先日、子供と科学館に行き、ミュージアムショップで「ミスティクア」と言うカードゲームを買った。
後で調べたら、去年のダイオウイカブームに乗じて作った、ということが臆面もなくプレスリリースに書いてあった(笑)
深海に行って、ダイオウイカをはじめとする深海生物を調査するゲーム。…と書くと、ありがちに聞こえる。
もしそんなゲームだったら買わなかった。
ここまで深海生物にフォーカスしながら、目的は深海生物の調査ではない。
他の研究者との駆け引きを制し、昇進して教授職にいち早くつくことが目的なのだ。
…ほら、これだけで、混乱必至のゲーム展開が予想できて面白そうでしょう?
ミュージアムショップで見かけて「これは買いだ!」って思いましたよ。
まずはゲームシステムから紹介しよう。
カードは2種類に分かれる。深海生物のカードと、各プレイヤーが現在の自分の「位置」を示す、潜水調査船のカードだ。
このうち、潜水調査船のカードは各自の前に、全員に見えるように置かれる。最初に各自が持っているカードはこれだけだ。
潜水調査船カードは、最初は「海上」と書かれた面を表にしておかれている。
裏返すと、向きによって Lv.1 ~ Lv.3 の潜航深度を表せるようになっている。
深海生物のカードには、表に名前・イラスト・生態などの説明と、生息深度(Lv.1~3)、レア度(1~5)が書かれている。
ゲームに必要な情報は、深度とレア度だけ。ちなみに、レア度は「学術的な重要性ではなく、ゲーム内での撮影難易度を示すものです」と注釈つき。
深海生物のカードは、裏返しにまとめてデッキ(山札)として置かれる。
そして、裏返しのまま、中央に5枚置かれる(場札)。
この状態でゲームスタートだ。
プレイヤーは、各自の手番で、以下の行動を順番に取れる。
1) 場札に対するアクション
これには二つあり、「レーダー」か「ピクチャー」のどちらか片方を行う。
レーダーを宣言すると、場札のうちどれか一枚を、自分だけがみることができる。
見終わった後は元の位置に戻す。
ピクチャーを行うと、好きな場札を表にして、全員に見せる。
この時、自分の潜水調査船の「潜航深度」と生物の「生息深度」が一致すれば、写真を撮るのに成功したことになり、カードを手札としてもらうことができる。
(場札が無くなった場所は、山札から補充して、常に場札を5枚にする)
深度が一致しなければ、ペナルティとして手札のうちいらないものを一枚、捨てなくてはならない。
この場合、場札のカードは、再び裏にして元の位置に戻す。
(レーダーを行っていないプレイヤーも、その詳細を知ることになる)
2) 潜水調査船カードに対するアクション
潜水調査船カードを裏返したり回転させることで、違う深度に移動できる。
移動せずに「そのまま」でも構わない。
3) そのほかのアクション
そのほかのアクションを取るには条件があり、まず潜水調査船が海上にいる必要がある。
さらに手札が2枚以上あれば「発掘」が、3枚以上あれば「学会提出」が行える。
(1回には、どちらか片方しかできない)
発掘は、いらないカード2枚を捨てることで、代わりに捨て札の山から好きなカード1枚を貰うことができる。
学会提出は、手札のうち1枚を、伏せて目の前に置く。
誰かが学会提出すると、次にその人の番が回ってくるまでは、「同じ提出期間」となる。
同じ提出期間に提出されたカードは、最初に提出した人の手番の始まる前に、一斉に表にされる。
この時、一番レアなカードを提出した人が、学会で認められたことになり、昇進する。
同じレア度の場合はジャンケン勝負だ。
負けたカードは、すべて捨て札になる。
誰かが4回勝つと教授となり、その人が勝者でゲームは終了する。
ルールは以上だ。
それほど難しいルールではない。しかし、これが非常に練り込まれた、考えさせる局面の多いルールなのだ。
基本的には、レーダーして移動、次の回でピクチャー、と言う手順でカードを入手することになる。
1回では入手できない、と言うのがミソだ。
ここで、レーダーして移動した、ということは、他の人に「自分のレーダーしたカードの深度を教えている」ようなものだ。
もし、事前にその深度にいたプレイヤーがいると、自分の手番が回ってくる前に横取りされてしまう。
そこで、馬鹿正直に移動せずに、嘘を付く必要が出てくる。
カード取得のために移動した…ように見せかけて、全然関係ない深度に潜る。もしも別のプレイヤーが奪い取ろうとすると、ペナルティを負うことになる。
ただ、レア度の高いカードでこれをやると、ペナルティを負う際に「全員に公開」されてしまうので争奪戦になる。
レア度が低ければ嘘をつき、レア度が高ければ狙いに行く、という攪乱が必要になる。
最初にレーダーをかけても移動せず、もう一度レーダーをかけてから移動する、と言う戦略もある。
自分がカードを忘れず覚えておく必要はあるが、周囲のプレイヤーにはどちらのカードを狙った移動かわからず、奪われる危険性を減らせる。
しかし、他のプレイヤーが同じカードにレーダーを行う可能性もあるし、油断はできない。
ゲームの基本である「カードの取得」だけで、非常に深い駆け引きが発生するのだ。
ある程度カードが集まると、学会提出となる。
しかし、ライバルは少ないほど良い。「1週回る間」に「一番レアなカードを出した人」が勝つのだ。
つまり、自分以外誰も出さなければ、どんなにレア度が低いカードでも、自分の勝利が確定する。
ということは、後出し有利。
各自の手札は、途中で「公開」されている。公開しないと手札に加えなられないルールだからだ。
じゃぁ、提出した人を見て、その人のカードから何が出されたか…を想像することもできる。
これは確実に勝てる、とか、負けるからパス、とか考える余地が生まれる。
すると、学会は自分から仕掛けない方がいい?
学会提出後の「勝負」は、最初に提出した人に手番が回ってきたところで行われる。
ということは、最初に提出した人は、大量の捨て札が発生した後に「発掘」できるチャンスがある。
もちろん、皆が提出するカードだから、レア度が高いのは必至だ。
レア度5のジャンケン勝負で負けたカードなんて、是非発掘して手に入れるべきカードだ。
自分から進んで学会提出をするのも、ちゃんとメリットがあるのだ。
というわけで、小学生でもわかる単純なルールなのに、だまし合い、牽制し合いの状況が生まれる。
この中で、どの場札が誰も見ていない(狙っていない)のか、自分がみたカードはどれで、深度やレア度はどうだったのか、記憶していなくてはならない。
レアだったはずのカードをめくったら、隣と間違えていてペナルティ、とか、勝手に自滅することもある。
たった5枚の場札なら覚えられる…と思われるかもしれないが、別の作業もしなくてはならないし、これがなかなか難しいのだ。
ところで、このゲームは多分わざと嘘を付いているところが2つある。
いや、ゲームだから嘘はいっぱいあるのだけど、すごく気になる嘘が2つね。
一つは、深海生物の探査に「レーダー」をつかうこと。
レーダーは電波を使うので、海中では使えない。海中ではソナーを使う。
でも、そんなこと知らない人多いし、ソナーなんて名前を知らない人も多い。
「レーダー」なら理解してもらいやすいから、多分、わかっていて嘘ついている。
もう一つ「学会提出」と言っているけど、これは多分「学会誌への投稿」なのだと思う。
研究者の昇進条件として、学会誌に論文が何回掲載されること、というのがある。
学会誌は「雑誌」なので、紙面に限りがある。だから、投稿が集中すれば、より重要そうな論文だけが掲載される。
だからこれ「深海生物の写真を学会に提出」ではなくて、「撮影資料を基に論文を書いて投稿」している、と考えてほしい。
苦労して資料を集めて、それを時間をかけて論文にまとめて投稿しても、たまたま同時期に投稿した相手との比較で「捨てられて」しまうのだ。
…妙にリアルで恐ろしいゲームだ。(わかる人にとっては)
でも、多くの人は「学会」というのは聞いたことがあっても、どんなものか知らない。
「学会誌」になると、存在すら知らない人の方が多い。
だから、わかりやすく「学会」としているのだと思う。ここもわかっていて嘘ついている。
嘘の理由がわかっていると、このゲームの「リアルさ」が見えてくる。
美しいイラストと、そこに書かれた生物の説明を見るのも楽しいのだけど、実はこのゲームは「学者の生態」を上手にゲーム化したものなのだと思う。
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