スケッチパッドとFlex
目次
パパートとLOGO
FLEX の研究を終えたケイには、一つ面倒な仕事が残っていました。
博士論文をまとめあげ、大学を卒業しなくてはなりません。
そこで、彼は一人のコンピューター数学者を訪ねます。彼は子供とコンピューターの関係を研究している発達心理学者でもありました。
FLEX は「誰にでも使えるシステム」を目指したのに、そうはならなかったのです。また、FLEX の失敗がわかっていたケイには、NLS もまた、同じような失敗をしているのがわかっていました。
本当に使いやすいシステムとはどういうものか? その問いを、おもちゃとはいっても子供でも使えるシステムを作っている学者に訊ねようとしたのです。
しかし、シーモア・パパート教授の作っているシステムは、決しておもちゃではありませんでした。教授の研究する「LOGO」は、コンピューターに対するプログラム能力こそ低いものの、「図形を操作する」ための能力は驚くほど高いものだったのです。
LOGO は子供にも使えるシステムでありながら、大人の使用にも十分耐えうるほどの能力を持っていたのです。
ここでケイはまたひとつ新しいことに気づきます。「簡単にする」ことと、「実用になる」ことは両立可能なのです。
ケイが書き上げた博士論文の表紙には、FLEX が目指した「パーソナルコンピューター」の絵が掲げられています。
パーソナルコンピューターとは、この段階では、個人でも買える値段で机の上に置け、優れた GUI をもち、生活に利用できるコンピューターを意味していました。
しかし、数年後に発売され、「パーソナルコンピューター」と呼ばれることになる機械は、値段とサイズこそ満足しているものの、使うのには非常に高度な技術の必要なものとなってしまったのです。
言葉だけが先行してしまった、残念な結果でした。
コンピューターは成熟の時を迎えていました。
ハードウェア競争の時代を超え、ソフトウェアのアイディアを出す時代を過ぎ、有用な周辺機器が一通り考案され、ここに来てその「組み合わせ」が問題となる時代になったのです。
そして、そこにたまたまアラン・ケイが居ました。彼はコンピューターに詳しい上に多くの先進的プロジェクトに触れる機会を持ち、それなのに専門家にはなりたくない、という「普通の人」のバランス感覚を保って居ました。
この感覚が、この後彼を「誰にでもつかえるコンピューター」への開発へと駆り立てることになります。
記事があまりに長くなるので、今回は前・後編に分けます。次回をお楽しみに。
参考文献 | |||
林檎百科 〜マッキントッシュクロニクル〜 | SE編集部 | 1989 | 翔泳社 |
アラン・ケイCD-ROM PACK | 浜野保樹/OPeNBook | 1994 | OPeNBook |
マインドストーム | シーモア・パパート著/奥村貴世子訳 | 1982 | 未来社 |