コラムス 97 の話の続きです。
ST-V とサターンは基本的に同じ性能なのですが、メディアが違います。
サターンは CD-ROM なので読み込みに時間がかかり、ST-V は ROM なので時間がかからない。
ROM が高速だからメモリの延長のようなつもりで作ってしまうと、サターン移植の際に苦労します。
実際、ダイナマイト刑事のチームが苦労しているのを見て、最初からサターン移植を考えて作らないといけないのだな、と思っていました。
コラムス 97 は、最初からサターンで発売するつもりでメモリ設計をしていました。
タイトル画面とゲーム中は、スプライト領域とかが大きく入れ替わるので、ロードが必要。
でも、ゲーム中は基本的にデータはすべてメモリに入れてあります。
…ただ、どうしても「背景」が収まりませんでした。
プレイフィールドの背景は時々絵が変わるのですが、これは ROM から読み込まないといけなかった。
その代わりに、メモリを半分、全く手を付けないで残しました。
ST-V には、プログラムが置けるメインメモリと、データしか置けないサブメモリがあります。
メインメモリは高速だけど、サブメモリは低速。
なんでメモリにこんな区別をしたのかは知らないけど、サブメモリは使いにくい。
だから、サブメモリは一切使わないことにして置いといた。
そうすれば、次の背景を CD-ROM からゆっくり読んで置いておき、必要なタイミングで一気に読み出し、とかできると思ったから。
ダイナマイト刑事のチームは、自分たちでサターン版の移植を行っていました。
だから、コラムス 97 も自分たちでやる気満々でした。
「サターン版出すときには、説明書に嘘の歴史書こうぜ」とか、企画のMと妄想していました。
コラムス 97 のデモ画面には、古代ギリシアの壺絵が出てきます。
「ゲームをするアキレスとアイアス」の絵です。
この話を追いかけるとちょっとしたゲーム史になって面白いのですが、今はその話はしません。
Mは、これを「コラムスをするアキレスとアイアス」として説明書に解説しようとしていました。
そして、コラムスとは実際に古代エジプトで遊ばれていたゲームが元になってアレンジされたものだと、でっち上げようとしていたのです。
じゃぁ、二人で対戦するようなゲームとして、「石を交互に置いて、並んだらとれる」とかのゲームを考えて、それまで説明書に載せよう…
とか本気で考えていた時、移植はコンシューマー(家庭用)部署に任せる、という決定が下りました。
開発中は「どこのメモリを何の目的で使用している」というようなメモリマップを手書きしながら行っていたので、そうした資料もコピーします。
「背景はメモリに入っていないので何とかしないといけない。低速メモリは空いている」などのメモもつけ、ソースファイル一式を渡せる状態で、引き渡しを待ちます。
ソースを受け取りに来たコンシューマーの人、実際に動いているゲームを見て、おずおずと言いました。
「サターンの性能だと、これを動かすのはちょっと厳しいかもしれません…」
この一言、すごくうれしい言葉でした。
コンシューマーの人は ST-V を触ったことはないので、ゲームを見て、ST-V はサターンの上位互換だと思ったらしいのです。
開発中、とにかく ST-V だとは思えない綺麗な画面を! と言いながら作っていました。
性能を知っているはずのサターン開発者が上位互換だと思った、というのは、画面が ST-V らしくなかった、ということ。
最高の褒め言葉です。
これは別の話ではありますが、新ゲームなどを紹介する業界紙でも「Model2 で作られたコラムス」と勘違いした記載がありました。(ゲームマシン 1997年1月1・15日号)
これもすごくうれしかった。
2022.10.28追記
現在は「ゲームマシン アーカイブ」というページで、当時の紙面を公式に読むことができます。
上記は該当号へのリンクです。
PDF 9ページ目、新聞の 16面の下部に記述があります。
本文中のリンクは、Twitter に投稿された抜粋(写真)でした。
このページの投稿時には、ゲームマシン アーカイブはまだ存在していなかったため。
このような資料を公開していただいていることに感謝します。
サターン版は、コラムス・コラムス2・スタックコラムスと一緒に CD-ROM に入れられ、「コラムス アーケードコレクション」というタイトルで発売されました。
自分が行った仕事の中で、唯一手元に残っているものです。
最終的に移植したのは自分じゃないから、ちょっと変わってしまっているけどね。
コラムス 97 以外は、新たに移植した作品のようです。
CD-ROM を覗くと、統一されたディレクトリ構成で入っています。
でも、コラムス 97 だけは、ディレクトリ構造が違う。
全く別に作られたものだから、1つディレクトリを作って、ほぼそのまま突っ込んだらしい。
興味を持って中のファイルを調べたことがあります。
業務用では必要な「BOOK KEEPING モード」などの文字がプログラム中に残っていました。
どうやら、サターン用に作り変えたりせず、ほとんどそのまま入れてあるみたい。
▼プロジェクトが終わって
コラムス 97 は、「普通じゃない」ことをしようと頑張った作品でした。
高解像度モードを使ってみたり、宝石を少しづつ重ねて表示したり、宝石の回転アニメだけでスプライト画像のメモリ領域をほとんど使い果たしてしまったり。
開発期間は1ヵ月ちょっとしかなくて、ぶれている暇はないので、こうした大方針を最初に決めてしまった。
これ、Mにとっては結構「苦しかった」らしいです。
あたらしいアイディアを思いついて、ST-V のこの機能を使って、こういう演出を…ということを何度か言ったらしいです。
でも、そのたびに僕が「その機能は、この画面モードでは使えない」と返事をするのです。
僕は当然のことを言っただけなので覚えてないのだけど、企画者としては結構追い詰められたようです。
何かやるたびに、前にやった「普通じゃない」決定が足かせになっていく。
終わった後で、Mは「もう二度と、40x40 なんて変なサイズの絵は使わない」と言っていました。
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