今日は、日本がメートル条約に加入した日(1885)。
長さの単位としては、現在では世界中で「メートル」が使われていることになっています。
まぁ、アメリカではフィートを使っていたりもしますが、それでもメートルも認知はされている。
それ以前の世界では、大抵は「人間の体の一部」が長さの基準になっていました。
古くは古代エジプトで使われたキュービット(肘から中指の先までの長さ)とか、古代中国から日本に伝えられた尺(親指から中指の先まで)とか。
でも、人間の体の一部が基準だと「誰の?」というのが問題となる。人によって違うからね。
キュービットなら、その時のファラオが基準だったし、尺は時代と共に大きくされ、最後には30センチ以上になった。
なんで大きくなるのかって?
重さや長さの基準は時の為政者によって定められましたが、定めないといけない理由は「税を納めるときの単位だから」です。
大きいほうが税を多くとれるから、どんどん大きくなるのです!
で、恣意的に長さが変わるし、当然国ごとに長さの基準が違うので、これでは不便だから長さをそろえよう、ということになりました。
呼びかけたのはフランス。これにヨーロッパのいくつかの国が賛同します。
でも、どこかの国の単位を使おう、とか、どこかの国に由来するものを単位にしよう、というのでは不公平。
そこで、スケール大きく「みんなの暮らす地球」を単位とすることにしました。
当時も地球の大きさの概要はわかっていました。
そこで、赤道から北極までの長さを測り、その 1000万分の1なら大体使いやすい長さとなるだろう、と決まりました。
ただ、決めるからには正確にやらねばなりません。
呼びかけたフランスが中心となり、大規模な測量が行われます。
長さも場所によって多少は異なる、と判っていたので、「パリを通る線」と決められました。
この測量には3年を要しましたが、1799年、ついに新しい「メートル」が決まります。
ちょうど1メートルの長さに、錆びにくい白金を使った板を切り、これをフランスの国立中央文書館で保管しました。
しかし、実際にメートルが使われ始めるのはずっと後。
国際的な長さの単位にしよう! とメートルを定めたものの、なかなか新しい単位は使われませんでした。
これではいけない、国際的に普及させようと、1867年のパリ万博を機に、フランスはメートルを国際的に広める活動を開始します。
1870年に、メートルを国際的な単位とするための会議が開かれます。
日本がメートル条約に加盟するのも、こうした一連の会議の途中から(1885)。
メートルは地球を単位としている、という点で理解は得やすかったものの、何かあった時に再度基準の長さを測りなおして再定義…と言うのには不便な単位でした。
そこで、フランスが持っていた「メートル」単位の板を元に、改めてメートルを再定義します。
この板こそが「メートル」の基準であり、もう地球の長さは関係ないことになりました。
そして、この板と同じの棒を再び白金で30本作り、1889年に参加各国に配布します。
各国では、この棒を元に「メートル」を定義しました。
この棒は「メートル原器」と呼ばれました。
しかし、これもまたおかしな話です。
各国ごとに長さが違うのが問題だから「メートル」を作ったのに、各国ごとに別々に保管する棒が、その国における「メートル」なのです。
棒は金属製なので、厳重に管理しても温度によって誤差が出ます。
長さの基準とするのは「0度の時の長さ」と決められていましたが、そもそも、工作精度の問題で、作った時から長さはほんのわずかづつ違うのです。
(作り方が悪いということではなく、当時最高の技術を使って作られても、限界があったのです)
1960年、国際会議により、新たな「メートル」の基準が作られます。
「クリプトン86原子が真空中で発する光の波長の 1650763.73倍」
これが新たなメートルの基準でした。
これはまた、地球を測量するような大事業を行わずとも、また世界中のどこにいようとも、同じ基準で「1メートル」を定められる、ということでした。
クリプトン86は、クリプトンの同位体の中で最も安定したものです。
…話がややこしいですが、すべての元素には「同位体」というものがあり、一定の時間(場合によって数秒から数万年単位まで)たつと別の同位体に変わってしまいます。
変わるとはいえ、クリプトンではあります。でも、少しづつ性質が違います。
この違いを表現するのに、後ろに数字を付けて表現します。
そして、クリプトン86は、一番安定しているクリプトンなのです。
…でも、ここで一つ問題が。
一番安定している、というのは、一番入手しやすいという意味ではありません。
天然に存在する一番入手しやすいクリプトンは、クリプトン84。
そして、「同位体」というのは、少しづつ性質が違うとはいえ、ほぼ同じものです。
86 だけ分離する、というのが非常に厄介。
安定しているから、一度分離すれば他の同位体が混入する可能性は低いとはいえ、「世界中のどこでも1メートルの基準を得られる」という観点でいえば、手に入れるのが非常に難しいのです。
そこで、1983年にふたたび基準が変更となります。
「真空中で光が 1/299792458秒に進む距離」
これが新たな基準でした。
クリプトン86と同じように、光基準です。
しかし、クリプトン86が「波長」を使っているのに対し「速度」を使うようになりました。
波長と言うのは、つまり色のこと。
純粋なクリプトン86でないと、正しい計測ができませんでした。
しかし、新たな基準では「速度」だけが問題で、その光をどのように得てもかまいません。
話はややこしくなりますが、光の「速度」は、色などには関係なく、また重力や、地球自体の動きなどにも関係なく一定です。
極端な話、光の速度で動くロケットの中でも、光も逃げ出せないブラックホールの重力場の中でも、光の速度は一定なのです。
つまり、この基準であれば、宇宙のどこにいようとも、簡単に「1メートル」の基準を得ることができます。
話を最初に戻します。
古代、長さの単位は、人間の体の一部を使用したものでした。
この方法の利点は、いつでも簡単に基準長さを手に入れることができる、という点です。
国際的な共通の長さを求め、1799年に「メートル」が定められました。
これは各国で同じように使える便利な単位でした。
しかし、その反面基準長さが地球の大きさであり、簡単に手に入れることができなくなります。
その後、メートル原器を基準としても、やはり誰でも簡単に参照できるものではありません。
クリプトン86もそうでした。
それが、1983年にふたたび、誰でも簡単に手に入るものを基準にして「メートル」が再定義されたのです。
メートルを定義してから、「簡単に基準が手に入る」という定義前の利点を取り戻すまでに200年かかったのです。
普段何気なく使っている長さの単位ですが、これを「何気なく」使うために、多くの努力が払われ続けているのです。
#メートルは、重さの単位の基準でもあるが、現在重さの単位で同じような努力が進行中。
また、メートルは現在「秒」を基準としているが、こちらでも努力が進行中。
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