当ページ内では歯車計算機なんかも紹介しているのですが、その中に「ネイピアの計算棒」というものがあります。
これ、ページ開設当初(もう18年も前だ…)に、たまたま科学館で存在を知って書いたものです。
それほど詳しかったわけでもなく、ただ面白がって知ったばかりのことを書いただけなので、あまり深みが無い記事。
(今でも、書いている内容に深みなんてないけどさ)
#ちなみに、その後知ったのですが「ネイピアの骨」と呼ばれることの方が多いようです。
いちいち計算棒のページを見に行かないでもいいように、概要だけ書いておきましょう。
計算棒は、掛け算九九が書かれた棒です。
この時、2桁の数字は、間に斜線が入っています。
上には、九九の「何の段」かが書かれていますので、この数字を並べて、掛けられる数を作ります(何桁でも良い)。
そして、掛ける数(こちらは1桁)の部分に書かれている数字を読み取ります。
斜めの線により、隣同士の棒の数字が組み合わされます。
この数字を足して、書きだすと、答えがわかります。
たとえば、左の図では、573 * 3 = 1719 であることがわかります。
…言葉で説明するとややこしいな。
つまり、掛け算九九の表を使って、繰り上がった部分は上の桁に足していくと答えがわかるんです。
ただそれだけなのだけど、「掛け算」という結構大変な計算を、ただの足し算に変えてしまう道具です。
18年前にこの道具の紹介を書いた時は、「ネイピアの計算棒」の本当の価値がわかってませんでした。
これが、ネイピア数に名を残す数学者、ネイピアの作ったものであることがわかってなかったのです。
今日は、その数学者ネイピアさんの命日。
そして、ネイピア数とは、自然対数の底 e= 2.718281828459045235360287471352…
…いや、いいんです。
対数とか e とか、見ただけで嫌になる人が多いでしょうから、そんな話をしたいわけではない。
ネイピアは、対数を発見し、計算方法に革命を起こしました。
後にそのことが評価され、対数に関係の深い数字に、彼の名前が付けられたのです。
しかし、ネイピアが発見した対数は、現代的なものとは違いました。
ネイピアの時代には、小数の概念がまだ普及していなかったのです。
このため、できるだけ分数の比率で表しやすいように、対数の定義自体も異なっていました。
それでも、その「ネイピアの対数」は、現代の対数に通じる重要な特徴を持っていたのです。
対数の重要な性質とは…
なんと、対数を使うと、掛け算を足し算に変えることができます。
…ここでも、掛け算を足し算に変えようとしているのです。
ネイピアは、計算することの重要性を理解し、複雑な計算を誰でも簡単に行う方法を追求した数学者でした。
ネイピアの考案した対数を元に、後に計算尺が生み出されます。
計算尺とは、スライドする二つの棒を組み合わせた「計算機」です。
2つの棒には、対数で同じように目盛りがつけてあります。
ここで、
1) 棒 A の目盛り 1 の位置に、棒 B の「賭けられる数」の目盛りをあわせる。
2) 棒 A の「賭ける数」の位置の目盛りの下にある、棒 B の数を読み取る。
という簡単なことをするだけで、掛け算が終わっているのです。
棒をずらしたり、さらにずれたところにある数字を読む、という操作は、足し算に相当します。
これは普通の定規でも同じね。3の目盛りから、4つ離れたところの目盛りを読めば、7と書いてある。
ただ、計算尺では目盛りが対数で刻まれています。
そして、先に書いたように、対数では掛け算を足し算に変えることができます、
だから、足し算するような操作をすると、掛け算の答えが得られるのです。
より詳しく知りたい人は、こちらのページが詳細に書いてくれています。
是非、お読みください。
ところで、先ほどネイピアの時代には小数の概念が普及していなかった、と書きました。
それ以前は、小さな数は分数で表現しました。
しかし、ネイピアと同時代の数学者が、常に 10 の累乗を分母とする分数を使うと、整数部分の10進法と相性が良くて扱いやすい、と気づきます。
小数の概念の誕生です。
しかし、当初は表記法がスマートではなく、使いにくいものでした。
そこで、「小数点」を発案したのが、ネイピアでした。
これにより、ややこしかった「小さな数の表記」も簡単になります。
ここでも、ネイピアは「計算を簡単にしよう」と工夫を凝らしています。
現存する最古の歯車計算機であるパスカリーヌは、足し算と引き算しかできませんでした。
しかし、パスカリーヌの百年前に、シッカルトが歯車計算機を設計しています。
この機械では、なんと掛け算も可能でした。
その重要な仕掛けが、ネイピアの計算棒でした。
結局、歯車では足し算しかできないのですが、計算棒を使うことで掛け算を足し算に変換しているのです。
さらにいえば、現代のコンピューターでも同じ原理が活かされています。
表を使って掛け算を簡単な足し算に変換することで、高速な計算を行っています。
一方の計算尺は、電気化されて「アナログコンピューター」となります。
オペアンプ使って計算するのって、計算尺と原理的にそれほど変わるものではない。
でも、デジタルコンピューターが高速化するにしたがって、アナログコンピューターは消えちゃった。
コンピューターなんて高価だった時代、庶民は計算尺を使っていました。
でも、これも電卓が普及したら、やっぱ計算尺は消えちゃった。
でも、「対数の原理を使った計算方法」が消えても、対数の重要性は失われません。
むしろ、強力な計算機が使われるようになって、ますます対数の存在意義は増しています。
人間の知覚は、対数に従うようになっていることが多い、ということが知られています。
こうした、「人に合わせた感覚」をコンピューターで表現するには、対数の活用が欠かせないのです。
通常、オーディオ機器などの音量調節は、対数に従って音の強さを変えます。
対数に従った表示の時に、半分の位置に音量をあわせると、半分になったように感じるためです。
音楽を聴くときも、テレビを見るときも、現代ではコンピューターの応用機器になっています。
内部ではものすごい速度で計算が繰り返されていて、そこに「対数」が何度も顔を出しています。
ネイピアの計算棒はコンピューターの計算を裏で支える基本的な原理となり、ネイピアの発案した小数点と共に計算に使われています。
そして、ネイピアが発見した対数がその計算の中で繰り返し使われ、我々の生活をいたるところで支えてくれているのです。
追記?
書き終わってから気づいた。
去年も記事書いてるじゃんよ!
内容微妙に違うからリンクしときます。
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