今日はアンドリュー・グリーンバーグの誕生日(1957)。
Wizardry の作者の一人です。
昨日、RPGの発明者、デイブ・アーンソンの話を書きました。
彼の考えたD&Dは大ヒットし、多くの人が遊びました。
コンピューターの昔話から始めます。
まだ、パソコンが生み出されるずっと前の 1952年、アメリカのイリノイ大学で、ILLIAC I というコンピューターが作り出されました。
コンピューターの研究目的で作り出されたもので、高性能化の工夫が多数入っていました。
当時としては、非常に高性能のマシンです。
1960年、イリノイ大学は ILLIAC I を使い、大学内の教育用コンピューターシステム、PLATO を作り上げます。
当時のコンピューターは、パンチカードなどで入力を行い、タイプライタで結果出力するのが普通でした。
しかし、PLATO では学生が親しみやすいように、ブラウン管に文字を表示し、キーボードから操作することが可能です。
PLATO は段階的にバージョンアップされ、1972年には PLATO IV が作られます。
#IV はローマ数字の「4」。4番目のバージョンです。
これまでの機能アップで、文字だけでなく簡単な画像も表示できるようになり、複数人数が同時に使えるようになっています。
そして、簡易言語によってプログラムをすることが可能でした。
さらに、1970年代半ばには端末側がバージョンアップされ、Intel 8080 が搭載されます。
これにより、中央のコンピューターを使わず、端末だけでも簡単なプログラムが実行可能になります。
#PLATO もいつかちゃんと調べたいマシンの一つ。
今のところ、通り一遍の知識しかないので、あまり偉そうに語れません。間違えてたらゴメン。
PLATO でプログラムを組める理由は、「教育ソフトを製作するため」です。
しかし、学生たちは競ってゲームを作り、楽しみました。
大学側はこうしたゲームを見つけると削除していたのですが、学生達はすぐにゲームを復活させてしまいます。
本当に数多くのゲームがあったようなのですが、「地下牢」(Oubliette)はアンドリューのお気に入りでした。
D&Dのルールを使ったコンピューターゲームで、3Dで描かれる迷宮をさまよい、モンスターと戦います。
ただ、「地下牢」では、探検する主人公は1人だけでした。
「役を演じる」ゲームであるRPGでは、一長一短ある仲間たちが、助け合う形で冒険するのも楽しみの一つです。
また、「地下牢」は大学でしか遊べませんでしたし、先に書いたように、時々大学側に消されてしまいました。
すぐに復活するとは言っても、復活したファイルを探し出すまでは遊べなくなります。
アンドリューは、「地下牢」を参考にしながら、もっと本物のD&Dに近い、奥深いゲームを、家でも遊べるように作ろうと考えます。
1980年、アンドリューがシステムを考え、友人であるロバート・ウッドヘッドが Apple II にプログラムをする形で、Wizardry が作られます。
大学の友人にも遊んでもらい、意見を反映し、速度を上げるために別の言語で書き直し…
1981年9月、完成度を高めたものが発売されると、このゲームは伝説級の大ヒットを記録しました。
D&Dは、主人公たちの視点…3Dで迷宮の中をさまよい、目的を達成するゲームです。
戦士、魔術師、僧侶、盗賊などでグループを作り、それぞれの能力を活かして助け合わなくてはなりません。
Wizardry は、常に「死」の恐怖と戦い続けるゲームです。
死んでしまうと、それまで育て上げたキャラクターは、無情にも消え去ってしまいます。
リセットすればやり直せる、というような甘さはありません。
道に迷うことも死につながるため、歩くだけでも気を抜けません。
戦闘でも、たとえ弱い相手でも、いい加減な戦い方はできません。
おそらく、このゲームが今発売されたら「クソゲー」と片付けられるでしょう。
遊ぶ人に対して、とことん不親切です。しかし、不親切だからこそ、世界を探検し、乗り越える楽しみがありました。
ゲームといっても、気軽に遊ぶゲームではなく、真剣勝負としてのゲームなのです。
後にシリーズ化されましたが、最初の Wizardry には「狂王の試練場」というサブタイトルがつけられています。
君主トレボーは、その圧倒的な強さから「狂王」と呼ばれ周辺各国から恐れられていた。
ところが、ある日トレボーの力の秘密であった、「アミュレット」(お守り)が盗まれてしまう。
盗んだのは、魔術師ワードナ。
ワードナは地下迷宮を作り上げ、その一番深い階層に姿を隠し、地下迷宮に魔物を解き放して守りを固めます。
トレボーは、アミュレットを取り戻したものに莫大な褒美を約束した。
この褒美を目当てに、各国から腕に自信のあるものが集まってくる。
プレイヤーもその一人として冒険を行う。
…主人公、金目当てに集まった冒険者で、伝説の勇者とかじゃない。
冒険者がたくさんいるから、そういう人を相手にする商売人も多い。非常にリアリティのある設定です。
ところで、トレボー(Trebor)は、プログラマのロバート(Robert)を逆に書いたものです。
そして、ワードナ(Werdna)も、システムを考えたアンドリュー(Andrew)を逆に書いたもの。
今では、ワードナって「大魔術師の名前」として時折使われます。
Wizardry がそれだけ影響力の大きなゲームだった、ということ。
その Wizardry 自体、冗談がたくさん入れられているゲームですけどね。
上に書いた名前もその一つだけど。
中世の世界観なのに、「サムライ」とか「ニンジャ」とか出てくる。
サムライが強くなると、「ミフネ」になる。(アンドリューは日本映画が好きで、三船敏郎のファンだった)
カシナートの剣(なんでもよく切れる、という宣伝のミキサーの名前から)とか、ボーパルバニー(殺人ウサギ。モンティパイソンのコメディから)とか、最初のシナリオでは出てこないけど、「聖なる手投弾」なんてのもある(これも、モンティパイソンネタ)。
状態異常や、死んだ時に最後の望みで復活を試みられる寺院の名前、「カント寺院」というのだけど、これだって冗談。
cant って、「偽善」の意味ね。人の弱みに付け込んで、高額を要求する寺院。
日本では、英語の冗談は理解されずに、そのまま訳されました。
冗談がわからないから、すぐ死んでしまう難しいゲームだということも相まって、すべてがシリアスな設定だと捉えられた。
Wizardry の一番の楽しみは…
というか、人それぞれに違う楽しみ方ができるゲームなのだけど、「アイテム探し」をした人も多いでしょう。
基本アイテムだけでも数多いのだけど、時々ランダムに「魔法がかかっている」ものが落ちるのね。
この魔法は、ランダムに +1 とか +2 とか、数字がつく。
D&Dと同じように、Wizardry では内部でさいころを振っています。
敵に与えるダメージも、6面さいころ2個、とかの数字。
するとどうなるか。6面2個なら、期待値は 7 です。これが +2 になっただけで、期待値が 9 になってしまう。3割近い性能アップです。
アイテムには出現確率があって、ただでさえ手に入りにくいものもある。
そこに持ってきて、魔法がかかっているというのはとんでもないお宝なのです。
ランダムだからこそ、終わりがなくていつまでも探し求めてしまう。
もう、余裕でワードナを倒せるようになっても、いつまでも遊び続けられるのです。
今でもこういうゲームありますけどね。
というか、Wizardry よりも昔からありますけど、すごく上手にゲームに組み込んでいた。
今でも、いろいろなところで Wizardry の影響を見ることができるように思います。
でも、初期のシリーズは権利が不明確で、再販とかリメイクとかできないらしいのね…
シナリオを作ったアンドリューは、その後弁護士になり、知的所有権が専門だそうです。
(IEEE知的所有権委員会の元会長でもあります)
その専門知識で、権利関係をなんとか解決してもらいたいものです。
#そんなに簡単にいかないから、今でも不明確なままなのだろうけど (^^;
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