…というわけで、サンリオピューロランドに行ってきた。
率直な感想を言おう。
非常に良かった。感心した。
事前に下調べして「大人の鑑賞に堪えうる」という評判を知ってはいたのだが、それでも驚くくらい良かった。
サンリオを見くびっていたことを、素直に申し訳ないと思う。
今回、割引券があったので、フリーパスが大人2900円で購入できた。
通常なら4400円だ。ずいぶん割り引かれている。
しかし、割引がなかったとしても、やはり「安い」と思えるような内容だった。
それくらい良かったのだ。
1980年代後半の東京ディズニーランドの大成功を受けて、全国に「テーマパーク」が乱立した。
しかし、テーマパーク事業は規模が大きすぎ、収益性は実はそれほど高くない。
そこで、1990年代には小さな敷地で収益性を上げた、「ミニテーマパーク」と呼ばれるものが増える。
ピューロランドは、その先陣を切ったひとつだ。
ミニテーマパークで著名なのは、ナムコのナンジャタウン、セガのジョイポリスだろう。
ゲーム会社がテーマパーク事業に乗り出したのは、それがもともとエンターテインメント産業であるから、ということだけではなく、風俗営業法の問題も大きい。
ゲームセンターは風俗営業法で営業に制限があるが、ほぼ同様の内容であっても「テーマパーク」を名乗りさえすれば、風俗営業法の枠が外れるからだ。
事実、ジョイポリスは大規模ゲームセンターと実質的に変わらず、すぐ飽きられる。
当初計画では、各都道府県に1つづつつくる、としていたのだが、一度建設したところからも相次いで撤退し、現在3箇所しか残っていない。
ナンジャタウンはもう少しまともな「遊園地」であったが、こちらも飽きられるのが速く、「フードテーマパーク」という新たな活路を見出し、当初の内容とはずいぶん変わってしまった。
しかし、ピューロランドは、いわゆる「遊園地」ではない。
体感型の劇場だと考えたほうが良いだろう。
内部には複数の小劇場を持っていて、20~30分程度のミュージカルを繰り返し上演している。
これだけなら「ミニ劇場の複合体」であって、わざわざ体感型劇場とは言わない。
よくできているのは、劇場を出ても、中央の広場では繰り返しパレードや、短いミュージカルが上演されている、というところなのだ。
劇場を出たつもりでも、常に劇を見ている形になる。
見るつもりがなくても、「そうした異質の空間」に身をおいていることは変わらない。
これが、日常ではありえない、不思議な体験をかもし出す。
そして、1つ1つの劇は、非常にクオリティが高い。
…なにせ、宝塚や劇団四季などにゆかりのあるスタッフを起用しているのだ。
演劇としては、トップクラスに属すると考えても良いだろう。
トップクラスの演劇を見れば、2時間で1万円程度は普通の値段だ。
それが、1日中その空間に身をおいて、5千円未満。
これが「安い」と評する理由だ。
ちなみに、妻は「ミュージカルは嫌い」と以前から言っていた。
その妻が「楽しかった」という。それほどクオリティが高い。
まぁ、遊園地的なところもないではない。
イッツァスモールワールド風のアトラクションとか、ミートミッキー風のアトラクションとか。
いちいに「ディズニーランドでの元ねた」を感じてしまうのは、やはりディズニーランドをまねて作ったミニテーマパークだからだろう。
そして、両手ばなしで絶賛できる部分ばかりでもない。
「夢の空間」にしては、壁に描かれた絵が色あせていたり、展示に埃がかぶっていたり。
ここらへん、ディズニーランドと違って「総合力」が足りないのだろう。
とはいえ、ミニテーマパークの目的が「ディズニーランドと類似のものを、もっと高い収益性で」とだと考えると、手が回らないのではなくて、あえて手を入れていないのかもしれない。
それでも、がっかりさせるほどのものではない。
実際、リピーターは多いようだ。
熱狂的なファンだから、というのでもない。
やはり「楽しいから」来る人が多いのだろう。
パレードの際に「みんなで踊りましょう」というダンス(混んでいても、座ったままでも大丈夫なように、手の動きだけ)は、結構複雑なのにもかかわらず、完璧に踊れている人を散見した。
とある劇は、終わった後のスペースで「お財布ケータイで」アクセスすることで、待ち受け画面などがもらえた。
これ、見に来た回数でもらえる物が変わり、最高15回見ないともらえないものもある。
15回来る、というのが、「不可能ではない」程度には実際に来る人がいる、ということを物語る。
ミュージカルを身近にしてくれる、こういう施設がもっとあればよいのに。
日本では、演劇は金にならない。
小さな劇団は、持ち出しで公演している。その公演を支える劇場側も赤字で、お客さんも「チケットが高い」と文句を言う。誰も儲からない構造だ、とよく言われている。
そうでないのは、宝塚と劇団四季くらい、とも言われる。
でも、それでは「トップ」と「底辺」が離れすぎているのだ。
もっと、間をつなぐものがほしい。
しっかりとした技術を磨きながら、演劇を志す人のステップアップの場が少なすぎるのだ。
サンリオピューロランドは、そうした「隙間を埋める」施設のひとつだと思った。
サンリオはちゃんと収益を上げられているし、僕が書いたようにお客さんにとっても「安い」と思える。そして、ここで採用されたアクターにとっては、確実にステップアップの場にできるだろう。
でも、サンリオが雇えるアクターは限られている。
しかも、実際のところ中国人アクターも多い。
ミュージカルともなると、単に「演劇を志している」レベルの人材ではだめなのだ。
バレエもできて、身体的にも研ぎ澄まされていなくてはならない。
日本では、そうした人材が少ない。だから中国人を雇わないといけない。
(たぶん、近年中国からの団体客が多い、という事情もあるとは思うが)
人材が少ないのは、演劇で食っていくことは難しく、活躍できる場が限られているからだ。
人材が少ないから劇場が育たず、劇場が少ないから人材が育たない。悪循環。
だからこそ、もっとこういう施設が増えればいいのに、と真剣に思った。
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