今日は町口浩康さんの誕生日(1960年)。
グラディウスのゲームデザイナーです。
詳しく存じませんが、ヒット作はこのシリーズのみ。
もっと言えば、シリーズは後になるほどマニア化するため、多くの人にとっては「初代」のみが記憶されているでしょう。
でも、この一本はゲーム史に輝く金字塔です。これ1本だけで、十分すぎる良い仕事だと思います。
グラディウスは語りつくされている感があるため、僕が新たに付け加えるようなことはありません。
概略だけを示しておきましょう。
1981年、コナミは「スクランブル」というゲームを発表します。
1981年に発売されたテレビゲームと言えば、ドンキーコングやギャラガ、フロッガーなど。いずれも画面固定、1ボタンのゲームです。
この当時に、スクランブルは横スクロールのシューティングゲームで、2つのボタンで空中と地上の攻撃を使い分ける、と言う内容で大ヒットしました。
大ヒットすれば模倣する、というのがゲーム業界の常。
ナムコは、「スクロールして、地上と空中を2ボタンで攻撃」という部分を真似して、1983年にゼビウスを発表します。
キャラクターごとに7色しか使えなかった色を、ほとんど灰色のグラデーションで使い切り、立体的な陰影を表現する、という思い切ったグラフィックと、「たかがシューティングゲーム」なのに深遠なストーリーを感じさせることが評判となり、大ヒットとなります。
これを受け、コナミでは「ゼビウスを超えるゲームを作る」プロジェクトが始まります。
(ちなみに、ゼビウスがスクランブルを模倣して作られた、と言う打ち明け話はもっと後になって出てきたもの。当時はコナミの人は知りません)
各種ゲームを調査した結果、ゲームのベースはやはりスクランブルとなり、「スクランブル2」の作成が開始されます。これが発売時には「グラディウス」と言う名前になります。
ところで、スクランブルにはあったのに、ゼビウスではなくなっているものがあります。
まぁ、違うゲームなので細かなことを言えばいくらでもあるのですが(笑)、「多彩な面構成」はゼビウスに引き継がれなかったもの。
ゼビウスは、面が進むことで難易度は上がりましたが、基本的には同じことの繰り返しでした。
しかし、スクランブルは、次々と面構成が変わるゲームでした。
山岳地帯に作られたミサイル防衛網を抜け、洞窟をくぐり、ビルの合間を抜け、最深部の要塞を破壊する…ドラマティックな展開ですが、単純にそれだけではなく、面の構成方法が全然違うため、攻略法も変わってくるのです。
グラディウスでも、このような多彩な面構成は残されています。
グラディウスの発表は 1985年5月ですが、「開発期間は1年くらい」あったそうです。
この間の 1984年7月には、ナムコが「ドルアーガの塔」を発表しています。
ドルアーガの塔は、「パワーアップ」の概念を導入したゲームでした。
これ以前にも、パックマンのパワー餌やポパイのほうれん草、ドンキーコングのハンマーなど、「パワーアップして立場逆転」の要素は存在しましたが、いずれも一定時間のみの要素でした。
継続的に主人公がパワーアップし、複数のパワーアップを重ねていける、というのはドルアーガの塔が最初ではないかと思います。
グラディウスでも、独自のパワーアップシステムを取り入れました。
当時他にも「ゼビウス風ゲーム+パワーアップ」と言う作品は発売されています(Bウィングなど)。
しかし、グラディウスが優れていたのは、先に書いた「多彩な面構成」とパワーアップを見事に融合させていることです。
どちらか片方しか選べないレーザー/ダブルのどちらを使うか、いつバリアを使うか(状況によっては、背景の障害物にバリアがぶつかり、あっという間になくなってしまう)、オプションをどのように配置するか、などなど。
スクランブルでも面構成に合わせた攻略は必要でしたが、その一部として「パワーアップ」の選択が綺麗に組み合わされているのです。
さらに、ゼビウスはランダム性の入っているゲームでしたが、グラディウスは完全にパターンゲームでした。
敵の出現位置などを覚えてしまえば、出現と同時に倒せる、と言うことになります。
これにより、グラディウスはシューティングゲームでありながら、パズルのような試行錯誤を必要とするゲームとなっていました。
グラディウスがパズルである、というエピソードの一端として、発売から数年後にゲーメスト誌で連載された「グラディウス4周目以降の復活パターン」を挙げておきます。
グラディウスでは死んでしまうとパワーアップが失われますが、その状態から完全パワーアップまで「復活」させるための手順を、詰将棋のように解説した連載でした。
#ゲーメストが現在手元にないため、発売からどれくらいたっていたか、正式タイトルがこれであっているか不明。知っている方は教えてください。
バブルシステムにも少しふれておきましょうか。
グラディウスは、バブルシステムと呼ばれる基板で供給されました。
このシステムには、磁気バブルメモリが採用されています。
このメモリ、一時期は「将来の有望メモリ」だったのですが、今ではすっかり消えてしまいました。
まぁ、簡単に言えばカセットテープやディスクと同じような、磁気記録メディアです。
磁気メディアでは、磁気記録された媒体を動かすことで、周囲に電場を発生し、読み取りを行うのが普通です。しかし、媒体を動かさなくてはならないと言うことは、モーターなどの可動部品を使うことになります。
可動部品は壊れやすく、メンテナンスが欠かせないため、いろいろと面倒も多いです。
そこでバブルメモリ。
詳細はややこしいので省きますが、磁気バブル現象と言うものを使用したもので、記録媒体を「変化する磁場」の中に置くと、磁場が変化するたびに「磁気記録」が一方向に移動します。
読み取りは移動先の端で行い、読み取った結果は逆の端に書き戻します。
こうすることで、可動部品がないのにカセットテープのようなシーケンシャル読み出しが可能となります。
パソコンでは、FM-8/11 や BUBCOM 80 で記録メディアとして使われています。
しかし、先に書いたようにカセットテープと同じような原理なので遅く、あまり普及しませんでした。
ならば、毎朝1回の起動時だけ使えればよい業務用に…とグラディウスにも採用されたのだと思いますが、これは「磁気記録メディア」であることを忘れてはなりません。
当然周囲の磁場に弱いのですが、ブラウン管は強い磁場を発生します。そして、業務用ゲーム機は、狭いスペースにブラウン管と基板を格納してあるのが普通です。
バブルメモリは壊れやすく、問題が多かったようで、グラディウスでは後に ROM 版も作られています。
グラディウスは、シューティング史に輝く金字塔ですが、シューティングを衰退させた戦犯でもあると思っています。
業務用ゲームでは、「長くプレイされないこと」はかなり重要です。
しかし、グラディウスの大ヒットで、類似したゲーム性のシューティングゲームが増えました。
グラディウスは先にあげたようにパターンゲームの側面を持っていたため、最初のうちこそ売り上げがよいのですが、徐々に一部の人が占有する形で売り上げが落ちていきます。
シリーズを重ねるうちに、難易度を上げるなど対応を図りましたが、今度はマニア以外には難しすぎて人気の出ないゲームになっていきます。
シューティングは一定の需要があるためにゲームセンターでは買ってくれますが、決して複数台を導入するようなものではなくなっていきます。
かわりに人気が出たのは、対戦格闘でした。
もちろん、面白かったからファンが増えた、というのはありますが、対戦格闘では「お客さん同士が潰しあってくれる」ために、プレイ時間が非常に短く、ゲームセンターで導入しやすいという側面もあったのです。
面白ければゲームが売れる、というのはある種の幻想です。
もちろん、回すために面白さは重要な要素ですが、ビジネスとしてうまく回らないものは、どんなに面白くても除外されていきます。
(それを跳ね除けるほど強烈な面白さを持つ作品、というのも時折存在しますが)
シューティングゲームは、グラディウスのヒットによって、残念ながらこのサイクルから外れていき、その空席に対戦格闘がうまくはまったのです。
バーチャファイター2など、ゲーム開始5秒でリングアウトに追い込む、と言うようなプレイスタイルもありましたからね。
100円入れて、15秒しか遊べなかったとしたら、普通のゲームなら2度と遊ばないでしょう。
しかし、対戦格闘では「くやしい」と言ってもう 100円入れてくれる。ゲームセンターにとっては夢のような商材でした。
インベーダーゲームの流行の後、ギャラクシアンなどの類似ゲームが出た後で、パックマンが出ます。
この後は「キャラクターがコミカルに動くゲーム」が流行し、「もうシューティングのアイディアは出尽くした」と言われました。
でも、上に挙げたスクランブル、ゼビウス、グラディウスでシューティングは再び見直され、対戦格闘のブームで「シューティングのアイディアは出尽くした」と言われました。
でも、その後もレイフォースのシリーズとか、レイディアントシルバーガンから斑鳩の流れとか、雷電系から首領蜂系の流れとか、大ヒットには届かなくても、新しいタイプのシューティングを作ろうとする人たちはいます。
まだまだアイディアが出尽くすなんてことはないのです。
シューティングはテレビゲームの中でもかなり古いゲームジャンルです。
つまりは、原始的に人間が面白いと思う感覚にかなうものなのです。
いつかまた、新しいタイプのシューティングが出てきて、「出尽くしたなんて言ったの誰だよ」と笑って言えると良いな、と思っています。
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