WEB で無料公開されている「ジャンプ+」の、読み切り漫画なんですけどね。
いつまで公開されているかわからないけど、非常に良かったので紹介してみるわけです。
これ、お話の中では一切書いてないのだけど、日本で最初に稼働したコンピューター、FUJIC の開発話を、「一番近くにいた専門外の人間」の視点で描いたものです。
この主人公に当たる人物、実在したのかな。
それとも、話を分かりやすくするために設定した架空の人かな。
…と思って、過去に自分のページでも少し FUJIC に触れたときの参考資料ページ見ました。
(すでに無くなっていたので、waybackmachine でアーカイブを見た)
なるほど。
開発者である岡崎(漫画の中では岡城という名前にしてある)が、女子社員1名に手伝ってもらって作成を開始した、とある。
史実に比較的忠実なようだ。
話の内容をグダグダ書いてもしょうがない。無料で読めるんだから、今すぐ読め。
で、僕としては、細かな部分を解説しよう。
18ページ目右下、四角い中に丸い部分がある装置、ブラウン管だと思います。
EDVAC では動作確認用のモニタとして使用されました。
または、ブラウン管を利用したウィリアムス管メモリを作るために用意したもの、のイメージかもしれません。
どちらかは、この部分だけでは不明。
19ページ目左上、雑誌のイラストが描かれていますが、IBM の SSEC ですね。
日本では「科学朝日」に解説が掲載されて、岡崎もこれに触発されて開発を始めたそうなので、漫画の中でも史実に忠実です。
ちなみに、実際のイラストはこんな感じ。(リンク先で、さらにイラストをクリックすると拡大します)
SSEC は、おなじ IBM が作った ハーバードマーク1 (ASCC) と同じく電気機械式、と解説している資料が結構多いのですが、実際には真空管を使用した電子式でした。
2023.6.23 追記
自分が持っている書籍の中で唯一 FUJIC について書かれている、「計算機屋かく戦えり」を確認しました。
ブラウン管は、真空管の物理特性を調べるのに使用した、とのこと。
お話の中でも「真空管の品質にばらつきがある」と書かれていますが、メーカーの公表している特性値があてにならないので、詳細を調べるための装置を自作し、調査するところから始めたのだそうだ。
漫画では、22ページ左上のコマ。主人公の女性が、ブラウン管に映る曲線を見つめている絵が描かれている。
蛇足になるが、この本の中のインタビューでも、「計算手の女性の一人に手伝ってもらった」と書かれてました。
この本読んだのずいぶん前な上に、さらっと書かれていただけなので記憶に残ってませんでした。
30ページ目。
開発者のセリフで「やはりブラウン管というのは難しい。記憶装置は超音波でためして…」とあります。
ブラウン管というのは、先に書いたウィリアムス管メモリのこと。当時最先端で、期待されていましたが、実際には扱いが難しい部分が多く、実用に至っていませんでした。
超音波というのは、水銀遅延管メモリのこと。
世界初の電子計算機と言われる、ENIAC で使用されたメモリです。
スピーカーから音を出して、離れたところでマイクで拾うと、少し時間がかかる、というのが基本原理。
時間がかかるということは、その間「記憶」されているわけです。
この方式では、読み出すのに音が到達するのを待つ必要があるので、自由にメモリアクセスできず遅い、という欠点があります。
(他にも、音波をそろいやすくするために水銀を使用するのだけど、水銀が酸化して特性が悪くなるので定期的に交換が必要で、しかも水銀は有害、などの欠点もある)
最終的には FUJIC は水銀遅延管を利用したそうなので、それを決めたシーンなのでしょう。
解説できそうな部分は、この程度かな。
こんな細かな部分知らなくても、話は十分楽しめます。
話の重要な部分は、技術話ではなく、世の中が変わるときの期待と不安、という普遍的テーマですし。
でも、こんな解説ができてしまう程度に、しっかり調査して描き込まれているこの作品を素晴らしいと思うのです。
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