こんなツイートを見た。
昔は『ネットの使えないpc』が一般家庭に一般的に普及してたって、全然想像できないです!
— ちょまど@プログラマ兼マンガ家 (@chomado) 2016年3月4日
私はもともと「ネットに転がるBL小説が読みたくてパソコン始めた」(2008)だし、
そもそもケータイでもネットサーフィンしてたし、
ネットの無いパソコンが一般的だったというのはしっくり来ない
うーん、昔話ばかり書いている人間としては解説しないといけないか。
この人、人気者だから同じこと考えて解説する人は山ほどいそうだけど。
別のツイートで、スペックとかの話ではなくて、当時の日常の追想みたいなのを読みたい、と書かれていたので、そういう形式で。
まず、「ネットのないパソコンが一般的だったのはしっくり来ない」と書かれているけど、一般的ではなかった。
1985年ごろのパソコンは、全然一般的な製品ではなくて、よほど好きな人しか買わなかった。
40人のクラスに、1人か2人持っているかどうか…という感じだったから、5%くらい。
全然一般的ではない。
パソコンに興味を持つなんて中学生前後の男だったのだけど、ベビーブームの世代だ。
学校でもクラス数は多い。
僕の学校の場合、6クラスくらいあった。それで、学年でパソコンを積極的にやっているのは、10人くらい。
珍しい趣味を持っているわけで、クラスを超えて仲が良かった。
#実際に持っている人でいえば、もうちょっといる。
でも、買ったものの楽しめずに脱落、という場合も多いのだ。
当時のパソコンは、全く互換性がないものが多数あって、10人集まっても機種はバラバラ。
これで何をやるのか、といえば、大抵はゲームだ。
ゲームセンターに行けばゲームがあったけど、小中学生ではお金もあまりない。
でも、パソコンならゲームが遊び放題。
友達の家に集まっては、その家のパソコン用のゲームでみんなで遊ぶことになる。
#写真は、PC-6001mkII。仲の良い友達が持っていて、よく「スペースハリアー」で遊んだ。
今のパソコンと同じように「いろんなことができる」と考えると間違いで、「いろんなゲームができる」が正しい。
アルファベットとカタカナは使えるけど、漢字すら使えないので、ワープロにもならない。
当時はファミコンは発売された少し後で、まだゲームセンターのアクションゲームの移植が多かった。
ドラクエの発売と大ブームは 1986年だ。
パソコンでは、ゲームセンターの移植よりも、オリジナルのアクションゲームが多かった。
これは、性能が低かったから移植なんてできなかった、という面もあるのだけど、その分工夫を凝らした面白いゲームが多かったんだ。
ゲームセンターのゲームは、100円で少しの時間遊んでもらう、というのが基本なので、短時間のものが多い。
でも、パソコンのゲームは、じっくりと長時間プレイするように工夫されたものが多くて、ファミコンとは違う世界があった。
そして、当時のゲーム好きは、そうした「まだ見ぬゲーム」に強くあこがれていたんだ。
だからこそ、高くてもパソコンを買う必要があった。
当時の主な記録媒体は、カセットテープ。
機種にもよるけど、16KByte ~ 64KByte しかメインメモリがなかった。
今なら、小さな写真も納まらないサイズだ。
そして、このたった 64KByte のメモリにデータを読み込むのに、カセットテープでは 5~10分くらいかかった。
当時は今よりもずっと「漫画」の人気が高かったから、テープの読み込みを待ちながら漫画を読んでいた。
カセットテープにどうやって記録ができるのだろう?
ハードディスクなんかと同じ「磁性媒体」だとは言っても、あれにデジタル記録ができるとは思えない。
…と、現在の妻に言われたことがある。僕が昔話をするときに、妻が知らないからと、からかっていると思われたのだ。
もちろん、カセットテープはデジタルで記録できない。
だから、デジタル信号を、アナログの「音」に変換する。
1200Hz と、2400Hz の音。
これで 0/1 を表現し、1秒間に 1200bit を記録する。
#テープ記録の際には、1バイトの「最初」と「最後」にも信号が付き、1バイト 10bit で表現した。
だから、1秒間に 120バイト記録してあることになる。
音として聞くと、雑音にしかならない。
でも、テレビやラジオで放送して「パソコンのプログラムを届ける」なんて例もあったし、雑誌の付録にソノシート(ビニールで作られた安価なレコード)としてプログラムが付いてくることもあった。
市販のゲームだって、カセットテープで供給されている。
パソコンに読み込んで再セーブ…というような方法でコピーされないように、特殊な仕掛けなんかはしてあるのだけど、カセットテープだからダビングすることは難しくなかった。
もちろん違法だけど、当時のパソコンは最初に書いたように、マイナーな趣味。
違法だと啓蒙するような団体もなかった。
#写真は、PC-6001 の OLION のカセットテープ。
カセットテープ時代の有名プログラマ、竹内あきら氏の作品。
どういうご縁か、現在仕事で時々会います…
しばらくたって、フロッピーディスク (5inch) が普及し始めた。
僕の家の近所の書店が、パソコンの時間貸しサービスをやっていた。
その書店では、PC-8801 と PC-9801 、IBM-JX の3機種を置いていた。
当時はまだ PC-9801 にはゲームが少なく、中高生には PC-8801 の人気が高かった。
#写真は PC-8801 。http://www.emu-france.com/ から引用。
PC-8801 は、標準ではフロッピーディスクを扱えない。
しかし、その書店では、外付けドライブが繋げられていた。
そして、友人がフロッピー版のゲームを購入。
友人の家には、ディスクドライブはおろか、パソコンもなかった。
その「時間貸し」で遊ぶつもりで購入したものだ。
フロッピーって、速いっていうけどどれくらい速いんだろう?
カセットテープだとロード(読み込みの意味)に10分くらいかかるけど、1分で終わったりするのかな。
…なんて言いながら起動すると、数秒でゲームが始まって驚いた。
#僕が初めてフロッピーディスクの速度を知ったゲーム。
PC-8801 用、ハイドライド。
当時は OS という概念は一般的ではなくて、パソコンに搭載された ROM に BASIC が入っていた。
今なら BIOS とか UEFI とか、そういうものに該当する部分。
BASIC というのはプログラム言語なのだけど、BIOS も OS も兼ねていた。
言語の機能として、メモリに直接自由な値を書き込んだり、そのメモリを実行したりできたので、BASIC からほかのプログラムを実行したりしたのだ。
カセットテープのゲームは、まず BASIC の LOAD 命令で読み込まれる。
読み込みが終わった時点では、その気になればプログラムが読める。BASIC で書かれているからだ。
でも、普通は内容は、メモリに書き込むデータの羅列。意味が分からない。
実行すると、メモリにプログラムを書き込んで実行する。その結果、さらに大きな機械語プログラムをテープから読み込み、即実行する。
先に「読み込んでからセーブしてコピーすることは出来ない」と書いたのは、こういう仕組みだから。
ゲームが動き始めたら、止めるにはリセットするしかないし、リセットすればプログラムは失われる。
1983年ころだと、機械語を使わずに BASIC で書かれたようなゲームも普通に出回っていた。
BASIC は初心者向けの言語で、実行速度も遅かった。
今でいえば、Javascript なんかと同じなのだけど、CPU が遅いことに加えてプログラム言語の技術がまだ低いので、ずっと遅い。
でも、腕に覚えがある人なら自分でアクションゲームを作れたし、アクションではないパズルなどを作る人もいた。
そうしたゲームが、BASIC のまま市販されることもあった。
でも、雑誌なんかに投稿され、掲載されているものもあった。
だから、雑誌に載っているリストを打ち込む根気さえあれば、非常に安くゲームを遊ぶことができた。
まぁ、雑誌に載るゲームは素人が作ったものだから、それほど面白くはないかもしれないけどね。
僕も、2度ほど雑誌に載ったことがある。
僕が使っていたのは、ファミリーコンピューターの周辺機器として発売された、ファミリーベーシック。
#写真は、「マイコン BASIC マガジン」。当時のプログラム投稿雑誌で一番人気があった。
雑誌の上に紙が載っているのは、僕のプログラムが掲載されたときの原稿料の通知書です。
先に「当時のゲーム好きはパソコンを買う必要があった」と書いたけど、僕は貧乏で買えなかった。
でも、ゲームが遊びたかったというより、プログラムが組みたかったので、これでよかったんだ。
当時のパソコンの使い方を「大抵はゲーム」と最初に書いたけど、おそらく2番目の需要がプログラム。
プログラムで何かを作りたい、というよりは、プログラムそのものをやってみたい、という需要。
何を作るかと言えば、やっぱ大抵はゲームなんだけど、絵を描くだけでも楽しかったし、音楽を演奏するだけでも楽しかった。
そして、ゲームを作ったとしても、すごく面白い作品になんてなるわけがない。
ゲームを作る、ということ自体を、一種のパズルゲームとして楽しんでいるだけ。
当時のパソコンはゲームしかできないものだったけど、「俺の考えた最強のゲーム」を作ることは…作ろうとすることは出来る、夢の箱だった。
最初にあげたツイートの反響の中に、「当時はネットもなくて、どうやってプログラムをインストールしていたのだろう」と言っている人がいた。
えーと、ハードディスクがないので、インストールという概念もないです (^^;
しかしまぁ、ここまでに書いた通り、ゲームで遊ぶことは出来たし、パソコンショップで買ってくることもできた。
そして、パソコンショップの一部は…いや、半分くらいかな。
「ソフトレンタル業」をやっていた。
今では違法行為だけど、当時は法律がなくて、ソフトは映画ビデオなどと同じものとされていたのね。
大体、市販価格の10分の1くらいで、3日くらい借りられる。
先に書いたように、パソコンのゲームは「じっくり楽しむ」ものが多かった。
3日でゲームを終わらせる、なんて無理な注文だし、誰もそんなこと考えてない。
もちろん、レンタルソフトはコピーするものだった。
レコードレンタルだってコピーするのが普通で、複製保証金がカセットテープの生テープに含まれていた。
だから、パソコンソフトだってコピーするのが当然、とみんな思っていた。
この頃になると、もうフロッピーディスクの多い時代。
カセットテープと違って簡単にはダビングできず、特殊な方法で「コピープロテクト」が施されている。
でも、私的複製は法律でも認められた権利なので、コピープロテクトを外してコピーするためのソフト、というのも売られている。
何百種類ものソフトに対応し、コピーできるのだけど、自分自身のコピープロテクトは外せない、という仕組みなので、コピーソフトだけは買うしかなかった。
#他社のソフトのプロテクトを外す、という機能はそれなりにあったけど、コピーソフト会社同士の不文律か、外せるソフトは少なかった。
後に、レコードなどと違って、デジタル情報のコピーは劣化せずにいくらでも作れてしまう、ということが問題となり、こうした「パソコンソフトのレンタル行為」は違法となる。
でも、レンタルは違法でも、中古ソフト販売は違法ではなかった。
だから、こうした店では中古ソフトを7割の値段で売り、3日以内に再度売りに来た場合は6割の値段で買いとる、なんて行為が横行した。
それは事実上レンタルだろう、という裁判所の判断が下りて警察が動き、やがてすべての店が消えうせたけど。
冒頭にあげたツイートでは、BL が見たくてパソコン始めた、と書かれていた。
当時だってもちろん、そういう需要はあった。
BL というより、エロ、特に 1985年には流行していた「ロリコン」ってやつが多かったようだけど。
#ロリコンっていうのは性的指向の意味だけど、当時は特定の絵柄やシチュエーションに対して「ロリコン」という言葉が使われた。
実は僕はこっちの方向は疎くてそれほど知らない。
いや、恥ずかしくて格好つけているとかではなくて、本当に当時興味がなかったのよ。
それでも、雑誌広告などに入っていたので記憶はある。
当時はエロ漫画だってエロ写真集(当時、ビニール袋に入れて立ち読みされないようにしたことから、ビニ本と呼ばれた)だって、モザイクやぼかしが入っていた。
だけど、パソコンなんて一部の人しか知らないマイナー世界。
簡単な線画とはいえ、局所をモザイクなしで描いたゲームが普通に市販されていた。無法地帯。
ここら辺、黎明期のインターネットと似ているね。
内容だってひどいもんで、今だと確実に問題になりそうなシチュエーションを楽しむようなゲームが多かった。
そしてもちろん、そういうソフトが目当てでパソコンを買うような人だっていた。
いつの時代でも、エロと戦争は技術を進化させる。
こちらは、自分のページポリシーで写真なしで…
脱ぎ麻雀コレクターでタモリ倶楽部に出たことでも有名なみぐぞうさんのページに素晴らしいまとめがありました。
とりあえず、思いつくことをだらだらと書いた。
時代背景としては、1985~1990 くらいの話かな。
このページにすでに書いた文章で重複しているものも多いと思う。
特に、ぎーちさんとの対談とは重なる部分が多い。
#ぎーちさんとの話は、パソコンというよりゲームの話題も多かったので、守備範囲が多少違う。
特に関連する話題にはリンクしてあります。
興味があればそちらもお読みください。
後から追記
後から「画像があると想像しやすい」ってリクエストいただいて、画像などを入れ込みました。
普段画像なんて入れ込まないから、入れ方にセンスがないよ(笑)
どこかのサーバーにあった画像などは、直接リンクさせてもらったうえで、出典を明記しています。
問題があれば削除いたしますので指摘してください。
こうした「当時の世相」みたいなものも、どこかでまとめたいと思っていたのですが、とりとめが無くなりやすく、まとめる機会がありませんでした。
今回は簡単な形ですが、まとめるきっかけを与えていただけたことに感謝いたします。
後から追記その2
いろいろと続編書きました。
レンタルソフトのコピーが当然の権利だと考えられていた時代の、コピープロテクトの話。
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