2016年11月25日の日記です


マジカル頭脳パワー!!  2016-11-25 11:31:48  業界記

正確に出荷時期を覚えていないのですが、1996年11月だったらしい(Wikipediaによる)ので、そろそろ書いても大丈夫でしょう。


企画とプログラムは同期で、「エジホン」を作ったコンビだったはず。

(グラフィックなどは別の人ではなかったかな)


「マジカル頭脳パワー!!」と、NEC から持ち込まれた音声認識 LSI を組み合わせたゲームを作る、というミッションが決まっていて、上層部から割り振られた仕事だったようです。

なので、どういう経緯でそういう組み合わせになったのか、などは知りません。




マジカル頭脳パワー!!は、当時の人気クイズ番組。


クイズ番組と言えば知識や知識に裏付けられた「勘」を競うものがそれまでの普通でした。

でも、マジカル頭脳パワー!!は、知識を一切問わなかった。「ひらめき」とか「注意力」を競う内容で、パズルを解いたり、間違い探しをしたりする問題が多く出題されました。


昔は「クイズ番組」はテレビの花形の一つでした。

大抵は、博学に自信のある視聴者がクイズに挑戦し、その知識を見せつける。


もしくは、芸能人でも博識の人間を集めて、その知識を競い合う。

いずれにせよ、知識を競う番組形式で、見ている人も一緒に考えつつ、知識を得ることもできました。



マジカル頭脳パワー!!は、従来のクイズ番組とは違う方法論で大人気となりました。

出てくる問題は、ちょっとしたひらめきや注意力を問うもので、知識なんて必要ない。


間違い探しとか、言葉の共通点探しとか、そう言った問題ばかりで、視聴者は「知識に感心する」よりも「一緒になって楽しむ」ことが要求されます。


でも、あるころから「簡単な問題でも気づかない」人を見て優越感を持つような番組になっていった。

クイズ番組ではなく、バラエティ番組としての側面を強く打ち出したのです。


この場合、簡単な問題であたふたしているのを見るほうが面白い。

そのため、クイズではなくパーティゲームのような単純な遊びを、芸能人が楽しそうにやっているのを見る番組に変わりました。



でも、これが大成功。

「簡単そうに見えるのに失敗する」人を見ていると、本当は難しいのではないかと気になり、試してみたくなります。

パーティゲームだから学校などで友達を集めて遊んでみないと、試すこともできない。


番組を見たことが無い人にも番組内容を伝える効果があり、口コミで視聴者層が広がります。

本当に、当時「知らない人はいない」ほどのヒット番組でした。




さて、それほどのヒットだからこそ「ゲーム化せよ」という指令が下るわけですが、これが難しい。


クイズ番組だったら、そのままクイズゲームにできます。

でも、実際には多数の芸能人が出演し、キャーキャー言っているのを眺めるバラエティ番組なので…



そうでなくても、人気のあるネタのゲーム化って難しいです。

人気があるからこそ、元ネタに手を加えすぎると「なんか違う」と言われかねない。

かといって、手を加えないとゲームにならない。


そこで、冒頭でも書いた通り、エジホンを作ったメンバーに仕事が割り振られました。

エジホンだって、かなり無茶ぶりの「原作付きゲーム化」でしたが、上手く作り上げました。


同じように、無茶な原作付きゲームを、同じメンバーに任せようというのです。




すでに書いた通り、マジカル頭脳パワー!!は芸能人がキャーキャー言うのを楽しむ番組になっていました。

これ、絶対にゲーム化できない部分ね。番組の重要な柱の部分が、ゲーム化に向いていない。


でも、番組と同じような画面構成を作りたい。

回答者席があって、誰かを座らせておきたい。



当然オリジナルキャラクターを作ることになるのですが、当初はそのうち一人が「ドロボウ」というキャラクターでした。

顔に無精ひげはやして頬かむりをして、背中に唐草模様の風呂敷背負ってるの。


企画者は気に入っていたようですが、真っ先に上からダメ出しをくらい、違うキャラになりました。

エジホンのキャラも濃いのだけど、この人の考えるキャラは正直なところよくわからない。


頬かむりと風呂敷と無精ひげを取り去り、ただの「太ったおじさん」になったキャラを見た企画者、「これじゃ部長だよ」と一言。

周囲に同意を求める口調だったのですが、苦笑いしか出ませんでした (^^;


#別に部長に似ていたわけでもない。ただ、部長命令でそうなったので何か言ってやりたかったみたい。




ゲーム内容としては、3人まで同時参加できる早押しクイズです。

クイズ内容自体は、番組初期に使われたクイズと基本的に同じ、間違い探しとか、「立体化した文字をいろんな角度から眺めて文字を当てる」など。



でも、普通のクイズゲームと違うのは、答えをマイクに向かって言って、音声認識で正解かどうかを決める部分。

先に書いた通り、NEC の音声認識 LSI を使うことが前提だったからね。


マイクは高価なので、1本しかつけられません。

でも、モーターがついていて、ボタンを押したプレイヤーの方に向いたのではなかったかな。



この音声認識、ネットでの評判を見ると「精度が悪くて、正解を言っても不正解になる」と怒っている人もいます。


開発者の名誉のために、ここは是非書いておかねばなりません。

精度が悪かった場合は、ほぼ確実に、筐体の設置方法を間違えているのです。



NECの音声認識 LSI は、雑踏の中でも音声認識ができる、優れモノでした。

それくらいでないとゲームセンターの中で使えないからね。


でも、そのためにセッティングが必要なのです。

音声入力用マイクとは別に、周囲の音を得るためのマイクが必要です。


マジカル頭脳パワー!!は、ゲーム筐体の上に、テレビ番組と同じロゴを描いた「板」を載せるようになっていました。

この板の裏に、周囲の音を拾うためのマイクが入っています。

板があるため、「回答者」の声が直接届かず、周囲の音を中心に拾うことができるのです。



でも、この板をちゃんと設置してあるゲーム機、驚くほど少なかったですね。

ただの宣伝用の板だと思われたのか、店舗の人が正しく設置してくれなかったみたい。


#ネットで検索すると、現在・もしくは過去に置かれていたゲームセンターの写真などが多数見つかります。

 それらを見ても、半分程度しか板が乗っていません。


もし板がついていても、ただ乗せるだけではだめで、マイク端子を接続しなくてはなりません。

でも、やっぱり店舗の人はそこまでやってくれない。板を載せれば見た目的には整うので、それで完成と思われちゃう。



ちなみに、マジカル頭脳パワー!!に限らず、専用筐体のゲームでは「店舗搬入後に組み立て」って多いです。

一般的なエレベーターに乗るサイズに作っておかないといけないけど、店舗内では大きくして目立たせたいからね。


大抵は目立たせるためだけのものなので、店舗の人が設置してくれないことは多いのだけど、時折今回挙げた例のように、「ゲームにとって必須の機能」がつけられています。


もちろん、機能的に重要なので「組み立てマニュアル」があって、必ず守るように書かれているのだけど、そこまで書いても読んでもらえてないのね…


#今では写真プリント機の背後にカーテンが付くのは当たり前だけど、最初の頃はあれも設置してもらえなかった。




ついでなので、音声認識チップについて。


企画もプログラマも同期だったので、音声認識なんてすごいことをどうやって制御しているのか、と聞いた覚えがあります。


たしか、この NEC の LSI には、認識前に「認識候補」を6種類くらい登録できるのだそうです。

認識候補は、ローマ字で登録します。音を要素として判別するには、一番使いやすい形。


音声が入力されると、LSI は認識を行い、候補の中でどれが一番近いかを「確率」として返します。

一番高い確率の言葉がしゃべられたのだろう、と考えて、後は正誤判定を行う。


正解以外にいくつかの「誤答例」を入れるのですが、間違いやすい答えを入れるだけではダメです。

それだと、外れていても正解に似た言葉を言うと正解になってしまう。


だから、良くある誤答例と一緒に、正解に似ているけど違う言葉を入れておかないといけない。

ここら辺、わざと似た言葉を言ったりしながら試行錯誤があったようです。



ところで、この LSI 自体は、後に任天堂が Nintendo64 向けソフト「ピカチュウげんきでちゅう」(1998)で使ったものと同じです。


ピカチュウ~は僕の好きなゲームの一つなのだけど、音声認識に失敗して思わぬ行動をとっても、「ピカチュウだから」で済んでしまうので、上手い設定だと思いました。


#初期の AIBO で、AI の機能が低いからこそペットらしかったのと同じ。

 AI は饒舌でないほうが、何か考えているように見える。




以前書いた、ST-V で3人同時プレイのゲームでクレジット表示が規定通りに作れなかった、というのはこのゲームのこと。

あの記事を書いた時点では、ゲーム名など特定されないように詳細ぼかしてましたけど。


簡単に概要を書くと、ST-V では複数人数同時プレイのゲームでは、同じ行にクレジット表示を出さないといけない、という規定があったのね。


でも、この規定自体がおかしかった。

クレジット表示には他にも規定があって、すべてを満たそうとすると「二人同時」以外のゲームは作れなかった。

というか、当時は対戦格闘が流行していたので、二人同時ゲームのことだけ考えて規定を作っちゃったのだろうね。


でも、現実問題として三人同時のゲームを作っているわけです。それが「作れない」という仕様が悪い。


行をずらしたかも、と先の記事では書いていたけど、日本のテレビ番組のゲームは日本でしか売らない、と割り切って、海外向けの情報表示はないものとして無視したかもしれません。




このゲーム、タイトル画面に「日本テレビ系列 木曜 夜7:54から放送中」というような表示を出していました。

これは、是非入れてくれと番組側から要望があったみたい。


でも、この何気ない一文に、すごい苦労していたのを知っています。


だって、すでに長寿番組で、過去に何度か時間帯が変わっているのです。

今後も変わらないとは限らない。単純に宣伝文を入れればいい、というわけではない。


それどころか「日本テレビ系列」とすら限られていない。

地域によってはテレビ朝日系列やフジテレビ系列の局が放映していましたし、時間帯が違う場合もありました。


だから、設定画面で局や時間帯表示を選べるようになっています。


さすがに、分は一分刻みとかには出来なかったはず。「54分」か「00分」「30分」しか選べなかったのではないかな。

系列局に関しては、将来想定外の局で放映することがないとも限らないので、「〇チャンネル」という表示にしたり、もしくは局は書かずに放送時間だけにしたりもできたはず。


最悪の場合、この表示はなくすこともできました。「放送中」ではなくなるかもしれないしね。



ゲームの本筋とは関係のない、たった一行の表示だけど、企画者がかなり頭を悩ませていたのを覚えています。

でも、「設定項目が多すぎるので該当地域の店舗がちゃんと設定してくれるか心配」とも言っていたような気が。


必要なマイクも設置してくれないような店舗が多いので、こんな細かな設定までしてくれない気がします…



2016.12.04 追記

NEC の LSI について、もう少し後の時代の「音声認識」の詳細を書いたものがあったのでリンクします。

技術に興味のある方はどうぞ。


ULTALKER-C


書かれたのは 2000 年なので、マジカル頭脳パワー!!などに使われたシステムの後さらに4年間研究されていて、性能が向上しています。

でも、基本的な考え方は同じ。

(リンク先文章は、ハイエンド向けの ULTALKER-V の説明から入ります。

 これは考え方から違うもので、認識できる単号数の制限もありません。

 そのあとの ULTALKER-C が、マジカル頭脳パワー!!などで使われていたもののバージョンアップ版に相当します)



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