今日は、西和彦さんの誕生日(1956)
日本のパソコン黎明期を支えた人です。
日本のみならず、世界的な影響も与えているのだけど。
とにかく、行動力があります。動かなくてはならないタイミングを逃さない。
日本で TK-80 が発売されたとき、数年前にアメリカでおきた「Altair 8800」と同じ現象が起きる、と直感します。
知人らと共にアスキー出版を設立し、パソコン情報誌の「アスキー」を創刊。
そして、次に必要なのは BASIC だと考えます。
すぐにアメリカにとび、Altair BASIC を作っていたビルゲイツをつかまえ、自分をマイクロソフトの極東代理店に認めさせてしまう。
…ゲイツの証言によれば、英語が下手で会話にならない日本人がやってきて、「とにかく俺を日本担当にしろ」の一点張りなので、とりあえず帰ってもらうために承諾したのだとか。強引です。
西は、「アスキーマイクロソフト」を設立。社長になります。
さらにその後、マイクロソフトの副社長も兼任します。
でも、これでマイクロソフトは「アメリカの小さな企業」から、世界企業へはばたく足がかりを得ます。
西が、日本で次々と BASIC 開発の仕事を取り付けてきたのです。
日本電気(のちの NEC)の PC-8001/8801、新日本電気(のちの NEC ホームエレクトロニクス)の PC-6001、富士通の FM-8/7 、日立 BASIC MASTER 、沖 if800…
日本のパソコン黎明期に登場したライバル同士ですが、「マイクロソフトの BASICを搭載する」という共通点がありました。
#他にもありますが、代表的なものだけ。
なお、SHARP の MZ / X1 は独自の BASIC を搭載していました。
PC-8001 などは、NEC の作成する機械に対して BASIC を供給する契約でした。
しかし、if800 などでは設計方針などの重要な会議にも参加していますし、後のハンドヘルドマシン、NEC PC-8201 / Tandy TRS-80 Model 100 などは、設計からすべてを行い、京セラが製造し、販売会社を見つけて売り込んだものです。
#NEC と Tandy のマシンは、ほぼ同じハードウェアで、BASIC などには違いがある。
これだけでも、当時の西の影響力の大きさがわかります。
マイクロソフトを本当に大企業に押し上げたのは、IBM への BASIC と OS の供給でした。
当時のマイクロソフトは、ほぼ「言語専門」の会社。
IBM からの依頼は、BASIC でした。しかし、FORTRAN と COBOL と Pascal も必要としている、と知り、それら全部を供給する契約を結んだのです。
まだ小さなマイクロソフトにとって、これだけでも期日に間に合うか不安な契約。
でも、さらに IBM が OS の供給先を探していると知った時、西がその契約もマイクロソフトで取ろう、と言い出します。
ビル・ゲイツは猛反対したようですが、最終的に西の熱意に負け、IBM に「OS も供給できる」と連絡を入れます。
現在マイクロソフトは巨大企業ですが、このときに西が副社長をやっていなければ、そうはならなかったわけです。
西は日本のパソコン業界に顔が広く、多くのパソコンの構想に関与しました。
先に書いたように、PC-8201 / Tandy TRS-80 Model 100 などは、マイクロソフトとアスキーが設計し、京セラが製造し、各社のブランドで販売されました。
このようなOEM(相手ブランドでの製品供給)の先に、基本設計を共有しながら各社が特色のある互換機を作る、という構想が生まれます。
MSX パソコンの登場です。もちろん、BASIC はマイクロソフト製でした。
もっとも、マイクロソフトは名前を貸しただけで、ほとんどアスキーで作成したそうですが。
#マイクロソフトは、このころすでに 16bit 向け BASIC に軸足を移しつつあり、今更 8bit をやるつもりはなかった。
ただ、MSX の成功を「傍観」したことで、標準化ビジネスの旨味に気付き、以降 OS の機能拡充により「機種差を吸収し、標準化する」戦略を取り始める。
その後、マイクロソフトの株式公開を機に、西はマイクロソフト副社長を解任されます。
西はマイクロソフトが半導体事業も手掛けるべきだと考えていて、一方ゲイツはインテルと盟友関係にあるので、インテルの市場には手を付けるべきではないと考えていました。
アスキーもマイクロソフトもともに大企業となり、「企業として競合関係にある」ことも兼任を難しくしていたようです。
アスキーマイクロソフトも、マイクロソフトの日本代理店ではなくなりました。
大きな仕事を失ったことで、この後親会社のアスキーにも影響を与えます。
この後はパソコンの歴史というよりは「アスキーの顛末」になってしまうので、話はここらへんで終わりにしましょう。
西さんの人生については、ご自身のページで書かれている年表が詳しいですし、失敗談なども赤裸々に書かれていて面白いです。
また、西さんのページには作成に関わったパソコンなどの一覧もあります。
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