ちょうど、ぎーちさんとの対談話で X68k の話題を書いたところだったけど、今日は X68k の発売日でした。
これはもう、熱い思いを18年前に書いている。
でも、18年も経つと、その後の思いも多少はあります。
ちょっと書かせてもらいましょう。
定価は 36万9千円だったそうです。
正確な数字がすぐに見つかる。18年前に書いたときはそこまで調べなかった。
当時のパソコンは、だんだん性能が上がってきていて、ビジネス用の PC98 で一式40万円くらいだったかな。
ホビー用の PC88 だと、一式 30万円くらいでした。
…これだけ聞くと、X68k は案外高くないように思えますね。
PC88 と違って 16bit 機だし、同じ 16bit の PC98 より少し安い。
でも、X68k は「一式」じゃなくて、本体価格だからね。
X68k は、テレビ事業部が作ったもので、「テレビの可能性を広げるパソコン」という思想がありました。
だから、専用ディスプレイはテレビとしても使える。チューナーが付いているんです。
テレビの画面にパソコンの画面を重ねることもできる。これ、パソコン側ではなく、専用テレビ側で制御していました。
せっかく画面を重ねられるのだから、ビデオに録画できるように、テレビに「出力」機能が付いている。
さらに、パソコン側からテレビのチャンネルを変えたり、音量を変えたりできる。
本体の電源を切っている時でも、キーボードでテレビを操作できました。
技術的なことを言えば、テレビは 15KHz の映像周波数で表示を行っていて、当時の一般的なパソコンは 24KHz の映像周波数を使っていました。
X68k は、他のパソコンより画面が細かかったので、31KHz を使っています。
専用ディスプレイは、この3種類の信号入力を適切に見分け、自動的に表示を変えるように作られていました。
なんだかすごいね。
この、専用テレビがめちゃくちゃ高い。
パソコン専用ディスプレイって、細かな文字を表示しないといけない都合もあって、一般にテレビより高いのね。
それが、X68k 専用だとディスプレイだけで 12万9800円。
パソコンの機能の一部を、ディスプレイ側に入れ込んじゃってあるからね。
合計で50万円弱。1987年だから、消費税導入前ですね。
「5年間は設計を変えない」と言った、ということにされていることが多いのですけど、ちょっと違うと読んだことがあります。
当時としては、ものすごい性能の機械だった。
発表会見に集まった記者たちが驚き、こんな高性能にして採算に合うのか、と聞いた。
それに対して「5年先を見越して設計しています」と答えた。
ただそれだけ。
今はすごい機能に見えるものでも、5年後には普通になるだろう。
だから、それを見越していろんな機能を入れてある、というだけで「設計を変えない」とは言っていない。
でも、「設計を変えない」と雑誌などに書かれ、ユーザーがそれを信じるようになった。
性能が高いマシンを発売したら、ユーザーに対する裏切り行為になってしまう。
進化の激しいパソコン業界で、5年間性能を変えるわけにはいかなくなった。
これで、X68k は「性能の低い機械」となって、パソコン業界の中で取り残されていきます。
やっと5年が過ぎて、性能を上げた機械を出しても手遅れ。
まぁ、設計を変えられたのか、というと難しかったとも思います。
5年目のマシンも、ただ CPU を高速化しただけだったし、その高速化も周辺が遅いからあまり活かされなかった。
設計が美しすぎた、というのが X68k の弱点だったと思います。
全てが一体となって設計され、一分の隙も無かった。
だからこそ、後から改良を入れる余裕もなかった。設計した時点が「最高」で、その後の展開がなかったんです。
IBM-PC なんて、最初から設計が汚かった。つぎはぎだらけだった。
その代り、ツギハギ部分を叩き切って、別の機能に挿げ替えることも簡単だった。
結果として、時代に合わせて変わりつづけられました。
実は、「美しいものは儚い」って、このページの開設当初からの隠しテーマなんだよね。
今は使われない昔の機種・機械を紹介しているけど、やっぱ紹介する機械は、僕なりの「審美眼」で選んだものだけになっている。
でも、その「美しいもの」はもう使われていないのです。
大抵は、設計が美しすぎて改造できず、時代に取り残されたものなのね。
僕は、大学生の頃までは「美しいことは正義」だと思っていた。
でも、そうじゃない。時代を超えるには清濁併せ持たねばならないのだ、と教えてくれた機械が X68k でした。
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