今日は MEMEX の構想が発表された日(1945)。
さて、昨日(ヴァネバー・ブッシュの命日)の話の続きです。
「今日は何の日」で、まさかの2日連続の話題。
ブッシュは、1945年の今日発売の The Atlantic Monthly 誌に、「As We May Think」(我々が考えるように)という論文を発表しました。
この論文は、仮想機械 MEMEX の効用を説いたものです。
今は良い時代で、この全文を読むことができます。
論文の前半は、過去の技術の進化と現在の最先端が…各種分野ごとにわかりやすく列記されます。
露光に何時間もかかった写真が進化し、乾板写真となり、現在ではテレビで生中継が可能なこと。
鉛筆やタイプライターで紙に記録してきたのが、現在ではパンチカードに記録することで自動集計が可能になったこと。
そろばんで計算していたのが、機械式計算機が生まれ、複雑な方程式も解ける微分解析機となったこと。
情報を適切に並べるのに、紙の束を何らかの順で並べてファイルしていたのが、パンチカードによってソートが可能になり、何万件ものデータを扱えるようになったこと…
それらの紹介の後、MEMEX のアイディアが披露されます。
技術は進み、たくさんの情報を記録し、ソートしておけるようになりました。
しかし、たとえ「膨大な本をタイトル順に並べた」としても、それで必要な情報が探しやすくなったのでしょうか?
情報を整理するのには、機械的な方法ではダメで、「我々が考えるように」しなくてはならないのです。
ここで、とある情報に、関連性がありそうな別の情報を接続し、後でいつでも引き出せるようにする、という MEMEX の、基本的なアイディアが紹介されます。
膨大な情報は、マイクロフィルムで記録されます。
新しい本や新聞をマイクロフィルムで購入することもできます。
新たな手書きノートも、メモも写真も、撮影して瞬時にマイクロフィルム化できます。
そして、関連する事柄を接続しておくことができます。
…ブッシュは、この「接続された情報」のことを、トレイル(足跡)と呼びました。
たとえば、百科事典では、項目の末尾に関連項目が示されます。
MEMEX のフィルムとして購入できる百科事典は、項目ごとにトレイルが設定されているものになるでしょう。
そして、MEMEX の白眉は、これら「トレイル」の扱いにあります。
トレイルのデータもまた、MEMEX のマイクロフィルムとして記録されます。
パンチカードの穴の有無が光によって検査されているのだから、マイクロフィルム上のインクで同じように情報を記録できる、という技術的裏付けも示唆されています。
そして、マイクロフィルムは複製することも簡単です。
あなたのトレイルデータを複製し、友人に渡すこともできるのです。
例えば、あなたが趣味で「ヨーロッパにおける弓の歴史」を調べたとします。
あなたの書いた論文と、根拠を示す関連書籍を結び付けたトレイルデータを、あなたの友人に渡せば、友人は根拠となる事実が正しいことを確認しつつ、あなたの論文を評価できるのです。
(関連書籍は買う必要があるかもしれませんが、それは「本」が情報の中心だった当時としては当たり前のことです)
弁護士は自分の関与した事件の関連書類をまとめておいて、クライアントに対して、自分が過去にどのような事件を専門として仕事をしてきたか、すぐに示せるでしょう。
医者は珍しい症例のデータを共有し、患者の診断に役立てられるかもしれません。
MEMEX は、単に個人的な記憶の手段としてだけでなく、人々の暮らしを変える「情報の交差点」となるのです。
昨日、ブッシュの命日の記事で書いた通り、ブッシュは自分以外の人の考えを認めないところがありました。
彼はデジタル計算機の限界を超えるために、微分解析機というアナログコンピューターを発明しています。
そのため、デジタル計算機は信用しておらず、新たに生まれつつあったデジタルコンピューターも信用していませんでした。
彼にとっては、マイクロフィルムが最先端技術であり、MEMEX はマイクロフィルムによって発明されるだろう技術でした。
実は、マイクロフィルムを使った連想記録は、この頃すでに発明されていたそうです。
しかし、その発明のことは知らず、技術を発展させるのではなく、夢想するだけに終わっています。
これもまた、「自分のような天才以外に、このようなことを思いつくはずがない」という過信からだったようです。
しかし、この論文のタイトルが「MEMEX」ではなく、「我々が考えるように」だということに注意してください。
ブッシュは、仮想機械として MEMEX を示しましたが、この機械が重要だと言っているわけではありませんでした。
MEMEX を重視するのであれば、ただ MEMEXの夢を語ればよいのです。
しかし、論文の前半は「各分野ごとの工学発展史」でした。
彼は、それまで「技術」が先行し、バラバラに発展していた各種工学分野の成果を、「そろそろ、人間が使いやすいことを重視して、まとめなおすべきではないか」と提言したのです。
いうなれば、20世紀の機械技術の
現代的に振り返えれば、ユーザーインターフェースに革命を促したのです。
MEMEX は魅力的な機械でしたが、夢想が壮大すぎてすぐに実現できそうにはありませんでした。
しかし、後の世に確実に種をまきました。この論文を読み、感銘を受け、後に MEMEX を自分なりに作り出そうとした人たちがいるのです。
…というところで、今日の話は終わりにしておきます。
続きはまた明日。(ナヌッ!?)
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