引き続き、マイルドハイブリッド技術の一部で、複雑怪奇なアイドリングストップについて書こうと思う。
ハイブリッドというとモーターアシストのほうが注目されやすいと思うのだけど、マイルドハイブリッドでは、むしろアイドリングストップのほうが重要ではないかと思う。
エンジンが止まる、というのは、効果がわかりやすいからだ。
加えて、エンジンスタートからの通算アイドリングストップ時間がカウントされる。
そんな表示を出されてしまったら、できるだけアイドリングストップするような運転を心掛けたくなってしまう。
しかし、アイドリングストップは、十分な条件が整った時でないと行われない。
この条件が複雑怪奇なため、いろいろと誤解も多いようだ。
細かな条件は、イグニスのマニュアルに書いてあるのでそちらを読んだほうがいい。
条件は 4-71 ページからだ。
ただ、この条件が納得いかない、という人が多い。
例えば、アイドリングストップの条件は「フットブレーキを踏んでいること」が含まれる。
停車中に、パーキングブレーキを効かせてシフトをニュートラルにし、フットブレーキを離すと…
停車する意思は十分に示せていると思うのに、エンジンが再始動してしまう。
僕も最初は「なんでダメなんだ?」と疑問に思った。
さて、条件を見てみると、どうも大きく4つに分かれるようだ。
・運転者が、エンジンを止めることに了解していること
・法令面で、エンジンを止めても問題が出ないこと
・技術的に、エンジンを止めてもよいこと
・エンジンを再始動すべき、という状態が来ていないこと
この4つがすべて整っているときしか、アイドリングストップは行われない。
後で解説するけど、先に書いた「フットブレーキを踏んでいないとダメ」は、法令面の問題に属する。
技術的には、停車しているのだからよさそうなものだけど、別の理由でダメなんだ。
▼運転者が、エンジンを止めることに了解している
まずは、わかりやすい話からいこう。
運転者が了解していない限り、勝手にアイドリングストップが行われることはない。
・アイドリングストップ OFF スイッチを押していない
・スポーツモード・マニュアルモードにしていない
・アクセルを踏んでいない
ここら辺が条件だ。すべて満たさないといけない。
アイドリングストップ OFF スイッチは、A の周りに丸く矢印が付いた記号に「OFF」と書いたスイッチだ。
このマークが納得いかない、と書いている人も見受けた。
日本語の「あ」は A だけど、アイドリングストップは英語だから A じゃなくて I だろ…と主張していた。
アイドリングストップは、残念ながら英語ではない。和製英語だ。
英語では、Auto Start-Stop System。A の周りに矢印で丸を付けるのは、国際的に定められたマークだ。覚えよう。
スポーツ・マニュアルモードは、運転を楽しむためのシフト。
燃費なんて気にせずにエンジンパワーを引き出したい…という時向けなので、アイドリングストップはしなくなる。
▼法令面で、エンジンを止めても問題が出ない
言われれば納得するのだけど、ネットを見ていて一番「条件がおかしい」と言われているのが、法令面の問題だと思う。
法律って、自分に関係することなのに知らない人が多いので、何が違法になるかわからないのだよね…
では、まずは何が違法行為になるのかを示そう。
道路交通法第71条 (運転者の遵守事項)
5 車両等を離れるときは、その原動機を止め、完全にブレーキをかける等当該車両等が停止の状態を保つため必要な措置を講ずること。
車両を離れるときは、原動機(エンジン)を止めなくてはならない。
のみならず「停止の状態を保つ」必要がある。
アイドリングストップで、「エンジンが止まっている」と勘違いして、運転者が車両を離れてしまったらどうなるだろう?
後で書くが、アイドリングストップはあくまでも「一時停止」で、最長でも2分後にはエンジンが再始動する。
とても「停止の状態を保つ」とは言えない状態で、違法行為になってしまうのだ。
だから、システム側としては「運転手が確実に運転席に座っていることを確認する」必要がある。
このための条件はどうやら3つあり、
・ブレーキペダルを踏んでいる
・シートベルトをしている
・運転手側ドアを開けない
のすべてを満足していないと、アイドリングストップが終了して、エンジンが停止していないことを教えるようになっている。
先に書いた、パーキングブレーキをかけてブレーキペダルから足を離す、というのがだめな理由は、これだ。
まぁ、実際には法令面だけでなく、パーキングブレーキ不十分でクリープが起こったらどうするんだ、などの安全性もある気がする。
どちらにしても、ブレーキペダルを踏んでないとダメだという判断には、妥当性があるように思う。
▼技術的に、エンジンを止めてもよい
エンジンというのは「車を走らせる部品」ではない。
車の中で使われる、ありとあらゆるエネルギーを作り出すための部品だ。
ここを勘違いしていると、車が停止したのにアイドリングストップしないのはおかしい、と思ってしまう。
実際には、走る以外のエネルギーもすべて停止できる状態でなくては、アイドリングストップしない。
「デフロスタを使っていない」
これなんかは、非常にわかりにくい、技術面でアイドリングストップできない例だ。
デフロスタっていうのは、フロントガラスの曇りを取るために、フロントガラスの内側に乾いた暖かい風を当てる機能。
一見するとアイドリングストップと無関係に見えるが、これを使うとアイドリングストップできなくなる。
乾いた風は、エアコンで作っている。
結露するほど湿っている室内の風ではなく、乾いているであろう外気を取り入れて、エアコン冷やす。
冷えた空気は結露し、除湿される。
これを今度はエンジンの余熱暖房で暖め、乾燥させてフロントガラスに吹き付ける。
乾燥した空気は水分を吸収し、水蒸気としてしまうため、フロントガラスの曇りがすぐに取れる。
エアコンというのは、ポンプで冷却材を循環させることで動く。
家庭用エアコンなら電気モーターを使うが、自動車ならエンジンの回転力を使う。
そんなわけで、エンジンを停止するとエアコンも停止する。
夏場の冷房機能なら、ある種の「ぜいたく品」なので、アイドリングストップ中くらい止めても良い。
しかし、デフロスタは安全にかかわる機能なので、止めるわけにいかない。
そんなわけで、デフロスタを使うと、アイドリングストップはできなくなる。
デフロスタは「曇ってしまった」時に使うものだ。
これに対して、あらかじめ外気を取り入れてフロントガラスに当てていれば曇りを防止できる。
できることなら、そちらを使って曇らないようにするのが良いのだろう。
「坂道で停車していない」
これもわかりにくい。
坂道とアイドリングストップは、一見何の関係もないように思える。
現代的な自動車には、ブレーキ倍力装置というものがついている。
ブレーキを踏む力をアシストし、強い力でブレーキを踏んでくれる装置だ。
このアシストの力は、エンジンから取っている。
だから、エンジンを止めると急にブレーキが弱くなる。
ブレーキが一番力を必要とするのは、動いている車を止めるときだ。
いったん止まってしまえば、「動かないように念のため」ブレーキを使っているだけだ。
普通の AT 車なら、停車中でもクリープ現象での前進を防ぐ…という意味もある。
しかし、イグニスの場合アイドリングストップでエンジンを止めてしまえば、これもなくなる。
そんなわけで、止まってしまえばブレーキ倍力装置は不要だ。
アイドリングストップでエンジンを止めてよい。
ただし、坂道では話が変わってくる。
エンジンを止めた結果、ブレーキの力が弱まれば、重力に負けて車が動いてしまうかもしれない。
だから、坂道でブレーキ倍力装置を止めるわけにはいかず、アイドリングストップできなくなる。
「リチウムイオン電池が5度以上」
前半記事でも書いたけど、システムの中核を担うリチウムイオン電池は、5度以下では動作保証外だ。
アイドリングストップ時には、エンジンアシスト用のモーターを使って再始動を行う。
このモーターは、リチウムイオンから電力を取る。
そのため、寒いときは再始動ができなくなるため、アイドリングストップできなくなる。
それだけでなく、回生ブレーキも使えなくなる。回生した電力の行き場がないためだ。
CVT は仕組み上エンジンブレーキの利きが悪く、回生ブレーキで「代用」としているので、寒い状態での長い下り坂などは怖いそうだ。
まぁ、そういう時に備えて、シフトには L がある。もしくは、スポーツモードに切り替えてもよいそうだ。
そうすれば、回生ブレーキは使わずにエンジンブレーキをかけられるようになる。
技術面でアイドリングストップを使えない、という状態は他にもいろいろとある。
しかし、上に書いたのが代表的なわかりにくい例ではないかと思う。
▼エンジンを再始動すべき、という状態が来ていない
最後に、アイドリングの条件ではなく、「再始動の条件」だ。
再始動すべきタイミングだと判断すれば、アイドリングストップは終了し、エンジンが再始動する。
まぁ、基本的には「走りだそうとした」タイミングで再始動が行われる。
・ブレーキを踏んでいる足を離した
・ハンドルを動かした(信号待ちから、交差点を曲がるための操作を開始した、と認識)
・シフトレバーを、ニュートラル・またはパーキングから、ドライブに戻した
これらの動作は、走りだすための前準備だととらえるようだ。
購入時の日記で「勝手にアイドリングストップが終わったりする」と書いているのだけど、この時はハンドルを操作しようとしたためだった。
もう一つある。
・アイドリングストップ時間が2分を超えた
この時も再始動する。
アイドリングストップ時、エンジン内には噴霧され、ガスになったガソリンが入っている。
再始動の際には、すぐにこのガスに点火されることになるのだけど、冷えてしまうと液体に戻ってしまう。
そうなると、点火がしにくくなる。
おそらくは、これを考慮して「2分」という時間が決められているのだと思う。
もちろんこれ以外にも、アイドリングストップ「できる」前提が崩れたときも、エンジンは再始動する。
他にもいろいろと条件はあるのだけど、全部説明すると長くなるのでここで終わろう。
…ふぅ。昨日までは、条件をできるだけ網羅しようとして、長くてつまらない文章だったのだ。
なんとか悪くない範囲にまとめられた、と自分では思う。
(昨日までに書いていた内容がひどすぎたから…)
わかってもらいたいのは、一見アイドリングストップには無関係に見える条件であっても、よく考えられて定められていることだ。
意味があるのだから、文句を言ったところで仕方がない。意味を知って、納得して使うのが良いと思う。
もっとも、これは文句を言うなと言っているのではない。
文句が出る、というのは、それが妥当な条件であっても、ユーザーには納得してもらえてない、ということだ。
次のより良い製品につなげるため、文句を言うのはユーザーの権利でもある。
まぁ、理由によっては文句を言ったところで開発陣が苦笑いして終わりだろう。
より有効な文句を言うためにも、今定められている条件の「理由」は知っておいてよいと思う。
おまけ:
書き終えた後で、良い参考文献を見つけた。
書き終えた後、と言いながら、一部これを見ながら記事修正させていただいた。
トランジスタ技術 増刊 MOTORエレクトロニクス NO.2
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