今日は、レイ・ドルビー博士の命日(2013)
ドルビー…っていうと、カセットテープを知っている世代には、なんかカセットテープの音質をよくするあれね、という記憶があると思います。
その後多くの音響技術を作り上げるのですが、あの「カセットテープのシステム」がドルビーが世界的に有名となったきっかけ。
今更覚えている人がどれくらいいるかわかりませんが、その昔、テープレコーダーの時代には、独特の「高音域のノイズ」が入りました。
高い音で、サー…っていう雑音が入るのね。
原因は、テープを動かしているため。
テープには磁性体が塗られていて、この磁性体の磁場を変化させることで記録を行います。
磁性体は、小さな磁石です。
テープが動けば磁場が動く。これを読み取って再生するのですが、「何も録音されていない」ときでも、磁場はかすかに動くのです。
これにより、高音域のノイズが生まれます。
#この、テープ由来のノイズを「ヒスノイズ」と呼びます。
テープ由来でなくても、同じような音はヒスノイズと呼ばれるけど。
もう一つテープ時代特有の技術話を。
テープレコーダーは、全周波数を均一に記録できるわけではありません。
テープを動かすことによる「磁場の変化」で記録を行うので、低周波数になるとこの変化がゆっくりになりすぎて、記録が弱くなります。
また、テープの動く速度に比較して、早すぎる動き…高周波数の音も、うまく記録できず、記録が弱くなります。
もともと、テープレコーダーは人の声を記録することを前提に開発されました。
そのため、人の声の周波数はきれいに録音できますが、それよりも低かったり、高かったりすると記録が弱くなる性質があるのです。
そのため、テープに音を記録し、再生すると、音が歪みました。
これは先に書いた高周波ノイズとは別の問題ですが、テープレコーダーの難点でした。
どちらも、テープレコーダーの原理上「仕方のないこと」でした。
でも、ドルビー博士はこれをどうにかしたかった。1966年に、ドルビー・ノイズリダクションシステムを完成します。
両方の問題を一挙に解決する、素晴らしいアイディアでした。
高音域は、記録が弱くなってしまうので、あらかじめ高音域の音だけ大きくしたうえで録音します。
再生する際には、読み取ってから音を小さくして、再生します。
これによって、記録の弱さを補えます。同時に、高音域で勝手に発生してしまうノイズも、「小さくして再生」するので軽減できます。
基本アイディアはこれだけ。
低音域も音を大きくして記録したり、いろいろな微調整があり、音質が明らかに向上しました。
当初は、映画などに使用される音響技術として使われ始め、のちには民生用のコンパクトカセット(いわゆる、カセットテープ)でも使われています。
#映画用と民生用では、多少技術内容は異なります。
ノイズリダクションシステムを皮切りに、ドルビーサラウンド、ドルビーデジタルなど、ドルビー博士は時代の求める音響技術を次々と開発していきます。
パソコン用にドルビーデジタルが出てきたころ、僕は「ドルビーといえばヒスノイズ軽減」と思っていたので、テープの存在しないパソコン音源になぜドルビーが? と思いました。
これ、音声圧縮システムなのね。mp3 などと同じ。
ac3 がドルビーデジタルを意味していて、5.1 チャンネルサラウンド。
左右だけでなく、センター、後ろ左右、低音用サブウーファーの音声を同時に記録できます。
ドルビーサラウンドは、ステレオ 2ch で、後ろスピーカーから出す 3ch 目の音も記録する技術。
ステレオスピーカーでも問題なく再生でき、スピーカーを増やすと迫力が増すため、広く使われました。
のちに改良され、ステレオ音声記録で、5.1ch 再生まで可能になっています。
テープ時代のドルビーは、ノイズを低減する代償として、音が少し歪む、という問題もありました。
パソコンのプログラムを記録する際は、ドルビー機能を使わないことが推奨されたものです。
#パソコンのプログラムを、1200Hz / 2400Hz の「音」で 0/1 を表現して、カセットテープに記録していた時代があったのですよ。
ドルビーサラウンドも、ステレオと互換性を持つ記録で 5.1ch 再生できる、というメリットはありますが、もちろん最初から 5.1ch を記録するのに比べると音は悪いです。
ドルビーデジタルも、圧縮形式としては初期のもので、今となっては後発の dts のほうが音質が良い、と言われます。
ドルビーの技術は、音質を良くしようと作られているものが多いのに、「音が悪い」といわれやすい。
ドルビー技術は、最初の制約の中で、工夫によって音質を上げようとするものが多いです。
制約自体をなくして、後から作られた技術に劣るのは当然。
そこと比べて悪口を言うのは簡単だけど、現実問題として存在する制約をクリアできるドルビーの技術は、広く使われていることが多いのです。
ドルビー博士はすでに亡くなりましたが、研究所とスタッフは活動を続けています。
これからも、音響の新技術を開発し続けるのでしょう。
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