たびたび受験生だと書いていた長男、無事高校合格した。
もっとも、神奈川県方式だと、無理しなければ大抵は合格するようになっている。
公立受験における内申点の比率が非常に高く、受験前からある程度結果が予測できるため。
しかし今回、長男は内申点に比して「高望みしすぎな」高校を狙っていた。
先生からは、やめとけと説得されたくらい。
もしかしたら合格できないかもしれない。
親としてもそう考えていたので、1年間長男の受験については「受験生」ってこと以上に日記に書かないようにしていた。
中学3年に上がってすぐ、塾では受験したい高校を絞り込み始めるように言われていた。
参考として模試なども行われていた。
しかし、うちの長男、のんびりとしていて特に希望校などがない。
模試では、希望校を3校書くようになっていて、それらの高校への合否判定をしてくれる。
よくわからないから、って近所の高校の名前を1つだけ書いていた。
その高校は、「近所」というだけで、特にレベルは高くない。
この調子なら絶対合格できる、という判定は出たが、それだけ。
自分のレベルを測る参考には、あまりなっていない。
しかし、塾の先生から、「決めかねているなら、この高校はどうだ」と勧められた学校がある。
説明会なども近いうちにあるから見に行ってはどうだろう、と。
のんびりしている長男も、勧められたので説明会を見に行った。
結構レベルの高い学校で、魅力的な独自カリキュラムもあるようだ。
長男、説明を受けて気に入ったようで、この学校に行きたい、と目標にする。
その後、別の高校などの説明会も見に行くし、私立の複数校が集まる合同説明会にもいった。
夏休みの間に数校は回っておくように、という、学校からの「宿題」だったせいもある。
特に私立の説明会は、長男にとっても親にとっても、衝撃だった。
話を聞こうとしても、内申点の提示を求められ、見せたところで断られる。門前払いだ。
うちの長男の内申が悪いわけではなく、「普通だから」だ。
特に高いレベルの学校に話を聞こうとしたわけではない。実力相応の、普通の学校に話を聞こうとしただけだ。
しかし、そうした「普通の高校」が、「普通の生徒」では、門前払いなのだ。
この時は妻が付き添っていたのだが、偏差値などで見てそれほど高くない学校に門前払いを食らった、ということで驚いていた。
そして、この理由はすぐ後に判明した。
例年なら、当然ながら普通レベルで大丈夫なのだ。
しかし、今年大騒ぎになった「大学共通入試改革の失敗」の影響で、高校受験にも大きな余波が訪れていた。
数年後に忘れているかもしれないので詳細を書こう。
大学入試の共通センター試験は今年度で終わり、来年度からは新方式になる。
こうした場合、新方式は3年前までに決定される。高校入学時から、3年後の大学入試に向けて勉強を始められるようにとの配慮だ。
しかし、予定されていた試験内容は、明らかに無理があった。
それまでは、機械的に処理できるマークシート方式だったのに、記述問題を取り入れようというのだ。
機械処理できないので大量の「採点員」が必要になるし、大量の人が必要なのに、その間で「採点内容のブレ」があってはならない。
そんなこと、絶対にできるわけがないと言われ続けていたが…昨年の末になって、やっと「中止」が決定された。
中止といっても、じゃぁ新しい方式はどうするのか、ということはまだ決まっていない。
現在の高校2年生は、来年の大学受験を控え、どのような勉強をすべきかもわからない。
実のところ、記述が取り入れられる、と判明した時点から「そんなあやふやな方式では不安だ」という声は多かった。
そのため、受験をしないでも大学に入れる、「大学付属高校」への進学希望者が急激に増えた。
これが、昨年のことだそうだ。
大学付属高校は、私立に多い。レベルが高い高校は当然、普通レベルの高校であっても、大学付属高校は定員をオーバーするほどの希望者が殺到した。
私立は、公立と違って営利を追求しなくてはならない。
優秀な子が殺到したのだから、できるだけ受け入れた。しかし、あまりに定員オーバーになると、文部科学省からも怒られる。
このため、今年は定員を大幅に絞り込む必要があった。
相変わらず人気は高いが、絞り込む。これはつまり、狭き門になるということだ。
「普通の学校」であっても、学力が相当高くないと入れない。
今年の高校受験は、そういう状態だったのだ。
高校説明会巡りをしていた夏の間も、塾の模試は月1ペースで行われていた。
塾の先生に勧められるまま、希望校を書いていた長男、その後の成績で「十分合格ラインを維持しているから、この調子で」と励まされていた。
しかし、学校の志望校調査が始まった秋、中学の先生からは「その学校は高望みしすぎだから、やめた方が良い」と言われる。
家で緊急会議。
あらためて、模試の結果表などを長男に持ってこさせ、検討する。
合格ラインだと言われていた高校、判定は 60% 程度となっていた。
塾の先生は「大丈夫」と言っているが、少し心もとない数字だ。
いったい何がどうなっているのか。
塾としては、レベルの高い高校に合格者が出れば実績となるので、少し高めに受けさせようとしているのではないか。
学校の先生が言うように、少しレベルを落とした方が良いのかもしれない。
長男とも相談し、この時にはいったん保留とした。
というのも、中学では「先に私立を決めるように」とされていたため。
公立は後で考えてもいい。
私立は、中学の先生が勧める中から選んだが、少し残念な…はっきり言えば Fランクの高校だった。
#学校のレベルは、一般に A~E の5段階で評価される。
この評価は塾や予備校が行っているもので、十分に学力を把握している子の受験結果を見て決める。
つまりは、合格と不合格の偏差値の境界が、その学校の入試偏差値なのだ。
この時、「不合格者がいない」、つまり誰でも入れる学校は、評価不能となり、E 以下の F とされる。
#厳密にいえば、長男が勧められた高校は F ランクではない。
中堅どころ、C ランクくらいになっている。でも、希望者は事実上全員入れる。
これは、高校側が「特待生」制度を設けているため。
特待生狙いで受験をすると試験があり、合格すると授業料などが免除される。
合格者はそれなりに絞り込まれるため、高ランクとなる。
しかし、普通の入学を希望する生徒には、試験が行われない。
ある程度の内申点は求められるが、それは中学の先生が推薦した時点で満たされており、全員合格となる。
さて、中学に公立高校の希望を出さなくてはならない。
一旦はレベルを落とすことにした。希望は最終決定ではなく、「現時点での」ものだったため。
しかし、このころの長男は非常に表情が暗くなっていた。
希望校がダメだと言われ、勉強にはちょっと自信を持っていたのだが、それを否定された形だった。
ある日、中学の先生から電話がかかってきた。
学校で、長男が泣きながら歩いているのが発見され、ゆっくりと話を聞いたが「自殺したい」とまで言っていたそうだ。
家でも話を聞いてみてください、と言われたので話をした。
やはり、進路に悩んでのことだった。
でも、急に思い詰めてしまったが、その後ゆっくり考えて、レベルを落とした高校でも納得した、とのことだった。
さらにその後、塾の先生から電話がかかってきた。
長男から高校を変えると言われたが、もったいない。最初の希望通りで大丈夫ですよ、とのことだった。
長男がかなり思い悩んでいたことも話し、でも納得いったようなのでこれ以上気持ちを揺らがせたくない、と答える。
しかし、この電話で「何かがおかしい」と感じ始めた。
何か話が食い違っている。学校と塾の言い分の食い違いもあるが、絶対に「僕が」理解していない何かがありそうだ。
あらためて、神奈川方式の受験システムの詳細を調べてみる。
ここで、やっと勘違いが理解できた。
神奈川方式では、内申点が大きな比重を占める。
学校ごとに細かな比率は変えられるが、おおざっぱに4割は内申点。4割は普通の受験内容。
残りの2割が面接になるが、これはよほどのことがない限り横並びの点数になる。
…と、中学などでの「進路説明会」で聞いていた。
内申が4割も占める。重要だと思っていたが、まだこの先があった。これを知らないでいた。
上の方式で決められるのは、定員の 90% まで。
残りの 10% は、最初の 90% の選考に「漏れた」もののうち、「内申を加味しない成績が良かった者」を選ぶ。
漏れたもののうちから選ばれるため、敗者復活のようにとらえられるのだが、そうではない。
内申点は、中学3年間の総合成績だ。これだと「受験に向けて頑張って、途中から学力が伸びた子」が救われない。
そこで、敗者復活ではなく、「最初から内申なしで勝負をかける子」に対して用意されたのが、この 10% 枠だ。
試験だけですべてが決まるので、現時点での学力だけの勝負になる。
予測が立てづらい。先生は指導しづらいし、たまたま当日の試験が「苦手な問題」だと実力を発揮できない。
もっとも、苦手だと点数が低い、というのであれば「その程度の実力」ともいえる。
学校の先生は、進路説明会でも説明した、90% の部分だけを対象に考えていた。当然だろう。
しかし、塾の先生は、10% の部分を考えて長男に高校を勧めていたのだ。
改めて、長男に模試の結果表を持ってこさせる。
先に書いたように、合格判定は 60% だったが、これは「定員の 90%枠」を考慮した値だった。
残りの 10% 枠は予測しづらいため、小さめに書いてあった。
そのため理解していなかったのだが、80% ~ 90% で推移していた。
なるほど。十分勝負をかけられる数字だ。
しかし、定員のたった 10% 、という枠は狭いように思う。
そこを狙っていく、という方法で勝機はあるのか。
続いて考える。2つのパラメーターがあり、マトリックスになっている。
一つは内申点の高低。
もう一つは試験成績の高低。
多くの子供は、学校の成績が良く、先生に勧められた学校に行くだろう。
このうち、試験の成績もよい子は、内申が良いので 90% 枠で合格する。
先に合格が決まってしまうため、長男と争うことはない。
もう一つ、あこがれや親の見栄などで不相応な高校受験をする子。
内申も低く、試験成績も低い。当然不合格で、最初から敵ではない。
続いて、微妙なライン。
内申は低いが、試験成績は良い子。長男がこのパターンだ。
長男と同じように、塾などで勧められて受験するのがほとんどだろう。
中学校の教師が、こんな危険なルートを勧めてくるとは思えない。
それなりにいるけど、割合はそれほど多くないのではないか。
これが長男と争う、直接のライバルだ。
逆に、内申は十分足りているのだが、試験での成績が悪い子。
学校では優等生だが、塾などには行っておらず試験慣れしていない、などだろう。
この子たちは、90% 枠では合格できず、残りの 10% 枠を長男と争うことになる。
しかし、「十分なはずの内申を加味しても」不合格になるほど試験成績が悪いのだ。
「試験成績は良い」という長男の敵ではない。
というわけで、ライバルは、長男と同じように、内申は低いが十分合格できる、と塾などで勧められた子に限られてくる。
つづいて、ここ数年間の希望校の「受験者数」と定員を、おおざっぱに当てはめてみる。
受験者数の、9割は 90% 枠狙いで来ると考えてみよう。最初から 10% 狙い、というギャンブラーが多いとは思えない。
定員から、合格者数はわかっている。
すると、ライバルの人数と、その中での合格者数がわかってくる。
非常におおざっぱな試算にすぎないが、ライバルの中で、下位 1/4 が不合格になる、という結果になった。
逆に言えば、1/4 に入るほど残念な結果にならなければ、合格できる。
ここまで計算してみて、僕は納得できた。
内申という「安定枠」がないのは一見ギャンブルに見えるが、かなり勝ち目のある勝負だ。
長男にも考えを説明したうえで、勘違いして中学の先生の言い分を信じていたことを謝罪する。
長男は塾の先生の言葉を信じていたのに、足を引っ張ってしまった。申し訳ない。
そして、中学の先生に対し、志望校変更を申し入れる。
高望みと言われようと、最初の希望を貫こう。
…と、最終決定したのが年末の話。
長男は迷いがなくなったため、表情が晴れやかになったし、「試験で下位 1/4でなければよい」などの目標が明らかになったために勉強も効率的になった。
具体的には、点数だけの勝負なので、得意科目は現状維持程度にして、苦手科目を頑張った。
苦手科目を伸ばした方が、点数の伸びは大きいからね。
年明けからは、塾で毎週模試があった。
苦手科目を克服する、という目標を定めてから、わずか1か月の間に、模試を受けるたびに成績は上がっていった。
そして、出願。
出願後にはすぐ、各校の倍率が出る。志望校は、今年は驚くほどの高倍率になっていた。
これも、大学試験改革失敗の余波だろう。
大学付属の高校が狭き門となったため、相応の学力を持つ子が、今年は公立高校に押し寄せたのだ。
また、今年はすべり止めとして受けられる私立のランクが低めになっている。
先に書いたように、手ごろなランクの私立が、定員枠を縮小しているためだ。
このため、「高望み」をする子は減ったようで、高ランクの公立高校の倍率が低めになった。
長男が希望する高校は、「高めの学校の中では手ごろ」だったため、レベルを下げた子はここを狙ったようだ。
これも、高倍率の原因だろう。
倍率が高いとなると、さすがに不安になる。
しかし、先に書いたように、「相応の学力を持つ子」は、90% 枠で合格してしまうため、長男とは争わない。
第一志望を私立から公立に変えた子も、高ランクの公立から下げてきた子も、この枠だ。
最初から 10% 枠を狙っていた長男には、倍率の上昇はあまり関係ない、と思う。
…まぁ、僕はそう思ったが、妻は不安だったようだ。最後まで心配していた。
そして、冒頭に書いたように無事合格した。
合格通知の中には、試験各科目の点数も入っていた。1科目だけ満点だった。
それは克服を頑張った、苦手科目だった。
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