PC以降の音楽演奏
前回に引き続き、世界初の MML を探るために、コンピューターでの音楽演奏の歴史を追います。
今回は、Altair 登場以降の音楽プログラム。まずはアメリカからですが、途中で日本に舞台を移します。
目次
世界初のMML(別ページ)
MMLの成立(別ページ)
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Music of a sort(1975)
1975 年、コンピューター業界に大事件が起きています。Altair 8800 の発売でした。
詳細は別記事に譲りますが、PDP-8 を参考にして作られたコンピューターが、PDP-8 の10分の1以下の値段で買えるようになったのです。早速多くのユーザーが買い求め、プログラムを作りはじめました。
スティーブ・ドンピア(Steve Dompier)は、なかなか出荷されないアルテアを手に入れるために、発売元まで出向いて状況を確認した、最初期ユーザーの一人です。
彼は誰よりも早く Altair のキットを入手し、ラジオを聴きながらプログラムを組んでいて…実行する命令によってラジオに乗るノイズが違うことに気が付きます。
これは大発見でした。トグルスイッチといくつかのランプ以外には何もついていない Altair に、最初の「周辺機器」を見つけ出したのです。
彼はこれを使って音楽演奏プログラムをくみ上げ、今や伝説となったサークル「ホームブリュー・コンピュータークラブ」で披露します。
この時演奏されたのはビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル」。そして、アンコール演奏に「DAISY」。
この選曲には非常に深い意味がありますが、話が長くなるので割愛。
興味がありましたら、別記事に書いてありますのでご覧ください。
プログラムはホームブリュー・コンピュータークラブで発表した後、すぐに会報に掲載されました。
そして、当時人気のあった People's Computer Company (PCC)のニュースレター、そして PCC の別冊扱いでこれも人気のあった雑誌 Dr.Dob's Journal(DDJ)にも。
PCC の活動の中で、特に Tiny-BASIC というプロジェクトが人気になり、その記事を中心にまとめて発行したのが DDJ。後に DDJ は人気月刊誌に発展します。
演奏データ形式
データは全てバイナリです。
音長指定は無く、固定長です。長い音を出したいときは、連続して同じ音階の音を指示しました。
つまり、データを「処理する」ようなプログラムはほとんどありません。データを除けばわずか 28byte しかない、小さなプログラムでした。
「トッカータとフーガニ短調」の記述は、次のようになります。
063 071 063 063 063 063 063 063 063 063 063 063 071 100 105 114
120 120 120 120 114 114 114 114 114 114 114 114 002 002 002 002
もっと知りたい
DDJに再掲されたリスト(PDF)
DDJ に再掲された、PPC に掲載された記事を、スキャンしたもの。
ややこしいのですが、DDJ だけど PPC の初出記事と同じものですよ、ってこと。
Altair を作った MITS 社は、ユーザーグループを作って不定期刊行の会報を作っていました。そして、当時 MITS 社の社員でもあったビル・ゲイツも記事を書いていました。
リンク先はビル・ゲイツの署名記事で、Music of a sort を「Altair で見たデモの中で最高の物」と絶賛しています。(署名は左上、絶賛は右上部分)
名著です。翻訳ミス多いけど。って、いろんなところで、何回も書いてるな (^^;
この中に、Music of a sort の作者が Altair を手に入れるのにどれだけ苦労したか、彼がなぜラジオにノイズが乗ることに気付いたのか、初の演奏会はどのような様子だったかなど、全て書かれています。
こちらも名著。著者である故・富田倫生の意思により、第2部の全文が無償公開されています。
リンクしたのは、Music of a sortの演奏会の様子。「ハッカーズ」に記述されている、と注釈にあるので、ハッカーズを元に再構成したようです。
SCORTOS (1977/9)
SCORTOS は、Altair を利用して、演奏を行うシステムです。ハル・テイラー(Hal Taylor)の作ったもので、BYTE 誌 1977年9月号の巻頭特集で紹介されています。論文タイトルは「SCORTOS:Implementation of a Music Language」。このタイトル、後で謎を解くカギになります。
テイラーが何者であるか、調べてもよくわかりませんでした。…しかし、記事の連絡先には「Interactive Music」とあるので、音楽関連の仕事をしている方なのでしょう。
そしてこのシステム、なかなかすごいです。Altair 1台で、ハモンドオルガン、モーグのシンセサイザー、ARP のシンセサイザー2台…なんと、合計4台の楽器を操作します。(もっとも、図に例示されたのがこの4台だっただけで、楽器は自由に変更できる拡張性もあったようです)
Altair には、ビデオ端末(テレタイプが紙に印字を行う代わり、テレビ画面に文字を表示するシステム)が接続されていて、現代の PC のように画面とキーボードで操作ができます。そして、文字で書かれた演奏データを基に、演奏が行えるシステムでした。
譜面を実際の音にする(SCORe TO Sound)がシステム名の由来で、この譜面記述法は SCORTOS 言語、と呼ばれています。
詳細は省きますが、「言語」を名乗るだけあり、譜面のループをそのまま表現出来たり、一連の譜面を変数に代入して後で使えたり、複数の譜面からランダムに選択して演奏したり…と、いろいろなことができる高度なものでした。
さらには、外部インターフェイス API が作られており、別のパソコンをつないでそちらから SCORTOS を制御できます。「コンピューター2台」で音源を操作する、MUSYS のようなシステムに拡張できたのです。
記事の最後は、「すべての電子音楽スタジオで、コンピューターが導入されれば便利なのに」というような一文で締めくくられています。何気ない一文ですが、記事全体を締めくくる最後が「every electronic music studio.」です。
これ、MUSYS 開発した Electronic Music Studios (EMS) とかけてますよね。明らかに、MUSYS を知ったうえで、真似をして開発されたシステムです。
演奏データ形式
音階は CDEFGAB で示します。O でオクターブ指定。A=440Hz は O3 にあります。オクターブは一度指定すると、変更するまで有効。
シャープは + フラットは - を音階の後ろに入れます。ナチュラルは N 。
ナチュラルがある、ということで判るかと思いますが、シャープ/フラットは指定した音符以外にも有効です。特に N を指定しない場合、有効範囲は「同じ小節の間」です。小節区切りは / 。
この小節も、適当に区切ってよいわけではありません。最初に T でテンポ指定を行い、適切に小節を区切らなくては「音符がおかしい」とエラーが出るようになっています。面倒くさい規則に見えますが、音楽関連の仕事をしている人が作ったシステムなので、うっかりミスを防ぐ仕組みを導入してあるわけです。
プログラムには専用エディタが組み込まれていて、初回入力時は勝手に音符を数えて小節区切りを挿入してくれたそうなので、規則によって面倒が増えることはありません。
音長指定は、4分音符なら 4 、8分音符なら 8 を、音階の後ろにつけます。付点は数字に . (ピリオド)を付けることで指定します。
休符の指定は、「音階なしの音長のみ」です。つまり、数値だけが連続した場合、後ろの数値は休符を意味します。数字が連続する可能性があるため、音符間にはスペース区切りが必要でした。
先に書いたように、言語構造は非常に多彩なのですが、詳細は省きます。ただ、特筆すべきは「転調」機能があったこと。これ、謎を解くための重要な鍵となります。
「トッカータとフーガ ニ短調」は次のようになります。
T4/4 O3 A16 G16 A8^A2 G16 F16 E16 D16 / C+4 D2 4
もっと知りたい
リンク先は、BYTE丸ごと一冊閲覧できる、Internet Archiveの書籍保存プロジェクトのページ。最初に、システム概要を伝える特集ページが開くようにリンク設定しています。
BYTE の特集ページは、巻頭付近にカラーを含め数ページ、後は「何ページに続く」で後半の白黒ページに飛ばされるようになっています。
読み進めると話題が急に切れたように見えますが、ちゃんとページの隅を見れば次にどのページに行けばよいかわかります。
特にこの記事では、automaticaly という単語の途中で、ハイフネーションしてページが飛ぶ、という乱暴な構成になっています。もう少し何とかならなかったのか…