2015年08月05日の日記です


土用の丑に鰻を食べる理由  2015-08-05 17:46:11  料理

数年前に、日記として「土用に鰻を食べる理由」を書いたのだけど、子供の疑問から始まる日記だったので記述がとっ散らかっている。


その後知ったことや、そこには書いていない理由などもあるので、今年2度目の夏の土用の丑である今日、改めて情報をまとめておこうと思う。

内容の重複は多いので、知っている人は読み飛ばして下さい。




まず、「土用どよううし」が何であるかを知る必要がある。


古代中国の人は、万物は5つに分類できると考えた。

これを五行説という。


木火土金水もっかどこんすい、というのがその5つだ。


中国では、人々が生活するところは「土」だった。

東に行けば海に近づき、豊かな自然が広がった。これは「木」だ。

逆に西に行けば砂漠だ。黄色い砂は「金」だ。

南は暑い。単純に「火」。そして、逆である北は「水」。


これが五行説の考えの元となっている。




五行には、それぞれ複雑な関係がある。


まずは、「生み出す」関係。


木は火を生み出す。火は土を生み出す(燃やせば何でも土に還る)。

土を掘れば金(鉱物)を生み、金属は結露して水を生み出す。


最初に書いた木火土金水、はこの順序で五行を並べたものだ。


強弱の関係もある。

水は火に強い、土は水に強い(水を吸収してしまうから)、木は土に強い(根を張るから)など、それなりの理由がある。



五行は先に「万物を分類できる」と書いたけど、家畜も五行に分類される。

暖かな毛を取ることができる羊は「火」だし、動きは遅いが力強い牛は「土」だ。


そして、季節も五行に分類できる。


木や草が芽吹く春は「木」、暑い夏は「火」、収穫の秋は「金」、寒い冬は「水」だ。

…あれ? 季節は4つしかない。


そこで、「季節の変わり目」を土とした。

土をもちいるから土用。


1年365日を5つに割って、その一つをさらに4分割して各季節の間に入れる。

計算してみるとわかるが、土用はだいたい18日間づつになる。




土用、が何かわかったところで、丑についても書いておこう。

これは十二支だ。「子丑寅卯ねうしとらう…」の「丑」。

今年はひつじ年、等のように使われるけど、年に限らず月も、日も、時間も、十二支で表すことができる。


先に土用が18日間と書いたけど、日付を十二支で表すと足りなくなり、1周半する。

年によって夏の土用の丑が1回だったり2回だったりするのは、そのためだ。


#この日記を書いているのは、2015年の2回目の夏の土用丑。



十二支もまた、五行に分類される。

この割り振りは、元々十二支は「月」を意味してもいるので、月が属する季節によって割り振られているようだ。


子は冬なので水、丑は季節の変わり目の土用なので土。

寅卯は春なので木、辰はまた土用なので土、という具合。




さて、土用の丑の話に移ろう。


夏の土用は、季節が木から土に移り変わる。

ところが、先に書いたのだが、木は土に強い。


季節によって、大きな「気」…エネルギーが移り変わる、と考えられていた。

人間ももちろん自然の一部なので、この影響を受ける。


春の「木」のエネルギーはだんだん弱り、次の「土」のエネルギーがやってくる。

しかし、先に書いた通り、木は土よりも強く、根を張ってしまう。


このため土のエネルギーは負けてしまい、体に入れないことがある。

すると体調を崩し、元気がなくなる。これが夏バテの原因だと考えられた。



対策として、土の力を積極的に取り入れる、土の力を持つものを食べることが良いとされた。

先に書いたが、家畜で「土」なのは、牛だ。牛を食べると良い。

食べる日は、十二支で土に分類される日が良い…のだが、丑の日が選ばれている。


多分、食べるものが牛だから、丑なのだろう。



科学的なことを言えば、夏バテは暑さからくる疲労なので、十分に栄養を取ると良い。

古代においては肉なんてめったに食べられないご馳走だ。牛肉なんて食べたら夏バテにならなかったのも当然だろう。




五行説は陰陽道や仏教と共に、5~6世紀の日本に伝わる。


陰陽道は十二支や十干(あわせて干支えとと呼ぶ)を使う占いだ。

占いと言うと胡散臭いのだけど、当時としては最先端の学問だったと思ってもらう方がいい。

平安時代にはかなり信じられていて、宮中行事にも影響を与えていた。


当然、土用の丑、等の行事もあったんじゃないかな、と思うけど、専門に研究したわけじゃないのでここら辺は怪しい。


ところで、先に書いたように五行説は仏教と共に伝来している。

そして、仏教では動物の肉を食べることを禁止している。


といっても、この時代の多くの日本人は八百万やおろずの神々を信じていたので、牛を平気で食べた。


元々は宮中行事だったが、徐々に一般にも広まっていったようだ。

ただし、この当時の牛は貴重な財産であり、庶民が気軽に食べられるものではなかったと思う。


でも、数年に一度牛を殺せば、みんなで食べるのに十分な量があったのではないかな。




やがて日本では神と仏が同一視され(神仏習合)、江戸時代になってすぐにキリスト教が禁止される。


キリスト教が禁止された際に、すべての民が、寺の檀家とされた。

幕府が民衆をコントロールするために、事実上の戸籍制度を作った、と考えていいだろう。

これによって、すべての日本人が仏教徒となった。


これにより、「土用の丑に牛を食べる」という習慣は…失われなかった。

牛を食べるのは禁止されたからおおっぴらには言えず、「うのつくものを食べる」と隠語でささやかれるようになった。



やがて、「う」が付けば何でもいいことになった。

うどん、卯の花(おから)、梅干し、などなど。


でも、牛を食べるのは栄養を付けるためだ。

卯の花を食べても夏バテは抑えられそうにない。



本来の意味がわかっている人たちは、この時期に安く手に入る良質なたんぱく質を食べる習慣に変化させていったようだ。

「う」が付くことにはこだわらない。こちらの方が賢い気がする。


夏の土用に、ドジョウやシジミを食べる習慣が残っている。


ドジョウは夏が旬で、田んぼで簡単に捕ることができた。

シジミは冬と夏が旬で、庶民が安く買える食材だった。


#夏は産卵のために栄養を蓄え、冬は寒さに備えて身を太らせる。

 どちらの時期もおいしいが、夏は収穫量が多くて安くなる。庶民の味だった。




ところで、鰻の旬は冬だ。寒さに耐えるため、身を太らせて脂も乗っている。

夏は痩せてしまい、味も落ちる。


江戸には鰻屋が多かったのだけど、基本的には冬の商売で、夏になると客足が減った。


どうにか夏でも客を増やせないか、と鰻屋の主人が平賀源内に相談した。

平賀源内は発明家として有名だけど、とにかく頭が良い、町の相談役だったのだろう。


平賀源内は、土用の丑の日に、鰻屋の前に「本日土用丑」と大書した。


これで十分。この日に栄養のあるものを食べる、という習慣の人でも、「う」のつくものを食べる、という習慣の人でも、うなぎを食べに来てくれる。



これが、土用の丑に鰻を食べる習慣の始まり、とされているけど、本当かどうかはわからない。

他にも諸説あるけど、この説は面白いので有名なだけ。




さて、これが土用に鰻を食べる、という習慣の始まりだとしても、やっぱりドジョウやシジミは庶民の味だった。

1980年代初頭くらいまで、鰻って高くて気軽に食べられるものじゃなかったから。


鰻はぬるぬるして調理が難しいし、何よりも毒を持っている。素人が気軽に調理できるものではない。

養殖がまだ少ない時代、天然モノを職人がさばいて作った料理が高いのは、当然のことだった。



でも、1979年に鰻価格の暴落が起きている。


1960年ごろから鰻の養殖技術が発達して、鰻は高価だから儲かる、というので多くの業者が乱立した。

その結果供給過剰になって、1979年に価格が大暴落。一気に1/3の値段になった。



さらに、1980年代に入って経済が急成長。みんなが小金持ちになる。

人件費の安い中国で調理した鰻を輸入する、という流通網も出来上がり、スーパーで購入できるようになる。


とはいえ、それまでに比べてずっと安くなったというだけで、やっぱり鰻は高価なもの。

それでも、夏の土用の丑くらいは奮発して鰻を食おう、という人がすごく増えた。


だから、「土用の丑に鰻を食べる」というのが、日本人のごく一般的な習慣になったのはこの頃。



特に、1980年代後半には経済が絶好調で、鰻を乱獲しまくる。

実は、鰻の漁獲量が急に減り始めたのもその頃から。乱獲しすぎで先細りになったのだ。



日本ウナギは、すでに1960年代から乱獲により減少していた。

でも、ヨーロッパウナギやアメリカウナギにターゲットを移すことで、全体の漁獲量は保っていた。


すべてを取りつくして総量が減少し始めるのが、1980年代後半。まさに乱獲と言ってよいだろう。

日本ウナギ以外のウナギも、日本人が食べつくして絶滅危惧に追い込んでしまった。



先に「養殖」と書いたけど、天然の稚魚を太らせるだけの養殖で、全部食べてしまう。

鮭なんかだと、稚魚を育てて放流したりするのだけど、鰻はいまだに生態が解明されておらず、放流もできない。


#最近になって完全養殖に成功したけど、まだ手間がかかりすぎて研究段階。



これほどに乱獲しまくったけど、実はそれほど需要が無かった。

このため鰻が生産過剰になり、1999年に再度価格が大暴落している。



丁度その頃、2001年には狂牛病問題があり、牛丼屋の売り上げが軒並み下がった。


この時の夏に、「すき家」が安くなった鰻を使ったうな丼を売り出す。

これ以降、夏になると牛丼屋が鰻を競うようになった。




「土用の丑に鰻を食べるのは日本の伝統だ」という人がいるのだけど、上に書いたような歴史経緯になっている。


本来、鰻ではなく牛だった。牛が禁止されたらドジョウやシジミになった。

鰻を食べる習慣ができても、高くて多くの人は食べられなかった。



みんなが食べるようになったのは、せいぜい35年前だ。

でも、スーパーで買ってきたウナギ、実は食べるのが難しかった。


鰻を電子レンジで温めると、身が固くなってゴムのような食感になってしまう。

美味しく食べるにはそれなりに「調理」する必要があって、一人暮らしの人などはまだあまり食べなかった。



2001年に安いうな丼が食べられるようになって、本当に「みんなが食べる、夏の風物詩になった」と言っていいだろう。

これが「伝統」だというなら、そんな薄っぺらい伝統捨てちまえばいい。


伝統だから食べるのだ、というのであれば、牛か、ドジョウか、シジミを食べよう。



ただ、土用の丑と関係なく「鰻を食べる」ことに関しては、僕も伝統だと思う。


乱獲するのが問題なのであって、旬である冬に、わずかに捕った鰻を専門店で調理して食べるのであれば、それは伝統だ。


職人に敬意を払い、高価であってもお金を払って食べるといいと思う。

それが鰻を食べるときの、本来の姿だったのだから。




現在、ニホンウナギは絶滅危惧種に指定されている。

これをうけて稚魚の漁獲量を規制しているが、実際には規制枠よりずっと少ない水揚げしかないらしい。


鰻関連の業者にとっては、絶滅されては困るから自主規制しているようだ。


ニホンウナギでなければいいんでしょ? という人もいるが、ヨーロッパウナギも絶滅が危惧され、ワシントン条約の規定により、現在輸入できない。


また、アメリカウナギも絶滅危惧種指定されている。こちらは最近指定されたので、ワシントン条約の規制は「まだ」かかっていないが、だから食べてもよい、という問題ではない。




僕自身は、鰻は結構好きなのだけど、ここ数年食べないことにしている。


いつか保護政策が功を奏して漁獲量が増えるか…完全養殖が食卓に上るようになったら、思いっきり食べたいと思う。




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