今日は、世界最初のドメイン名が登録された日(1985)
…と言ってしまって良いものかどうか。
一応、この前から「ドメイン名」は存在していました。
ただ、登録機関が作られ、最初に正規の手続きが取られたのは、 SYMBOLICS.COM で、1985年3月15日に登録されているのです。
インターネットは、初期の頃に IPv4 が完成し、IP アドレスを直接使ってコンピューターを指定していました。
しかし、これは覚えにくく、不便です。
そこで、HOSTS.TXT という仕組みが考えられます。
テキストファイルで、IP アドレスとホスト名(コンピューターの名前)の組を書いただけのファイル。
ホスト名を指定すると、自動的に HOSTS.TXT を調べて IP アドレスにアクセスを行います。
この HOSTS.TXT は、マウスの発明者としても知られるダグラス・エンゲルバートが管理していました。
彼はスタンフォード研究所(Stanford Research Institute)に所属していましたが、自分のマシンで、この HOSTS.TXT を FTP 公開していました。
ですから、時々 FTP で最新の HOSTS.TXT を取り出し、自分のマシンに入れる必要があります。
Stanford Research Institute's Network Information Center
「スタンフォード研究所 ネットワーク情報センター」の頭文字をとって、SRI-NIC と呼ばれます。
しかし、このやり方は、1980年代の初頭にはホスト名が数百件を超え、破綻気味でした。
そこで、ポール・モカペトリスが、ホスト名の分散管理を考案します。
Domain Name System …いわゆるDNSです。
1983年11月に構想の概要が公表されています。(RFC882,883)
1984年10月には、ドメイン名の名付け規則が決められます。(RFC920)
1987年11月には、プロトコルなどの詳細などが決まって実装されます。(RFC1034,1035)
SRI-NIC では、命名規則が決まった後の 1985年にはドメイン名の登録受付を始めています。
そして、現存している「一番最初の登録」が、1985年3月15日登録の、SYMBOLICS.COM なのです。
さて、話としてはこれでおしまい。
でも、折角なので SYMBOLICS.COM について書いておきましょう。
MIT にジョン・マッカーシーという計算機学者がいました。
人工知能の生みの親の一人であり、タイムシェアリングを普及させた人で、Lisp 言語の設計者です。
さて、Lisp という言語、非常にシンプル、かつ強力な処理構造を持ちます。
面白いので紹介したいところなのですが、長くなるのでそれはまたの機会にしましょう。
ここで重要なのは、Lisp は List Processor の略である、ということです。
List 構造は、プログラマーならご存知かもしれません。
1つのデータの塊に、次のデータの塊への「ポインタ」を用意し、次々繋げていくデータ形式です。
データを移動したい際に、実際のメモリ上から動かす必要はなく、ポインタのつなぎ変えだけで済む、という利点があります。
Lisp は List Processor なので、すべて…データだけでなく、プログラムもこの List 構造で作られています。
さらに詳細にいえば、Lisp では、ポインタのつなぎ方がすべて二進木になっています。
ポインタの2つ組みが非常に重要なのです。
さて、Lisp は非常に柔軟なデータ形式を持っているのですが、そのぶん処理は遅いです。
たとえば、Lisp では整数型と浮動小数点型の数値は区別はされていますが、問題なく加算できます。
これ、今の言語では当たり前ですが、当時としては画期的なこと。
代償として、加算の前に「型チェック」や、必要なら「型の変換」が必要になるので、速度が遅いです。
そこで、Lisp 処理に特化したコンピューターが、MIT で開発されました。
後に多くのメーカーがこの市場に参入し、一般に「Lisp マシン」と呼ばれます。
Lisp マシンでは、word を保持するのに必要なメモリよりも若干大きめのビット数を確保してあって、データと型を一緒に保持していたりします。(タグ付きアーキテクチャ)
これにより、ハードウェアが型チェック・変換をサポートし、速度の低下を抑えます。
先に書きましたが、List 処理では「ポインタ」の操作が非常に多いです。
Lisp マシンでは、型の一つとしてポインタを持っていて、データを読んだ時に「次のメモリ」を参照すると、自動的にポインタの示す先に進んだりもします。
アドレスの概念がハードウェア的に隠蔽されているのです。
#Lisp マシンは Lisp を効率よく実行できるようにはなっていますが、他の言語、例えばCだって動かせます。
しかし、アドレスを持たないため、「ポインタ」概念は混乱があります。
やっと今日の話に戻れます。
世界最古のドメイン、SYMBOLICS.COM を取得した Symbolics は、MIT で開発された Lisp マシンを商用で販売する会社です。
実際には MIT の研究所内で活動し、その代償として成果は MIT に無償提供されました。
つまるところ、商用販売するから組織を分けただけで、実体は MIT の人工知能研究所なのですね。
ちなみに、現在はこのドメインは売却され、ドメイン名管理会社が所有しています。
「最古のドメイン」を知らせるページが設置されていますが、その会社の宣伝を兼ねているのでしょうね。
ところで、Symbolics のキーボードは…なんというか、とても個性的です。
画像は、Retro Computing Societyから引用させてもらっています。
クリックすると別ウィンドウで同じ画像を開くので、細部まで拡大してご覧ください。
このキーボード、「Space Cadet Keyboard」と呼ばれます。
Cadet というのは「士官候補生」の意味。
このキーボードを使う君は、将来宇宙で活躍するヒーローの候補だ! ってことですかね。
SF映画に出てくる、すごい装置っぽさはあるよね。
キーボードには謎の記号がいっぱいついています。
∞⊂∀∂みたいな数学記号はまだいいとして、👍👎👈👉とかありますからね。
Shift や Ctrl に当たるような修飾キーにも、「SUPER」「HYPER」「GREEK」とか、いっぱいある。
注目すべきは「META」かな。これ、Emacs ユーザーなら知っている「METAキー」の本物です。
今のキーボードでは ESC で代用するのが普通だけど。
このキーボード、{ } …いわゆる「弓括弧」もある。
以前、弓括弧が使えた最初のマシンはどれか、という調査をやったのだけど、その時にこのキーボードを発見して「すごい!」って思いました。
リンク先に書いてあるけど、MIT の Lincoln Keybord も数学記号とか { } とか入れてあるんだよね。
Symbolics も、先に書いたように実態は MIT の人工知能研究室です。同じような記号が使えるのは、多分関係あるんじゃないかな。
ドメイン名を登録開始した 1985年中には、5つのドメインしか登録されていません。
2番目は bbn.com。これも MIT と関係の深い、初期のインターネットを形作った企業です。
続いて、think.com mcc.com dec.com …やっぱり、全部 MIT と関連のある企業。
5番目の northrop.com が、やっと関連のない企業(航空機製造業)です。
でも、空軍がらみの企業だよね。MIT って、空軍や航空業界ともつながりがあるので、やっぱその関係かも。
ドメイン登録は SRI の仕事でしたが、SRI 自体は 1986年になってから、7番目に登録しています。
6番目は Xerox 、8番目は Hewlett-Packard。1986年は、シリコンバレー企業が続々登録しています。
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