ST-V で作られた対戦ミニゲーム集です。
1998年の2月に発売になっています。
当時は2月に AOU ショーが行われていたので、このタイミングで発表・発売ということですね。
このゲーム、僕は関係していません。傍観者でした。
でも、企画も、プログラマ(2名:以下A、Bと表記)も、デザイナーも、みんな同期。
元はプログラマーAのアイディアだったらしいです。
そいつは普段から買い物の際に「小銭を上手に払う」ようにしていました。
上手に、ってニュアンスが難しいのだけど、「ピッタリ払う」というよりは「財布の中の小銭を減らす」という感じ。
ある日、これってゲームにしても面白いんじゃないか、と同期の企画に話しました。
でも、そのままじゃぁ、とてもテレビゲームにはならない。
少し前に「エジホン」というゲームを作っていました。
こちらは、プログラマーBが参加した作品。
簡単な間違い探しなのですが、2人で同時プレイをした際には、「先に見つけたほうが勝ち」になるようにしていました。
すごく単純なゲームでも、2人で競うと面白くなる。
どんな単純な内容でも、対戦させればゲームとして成立するのではないか?
飲食店などで、支払いの段になって「私が払います」と全員分を持とうとする人がいます。
そんな感じで、我先に払おうと競争するゲームにしたら?
最初に満額を出した人が支払うことにして、速度を求めつつ小銭を減らすように支払う。
これを対戦で作れば、面白くなるはず。
どんな単純なルールでも「対戦する」というのは面白い。
でも、これだけだとまだ弱い。
同じように、「普通はゲームにならない」ような異色のネタを集めて、対戦するのが面白いミニゲーム集を作れたら…
企画がこんな感じに起こりましたから、最初から「タントアールにはしない」ことを目標に置いていました。
タントアールは、AM1 研が作ったヒット作です。
ミニゲーム集で、二人同時プレイもできましたが、あくまでも「同時プレイ」。
一人用のゲームを、二人同時にそれぞれが遊ぶ、というだけで、対戦ではありません。
必ず対戦する。一人用でも CPU と対戦する。
1体1、いわゆる「サシ」の勝負をする。これが「サシっす!!」の企画に発展しました。
とはいえ、「異色の」を考えるのが難しいのよ…
アイディアないか、と僕も聞かれたけど、急に言われても思いつかんのよ…
結局、多くのゲームはどこかで見た感じがするゲーム。
でも、次の3つは異色と言っていいのではないでしょうか。
・小銭減らし
・絵の具
・アリンコ
…というところで、ゲーム画面紹介しておきましょう。
昨年、有名なゲームセンター「ミカド」で行われたという大会の動画です。
冒頭から、「小銭減らし」の対決が行われています。
6分目ごろから「アリンコ」、9分目ごろから「絵の具」の対決が見られます。
その他にも、いろいろなゲームが入っているのがわかります。
小銭減らしは、先に書いたように「サシっす!!」全体の元になったアイディア。
レジに現れた「合計額」よりも多くの金額を出したプレイヤーが「支払った」ことになります。
これで小銭を減らしていく。
ピッタリ払えば当然一番減るわけだけど、それだと相手との競争に負けて、支払えない。
最適解よりも、「少しでも減る、早く出せる組み合わせ」を判断しないといけない。
しかも、これ何回か支払った結果で勝負するのね。
早いうちに小銭を減らしすぎると、組み合わせが制限されて後半で苦しんだりする。
ちなみに、作成の少し前に、Oh!X (雑誌)に、「小銭減らしゲーム」というのが載っていました。
アクション対戦ではなく、パズルゲームだったのだけど。
このミニゲームを作っている最中に、「Oh!X に載ってたやつ元ネタ?」って聞きました。
アイディア出したプログラマーAも Oh!X の愛読者だって知ってたから。
でも、彼はその記事読んでなかった。
大学時代から買っていたから惰性で買い続けていたけど、忙しくて内容ほとんど目を通していなかったらしい。
(僕に言われて読んだらしいけど、その時にはもうゲームの企画は完成していたし)
そんなわけで、時期が近いのだけど全く別個に出されたアイディアです。
同じようなこと考える人がいるもんだ、というだけで。
絵の具は、プログラマーBが担当していました。
どうしてよいかわからず、僕に相談に来ました。
「絵の具を混ぜて、指定の色に近い色を作るゲーム」なのだけど、RGBでどのように「絵の具を混ぜる」のかわからないし、どうやって「近い」と判断するのかもわからない…と。
詳しくない人に説明しておきましょう。
多くの人は、赤・青・黄を混ぜればどんな色でも作れる、と知っていると思います。
青と黄色を混ぜると、緑になる。緑と赤を混ぜれば、黒になる。(理想的には)
でも、コンピューターは赤緑青…Red Green Blue の頭文字で「RGB」と呼ばれますが、この3色で色を作ります。
赤と緑を混ぜると、黄色になります。黄色と青を混ぜると、白になります。
絵の具とは全く違います。
プログラマーBの悩みは、コンピューターで扱えるRGBで、どのようにすれば絵の具のような表現ができるのか、ということでした。
僕はプリンタのプログラムとか経験していましたから、RGBの補色がCMY(シアン・マゼンタ・イエロー 絵の具の三原色である、青・赤・黄をより厳密にした色)であることを教えました。
非常に単純な話で、各色の割合を 0~100 のパーセントで表すとしたら、
R = 100-C
G = 100-M
B = 100-Y
という、非常に単純な式で変換できます。
プリンタで使う場合には、物理的な特性などの関係でもう少し複雑な処理が必要なのだけど、ゲームに使うならこれで十分。
これで、とりあえず画面上で「絵の具を混ぜる」は実現できるようになったようです。
でも「近い色」を判定するのは難しい…
たしか、HSVに変換したうえで近い値なら…とか当初は実験したはず。
HSVも色を表現する方法で、RGBやCMYよりも、人間の感性に近い表現になります。
それでも、実際には人間の目の色ごとの感受性の違いによって、ある色なら「近い」と思える範囲指定の数値が、他の色では全然近くなかったりする。
結局、出題する色をランダムではなく、ある程度決まった色からランダムに出すことにして、出題色ごとに「近い」と判定するデータテーブルを作り込んだそうです。
ゲームを遊んでいて、「えー、それ若干違うだろ」と思う色でOKが出ることがありますが、許してやってください。
(ゲーム上は、絵の先生がOKを出せばよい、というルールなので…)
アリンコは、アイディアを実装してみたら面白かったのだけど、いろいろと問題があって…
企画者が「隠しゲーム扱い」とした問題作です。
問題の1つ目は、蟻の生態が理解できていないと意味不明なゲームだということ。
問題の2つ目は、実はこのゲームは「囲碁」に非常に近いルールで、CPU の AI が作れなかったこと。
蟻が行列を作っているのを見たことがある人は多いと思います。
これが「道しるべフェロモン」と呼ばれる、蟻の分泌する化学物質によるものだ、と知っている人も多いでしょう。
でも、道しるべフェロモンにはいくつかあり、「餌の位置を仲間に教える」時と「自分が道に迷わないようにする」時を使い分けます。
道に迷わないようにしながらランダムに歩いて餌を探し、餌があったら仲間を呼んで巣に持ち帰るのです。
もし餌があると思って進んでいたのに餌が無かったら…
その時は、再び「道に迷わないように」しながら、付近にあるかもしれない餌を探すためにランダムに歩くのです。
「アリンコで対決」は、中央にあるアリの巣から出てくる蟻を餌で誘導し、自陣に多く導いたほうが勝ち、というゲームです。
プレイヤーは「餌」を置くことで、ランダムに歩く蟻のうち、一番「自陣に近い」位置にいるやつに仲間を呼ばせます。
これを繰り返すことで、自陣までの道を作り、得点を稼ぐのです。
理解すると面白いのだけど、まずこのルールを説明するのがほぼ不可能です。
これ、結局「全く手掛かりのない状態から、目的を持ったラインを生成する」という遊び方です。
ラインを生成するためには、少し先を読んで、「つながりそう」なところに点を打っていく必要があります。
これ、やっていることは囲碁と同じ。
囲碁は盤面に「線」を形成して相手を囲い込むゲームですが、コンピューターには線が「作れそう」な場所を想像することができません。
数年前に AlphaGO が人間に勝って話題になりましたが、それ以前の囲碁ソフトは、ルールを理解させるのが精一杯でした。
「アリンコで対決」が作られたときも、コンピューターにこのルールを教えて相手をさせることができませんでした。
そんなわけで、サシっすの狙いである「ひとりの時は CPU が相手をして、サシで勝負」ができないのです。
ルールを説明できない、CPU が相手をできない、でもゲームとしては悪くない。
これが、「アリンコで対決」が隠しゲーム扱いとして入れられた理由です。
ほぼ完成し、ロケテストでも悪くない成績を修めた後、営業からリクエストが来ました。
「タントアールの続編、ってことにして欲しい」
えー、それはないよー。
企画者、すごくがっかりしていました。
最初の方に書いたけど、「サシっす」を作っているときの指針の一つが「タントアールにしないこと」だったから。
タントアールは、このころすでに流行遅れになっていたとはいえ、ミニゲーム集としては金字塔です。
あえてそれとは違う、一風変わったミニゲーム集を目指したのが「サシっす」でした。
でもまぁ、営業の言うこともわかるんだ。
気軽に遊べるミニゲーム集への需要はやはりあって、ゲームセンターでは新しいタイトルが求められていました。
タントアールは、やっぱり金字塔。その続編、ということにしておけば営業的には売りやすい。
結局、タイトルの前に「対戦タントアール」という言葉がつくことになりました。
最後の最後に無理やりくっつけたものなので、当然のことながらゲーム中はタントアールとは全く違う雰囲気だし、キャラクターも違います。
でも、遊ぶ人にはそんな事情関係ないよね。
「シリーズなのにキャラなどの雰囲気が違う」って言われちゃうのね。
場合によっては「あの雰囲気好きだったのに、なぜ変えた」って苦情になる。
いまでも、ネットを検索すると、いろんなところでこうした意見が書かれています。
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