スズキは、同じ技術を軽乗用車では「Sエネチャージ」、普通車では「マイルドハイブリッド」と呼んで搭載している。
呼び方が違うのは、商売上の理由があったらしいのだけど、ここではどうでもいい。まぁ、同じものだ。
これが、ネットを見ていると結構悪口というか、文句が目立つ。
悪口の多くは、複雑すぎて技術を理解していないため「自分の思っていたのと違う」という理由で書かれているものだ。
まず、疑問があるならマニュアルを読もう。
文句の多くは、マニュアルに書いてあるのに読みもせずに書かれたものだ。
あまりにも多いから、先日購入した僕と、2年前の発売直後ではマニュアルが違うのかもしれないな…と思った。
マニュアルはすべてスズキのページで公開されていた。
確かに、毎年マニュアルは改定され、この2年間で三刷になっている。
しかし、最初のマニュアルから、マイルドハイブリッドの各種機能が働くための条件などは詳細に書かれていた。
繰り返すが、納得いかないならマニュアルを読もう。
それで疑問の大半は解消する。
マニュアルに書かれているのは、各種機能が動作する詳細条件だ。
「なぜ」その条件が設定されているのか、については書かれていない。
このことについて文句を書いている人もいる。
なぜこんなことが条件になっているのだ。
これでは、僕のドライブスタイルでは、せっかくの機能が活かしきれないではないか…というものだ。
これについては、多少理解する。
イグニスが納車された直後のファーストインプレッションで、僕も「アイドリングストップの条件がよくわからない」と書いた。
しかし、冷静に考えればどれも妥当性のあるものだ。
「条件」からその「理由」を探るのは、ある程度知識がないと難しいかもしれないが、理由がわかれば妥当であることに気づく。
そして、妥当であるならば納得するしかない。
「今までの」ドライブスタイルとあわないのであれば、妥当である新しいスタイルを模索するしかない。
一見疑問に思えるような条件設定でも、それは必要があってやっていることだ。
車の技術は進歩している。
過去の技術で作った「ドライブスタイル」が、今の技術にあっていないのであれば、作り直さないといけない。
文句を言っているだけでは、進歩する世の中から取り残されていくだけだ。
もう一つ、スズキの販売店員が購入前に十分な説明を行ってくれなかった、ということで怒っている人も見かけた。
販売店員の説明を聞いて買ったが、実際にはその説明と違っていたようだ。
それは…ご愁傷さまです、としか言いようがない。
販売店員側に十分な知識がなかったのだろう。
先に書いたように、購入してもマニュアルを読まずに文句を言っている人はいる。
また、マニュアルを読んでも十分に理解できていない人もいる。
販売店員だって同じことだ。
車は複雑な商品で、すべてを理解しているわけではないだろう。
おそらく、検索してこのページを読んでくれている人は、マイルドハイブリッド車を購入したくて下調べしている…などだと思う。
店員の知識を信じすぎず、自分で調べるという考え方は正解だ。
ただ、今から書くことも参考程度にとどめてね。
僕だって、複雑すぎる車を、納車からたった1か月で理解なんてできていないだろうから。
昨日の日記では、マイルドハイブリッドの説明を「書いたけど長い」と説明した。
今日公開するのは、全面的に書き直したものだ。
特に長くなるのは、アイドリングストップの説明だ。
そして、ネットを見ていて文句が多いのも、アイドリングストップについてだ。
非常に複雑な条件でアイドリングストップが行われるようになっていて、この条件が理解できない / 理由がわからない人が多いようだ。
当初はマニュアルに載っている細かな条件の「理由」を説明して回っていたのだけど、長くなるだけなのでやめた。
条件を知りたい人は、先ほどリンクしたオーナーズマニュアルを読んでほしい。
2018年7月版であれば、4-71 ページから載っている。
そして、その理由を知りたければ、少し前の 4-64 ページから読もう。
理由を説明しているわけではないが、アイドリングストップ機能の説明と、諸注意が書いてある。
ある程度知識がある人なら、そこから大まかな理由は推察できる。
さて、前置きだけで長くなった。
今回は、特に誤解が多いのではないかと思われる部分の「理由」に絞って解説するのを目的とする。
▼マイルドハイブリッドについて
目的を絞り込みはしたが、全体の技術をざっくりと解説することから始めよう。
マイルドハイブリッドは、エンジンをモーターでアシストすることにより燃費を向上する技術…ではない。
スズキの公表している説明を読む限りでは、そのような技術に思える。
そもそも、各社がハイブリッドシステムを研究しているのは、燃費向上のためだ。
僕もそう思って購入した。でも、これがそもそもの間違いだ。
モーターアシストが主眼の技術だと思っていると、マイルドハイブリッドには文句しか出ないだろう。
間違いは2つある。
1つ目。
燃費向上はモーターアシストで得られるのではない。
アイドリングストップも、発電機兼モーターも、CVT も、リチウムイオン電池の搭載も。
もっと言えば、車両重量を努力して軽くしていることなど、地道な努力も含めて燃費を向上させている。
そのつもりで読むと、スズキの説明ページでも、マイルドハイブリッドの説明として「アイドリングストップ」なども含めて書いている。
モーターアシストは、マイルドハイブリッドのほんの一部でしかなく、ここに期待しすぎると肩透かしを食うことになる。
2つ目。
そもそも、スズキの目指す「エコ」は、燃費向上、排気ガスを減らして環境にやさしい、という「エコロジー」ではない。
エコロジーは含んでいるが、経済的である「エコノミー」も含んでいる、と考えるべきだろう。
燃費を上げれば経済的でもあるから、同じものに思えるかもしれない。
しかし、「導入費用」も考えてほしい。
安上がりでそれなりの効果があるものなら導入するが、その効果を突き詰めて値段が上がるなら本末転倒である。
悪く言えば、安物のシステムだ。
燃費向上のために本体価格も高くしている他社と同じような機能を期待すると、思ったほどの性能ではない、ということになる。
いわゆる「ハイブリッド車」は、モーターのみで走行するために、パワーの大きいモーターを使っている。
600V 程度で駆動するものが多いようだ。このため、充電池も 200V 以上の出力を持ち、大きい。
通常、自動車の電気系統は 12V で設計されているため、モーター用に別系統の回路を用意する。
モーターも大きいし、充電池も大きいため、車両重量は増す。システム値段も高くなる。
燃費はその分悪化することになるが、モーターのパワーで悪化分を解消する。
のみならず、十分に燃費を上げることで、高い導入費用もカバーできるようにする。
先に書いたように、マイルドハイブリッドの場合、導入費用を安くするためにこのシステムの否定から入る。
モーターは、わずか 48V のものだ。これを、普通の 12V 電流を昇圧して駆動する。
エンジン始動に使う 12V セルモーターよりも力強いが、600V モーターと比べるとおもちゃみたいなものだ。
パワーは出ないので、エンジン走行を基本とし、モーターは特にパワーが必要な時の「アシスト」にとどめる。
しかし、エンジンは低速走行時に燃費が落ちる。ここをアシストして速やかに高速にすれば、燃費が上がる。
走行にはアシスト程度だとしても、エンジンを回すのには十分だ。
そこで、アイドリングストップ可能にして、停車中はエンジンを止めてしまう。
再始動時には、モーターでエンジンを回して始動する。
これで燃費が上がる。
いつでもモーターを使えるように、と考えると、電力を出すための大容量の充電池も必要になる。
しかし、後で書くように、大容量の充電池があれば「いつでも使える」というわけではない。
ならば、最初からアシスト程度、アイドリングストップの再始動用だと割り切る。使えないときがあって構わない。
充電池も小さくすれば、余計な重量増加が抑えられ、燃費が上がる。
モーターは発電機としても使えるので、減速時の回生ブレーキに使う。
回生ブレーキで発電できるので、走行中常に発電するのをやめ、負荷を減らすことで燃費を上げる。
従来の発電は「少ない電流を常に」だった。回生ブレーキ / モーター出力時は「大電流を短期間に」だ。
従来の鉛蓄電池は、少ない電流の出し入れしかできない。そこで、リチウムイオン電池を導入する。
ただし、リチウムイオン電池には「低温時に使用できない」という弱点があるので、従来の鉛蓄電池も併用。
低温に弱いので、暖房が効く室内に置く。
電池を大容量にしても「いつでも使える」わけではない、というのは、このリチウムイオンのことだ。
5度以下では使えないので、日本だと特に寒い地方でなくとも、冬場は使えないときが出てくる。
大体、この考え方でマイルドハイブリッドは構成されている、と考えてよいと思う。
いろいろなところで、細かく燃費向上を狙うのだけど、今までのエンジン自動車と違うような画期的な何かがあるわけではない。
それどころか、新しく導入した「リチウムイオン電池」は、低温に弱いという弱点を持ち、冬場は使えない可能性がある。
リチウムイオン電池が使えないと、モーターアシストはもちろん、再始動ができないのでアイドリングストップも使えなくなる。
するとどうなるかというと、今までのエンジン自動車と同じになってしまうのだ。
マイルドハイブリッドに期待して買った人が怒る、もしくは「故障したのではないか」と不安になるポイントが、この「冬に普通の車になってしまう」ことのようだ。
最初のほうで、「エコロジーだけでなく、エコノミーなシステム」だと書いたのはこのため。
冬場に耐えるようにいろいろな仕組みを追加することもできるだろう。
実際、トヨタプリウス PHV なんかはリチウムイオン電池にヒーターをつけ、充電中は電池を温める、というシステムを作っている。
外部電源が前提だが、停車中は充電することを前提にすればよいシステムだと思う。
でも、冬のためだけに装備を追加するよりも、冬はあきらめる、というのも悪くない考えかた。
それだって、完全にあきらめるわけではなく、しばらく乗っていれば暖房で温まって使えるようになるのだ。
スズキはこちらを選択した。スズキ車に乗るということは、この選択についていくことになる。
最悪の状況でも、普通の自動車としては十分なのだから、おおらかな気持ちで行こう。
長くなってきたので、一度ここで記事を区切る。
次のページは、今回の記事の目的である、アイドリングストップについて誤解が多いポイントについて解説していきたいと思う。
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