11年目にして、やっと畳屋さんの世話になった。
住み始めたときは、子供が小さいこともあってよく畳の上に物をこぼした。
入居時に「5年程度での交換が目安」と言われていたので、5年目経った頃に交換を考えていたのだけど、交換してもまたすぐ汚されるのだろうなぁ、という気持ちもあった。
迷ったまま1年過ぎ、やっぱ交換しようかな…と思い始めたときに、東日本震災が起きた。
仮設住宅の建造で建材が軒並み値上がりし、困っているという。
じゃぁ、ちょっと交換は先延ばしにしよう、と思った。
それから2年くらいたっていよいよ交換を、と思ったのだけど、そのころは仕事がうまくいっていなくて、資金がなかったのでもうちょっと先延ばしした。
その後仕事は安定し、今年の頭頃に交換しよう、と思ったら熊本震災が起きた。
畳って熊本産が多い。また先延ばしした。
で、秋になって新聞広告や折り込みチラシで、畳屋さんのセールを多く見かけた。
そうか、イグサだって農作物だから、季節があるのか。
どうやら、夏から収穫して、畳表として使えるようになるのが秋のようだ。
「どこかに電話しよう」と思ったまま、なんとなく日が過ぎる。
いや、そんなことじゃいかん。ここに電話するぞ、とある日入っていた広告を冷蔵庫に磁石で貼る。
ただ、ちょっと悩みがある。
スウェーデンハウスの畳は、ちょっと特殊なのだ。電話をかけて、その特殊なものに対応できるか聞くのが面倒くさい。
電話しなくちゃな~、っと思いながらずるずる日が伸びていたら、セールス電話がかかってきた。
電話しようと思っていた畳屋だった。
これも何かの縁と思い、その場で畳を変えようと思っていると相談する。
ただ、スウェーデンハウスの畳は特殊で、対応してもらえるのかどうかわからなくて…ということも。
とりあえずは見てみないとわからないので、明日職人をうかがわせます、という返事。
翌日に職人さんが来て、見てもらう。
対応は可能だそうだが、やはりスウェーデンハウスの畳は特殊である、ということを説明される。
まぁ、特殊なのは知っていたのだけど、知らないこともいろいろ教えてくれた。
スウェーデンハウスで使われる畳は、非常に薄い。
一般的な畳は、厚さが6cmくらいある。でも、最近はこれよりも薄くて、3cmくらいしかない「薄畳」も多い。
ところが、スウェーデンハウスの畳は 5mm 程度の厚さしかない。
これには二つ理由がある、
まず、スウェーデンハウスの床下は断熱材がたっぷり入っているため、厚い畳を収めることができない。
…いや、それは些細な問題か。真の理由は2つ目のものだ。
断熱材が入っていても、上に畳を置くことは可能だ。でも、そうしたら畳の部屋に入るときに、数センチの段差ができてしまう。
スウェーデンハウスは「バリアフリー」の家を標準としているので、この段差は許せない。
段差をなくすためには、他の部屋…絨毯なり、フローリング材なりと同じ厚みの畳にして、揃えなくてはならない。
その結果、 5mm 程度の畳になってしまうのだ。
と、ここまではわかっていた。
ここからは畳屋さんに聞かないと知らなかったこと。
畳がこれだけ薄いと、畳の上のゴザの端は、かなり無理に曲げた状態になっている。
だから、はがして逆に曲げると、折れて壊れてしまう。
普通の畳は「表返し」をすることで長持ちさせることができるのだけど、スウェーデンハウスの畳ではこれができない。
畳というのは、畳床に畳表(ゴザ)を縫い付けたものだ。
表返しは畳表だけを裏返しにするのだけど、それができなくても、表替えと言ってゴザだけを交換することができる。
しかし、スウェーデンハウスの畳床は事実上板一枚で、そこに縫い付けるためのミシン目をつけてしまっている。
ほどいてもう一度加工すると、さらに穴が開くことでいたが簡単に割れてしまう。
そのため、畳床から全部作り直しにしないといけない。
実は、この時点で畳の痛みが一番激しいところでは、イグサが擦り切れて、中の糸が見えてしまっていた。
畳1目について、2本セットにした木綿糸が、2筋入っている。
畳屋さんによれば、これは中級品の畳としては最上級のもので、長持ちするという。
畳を変えるときは全部交換するしかないのがわかっているから、長持ちする良いものを使っているのでしょう、とのこと。
安物だと、糸は1本になるので、すぐ切れてしまい、3年程度しか持たないという。
また、これより高級品になると強い麻糸を使うのだけど、その場合は畳表が少し硬くなるため、角を強く曲げられなくなり、薄い畳には使えなくなってしまうそうだ。
もう一つ、スウェーデンハウスは家を建築する際の単位となる「モジュール」が大きい。
畳は地域による差もあるのだけど、関東では江戸間と呼ばれる、88cm を基準とした大きさが多い。
さらに、団地間と呼ばれる 85cm 基準もある。
だけど、スウェーデンハウスは家を作るときの単位を 120cm としていて、畳はこの 3/4 である 90cm を単位として作る。
僅かな大きさの違いだけど、イグサは農産物なのでサイズを大きくすることが難しくて、90cm になると値段が跳ね上がってしまう。
なるほど、説明を聞いて納得した。
普通の畳なら、畳床は長年使えるので、安い畳表を頻繁に張り替えて常にきれいな状態を保つ、ということもできるのだけど、スウェーデンハウスの場合は良い畳表を使って長持ちさせる方がよさそうだ。
で、勧められたのが和紙の畳表。
実は、和紙の畳表があることは知っていた。
独立した時に、ネットの知り合いからホームページ作成頼まれたことあって、その人が畳屋さんだった。
それで、イチ押し商品として和紙畳のことをいろいろ教わったんだ。
非常に良いものであることも知っていて、家を新築する際にも少し考えたのだけど、標準品以外にすると高くついてしまうので使わなかった。
畳屋さんによれば、10年前までは高いけど性能がイグサに追い付いておらず、お勧めしにくかった、そうだ。
新築時に使わなかったのはそれも原因じゃないかな、と。
和紙の畳表は、和紙で紙縒りを作り、そのひもで編んだもの。
イグサと違って繊維の向きが揃っていない…紙なので…ために、摩耗しても表面が削れにくく、長持ちする。
以前は水に弱かったけど、今はフッ素を混ぜて防水加工できる技術ができたそうだ。
…以前教わったものも一応防水はされていたと思うのだけど、より強くなった、ということかもしれない。
紙で作っているために、イグサと違って大きいものが貴重品、ということもない。
普通のサイズで作るとイグサのほうが安い、ということになるのだけど、スウェーデンハウスのサイズになるなら、イグサとそれほど変わらないらしい。
ということで和紙畳にした。
ついでに汚くなっていた襖の張替えも頼み、2週間たって完成した。
昨日、新しい畳と襖が入ったところ。
部屋が何だか明るくなった。
和紙なので、新しい畳特有のイグサのにおいはない。
妻としてはこれがちょっと不服らしく、イグサのにおいの香料でも入れといてくれればいいのに、と言っている。
#サンプル見たときは、和紙の畳表もイグサの香りがした。
これは、紙は匂いを吸着しやすく、他のサンプルと一緒に持ち歩いているから香りが移っただけ、とのことだった。
ちゃんと説明を受けて選んだので、僕としては文句はない。
でも、新しい畳の喜びは、あの香りにある、という妻の主張はわからないではない。
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