コラムス97の思い出話の続きです。
基本的に初代と同じ、だったはずのゲーム内容に影響を与えたもの。
▼特許問題
ある程度開発が進んだ時に、「落ち物パズル特許」問題が起こりました。
カシオ計算機が「ゲーム電卓」のブームの際に作り、特許を申請していたゲームがありました。
この特許書面の内容が、「落ち物パズル」としか解釈できない内容で、実際にカシオが訴訟を起こしたのです。
訴訟相手は、「テトリス」のライセンスを持っていた任天堂と、「ぷよぷよ」を作っていたコンパイルでした。
セガは訴えられていませんでしたが、ぷよぷよの販売を担っていたので、訴訟に対抗します。
落ち物パズルは当時の人気ジャンルです。
しかも、これはサブマリン特許。特許の有効期限はずっと先でした。
特許として認めてしまうと、今後重要なジャンルを失うことになります。
会社の違いを超えて法務部が手を取り合い、カシオに対抗しようとしていました。
#特許は現在、「出願から」20年間が最大の有効期間。
でも、1995年以前に成立した特許は「成立から」20年が有効期間だった。
このため、出願から成立までをいろいろな方法で引き伸ばす手法が広まり、「サブマリン特許」と呼ばれた。
落ち物パズル特許は、1982年に出願し、12年も成立を引き伸ばして 1994年に成立している。
この特許、今見ても「落ち物パズル」の要件を見事に満たしています。
ゲーム自体は、いわゆる「落ち物」とはちょっと違うのですけど、特許というのは見た目ではなく技術が問題なので、要件を満たしていれば認められます。
僕も、なんとか回避できないかと特許書面を読み込みました。
#当時、部署で法務担当だった先輩に「技術面の理解の手伝い」を度々頼まれ、特許書面の読み方も教わっていました。
この話、どこにも書いてなかったようなので、そのうち書こう。
そして、「積み方によって得点が異なる」ことが特許の要件の一つになっていることを発見しました。
じゃぁ、得点を無くせば特許に抵触しなくなる。
だけど、得点なしでゲームとして成立するの?
社内でコラムスが上手な人に、聞いてみました。
みんなコラムスを遊んでいる時間が好きなだけで、得点はあまり気にしていない、とのこと。
ただ、宝石いくつ消した、というのは重要な指標でした。
「いくつ」というだけなら、積み方によって得点が異なる、という特許には抵触しない。
消した宝石の数だけ残し、得点は思い切って失くす、という決定が行われます。
この特許、コラムス 97 が完成したあとで、無効化されたそうです。
法務のテクニックで、「特許の無効請求」というのがあるのね。
特許になるはずがなかった、という理由を示して訴えを起こし、それが認められれば、特許そのものが消えうせる。
カシオは対抗し、分割特許を出しました。
これは、元の特許の一部要件を切り出して別の特許にすることで、「無効請求」で示された理由を回避し、無効化を防ぐ戦術。
ただし、「分割」の名前の通り、特許の範囲は狭くなります。
十分に狭くなってしまえば、その特許は回避しやすい、怖くないものになります。これも事実上の無効化。
最終的に、「無効」になったのかどうかは、実は知りません。
でも、任天堂の法務部がうまい処理をして、普通に落ち物パズル作って何の問題もないよ、という状態にはなったのだそうです。
一体、何をどうしたのかは不明。法務の人は教えてくれませんでした。
(こういうのって、相手の知らないテクニックを数多く知っている側が強いので、あまり手法を口外するものではないのです)
でも、コラムス 97 に得点がないのは、これが理由なのです。
▼ロケテスト
開発期間1か月しかなかったのに、ロケテストは2回やったのだそうです。
「そうです」っていうのは、僕が全く覚えていなかったから。
プログラムに忙しくて、ロケテスト見に行かなかったんだろうね。
企画Mが覚えていて、どうやら2回目はインカムテストを完成から発売までの間にやったみたい。
でも、1回目は開発途中バージョンを店に置き、その反応を開発に反映させるものです。
短い開発期間なのによくやったな。
僕はロケテストを記憶していないのだけど、Mの記憶によれば、ロケテスト前までは初代コラムスと基本的に同じだったようです。
でも、このルールはやっぱり難しいし、わかりにくい部分もある。
先に書いた特許問題もあります。
そこで、次のように改められました。
1) フィールドを1列広げ、1段減らす。
2) 魔宝石の出現タイミングを知らせるゲージを用意する
3) 点数を無くし、段位認定を作る
まずは、フィールドについて。
初代コラムスは、横 320ドットです。それに対し、ST-V は高解像度で 704 dot。
単純に倍にすれば 640 dot なのだけど、さらに 64dot も広くなっている。
そして、宝石のサイズは 32x32 です。実際の宝石は 40x40 で描かれているけど、画面上の並べ方は 32dot なのね。
じゃぁ、2列増やせる。左右に2つのプレイフィールドがあるので、各1列増やせる。
この頃のパズルゲームは対戦が多くて、「敵との勝負」が中心になっていたので、パズルとしては割と優しいルールにしてあったのね。
コラムスのルールはこれに比べると難しすぎて、ロケテストでもすぐにゲームオーバーになってしまう人が多かった。
1列増やすことで、少し優しくしようという狙いです。
#Mによれば「宝石を増やすことで煌めきを魅せたかった」というのもあるらしい。
なんで段を減らしたのかは…忘れた。
初代と違い「フィールドの上にも積み上げられる」ので、その分を減らしたのかも。
#ここはスタックコラムスルール。
もう一つ効用があって、それまでは6列だったので、「中央の列」が存在しませんでした。
落ちてくる宝石は、中央右寄りの列から落ちてきた。
最終的には「落ちてくる場所がふさがれるとゲームオーバー」ですから、この出現位置の判り易さは重要。
1列増やして「中央」と言い切れるのは、ルールがわかりやすくなるのです。
魔宝石は、初代でも出現タイミングがわかりにくいものでした。
というか、「時々出てくる」という程度で、明示されていなかったのじゃないかな。
好きな人は、宝石を消した数の2次関数になっているのを知っているけど。
これを、初めて遊ぶ人にもわかるようにしよう、というアイディアでした。
「あとちょっと耐えれば魔宝石が…」と思えば頑張れるし、そこで終わったら悔しくてもう一度やりたくなるし。
ところで、「魔法石」か「魔宝石」かというのも作るうえで困りました。
初代業務用では「魔法石」なのだけど、メガドライブ版では「魔宝石」になっているのね。
海外版を調べると、この表記は「Magic Jewel」で統一。
じゃぁ、「魔法石」(Magic Stone) ではなく、「魔宝石」だね、ということで、コラムス 97 では「魔宝石」表記にしています。
最後に、段位認定。
コラムス 97 の目標は「初代のゲーム性をそのまま残す」ことでした。
でも、先に書いたように点数を入れるわけにいかなくなった。
実は、初代には「魔宝石を地面に置く(何も消さず無駄にする)と高得点」というテクニックがありました。
点数が無いと、こうした部分の「ゲーム性」が崩れてしまう。
そこで、内部的にいろいろなパラメーターを計算して、最後に「段位」認定することにしたのです。
これは「得点表示」ではないので、特許を回避できます。
たしか、ロケテストに出したときは、出てくる文字が全部 8x8 の、BG 面に書かれたものだったと思います。
INSERT COIN(S) などの表示に使われている文字ね。
数字はさすがに大きな文字を作っていたかな。でも、スプライトでデザインされたアルファベット全文字を作る時間が無かった。
というのも、ST-V の高解像度モードで、スプライトで使える色数は全部で 256色。
そして、その 256 色は、宝石で全部使いきっているのです。
この宝石は、24bit カラーでレンダリングされた後に、一番自然に見えるように機械的に 256色に減色処理しています。
そのため、パレットの並びなども、使いやすさなど全く考慮されていないものでした。
その色の中から工夫して、絵を描かなくてはならないのです。
宝石を描いたS先輩は「綺麗な宝石を作る、という俺の任務は終わった。後は知らない」と逃げました。
代わりにさらに大先輩のKさん(当時デザイン課課長)が、使いづらいパレットでポチポチと文字を描くことに…
ネームエントリーに使う文字や、アドバタイズデモで説明を行っている文字、GAME OVER のロゴなど、全部Kさんが作ったものです。
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