2013年09月03日の日記です


世界最初のテレビゲームって結局どれなの?  2013-09-03 22:57:27  コンピュータ

表題通りのページを公開しました。


公開は2日前。構想は…忘れた。夏休み前。


数年に一度、夏休みの終わるころになると「自由研究で調べているのですが、最初のコンピューターってどれですか?」というようなメールが来る。

だから、わかりやすくまとめた解説ページを書いてやろう、と思い立った。


でも、TX-0 ページを6月末に仕上げたばかりで、もうちょっと宣伝しておきたいな、と思った。

特に、「迷路のねずみ」はゲーム史の研究をしている人にはぜひ知っておいてほしい。

(日本ではほとんど言及されないし、アメリカでも内容について誤解が多かったから)


それで「世界最初のテレビゲーム」と題したページを作ったのが8月頭。


これ、書いておきながらちょっと罪悪感があった。

世界最初、というのは嘘だ。タイトルで釣っている。厳密に言えば、世界最初のテレビゲームのうちの一つ、と呼ばれるものなのだ。



というわけで、夏休み前に書こうと思ったのは「世界最初のコンピューター」の話なのだが、この罪悪感もあって、世界最初のゲームをちゃんと解説しなくてはならないと感じた。それはもう、強迫観念的に。


そこで世界最初のゲームを書き始めた…のだが、思ったより難航した。調べるのが面白かったのだ。

ある程度知っているつもりでいたのだけど、細かな部分で、調べれば知らない事実が出てくる。


世界最初のテレビゲームと呼ばれるものは、大体網羅したつもり。

Nimrod も歴史話にはよく出てくるのだが、これは明らかにテレビゲームじゃないし、話が枝道に迷い込むのを防ぐために割愛した。


同じ理由でチューリングのチェスプログラムも割愛。

話をすれば面白いのだけど、とにかく話が大きくなりすぎた。




よくあるテレビゲームの歴史話では、「SPACE WAR!」「BROWN BOX」「Tennis for Two」の3つは、何もないところからいきなり創作されたことになっている。


これ、自分が歴史紹介を書くのであれば、絶対に「何もないところから湧いて出る」のは避けたかった。

どんなものでも、歴史と言うのは前の時代から受け継いで、次の時代に受け継がれていくものだ。

「何もないところからいきなり」はあり得ない。


SPACE WAR! は、「迷路のねずみ」の影響を受けていることが、「ハッカーズ」に明記されている。

ただ、「迷路のねずみ」が長い間謎のゲームとなっていたために、SPACE WAR! がいきなり登場したように書いてある記述が多いだけだ。


Tennis for Two は、弾道計算機を応用したら自然とああいうゲームになるのが理解できる。

こちらは、弾道計算機の原理を知らない人が多いため、言及されにくいだけだ。


(今回、弾道計算機の原理をざっと説明したが、あれで理解いただけただろうか?

 もっと詳細な説明もしたかったが、これも話が枝葉に入ってしまうので避けた)


ところが、BROWN BOX がどこから出てきたのかが分からなかった。納得のいく説明ができない。

ライトガンがあったり、SPACE WAR! の弾や、ジョイスティックのようなアイディアがあったり、明らかに MIT のゲームの影響を受けているようだが、どこにもそれを示す資料がない。


ベアは軍需企業サンダース・アソシエイツでレーダーの仕事をしていて、MIT関連の MITRE はレーダー網 SAGE を整備した軍需産業。しかも、お互いの本社は隣町。

だから、ラルフ・ベアは MIT で作られたテレビゲームを知っていたのでは…というのが、最初に想定した説明。


でも、この想定は不自然。サンダース・アソシエイツと MITREをつなぐ線は、どんなに資料を漁っても出てこなかった。

ベアは確かにレーダーの仕事をしたが、サンダース・アソシエイツの専門はフレキシブル基板で、ベアの仕事は航空機に搭載するレーダー。SAGE は地上レーダーだから関係ない。


そもそも、ベアが MIT のゲームを知っていれば、BROWN BOX はもっと「まともな」ゲーム機になっていたはずだ。


ずっと悩んで、ベアは本当に天才で、すべてを一人で作り出したのかもしれない…と認めかかった時、「チーム3人目のメンバーであるラッシュは MIT 出身」という資料を見つけた。


これを見つけた時はすごくうれしかった。これでやっと納得のいく説明ができた。

ラッシュが MIT のゲームを知っていただけで、製作の指揮をとるベア自身はゲームを知らなかったのだ。

だから、それ以前のテレビゲームとは思想が分断されている。でも、技術は受け継がれている。




公開直後(数時間後)に、「COMPUTER SPACE は実際には結構人気があり、再生産されたのでは?」という情報をいただいた。

こういう情報はありがたい。早速再調査した。


結果から言えば、これは情報を下さった方の記憶違いだった。

再生産はなかったが、後に2人用が作られている。


しかし「人気があったから2人用も作った」可能性がある。もしそうなら、自分の記述は間違っている。


調査すると、COMPUTER SPACE の大ファンで情報を収集、分析している人(世の中にはそういう人もいるのだ)のページに、「2人用は売れ残った1人用を改造して作られた」と書いてあった。


2人用は、シリアル番号から考えれば少なくとも350台程度は生産されている。

(もしかしたら、650台かもしれないが、確率的には 350台の方がありえそう)


ということは、1500台生産して、350台以上は売れ残ったことになる。



というわけで、公開1日後にこのことを追記した。



頂いた情報が間違っていても、再調査によって最初は気づいていないことに気づく場合がある。

情報はどんなものでもありがたい。




他にも、ツイッターでいろいろな意見をお寄せいただいたり、呟かれたものを勝手に見せてもらったりした。

意見は前向きに取り入れている。本と違って、すぐに修正できるのが WEB のいいところだ。


「テレビゲーム以前のコンピューターゲームも知りたい」と言うような意見もあった。


それも結構面白いのだけどね。

実は、「コンピューター」の定義があいまいで、テレビゲーム以上に大変なことになる。


そう、まずは「コンピューター」の定義を探しに行かないとね。

世界最初のコンピューターを紹介するには、これを避けて通るわけにはいかない。


…「世界最初のコンピューター」は、夏休み中に公開するはずだったのに、まだ書きはじめてすらいないよ。



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