令和の米騒動、と呼ばれる事態になっているので、面白いから記録に残しておこう。
まず、歴史のお勉強。
30年ほど前に「平成の米騒動」と呼ばれる状態があった。
「令和の」と呼ばれるのは、これに対応したもの。
平成の米騒動も、いまとなってはあまり正しい認識で語られていない。
まずこれをおさらいしよう。
1991 年、フィリピンのピナツボ火山が噴火した。
これが大噴火で、噴煙が成層圏にまで達して世界中をめぐり、日射量が落ちたためにこの後数年間の平均気温が2~3度下がることになる。
1993年、冷夏となって米が不作になる。
これにより、国民が問題なく食べられるだけの米の供給量に達しない、と予測される。
当時日本は、米を国内の安全保障上の重要物質と捉えており、完全な自給自足をできる体制を維持するためにも、外国からの米は一切輸入させない、という態度をとっていた。
これに対し、アメリカなどは米も通常の農作物と同じで、輸入の自由化を迫っていた。
ここにもってきて、供給量不足である。政府は「特別措置」として緊急でタイからコメを輸入する。
このタイ米、正しく料理すれば結構おいしかったのだが、日本的な「炊飯」には向かなかった。
これに伴う話も面白いのだが、今回は割愛。
ところで、「足りない」と言われた米だが、実は足りていた。
この話、今調べたところだとあまりネット上に書かれていないように思う。
1993年は冷夏で不作だったが、「収穫量が落ちた」のではなく、「品質が下がった」のだ。
ところで、日本は第2次世界大戦(太平洋戦争)中に、食糧管理法という法律を作っている。
戦時下でも国民が飢えることが無いように、主要な食料を管理して、均等に配布するための法律だ。
誰がどれだけの食料を買ったかは、各家庭の米穀通帳に記載されて管理される。
米穀通帳がないと米は買えない。
この法律、戦争が終わっても特に廃止されなかった。
1960年代初頭には米の配給制度は終わり、事実上米穀通帳が無くても誰でも買える状態になっていたのだが、法律上は米穀通帳なしに米を購入するのは違法だった。
さらに、1969年には、政府を通さない自主流通米も許可されるようになった。
これは、「すべて政府が買い上げる」としていた米が次第に供給過多になり、政府の買い上げ資金が足りなくなってきたための苦肉の策だった。
つまり、政府が買い上げるのが基本だが、買い切れないので、「政府は全部を買わない」と宣言しただけだ。
「政府が買わない」=「自主的に流通させてよい」という言い換えで押し切られた形だ。
当たり前のことだが、当時は政府以外の米の流通網なんて存在しない。違法だからだ。
流通網もないのに自由に流通させて良い、と言われても、自分で販売ルートを切り拓けるような力のある農家でない限り無理な話だった。
それでも米を買い切れない政府は、農家に米を作らないように頼んだ。
いわゆる「減反政策」だ。減反に応じた農家には、何もしないでも保証金が支給される。
これにも農家は反発したが、自主流通させるだけの力がない農家は応じるよりほかなかった。
その一方で、ある程度力を持っている農家は、政府が買ってくれない分は自主流通米とする、という形で自主流通米が増えていった。
これをうけて、1981 年にやっと、米穀通帳が廃止される。
それ以前からも自由に買えたが、形式上は違法だった。それが、1981年に違法でなくなったのだ。
それでも、食糧管理法自体は無くならなかった。
政府は、米の等級により買い上げ値段を細かく分けていた。
政府買い上げ米は必ず品質検査を受け、品質が低いと非常に低い値段でしか買ってもらえない。
この値段は、法律であらかじめ定められていた。
食糧管理法は、国民の食を安定させることが目的であり、年によって値段が変動するようなことは望ましくないのだ。
しかし、自主流通米では、需要と供給により値段が決まる。
年と品質によっては、政府に買い上げてもらうよりも、自主流通米として販売したほうが儲かった。
これもまた、自主流通米を増やす理由となっていく。
ここで、1993 年の冷夏だ。
米の収量が大きく落ちたわけではない。でも、品質は大きく落ちた。
先に書いたように、政府買い上げの価格は、品質によって大きく異なる。
品質が落ちた際には、政府に売らずに自主流通米とした方が儲かる。
そのため、農家が政府に売るコメの量が減った。
ところで、自主流通米は食糧管理法の下ではヤミ米、政府も収穫量を把握していない米だった。
ここで、政府から見ると、1993年は収穫量が大きく落ち込むことになる。
実際には、政府の側でも、自主流通米に流れていることはわかっていた。しかし、その量が把握できない。
信頼できる数字は、政府が把握している政府米の量だけなのだ。その量だけでは、国民の食糧を保証できない。
そこで、政府は十分な量の米を輸入することになる。
まったくわからないものを当てにするより、輸入するしかなかったのだ。
この事態を平成の米騒動と呼ぶ。
大量に輸入してしまったタイ米は、インディカ米で、香り米だった。
日本人に馴染みのある、炊飯器で炊ける方法(炊き干し法)ではなく、パスタのように茹でこぼす方法(湯取り法)で炊くと美味しいご飯だ。
また、いわゆる米飯の香りではなく、独特の香りがする。
これが、日本人に馴染みのないもので人気がない。
炊飯器で炊いて「美味しくない」「臭い」という人が続出なのだ。
輸入したものだから政府としては流通に乗せるのだが、どこの店頭でも余り、通常の米との抱き合わせ販売なども行われていた。
そう、抱き合わせで販売できる程度に、米は流通しているのだ。
足りていない、などということは全然なかった。
「そんなことはない。実際に店頭から姿を消していた」という反論もありそうだが、政府流通米しか扱わないような店もあったので当然だ。
当時から自主流通米を扱っていたような店では、十分な在庫があった。
ただし、安い政府流通米が流通しなくなったことで、値上がりしていたのは事実だ。
結局、2年後の 1995年には、食糧管理法は廃止される。
同時に、米の輸入も量の制限付きではあるが開始される。
そして、政府は自主流通米の在庫量を調査するようになった。
さて、今年の話を始めよう。
政府の自主流通米の在庫量調査で、調査開始以来一番在庫が少ない状態になった。
実は、この発表がある前日に我が家でも買い物をしようと思ったのだが、いつもの店に米が無くて驚いていた。
この時は別の店で買ったのだが、そうしたら翌日に政府発表があって謎がとけた、という形。
この政府発表で正しい理由も付けていたし、僕はNHKのニュースでそれを聞いたのだが、その後のネットや…他のテレビ局などでも、間違った理由がもっともらしく飛び交っている。
テレビ局が良く調べもせず間違ったこと言ってたらダメだろ、と思うけど、今のテレビ局にそんな力はない。
コロナが終わって外国人観光客が増えたから、彼らが食べて足りなくなったのだ、という説。
普通に考えて、ほんのわずかしかいない旅行者がそれほど食べるわけないでしょ。
昨年が不作で…という説。
昨年は異常気象だったのは事実だが、例年並みに収穫がある。
ただし、ここでいう例年並みは「作付けに対する収穫量」であり、全体の収穫量ではないことに留意が必要。
実は、コロナで外食産業が低調だったために国内の米は余り気味になっており、昨年は作付面積自体が減らされていたようだ。
だから、不作のせいではないが、収穫量が少なかったのは事実のようだ。
ただ、通常は外食産業は安い外国産の米を使うことも多く、減らされていた作付面積もそれほど大きいものではない。
さて、最初の政府発表でちゃんと触れていた原因だが、「世界的な食料価格の高騰」がある。
備蓄が減った要因は一つではないだろうが、これが一番影響が大きいだろう。
しかし、どうもネットの風説ではこの話があまり出てこない。
中には、「世界的に高騰したとしても、米は国内で生産し、国内で消費するものだから関係ないだろう」と言い出す人までいる。
世界情勢を把握していないと理解できないので、残念な理解力の人には、因果関係がわからないのだ。
ロシア・ウクライナの戦争により、ヨーロッパの穀倉とまで言われたウクライナの小麦の供給が激減している。
まずヨーロッパの国々が世界中からの食糧確保に励み、それにより世界中で食料価格が高騰した。
日本でも小麦関連の食料の値段は上がっている。
つまり、パン、うどん、パスタなど、麺類がみな値上がりだ。
普段だったらパンを食べている人も、米の方が安い、ということになれば米を食べるようになる。
しかし、外国産の米も、世界的には引く手あまただ。日本から購入しようとしても高くなってしまう。
では、外国産の米を使っていた外食産業も、国内の米を買うしかなくなる。
米は1年に一度、秋に収穫が行われる。…二期作とかもあるが、まぁ誤差範囲だ。
都度行われる海外からの輸入と違い、秋に価格がだいたい決定し、多少の変動はあれど維持される、という意味でもある。
そのため、世界的な食料の高騰が、国内ではコメの需要を高めることになったのだ。
さて、足りないと言われると、なんとしてでも集めないといけない業種、というものも出てくる。
レストランとかでは、足りないから別のもので、というわけにはいかないだろう。多少高くても確保しなくてはならない。
これは必要だから購入しているだけで、決して転売目的の買い占めなどではない。
政府が在庫が少なくなっている、と発表してから、あっという間に店頭からコメが無くなったように思える。
必要な業種の人が買った結果だろう。
じゃぁ足りてないのか、と言うと、実は米自体はまだ足りている。
値段が高くなってはいるが、海外からの米の輸入はちゃんとあるのだ。
元々、安さが売りで品質は低い、というようなものが、高級米並みの価格になっているが、世界的な食糧価格高騰の中では仕方がないところだろう。
もう夏も終わりなので、早稲を作っている地域ではすでに収穫が始まっている。
あと1か月も経てば、騒ぎも収まるんじゃないかと思う。
ただ、値段は今までよりも高くなるかもしれない。
米を作るのだって、世界的なインフレの中では、今までよりもコストが高くなるのだ。
トラクターのガソリン代だって値上がりしているし、農家さんが暮らすのにもインフレで生活費がかさむ。
それらのコスト高が米の値段に反映されるのは当然の事だろう。
「去年収穫された米」はお値段据え置きで安かったから、外国産米や小麦粉よりも使われ、在庫が底をついた。
今年の収穫で値上がりすれば、使用量も適正なバランスに戻るだろう。
…と、話はこれで終わりなのだけど、どうしても書きたいので、おまけ。
テレビゲーム「天穂のサクナヒメ」は、2020年に発売されて、大人気になった。
横から見た視点のジャンプアクションで様々な資材を入手し、それらを使って拠点で稲作を行う、というのが特徴のゲームだ。
稲作の部分が異常に作り込まれており、本当の農業の知識が必要だったりもする。
この稲作の結果は、主人公のパワーアップとして反映されるので、どちらも手を抜けない。
ちょっと珍しい内容だったので、世界的に人気を博した。
米関連で騒ぎになったことから「令和の米騒動」とも呼ばれた。
そして、これを原作としたアニメを、いま放映中だ。
令和の米騒動、と呼ばれたゲームのアニメ放送中に、令和の米騒動、と呼ばれるコメ不足が起きてしまった。
アニメの中でも、「米を作るのは大変な労力を必要とすること」が描かれている。
農家の方には感謝しないといけない。
我が家でも、今年はバケツで苗を育ててみている。
お隣が米農家なので、余った苗を少しわけてもらったの。
アニメが最終回のころには収穫できるはずだ。
もう一つおまけ。
我が家もしばらく前からオーストラリア米を食べている。
悪くないのだが、ちょっと粘りが少なく、パサパサした感じがする。
急に思いついて、4合に対して、切り餅1個を刻んで入れて炊いてみた。
炊き上がったらよく混ぜる。
もちもちの美味しいお米になった。
2024.9.3追記
その後、農林水産省も正確な説明を諦めた模様。
正確に言えば伝わる、というものでもないからね…
政府公式見解も「2023年は不作だった」「外国人観光客が増えたので消費量が増えた」ということになったようです。
昭和の時の騒動の詳細も、今となってはほぼ「公式見解」しか残っていないのだけど、同じことになっていきそう。
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