以前からネットで見かける話で、思ったより勘違いされているようなので解説。
以前、ゲーム系のニュースサイトで、最近公式エミュレーターの発売が相次いでいることを取り上げていた。
ミニファミコンに始まり、NEOGEO mini とか、メガドラミニとかの話だな。
で、そのサイトには「ゲーム機本体発売から時間がたって著作権が切れたのも、こうしたブームの要因」ってことを書いていたんだ。
個人の作っているサイトなら勘違いしているな、で終わりの話なのだけど、企業がやっている大手サイトだった。
記事自体はライターが書いた署名記事だけど、掲載するからには編集者・編集長がチェックしているはずで、個人の勘違いでは済まされない。
でもまぁ、そのサイトは記事に対するチェックが甘いのだろう。
署名記事だから結局は個人ブログレベルの内容なのかもしれない。
…って思っていたのだけど、昨日ツイッターを見ていたら、それなりに技術を持っている(個人的には信頼していた)若者が、エミュレーターに対して同じような勘違いをしていた。
具体的に言うと、古いゲーム機はすでに著作権が切れているので、エミュレーターを作っても法的に問題はない、ということを書いていた。
こちらは完全に個人なので勘違いしていても構わない。
でも、先に書いた記事は、しょせんはライター…技術者ではない人が書いた記事だ。
僕としては、技術に詳しい人が勘違いしている方がショックだった。
著作権は、著作物を守る法律だ。
文章・絵画・音楽・映画…その他、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定められている。
最初に挙げた記事に書かれていた「ゲーム機本体」というのは、この範疇ではない。
つまり、著作権で守られるものではない。
ちなみに、著作権の保護期間は、個人であれば作者の死後50年、法人であれば著作物の公表から50年というのが基本だ。
ゲーム機本体は著作権で保護されないが、もし保護されていたとしても「著作権が切れた」とするには早すぎる。
この点で、記事を書いた人は2重に著作権を理解できていない。
(ちなみに、ライターという職業柄、著作権によって生活しているはず。その権利を理解できていないのは残念だ)
では、著作権がないのであればゲーム機本体のデッドコピーを作っても問題はないかというと、もちろんそんなことはない。
ゲーム機本体は、著作権ではなく、さまざまな別の権利によって守られている。
まず、回路配置利用権。
「同じ集積回路を作ってはならない」規定だと考えてもらっていいだろう。
大抵のゲーム機は、専用 LSI 込みで開発される。それらの LSI をコピーされない権利だ。
著作権の場合、著作した時点で権利が生じる。
これに対し、回路配置利用権は、国の定める機関に対して登録が必要だ。
この権利の有効期間は、登録から 10年間だ。
じゃぁ 10年を過ぎたら作り放題かと言えば、特許権がある。
回路の配置みたいな「そのものずばり」の物理的なものを登録するのではなく、その回路にこめられたアイディアなどを保護する。
こちらの保護期間は 20年だ。
ちなみに、「アイディアの保護」だけど、そのアイディアは基本的には実際の物づくりを前提としている必要がある。
つまりは「発明品」でなくてはならないんだな。
とはいえ、実際に発明品を組み立てている必要はない。
どういうアイディアなのかを具体的に説明できるのであれば、書類だけあれば特許はとれる。
ゲーム機本体の保護としては、特許権が本命だろう。
だけど、特許はアイディアというふんわりとしたものを対象にするため、登録の審査に時間がかかり、その間は保護されない可能性がある。
(登録が成立した時点で、請求開始時点にさかのぼって保護を求めることは可能)
そもそも、発売初期の段階でコピー商品を出せるとしたら、回路などもまるっきりコピーしたデッドコピー商品だろう。
だから、初期は回路配置利用権で守り、特許成立後は特許権で守る、という2段構えとなる。
他にも、外観は意匠権で守られるし、名前などは登録商標で守ることができる。
しかし、コピー商品は大抵外観や名前は変えてくるので、ここら辺を使う時は別の目的だろうね。
さて、ソフトウェアでゲーム機を再現するエミュレーターの場合、回路配置を使うわけではないし、具体的な「物」を保護する特許とも無縁だ。
特許についてはもう少し説明しておいた方がいいかな。
エミュレーターは、回路によって実現されるゲーム機を、ソフトによって再現したものだ。
だから、機能は同じに見えても、その実現方法が異なることになる。
特許は、実現のためのアイディアを保護するものだから、同じものを作り上げていてもその方法が違えば特許には抵触しないことになる。
エミュレーターが合法だとされるのは、こうした理由だ。
決して、著作権が切れたなどではない。
発売直後のゲーム機だったとしても、ソフトウェアエミュレータが作れたのであれば、それは合法だ。
ただし、エミュレーターは「ソフトウェア」の再生を目的とするものだ。
そして、ソフトウェアは著作権保護の対象物だ。
もちろん、ゲームソフトも著作権保護されている。
エミュレーターで遊ぶ際には、利用者が実物のソフトを入手し、利用許諾された状態になくてはならない。
しかし、そうした方法で利用許諾できないソフトウェア部分がある場合がある。
ハードウェア内に ROM などで持っている、BIOS と呼ばれるソフトウェア部分だ。
こちらは「互換 BIOS」を作れば問題がないのだけど、互換 BIOS を作るのは、またややこしい著作権上のテクニックが必要な話となる。
ありていに言えば、日本では互換 BIOS は認められない。
アメリカでは、かなり厳密で複雑な手順を踏めば、互換 BIOS は法に触れないものとして認められる。
もっとも、実際に作成された互換 BIOS が法に触れるのかどうかは、裁判をしてみるまでわからない。
上に書いた「日本では認められない」というのは、そうした状況での類似判例があり、認められなかった、という結果だけの話だ。
同様に、アメリカで認められるというのも、類似判例で認められている、というだけだ。
BIOS を含むエミュレーターは、法的にはグレーゾーンに存在しているとみてもいいだろう。
エミュレーターに関する話はここまで。
書いているうちに思い出したので、ここからは少し別の話。
途中で書いた「商標権」なのだけど、権利の期間は 10年間で、更新することで無限に延長できる。
でも、「無限に」というのは強すぎる権利なので、他社が異議申し立てをして、商標権を消滅させてしまう方法がある。
一般的なのは、「その商標、最近使ってないでしょ?」と迫るやり方だ。
最近使っていない証拠を示してそれが認められれば、商標は消滅して誰でも自由に使えるようになる。
たとえば、「ファミコン」なんて名前は有名なので誰もが狙っている。
さらに、任天堂はスーパーファミコン以降、ファミコンと名の付くゲーム機は出していない。
そのままでは「商標使ってないんでしょ?」と言われやすい。
そこで、ゲームボーイアドバンスの時に古いゲームを復刻して「ファミコンミニ」シリーズとしたり、バーチャルコンソールでファミコンのゲームを遊べるようにしたり、公式エミュレータである「ミニファミコン」を発売したりして、商標を使っているところを示さないといけないんだ。
任天堂が昔のゲームを遊べるように努力し続けるのは、ファンサービスや古いユーザーの回帰を狙っているのもあるだろうけど、有名な商品名を他社に奪われないための、こうした法的な面もあるはず。
もう一つ、「それ一般的なものでしょ?」っていうのもある。
わざわざ作った特別なものなら商標にできるけど、一般的なものは商標にできない。
だから、Google 検索が普及し、「Googling」、日本語では「ググる」という言い回しが流行った時、グーグルはこの言い回しをやめるようにユーザーに頼んだ。
日常会話でも頻繁に使われるようになって「一般的な言葉」とされてしまうと、商標が無効になってしまうかもしれないからだ。
その後どういう判断があったか知らないが、Google はこれらの言い回しを禁じなくなった。
同様な例に、セガが SEGA ロゴで遊ぶのを禁じた例もある。
こちらは過去に書いたので、詳細はリンク先をどうぞ。
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