小学生のころ、書店でたまたま見かけて、親に買ってもらった雑誌がある。
子供向けの雑誌ではなく、大人向け。でも、表紙で気になって中を読んだらすごく面白く、親が買ってくれた。
(子供向けの雑誌ではないので、小遣いで買える額ではなかった)
で、雑誌なのにすごく大切にしていて、今でも置いてある。
昭和 57年の「四季の手帖 創刊3号」。
1冊丸ごとパズル特集で、いろいろなパズルの話が雑多に載っていた。
古今東西のパズルを綺麗な写真で魅せる記事あり、家で子供(幼稚園児くらいを想定)と一緒に手作りして遊べるパズル遊び、折り紙などを使ったパズル、論理パズル、クロスワードなどのペンシルパズル、言葉遊び、などなど。
言葉遊びとかは、「パズル」というと違うように思う人もいるかもしれない。
でも、この雑誌全体の編集を見ると、言葉遊びは十分にパズルだと納得できる。
幅広い遊び心を持って、雑多なものを一つのテーマでまとめ上げ、納得させてしまう。
雑誌全体のつくりもすごいと思ったし、その一つ一つのコーナーも楽しいと思った。
先日、次女(小6)が「論理パズル」に興味を持ったようで、僕に問題を出してきた。
・コインが9枚あるけど、偽物が一枚入っていて少し軽い。
2回だけ天秤を使って調べるにはどうすればいいか。
・正直村と嘘つき村の分かれ道に人が立っている。どちらの人かはわからない。
1回の質問で正直村に行くにはどうすればよいか。
・1時間で燃え尽きる線香がある。何本か使ってよいので、45分を測るにはどうすればよいか。
どの問題も瞬時に答えたら、
「お父さんはこういうのたくさん知っているの?
何か問題出して」と言われた。
で、先に書いた古雑誌を探してきたんだ。
論理パズルをたくさん紹介しているコーナーに、こういう問題がいっぱい載っていたから。
古い雑誌の上、少し特殊な製本をしていたため、経年変化でページがバラバラになっていた。
普通の本は、紙を折って16ページくらいの小さな冊子を作り、それを束ねてページ数を多くしている。
しかし、この雑誌は厚めの紙で1ページづつ独立していて、それを背表紙にのり付けしてあった。
これが、経年変化で糊が劣化し、バラバラになってしまったというわけ。
しかし懐かしい。読み返す。
特に大好きだった記事が二つ。
古今東西のパズルを写真で紹介した記事と、言葉遊びの記事。
古今東西のパズルの中には、のちに「ハナヤマ玩具」から、キャストパズルシリーズとして発売されたものに、非常によく似たものがいくつも紹介されている。
キャストパズルが発売された時、世の中的には「新しいパズル」として少しブームになったのだが、僕は「子供の頃に読んだ雑誌に載ってた」と思っていた。
キャストパズルシリーズは、芦ヶ原伸之(Nob)氏が監修しているのだが、このシリーズが発売になった時には僕は氏のことをよく知らず、「過去に存在したパズルを焼き直しただけでえらそうにしている、いけ好かないやつ」と思っていた。
Nob 氏はすでに亡くなっているのだが、世界三大パズルコレクターの一人として知られる。
1万点を超えるパズルを収集していたそうだし、自らも数々のパズルを考案している。
で、古雑誌の記事を読んでみたら、Nob 氏が寄稿したものだった。
キャストパズルシリーズを「雑誌で見たのと同じだ」と感じたのは当たり前で、Nob 氏がお気に入りのパズルを雑誌で紹介していて、のちにみんなが遊べるように大量生産したのだった。
この雑誌記事の前文によれば、この時点でのコレクションは 500点ほど。
すでにパズル作家として何冊か本を出していたようだが、この時点でそのコレクションを紹介しているのは、すごかったのではないか。
もう一つ、言葉遊びの記事。
「ことばの ことは ことに 不思議な ことばかり」というタイトルがついている。
ことばあそび、と言いつつ、言葉にとどまらない様々な遊びを紹介している。
非常に論理的、かつ、「論理を超えた部分」の面白さを重視しているという、絶妙なセンスを持っていた。
この記事の著者は「佐藤雅彦」となっていた。数学者と自己紹介している。
…ネットで調べると、数学者の佐藤雅彦さんもいるのだけど、たぶん「ピタゴラスイッチ」や「0655 / 2355」の佐藤雅彦さんだよね。
大学では数学教育を専攻していて、CMプランナーとして有名になるのは 1987 年以降。
(この雑誌は、1982年のもの)
ちなみに、先に書いた「言葉にとどまらない」言葉遊びという部分、紙飛行機を切って、「天国と地獄」を表現するというもの。
少し前に、2355 でも「折った紙を1回切るだけでどんな形でも作り出せる」という話をやっていましたね。
ずっと昔から、同じようなことに興味を持っていたのだろうなぁ、と思います。
こちらも、すごい早い時期に面白い人を見つけ出しているのではないか。
この「四季の手帖」という雑誌、その後本屋であまり見ることもなかったし、いったい何だったのか…
と思っていたのだが、今ならネットで簡単に情報にあたれる。
まず、僕は「雑誌」だと思っていたのだけど、今でいう「ムック」だったようだ。
ただし、当時はまだムックという概念が未成熟。一般には雑誌か書籍か、という文類しかなくて、四季の手帖は「雑誌」に分類されていた。
そもそも、この「ムック」という概念は、平凡社の「別冊太陽」というシリーズが作り出したものだったそうだ。
雑誌と違い、連載などではなく、丸ごと特集でいろいろなテーマを掘り下げる。
しかし書籍ではなく、定期刊行する。
さらに、当時は雑誌が増刷することは無かったらしいのだけど、売れれば増刷する。
いろいろと当時の常識を破壊したのが「別冊太陽」というシリーズだったらしい。
…余談だけど、家にもあった気がする、と思って探したら「別冊太陽」ではなく「太陽コレクション」だった。
これは別コンセプトの姉妹誌。父が買った号を僕が所持していた。
話を続けるが、この「ムック」という概念を作り出した人が、平凡社を辞めて新しい会社を作る。
この時に、平凡社のエースが数人抜けてついていく。
その新会社で作ったのが、「四季の手帖」だそうだ。
当時は本は大切にするものだったのだけど、「切り抜いて使う本」というコンセプトを前面に打ち出していた。
冒頭に書いたけど、僕の持っていた雑誌は、糊が劣化してページがバラバラになっていた。
この「ページがバラバラになる」というのも、1ページづつ外して切りやすくするための工夫だったのだ。
(僕はもったいなくてとても切れなかったが、切り抜きページはいっぱいあった。
まぁ、切り抜いてどっかへ行ってしまったページも1ページあるのだけど)
とにかく、いろいろと型破りだったわけだ。
小学生の僕が、たまたまそれを見つけて「見たこともない雑誌だ」と強く惹かれたわけだ。
情報を探していたら、雑誌を作っていた側の人の回想録 blog を見つけた。
(新しい記事を順次たどっていけば続きが読める)
面白いので読んでいるが、かなり長い。
ゆっくり読もう。
2日後の追記
途中に書いた、次女が僕に出した論理パズルの答えが知りたい、と言っている人を見かけた。
あれ、話のマクラだし、「よくある問題」だと思っていたので答えは書いていなかったのだけど、気になる人もいるのだろう。
問題だけあって答えがない、というのも申し訳ないので、説明を書く。
・コインが9枚あるけど、偽物が一枚入っていて少し軽い。
2回だけ天秤を使って調べるにはどうすればいいか。
軽いのだから天秤で比べればよいのだけど、天秤は2つのものしか比較できない。
そのため、つい「2つに分ける」と考えると解けない。
3枚づつ3グループ作って、そのうち2つを比べる。
片方が軽ければ贋金入りだが、つりあえば「残りの1グループ」が贋金入りだ。
そのグループの3枚に対して、また2枚比べれば偽物がわかる。
実は「9枚」「2回」というのがヒントになっていて、3*3=9 を想像できれば答えに辿り着く。
・正直村と嘘つき村の分かれ道に人が立っている。どちらの人かはわからない。
1回の質問で正直村に行くにはどうすればよいか。
話のマクラなので、細かな設定を端折っている。
正直村の人は本当のことしか言わない。嘘つき村の人は嘘しか言わない、という設定がある。
さらに、質問は はい / いいえ で答えられること。
で、どのような質問をすればよいかというと、分かれ道のどちらかを指さして
「あなたの村はコチラですか?」と聞けばいい。
指さした方角が正直村の方であれば、正直村の人は「はい」という。
嘘つき村の人も、嘘をついて「はい」という。
同様に、嘘つき村の方を指していれば、どちらも「いいえ」という。
これで正直村の方角がわかる。
この手の問題は、質問内に相手の属性を入れ込むのがみそだ。
・1時間で燃え尽きる線香がある。何本か使ってよいので、45分を測るにはどうすればよいか。
線香で時間を測る問題、というのも定番なのだけど、「両端に火をつけると、燃え尽きる時間が半分になる」ことに気づく必要がある。
1時間の線香に、両方同時に火をつけると、30分で燃え尽きる。
ということは、この時に「片方しか火をつけていなかった線香」があれば、残り30分だ。
この状態で火のついていない側に火をつけると、15分で燃え尽きる。
つまり、
線香 A の片側と、B の両側に火をつける。
B が燃え尽きたときに、A の残る側にも火をつける。
A が燃え尽きた時点で 45分。
が答えになる。
僕がこれらの問題をすぐ解けたのは、類似問題を知っていたから。
いずれも、なにかに「気づく」必要がある問題だが、すでにその部分を知っていれば、類似問題はすべて解ける。
こういう問題が好きな人に、類似した過去の日記を紹介しておこう。
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