3Dゲームの初期ヒットタイトルは、自動車を運転するレース・ドライブものでした。
ポールポジション、TX-1、アウトラン、ファイナルラップ、ウィニングラン、ハードドライビン…
「3Dシューティング」も常に同時代の技術で作られてきましたが、大抵最初はレースもの。
人間にとって、自由空間を「飛行」するよりも、重力に縛られて「走行」する方が、ゲーム内容が把握しやすいためです。
さて、MODEL1 の最初はバーチャレーシング、MODEL2 の最初はデイトナ USA でした。
この2つは大ヒットゲームとなり、他の部署にも「それぞれレースゲームを作れ」という命令が下ります。
#正確なところは知らない。
もしかして各部に命令が下ったのではなく、2研に続いて3研も「セガラリーチャンピオンシップ」をヒットさせたので、1研もなんか作れ、となったのかもしれない。
インディ 500 は、アメリカで人気のあるレースイベントです。
舞台は「インディアナポリス・モーター・スピードウェイ」。
単純な楕円形コースで、ドライブテクニックは活用できませんが、単純だからこそ高速で駆け抜けることができます。
一周2.5マイルのこのコースを、200周すると 500マイル。
これがインディアナポリス 500マイルレース。通称「インディ500」です。
テクニックではない、とにかくマシンパワーの勝負。
もちろん、パワーに負けない強靭なドライバーも必要ですし、パワーのあるマシンを作るメカニックの腕も必要。
長距離の勝負なので、燃料補給やタイヤ交換も重要。
日本では、モータースポーツは「ドライバー」の腕前に注目が集まりがちですが、インディ500は、パワーのあるマシンを作り上げ、使いこなすチーム戦が見どころなのです。
インディ500はビッグイベントで、多くのお客さんが集まります。
それを目当てとした移動遊園地なども来ますし、仮設のゲームセンターなんかも作られます。
そこで、バーチャレーシング(VR)が「インディカーゲーム」として置かれていたのだそうです。
VR は F1 で、インディとは厳密には違うのだけど、車の形は似たようなものだからね。
でも、これを見たセガのアメリカ法人から「正式にインディ 500のゲームを作ったほうがよい」というリクエストが来ます。
先に書いたように、各部でレースゲームを作れ、という命令と組み合わさって、AM1研がインディ 500 のゲームを作ることになりました。
でもね、先に書いたように、インディ 500 ってマシンパワーと、そいつを扱える強靭な肉体を競う側面があるのよ。
「小手先のテクニックではない」ので、小手先のテクニックを競うテレビゲームにはしにくい。
ゲームのインディ 500 では、インディ 500 と言いながら、楕円以外のコースも入っています。
そうでないと、ゲームとして面白くないもの。
インディ 500 なので最高時速は高め…といっても、これもゲーム上では数値が変わる程度で、あまり体感しにくい。
何もかも、バーチャレーシングの焼き直しみたいに見えてしまう。
実際、あまりヒットはしていません。よく出来たゲームではあったのですが。
バーチャレーシングが1992年8月発売。インディ500は1995年7月発売。
VRはわずか3年前で、まだ店舗でも稼働していました。
しかもその3年で、デイトナUSAと、セガラリーも発売になっています。ナムコからもリッジレーサー、リッジレーサー2、そしてインディ500と同時期に、レイブレーサーが発売されています。
レースジャンル市場自体が飽和していました。
そこに食い込むには、アメリカでは人気だけど日本では知名度が足りないレースのゲームは、ちょっと難しかったと思います。
好きだった人は多いようで、Youtube には沢山の動画があります。
でも、エミュレータ動画ばかりなんだよね (^^; 実機から録画、というのは無いみたい。
そして、エミュレータだとまだ再現度が低いようで、文字などのテクスチャ部分が、結構チラつきます。
本物はもっときれいに表示しているのだけど。
その「チラつく」部分のテクスチャは少し特殊なのですが、Indy 500 は、MODEL2 のゲームとしては「あり得ないほどたくさんの特殊テクスチャを表示している」らしい。
僕、MODEL2 のプログラムやったことないのでよくわからないのだけど。
インディカーレースはスポンサーもついているので、車体に沢山ステッカー貼ってたりします。
その雰囲気を出すために、車体に沢山ステッカーを張ってあるのだけど、これが地味に MODEL2 としては高等技術。
MODEL2 って、実はテクスチャがモノクロです。色の濃淡は付けられるのだけど、1枚のテクスチャの中で全く違う色は使えない。
そこで、違う色を付けたい個所には、テクスチャを重ね張りします。
実は、この「重ね張り」は、透明が使える特殊なテクスチャ。テクスチャ容量が小さく、多くの種類を描くことはできませんでした。
インディ500ではこの特殊テクスチャが非常に多く使われている…と、開発中にたまたま画面を見た、別の部署の方が驚いたのです。
それはもう、画面を見て驚くくらい、あり得ない量が出ていたらしい。
たまたま近くの席にいたのでこの時の説明が聞こえたのだけど、ドラクエの文字と同じようなことをしていたらしい。
つまり、16階調…4bit のテクスチャを、2bit * 2枚が重なっている、と考えて使いまわしているのです。
これで、定義量を2倍確保できる。
ちょっと聞こえた程度で詳しいことは知らないのですが、このテクニックは説明していた人が使い始め、後に他の部署でも使われていたみたい。
インディ 500の発売後しばらくたって、本社でファンイベントが行われました。
僕は関係ないんで、会場の外からちらっと覗いただけだったような気がするな。
あまり内容覚えてない。
確か、そこで大会が行われたはずです。
腕に覚えのある人(各地のゲームセンターで予選とかやったのかな?)を集めて、イベント用設定でのレースをやった。
8台対戦、負けている人へのサポートなしの「実力勝負」で、最大周回数の20周勝負、だったと思う。
本物みたいに 200周はできないけど、一番本物のレースに近い設定。
実は、この設定での対戦は、そのイベントの時まで1度も試されていませんでした。悪い予感しかしない…
一応、走っている間にタイヤがすり減ることをシミュレートしています。
すり減るとグリップが悪くなる。カーブが曲がりにくくなるし、スピードを落とした後の立ち上がりも悪くなる。
だから、どこかの段階でピットインしてタイヤ交換した方が、交換時間のロスを考えても有利になる…はず。
この事は、チームの人からもレース前に説明されていました。
本物のレースなら、ピットインしなければ燃料も無くなりますし、タイヤバーストの危険もあります。
でも、ゲームでは燃料は考慮してないし、タイヤバーストもない。
それだと、ピットインしなくてはならない、という強い理由が存在しない。
結果どうなったかというと、誰もピットインしようとはせず、滑りやすいタイヤで何とかカーブを曲がりきる、というチキンレース展開になりました。
オーバルコースを慎重に走るだけで、駆け引きのない盛り上がらない展開。
それでも、優勝者には何か記念品が渡されたはずです。確か。
バーチャフォーミュラ筐体用の特別バージョンも作られました。
バーチャフォーミュラは、バーチャレーシングの特別仕様。
本物のフォーミュラーカーを模した筐体に乗り込んで遊び、カーブなどでは筐体が動きます。
多少小さく作られているとはいえ、座席だけでなく「車」そのものを並べることになるので、非常に広い面積が必要。
筐体自体もバカ高く、ほとんど売れなかったはず。
(8台通信筐体で、およそ1億円。八景島シーパラダイスにあったのは覚えているのだけど、ネットで調べても他に存在した情報が見つからない)
にもかかわらず、MODEL2 が発売されてしまうと、MODEL1 で作られたバーチャフォーミュラは見劣りしてしまい、稼働率が下がっていました。
すごく高価なものを購入した店舗からは、何とかしてほしいという悲鳴が届いていました。
そこで、MODEL2 のインディ 500に変更できるようにしたのです。
基板が変わるからそれなりに高価なのだけど、1億円の機械の改造費だと思えば…
#MODEL2 1台 100万円ちょっとしたので、8台通信なら改修費1千万円程度。
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申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 【まつしま】 バーチャフォーミュラ、4台通信バージョンだったら当時バイトしていたSEGAのゲームセンターで扱ってました。料金設定が高額だったこともあってほとんどプレイされてなかったのが悲しかったです。 (2015-09-08 20:25:46) |