モップ!柱時計!コショウ!
1996年のいつ頃出たのかよく覚えていないのですが、公式サイトによれば7月ということになっていますね。
セガのアメリカ子会社、セガ・オブ・アメリカでも、ゲームを作ってはいました。
でも、面白いゲームが作れないのね。
今は海外産の面白いゲームもたくさんありますが、この頃のテレビゲームは、日本のものが一番面白い、と自信をもって言える状態だった。
その一方で、アメリカはアメリカで独自のゲーム文化をつくっていて、モータルコンバットなんかが大ヒットしている。
あの独特のテイストは日本人には作り出せない。もう少しアメリカで受けるゲームを勉強しろ、と上層部がことあるごとに言っていた。
そして、「アメリカに行って、アメリカ人の好きなゲームを探りながら、アメリカ人にゲームの作り方を教えてこい」ということになります。
具体的にいえば、日本から1チーム、アメリカに行って、アメリカ人と協力しながらゲームを作ってこい、ということ。
中堅ヒットゲームを数本作っていた企画の人と、やはり中堅のプログラマ、それと新人で僕と同期のプログラマが1名、アメリカに長期出張しました。
アメリカで作っていたから、どうやって作ったかは一切見てません。
時々、アメリカから作成中の ROM が送られてきます。
また、時々アメリカからメンバーが帰ってきます。
(揃って帰ることもあったし、個別に来ることもあった)
アメリカから帰ってくると、大抵はお土産がありました。
なにぶん、60人くらいいる大所帯部署だったので、「全員にいきわたるように」というと、駄菓子なのね。
これが、アメリカのお菓子って美味しくない!
いや、食文化なので否定してはいけません。でも、日本人の口に合わない、というのは事実。
「好きなようにとって食べてねー」と、事務の人(以前書いた、AM1のお母さんと言われる美人)の机に置いてありました。
チュッパチャップス200本ディスプレイとか持ってくるのだけど、日本では売っていないような、アメリカ人好みのフレーバーが多いのね。
世界的に売られているお菓子なのに、なぜ日本で売っていないフレーバーなのか? というのは、推して知るべし。
自分でいうのもなんだけど、僕は味のストライクゾーン広いです。
みんなが食べないものでも、美味しくいただいてた。
ただ、ある時持ってきた駄菓子詰め合わせに入っていた「ローファットキャンディー」は美味しいと思えなかった。
小麦粉を人工甘味料と一緒に煉り合せたような、柔らかいお菓子。
食べると、口の中に粉っぽさと、不自然な甘みが広がります。
一緒に入っていたチョコとかは人気ですぐなくなったのですが、ローファットキャンディーはいつまでも残ってました。
海外留学経験のある女性の先輩は、アメリカでは人気あるお菓子なんだよー、と言いながら食べてましたけど。
…今記憶を引き出しながら検索したら、発見しました。
Twizzlersというお菓子…だったと思います。
そうか、あの不自然な甘みはリコリスか。
先に「食文化を否定してはいけない」と書いたけど、僕としてはおいしいと思えないことが悔しくて、また挑戦する機会があったら食べてみたいと思っています。
駄菓子なのだけど日本では入手困難で、高くつくので自分で買う気はしない(笑)
でも、送ってくれた人がいたら、ちゃんと食べて(全部食べ切るとは言ってない)、改めて味をレポートしますよ。
作成中のサンプル ROM から「これって、どう見てもダイハードだよね」ってみんなが思ってました。
まぁ、アメリカで作成しているチームとしてはそのつもりだったらしく、アメリカでは版権を取得して「Die Hard Arcade」の名前で発売されることになりました。
ところが、日本では版権が取れません。別の名前が必要になりました。
元々アメリカウケを狙って作ったゲーム。
チームの人もしばらく日本にいなかったので、今の日本の流行もわからない。
そこで、アメリカチームから、「日本側でタイトル案を3つ考えて」とリクエストが来ます。
最終的には、アメリカチームがその中から選ぶことになりました。
日本側でアメリカチームの窓口をやっていたのは、同期の企画A。
同期が集まって雑談をしていた時に、なんかいいタイトル思いつかないか、と相談してきました。
相談に来た時点で、悪くない案が2つ出ていた。でも、どうしてももう一つが考え付かないそうです。
同期の企画Bが、「この2つのどちらかで十分じゃん。あと1つは、絶対あり得なさそうな名前でも入れとけば、2つのどちらかに決まるよ」と言います。
あり得なさそうな名前ってどんなのだよ…と愚痴るAに対して、Bが適当に言い放ったのが「じゃぁ、『ダイナマイト刑事』」。
Bのあまりのいい加減さに、うゎ、あり得ねぇ、いくら何でもそんなひどいの怒られるだろ、と笑いながら、3つ目の案として書き加えられます。
1週間ほど後、アメリカから返事がきます。
チームメンバーの満場一致で「ダイナマイト刑事」に決まった、とのこと。
提案した企画Bが一番驚いて、なぜか周囲に謝り始めてました。
ダイナマイト刑事、というフレーズがなぜ「あり得ない」とまで言われ、選ばれたことが驚きだったのか、説明しないとわからないかもしれません。
ダイナマイト自体は明治期から日本にも入っていましたし、戦争にも工事にも使われました。
この言葉自体は馴染みのもので、取り立てて言うことはない。
でも、1950年代の戦後復興期には、大型工事が繰り返し行われます。
それらの工事ではダイナマイトも多用され、一般にも耳馴染みのある言葉になっていきます。
そして、1958年、小林旭が「ダイナマイトが百五十屯」を歌い、大ヒット。
小林旭は「マイトガイ」と呼ばれ、主演映画「爆薬(ダイナマイト)に火をつけろ」が作られるなど、「ダイナマイト」が一気に流行語になります。
僕も生まれるずっと前の話なので、細かなことはよく知りません。
でも、色気のある女性を「セクシーダイナマイト」などと呼んだのもこの頃。
#ちなみに、「トランジスタグラマー」も同じころで、対になる概念。
話は変わって、映画やテレビでは刑事ドラマというジャンルは初期からありました。
勧善懲悪はお話の基本。
連続もので、毎回悪いやつが出てきて、懲らしめる立場の人がいて…となると、警察官や探偵を主人公にするのは理にかなっています。
特に、ただの事件ではなく複雑な「犯罪」を捜査する刑事が主人公となるのは必然と言えました。
テレビが急に普及した 1960 年代からこうしたドラマは人気があり、1970年代には大ジャンルとなります。
ギャグマンガ「がきデカ」の連載開始は 1974年。
刑事ドラマのブームの先駆けとなる「Gメン'75」は1975年。
でも、1980年台初頭にはもうブームは収束しています。
1986年に「あぶない刑事」の再流行がありますが、このときは半分コメディになっている。
1996 年にもなると、「ダイナマイト」は完全に死語でしたし、「刑事」は流行を逃した言葉でした。
その言葉をあえて組み合わせた、というのが「あり得ない」と言われた理由ですし、アメリカチームに選ばれたときに、発案したことを謝っていた理由でもあります。
ちなみに、1996年の秋に、「あぶない刑事」が映画で復活し、再び流行となります。
2016年にも続編の劇場公開がありました。
他にも、刑事ドラマは以前ほどの人気ではないものの、一定の人気を持つジャンルとして残っています。
また、1997年には、SMAP が「ダイナマイト」という曲を発表。
わざと「微妙に外したダサさ」を狙った曲でしたが、面白がられて「ダイナマイト」が流行語として微妙に復活します。
今となっては「セクシーダイナマイト」って名前の洋服ブランドや音楽バンドが存在するのね。
そんなわけで、今見ると「ダイナマイト刑事」ってそれほど違和感ないんですよ。
でも、命名された当時は、明らかに「あり得ない」名前だった。そのインパクトがすごかった。
そして、そのインパクトの強さゆえに、アメリカチームも全員一致でこれを選んだのでした。
ゲーム内は、日本語版も含めてアメリカチームで作っていました。
でも、国内プロモーションは、先に書いた企画Aの担当。
このAが、当時エバンゲリオンにものすごくハマっていて、宣伝用 WEB ページとか、広告とかがすごく影響を受けている。
さすがにもう当時のページはないのですが、
waybackmachineには一部が残されています。
キャラクターの名前なんかも、全部Aが考えたのではなかったかな。
作成チームの人ではないので名前は表に出ないのだけど、ダイナマイト刑事の方向性を決めた結構重要な人物。
彼はダイナマイト刑事2の時も国内事務を担当しています。
…おっと、今 waybackmachine を見ていたら、最終選考に残った3つの名前が書かれてた。
今見ると、3つともひどいな。当時でもひどいというネタになっているけど。
さらには、その3つの名前になる前の仮タイトルも明かされていた。
仮タイトルは、悪くないけどインパクトが足りない。
3つとも「インパクト重視」で決められていたのかもしれない。
(当時聞いたかもしれないけど覚えてない)
ずっと後の話。サターン版発売に際して、アメリカチームの企画チーフが、ミニゲームを入れたいと言い出した。
サターン版持っている人は知っているね。
起動すると、まず「ディープスキャン」という、非常に古いゲームが動き出す。
ここの得点により、本編である「ダイナマイト刑事」のクレジット数が決まる。
クレジット数によってコンティニューの回数が左右されるので、結構重要。
同様の試みとしては、NAMCO がプレイステーションの「リッジレーサー」で、ロード中にギャラクシアンを遊べるようにしていた。
プレステ・サターンの前のゲーム機は、スーファミにしてもメガドラにしても、ROMカートリッジだった。
電源入れたらすぐ遊べる。
でも、プレステやサターンはロード時間が長い。これは、当時としては「許せない」ことだった。
そこで、このロード中でも楽しめるように、最初に非常に小さなプログラムをロードして動かし、そのゲームを遊んでいる裏で本編をロードする、という策。
メモリの小さなプレステでは、作るのは大変だったとおもう。
(サターンは、ゲーム中に次のデータをロードしたりするための、CDキャッシュメモリを搭載している)
もちろんナムコは特許を取っていて、他の会社が真似することは出来なかった。
たしか、初期の頃に他社が同じようなことをやって、ナムコから訴えられている。
(リンク先では訴訟例が上がっているが、その前から注意を受けてゲーム発売停止、とかあったはず)
でも、ダイナマイト刑事では、同じようなことをした。
最初は、ナムコから訴えられるんじゃないか…と心配していたけど、しばらく後にちゃんと回避していることを知った。
ナムコの特許は「ロード中の楽しみを提供する」ものだ。
でも、ダイナマイト刑事のディープスキャンは、本編でコンティニューに必要になる「クレジット」を稼ぐためのもの。
ナムコの特許は「ロード中の楽しみ」だったので、ロードが終わったあとにゲームが一区切りした時点で終了となる。
でも、ダイナマイト刑事では何度でも遊べた。「ロード中の楽しみ」を提供しているわけではない。
だから、特許には抵触していないのだ。
…もちろん、ディープスキャンのゲーム中に裏でダイナマイト刑事本編をロードしているんですけどね。
技術的に似通ったものだとしても、目的を別のものとすれば特許は回避できる、という例です。
翌日追記
書いてしまってから、法的問題なので確認しておこうと思ってナムコ特許読みました。
うーん、上に「回避している」と書いてしまいましたが、回避していると言い難いかもしれない。
上に書いた内容は、当時聞いたままです。
違うから大丈夫だったんだよ、と部内の法務関係をやっていた先輩に聞いたような覚え。
当時は特許書類なんて簡単に読めませんでしたからね。今はネットで見つけ出せますが。
ダイナマイト刑事のサターン版を作成している時点で、ナムコが特許を持っている認識は確かあったと思いますし、それでも「大丈夫」と言って作っていたはず。
そして実際、訴えられてはいません。
特許というのは、抵触したから即アウトというものではなくて、「訴えられたら」ダメなものです。
セガの法務部は、当時それほど強くなかったので、事前交渉があったようにもあまり思えない。
(でも、訴える前に「警告」されて、何か取引したために訴訟を回避できた、という可能性はあり)
僕はドリームキャストは持っていなかったので、ダイナマイト刑事2は持っていません。
でも、こちらのミニゲームは、「ロード中に入る」のではなくなっているようで、やはり特許を気にしたのかもしれません。
2016.11.27追記
十数年ぶりにサターンを引っ張り出し、ダイナマイト刑事を遊びました。
…上に書いたこと、全面的に間違えていました。
ディープスキャンは、「ロード中ゲーム」ではなくて、ダイナマイト刑事のタイトル画面から選択して遊ぶようになっていますね。
当初はロード中ゲームとして作っていた覚えがあります。発売までの間に、特許回避のために変えたのでしょう。
そして、今遊ぶとサターン版は恐ろしくテンポ悪いな…
ST-V では、ROM からのロードだったのでシーンの間がテンポ良く進むのですが、サターン版ではシーンが変わるたびにテクスチャデータなどを読み込むので、いちいちまたされてテンポが悪くなっています。
文句言いながら最後まで遊んでしまいましたが。
久しぶりに遊んでも、最後までやってしまう程度には面白いゲームでした。
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