス 2000への挑戦をするプレイヤーが一定数いたのです。
そして、一部の方は見事に壁を乗り越え、延々と遊び続けてくれました。
…ケイブシャークってなんだっけ。
でも、非常にうれしかったです。
やり込んでいただけるのは、制作者への最高の賞賛なのです。
別年同日の日記
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コラムス97の話の続きです。
初代「コラムス」は、8dot 単位で宝石が落ちてきました。
宝石は全部背景に描かれていたからね。
そして、宝石自体は 16dot で描かれたので、1フレームに宝石半分が最高速。
これは、コラムス2でもそうだし、スタックコラムスでも変わらない。
たしか、「ここらでコラムス」でも、この決まりを守って作っていたのではなかったかな。
でも、コラムス 97 では、ドット単位で滑らかに落ちてきます。
これは「美しいゲームにしよう」と決めたから。カクカクと動くのは美しくない、とMが滑らかな動きを求めた。
最初は、縦の動きから滑らかにしました。
でも、縦が滑らかなのに横が滑らかでないのも美しくない、となった。
横方向も滑らかに動くバージョンが作られました。
もちろん、ゲーム上「列」に置くことが重要だから、操作自体は列単位ですよ。
でも、レバーを横に入れると、隣の列まで滑らかに動くようにしたのです。
これが…何とも言えず気持ち悪い。
どうにかならないか、滑らかなままで改善するアイディアを2~3個試した気もしますが、結局このバージョンは1日続けなかったんじゃないかな。
すぐに元の動きに戻しました。
ただ「滑らかに動かす」だけでも、結構いろいろ試してます。
コラムスに限らず、なにかを作るときって膨大な実験が行われ、捨てられています。
宝石が消える瞬間、砕け散って破片が飛ぶ演出があります。
また、消える瞬間にレバーを下に入れっぱなしにしていると、消える瞬間のアニメーションがキャンセルされ、高速で消えます。
アニメキャンセルは途中で入れた仕様なのですが、これを入れた時、連鎖すると飛び散る破片の量がものすごい数になり、処理落ち…画面がスローモーションになりました。
僕も企画のMも、シューティングゲームとかで大量の敵が出て処理落ちすると嬉しいタイプ。
まさかコラムスで処理落ちするとは思っていなかったので、「うわ、すげー、処理落ちした」と大騒ぎ。
何を騒いでいるのかと見に来た、近くの席にいた先輩に「ダメだな。処理落ちは絶対に許さん」と言われました。
プログラムを知っている人間から見れば、処理落ちするというのは限界を超えるほどの処理をしている、ということで面白いかもしれない。
でも、お客様はプログラムを見たいのではなくて、ゲームを遊びたいのだ。
ゲームのテンポを崩す処理落ちはあってはならないし、そうならないように工夫するのが我々のすることであって、「処理落ちした」なんて喜んでいてはいけない、と。
ゲームに対する確固とした哲学を持っていて、時々ハッとさせられる言葉をいただく、いい先輩でした。
ところで、唐突にプログラムテクニック。
他の会社や部署はどうか知らないけど、当時のAM1研では、開発中は背景色を本来の色とは違うようにいじっていました。
本来が黒だったとすると、1フレームの処理開始時に、緑とかにしてしまうの。
そして、処理が終わって垂直帰線待ち(ゲームのタイミング合わせの処理)に入る瞬間に、黒にする。
背景色は、直接画面表示に反映されました。
実際には、画面を描画中に次の画面を作るためのプログラムが動いています。
画面は走査線によって上から順に描かれますが、処理中はこの走査線の「背景色」が緑になり、処理が終わると黒になる。
結果として、処理時間がそのまま画面に現れます。
処理が軽いと画面の上の方だけ緑になり、処理が重いと下の方まで緑になる。
画面が全部緑になってしまうようなことがあると「処理落ち」となります。
こうすることで、常にプログラムの処理量を意識しながらプログラムを作れた。
ところが、ST-V の場合は、この色の付け方がちょっと違ったのね。
メイン CPU の処理が終わったところと、サブ CPU も処理が終わったところと、裏画面描画が終わったところで色を変えてあった。
実は、裏画面の描画は間に合わなくても、キャラクターがちらつくだけで大きな問題は生じないのだけど。
でも、この目的のために、メイン CPU は画面描画の終了を示すフラグが立つのを監視していたのね。
そうすると、実際には処理が間に合っていても、画面描画が遅いだけで処理落ちしてしまう。
先に書いた「宝石の破片で処理落ちした」のは、画面描画が遅れたためでした。
処理速度は問題ない。破片は描画が間に合わず消えるけど、重要ではないものだから、こちらも問題ない。
つまり、デバッグビルドだから処理落ちしただけで、リリースビルドすれば処理落ちしないのです。
とはいえ、これは後知恵。
先輩に言われたときは納得して、破片の処理を軽減するプログラムを書きました。
何をどうしたかは忘れたけど、上限定めてそれ以上出ないようにしたのかな?
一緒に作っていたもう一人のプログラマ、H先輩なのですが、「こここら」の時は敵の思考ルーチンを担当していました。
論理パズルとか好きな人で、理詰めで「最適状態」に積んでいくプログラムを作ったら、むちゃくちゃ強い。
そして、先読みがすごいので思考処理に時間がかかりすぎる。
無駄を省き、弱くしながら現実的な時間内で思考する…というようにしながら、いくつかのパターンのルーチンが用意されました。
ところが、「ここらでコラムス」が没になり、敵の思考ルーチンが不要となったのです。
思考ルーチンを作っていたので「次に置いたら消せる場所」を調べるプログラムはありました。
これをそのまま流用し、EASY 最初の頃の「消えそうな宝石」の表示ルーチンに流用しています。
もう一つ、一人で遊んでいる時に連鎖すると、空いている席の方で「リプレイ」が始まります。
これもH先輩の作。
というか、空いている側の席のデモは全部H先輩だったはず。
何もないときでもきれいな宝石が降っていて、リプレイがあるときは降ってきた宝石が積み上がると、連鎖直前の状態の再現になっている。
一見ランダムに見えるものが、定位置に収まってリプレイが始まる、という演出、結構好きです。
#あ、リプレイの開始指示は僕だ。
「ここらでコラムス」の時に、連鎖確定演出というのを作った。連鎖が起きる前に、これから連鎖するとわかるのね。
これを利用して「今から連鎖するよ」というデータを記録し、先輩の方ではそのデータを元に演出処理を行った。
多分もう少し作っているはずなのだけど、H先輩担当の主なものはこれくらい。
あとはほとんど僕がプログラムしています。
H先輩は、企画も作れて、プログラムも作れて、絵も描けるという広い知識のある人だったけど、プログラムだけなら僕の方ができたから。
そして、スタッフロールを作るときになって、どちらの名前を上に出すかで問題になったのです。
僕としては、先輩社員を差し置いて上に名前が出る、なんて畏れ多い。
でも、H先輩は、ほとんど僕が作っているのだし、プログラム課では僕の方が先輩なのだから僕を上に、と言います。
最終的に、プログラムを作るのは僕なので、H先輩を上にしてしまいました。
そんなわけで、僕の名前は下側に入っています。
H先輩は、この作品を最後に会社を辞めてしまったため、最後の思い出くらいにはなったかな、と思ってます。
宝石を描いたS先輩は仕事効率優先の人でした。1ドットにこだわるよりも、全体として受ける印象を大切にする、という感じかな。
宝石の絵は、1枚づつ仕上げたのではないそうです。
7種類× 32パターンをレンダリングしたものをツールで繋げて大きな絵にし、一気に減色ツールで 256色化、これをツールで再び切り分けたのだそうです。
当時はキャラクターは1枚づつ仕上げるのが普通でしたから、かなり思い切った描き方です。
タイトル画面にグリフォンのような獣が並んでいます。
初代コラムスのイメージをきれいに描き直したものなのですが、結構形が違います。
S先輩が、3Dで描きやすいように、適当にアレンジしたため。
「羽根の部分は、パイプ1本作ったら並べてくっつけて板にして、全体をぐにゃっと」でできているそうです。
両側の獣で目が色違い、に見えるのですが、実は左右とも全く同じモデル。
オッドアイ(左右の目の色が違う)なのです。
「裏から見るわけじゃァないんだから、これでいいんだよ!」とのこと。
当時のセガには「コアタイム」というものがあり、10時から15時には必ず働いている必要がありましたが、後は自由。
一日8時間働けば問題は出ません。(昼休み1時間は働いていることにならないから、会社に9時間いればよい)
で、多くの人は10時ごろ来て、夕方 7時に帰ります。
ところが、S先輩は8時に来て、夕方 5時には帰ってしまう。
だらだらと仕事しているの、嫌いなんだそうです。
仕事時間ついでに書いておこう。
僕は、朝 9時前に出社していました。
企画のMは、大多数派の 10時出社。
で、Mは一日考えて出来上がった仕様を、17時ごろ持ってくるタイプでした。
僕としては、もう帰りの準備を考えている時間に「相談」と言いながら新仕様を見せられるのね。
そして僕は、その日の仕事はその日に終わらせたいのです。
相談された内容を、作成可能かどうかくらいまでは、検証してから帰りたい。
いつも、21時くらいまでかかって、とりあえず動くよ、って程度までは作ってから帰りました。
Mとしては、可能であることがわかってから帰途に就くので、家にいる間もさらに発展したアイディアを考えられます。
翌日は、僕はその「とりあえず」をちゃんとした形に作り込む。
Mはまた、家にいる間に想いついたアイデアを、夕方までにちゃんとした仕様の形に落とし込む。
毎日のように完成度が上がっていきました。
あのサイクルがかみ合わなかったら、1ヵ月で完成なんてできなかったと思う。
非常に充実した、スピード感のある楽しい仕事でした。
#あと1か月、という状況下で、毎日家には帰っていたように思う。
最後の1週間くらいは泊まり込んだかな。
コラムス 97 は、「年末に間に合うように」作られました。
普通はロムを作るのに1か月くらいかかるのだけど、特急で仕上げてくれ、ってあらかじめ工場のスケジュール開けといてもらったのではなかったかな。
12月初旬にマスターアップして、2週間くらいでロムカートリッジになり、クリスマス頃にはゲームセンターに置かれているのを確認したと思います。
1996年中に発売したから、タイトル画面のコピーライト表記も 1996 です。
なのになんで 97 ってついているのか、というと、企画Mの発案。
当時は Windows 95 が「まだ新しいOS」でした。
95 ってついているけど、日本語版のリリースは 95年の 11月 23日だったのね。年末です。
だから、「95」なんだけど、普及し始めたのは 96 年に入ってから。
Mは言葉遊びが好きでした。没になったけど、「こここら」とか名付けちゃうくらいだからね。
96年になってから普及したのに 95という名前なのが、「最新なのにもう古い感じがして面白い」と言っていました。
そして、逆に「古いゲームだと思われると癪だから、最初から未来の年号をつけておこう」と言い出したのです。
これが、96年発売なのに 97 とつけられた理由です。
関連ページ
別年同日の日記
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コラムス 97 の話の続きです。
ST-V とサターンは基本的に同じ性能なのですが、メディアが違います。
サターンは CD-ROM なので読み込みに時間がかかり、ST-V は ROM なので時間がかからない。
ROM が高速だからメモリの延長のようなつもりで作ってしまうと、サターン移植の際に苦労します。
実際、ダイナマイト刑事のチームが苦労しているのを見て、最初からサターン移植を考えて作らないといけないのだな、と思っていました。
コラムス 97 は、最初からサターンで発売するつもりでメモリ設計をしていました。
タイトル画面とゲーム中は、スプライト領域とかが大きく入れ替わるので、ロードが必要。
でも、ゲーム中は基本的にデータはすべてメモリに入れてあります。
…ただ、どうしても「背景」が収まりませんでした。
プレイフィールドの背景は時々絵が変わるのですが、これは ROM から読み込まないといけなかった。
その代わりに、メモリを半分、全く手を付けないで残しました。
ST-V には、プログラムが置けるメインメモリと、データしか置けないサブメモリがあります。
メインメモリは高速だけど、サブメモリは低速。
なんでメモリにこんな区別をしたのかは知らないけど、サブメモリは使いにくい。
だから、サブメモリは一切使わないことにして置いといた。
そうすれば、次の背景を CD-ROM からゆっくり読んで置いておき、必要なタイミングで一気に読み出し、とかできると思ったから。
ダイナマイト刑事のチームは、自分たちでサターン版の移植を行っていました。
だから、コラムス 97 も自分たちでやる気満々でした。
「サターン版出すときには、説明書に嘘の歴史書こうぜ」とか、企画のMと妄想していました。
コラムス 97 のデモ画面には、古代ギリシアの壺絵が出てきます。
「ゲームをするアキレスとアイアス」の絵です。
この話を追いかけるとちょっとしたゲーム史になって面白いのですが、今はその話はしません。
Mは、これを「コラムスをするアキレスとアイアス」として説明書に解説しようとしていました。
そして、コラムスとは実際に古代エジプトで遊ばれていたゲームが元になってアレンジされたものだと、でっち上げようとしていたのです。
じゃぁ、二人で対戦するようなゲームとして、「石を交互に置いて、並んだらとれる」とかのゲームを考えて、それまで説明書に載せよう…
とか本気で考えていた時、移植はコンシューマー(家庭用)部署に任せる、という決定が下りました。
開発中は「どこのメモリを何の目的で使用している」というようなメモリマップを手書きしながら行っていたので、そうした資料もコピーします。
「背景はメモリに入っていないので何とかしないといけない。低速メモリは空いている」などのメモもつけ、ソースファイル一式を渡せる状態で、引き渡しを待ちます。
ソースを受け取りに来たコンシューマーの人、実際に動いているゲームを見て、おずおずと言いました。
「サターンの性能だと、これを動かすのはちょっと厳しいかもしれません…」
この一言、すごくうれしい言葉でした。
コンシューマーの人は ST-V を触ったことはないので、ゲームを見て、ST-V はサターンの上位互換だと思ったらしいのです。
開発中、とにかく ST-V だとは思えない綺麗な画面を! と言いながら作っていました。
性能を知っているはずのサターン開発者が上位互換だと思った、というのは、画面が ST-V らしくなかった、ということ。
最高の褒め言葉です。
これは別の話ではありますが、新ゲームなどを紹介する業界紙でも「Model2 で作られたコラムス」と勘違いした記載がありました。(ゲームマシン 1997年1月1・15日号)
これもすごくうれしかった。
2022.10.28追記
現在は「ゲームマシン アーカイブ」というページで、当時の紙面を公式に読むことができます。
上記は該当号へのリンクです。
PDF 9ページ目、新聞の 16面の下部に記述があります。
本文中のリンクは、Twitter に投稿された抜粋(写真)でした。
このページの投稿時には、ゲームマシン アーカイブはまだ存在していなかったため。
このような資料を公開していただいていることに感謝します。
サターン版は、コラムス・コラムス2・スタックコラムスと一緒に CD-ROM に入れられ、「コラムス アーケードコレクション」というタイトルで発売されました。
自分が行った仕事の中で、唯一手元に残っているものです。
最終的に移植したのは自分じゃないから、ちょっと変わってしまっているけどね。
コラムス 97 以外は、新たに移植した作品のようです。
CD-ROM を覗くと、統一されたディレクトリ構成で入っています。
でも、コラムス 97 だけは、ディレクトリ構造が違う。
全く別に作られたものだから、1つディレクトリを作って、ほぼそのまま突っ込んだらしい。
興味を持って中のファイルを調べたことがあります。
業務用では必要な「BOOK KEEPING モード」などの文字がプログラム中に残っていました。
どうやら、サターン用に作り変えたりせず、ほとんどそのまま入れてあるみたい。
▼プロジェクトが終わって
コラムス 97 は、「普通じゃない」ことをしようと頑張った作品でした。
高解像度モードを使ってみたり、宝石を少しづつ重ねて表示したり、宝石の回転アニメだけでスプライト画像のメモリ領域をほとんど使い果たしてしまったり。
開発期間は1ヵ月ちょっとしかなくて、ぶれている暇はないので、こうした大方針を最初に決めてしまった。
これ、Mにとっては結構「苦しかった」らしいです。
あたらしいアイディアを思いついて、ST-V のこの機能を使って、こういう演出を…ということを何度か言ったらしいです。
でも、そのたびに僕が「その機能は、この画面モードでは使えない」と返事をするのです。
僕は当然のことを言っただけなので覚えてないのだけど、企画者としては結構追い詰められたようです。
何かやるたびに、前にやった「普通じゃない」決定が足かせになっていく。
終わった後で、Mは「もう二度と、40x40 なんて変なサイズの絵は使わない」と言っていました。
別年同日の日記
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