今日はスーパーマリオブラザースの発売日(1985)
「今日は何の日」を書いていて、単にファミコンゲームが発売された日を書くことはしない、と言うルールを自分に課しているのだけど、これは別格です。
単にファミコンゲームと言うのではなく、世界で一番売れたゲームとして長年君臨していたし、その後のテレビゲームのあり方を大きく変えたゲームですから。
もっとも、スーパーマリオに対する僕の思いは、宮本さんの誕生日の時にすでに書いています。
ただ…この時に現在は削除されている Blog 記事を参照したのね。
(Wayback Machine で保存されているので読むことはできる)
そして、この記事に対しては内容がおかしい、と言う批判があることを後で知りました。
批判した人は、ちょっとゲーム界では名が知れた人なので、Blog 記事を書いた人は、この批判で記事を消してしまったようです。
概要だけ書くと、僕が参照した Blog 記事は、「宮本さんはスーパーマリオを作る際に、パックランドを研究して、より面白くするアイディアを加えて作った」というものでした。
批判している人は、パックランド発表からスーパーマリオ発売までの期間は短すぎて、どう考えてもあり得ない、と論を展開していました。
スーパーマリオ発売は 1985年の今日、9月13日なのだけど、製作期間に1年以上は取らないといけないはずだ、というのが反論の趣旨。
ある程度形になってから本格的に始動したとしても、本格始動が1984年の7月でないとおかしい、しかしパックランドは1984年8月発売だ、と言うのが大きな根拠となっていました。
この日程の推測は、ちゃんと根拠を示し、細かな数字を積み上げて「かなりのデスマーチ進行」でもこれだけの日程が必要であることが示してあります。
実際にゲーム作成の経験者として有名な方の解説ですから、それなりに信憑性がありました。
ただ、僕から見ると批判している人の根拠もおかしなものでした。
批判した方はゲーム作成経験があるとは言っても、コンシューマー(家庭用)です。
僕は業務用ゲームを作っていた経験がありますが、コンシューマーと作り方が全然違います。
コンシューマーでは1年程度かけるのが当然だった時代もある(今ではもっとかけるのも普通)のですが、業務用はもっと短期のスパンで作られるのが普通です。
今は僕は現役でないのでわからないのだけど、10年前なら半年程度が普通。余程の大作でも1年と言うのは少なかったように思います。
小粒なゲームなら3か月で作ることもあったし、僕が携わったものでの最短は1か月でした。
#いい加減なゲームじゃなくて、それなりの評価を貰ったゲームです。まぁ、小粒感は拭えないけど。
で、スーパーマリオの頃はまだ「コンシューマー」の歴史は浅くて、家庭用でも業務用と同じノリで作られていました。
ゼルダの伝説以前のファミコンゲームって、ゲームセンターの移植がすごく多かったし、オリジナル作品でもどことなくゲームセンターのノリが残っていました。
1980年代前半なら、業務用でも開発期間は3か月程度が普通でした。
スーパーマリオの頃は少し伸びていたと思うのだけど、それでも6か月程度だったのではないかな。
そして、これは「業務用」だけでなく、ファミコンのゲームでも当てはまる開発期間だったように思います。
というわけで、スーパーマリオがパックランドの研究の元で作られた、と言うのはあり得るんじゃないかな、と言うのが僕の立場。
どちらが正しいかはわからないが、自分も知らずに参照して記事を書いた以上、裏付けを取る責任があるだろうな、と思っていました。
そこで、論争の元となったページ…今では削除されましたが、保存されている…の最後に「参考文献」として示されていた本を古本で見つけ、購入してみました。
その本は本文中でも引用しているので、それなりの根拠があるのだろう…と期待して。
でも、全然違う内容の本でした。
この本自体は、非常に良い資料となります。任天堂のゲーム作りを「ビジネスとして」の視点でとらえ、多くのインタビューによって浮き彫りにした良書。
だけどそこにあるのは会社としての任天堂の姿であり、スーパーマリオの開発話なんて一切入っていませんでした。
どうやら、論争の元となった部分は Blog 作者の勝手な推測記事。
わざわざ関係ない本でも「参考文献」として示すのだから、開発話の部分で参考にしたものがあれば書くでしょう。それが無いのだから、勝手な推測と断じても仕方がないレベル。
ただ、それじゃぁ Blog に書いてあったことが全く嘘なのかと言えば、ある程度の妥当性があったように思います。
推測なら推測だと明記すれば、後から読んだ人の参考に十分なる程度には良い考察をしていました。
それが消されてしまい、人の目に触れなくなったというのはある種の損失だと思います。
「自分の経験」だけで、日程的にあり得ない、完全に嘘だ、と断罪した批判者の罪でもあるでしょう。
ちなみに、批判した方は日程的に1年以上は必要、マスターアップ(プログラムの完成)は、発売の2か月前、と断じていました。
この批判 Blog が書かれた後に任天堂が公式に日程を明らかにしているのですが、「(1985年)2月20日に仕様書を書いて、その半年後にはロム出し」となっています。ロム出し(プログラムの完成)は8月の中ごろ…つまり、発売の1か月前だったようです。
まぁ、こうした日程の読み間違いは批判よりも後に明らかになったことで、批判したこと自体が間違えていたとは思いません。
根拠もない勝手な推測記事だろう、というのは当たっていたようですし、多くの意見が出ること自体は健全な状況です。
ただ、現状では「日程がありえない、嘘を付くな」と批判した方は、「1年はかけているのが当然」という嘘を今でも批判記事として放置したままです。
そして、この批判により、勝手な推測とはいえある程度妥当性のある考察をしていた記事は消されてしまいました。
他人の嘘「だと思ったこと」には容赦ないけど、自分が付いてしまった嘘はほったらかし。
これにより、「多くの意見が出ることが健全」だという観点から言えば、非常に不健全な状態になっています。
僕は、人間は誤るものだと思っています。
だから、間違いを書くのも当然。
間違いに気付いた人が批判、反論を出すのは当然の権利です。
ただし、これが言論封殺につながるようなことがあってはなりません。
なぜなら、反論者もまた、間違えて当然だからです。
激しい批判で記事を撤回・消去させたとして、それが後世への損失になることだってあり得る。
ただ、この件に関しては批判者だけが悪いわけではありません。
批判された記事は、「参考文献」から引用した部分から曖昧に推測部分を展開することで、あたかも信憑性のある話のように見せかけています。
これが嘘だと激しく批判されたので、問題となる記事を消して逃げてしまい、謝罪はしなかった。
おそらくは、最初から事実誤認させようという、意図的な悪意があったのでしょう。
ただ、先にも書きましたが、推測にすぎないとはいえ状況証拠はキッチリと押さえた良い記事でした。
推測ですと断りを入れればよいだけの話で、消してしまうのはもったいない。
間違えるのも人間ですが、それが間違いだと気づいたら謙虚に訂正できるのも人間だと思っています。
批判されたら、速やかに検証して、間違いと気づいたら訂正しないといけない。
検証の結果間違いはないと思ったら、そう思った根拠を改めて述べればいい。
――過つは人、許すは神。
今回の記事自体が批判記事なので、自戒の念を込めて。
2015.1.16 追記
故・飯野賢治の「スーパーヒットゲーム学」という本に、宮本さんへのインタビューが載っており、そこでパックランドとスーパーマリオの関係性に答えている、ということをコメント欄で教えていただきました。
早速本を入手し、読みました。スーパーマリオのアイデア自体はパックランド登場よりも古いが、どうもゲームとして形にならず、パックランドの登場によって骨子が固まった、とのことのようです。
詳細は別記事にまとめます。
2015.9.16 追記
ここで書いた「批判側」の方、自分の批判の間違いに気づいたようで、元記事の最後に「書かれたことすべてが誤りであった」ことのお詫びを書いていました。
その方自身は著名な方だったので、記事を無条件に信じてしまう人もいそうなので危惧していたのですが、安心しました。
#この記事が著名な方に盾突く形で炎上すると怖いので、記事自体へのリンクをしなかったのですが。
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別年同日の日記
申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 【隆三】 飯野賢治さんの「スーパーヒットゲーム学」という本に、宮本茂さんとの対談が掲載されていますが、パックランドについても触れられており、大体この認識で合っていると思います。 (2014-12-05 05:38:57) |