コンピューターを作れ!
前回紹介した「解析機関」といい、以前に歯車のコーナーで紹介した「パスカリーヌ」といい、19世紀までに作られた計算機は、ほとんど日の目を見ることなく忘れ去られていきました。
その理由は、機械が実用の完成度まで達していなかったこともありますが、むしろ「計算が必要とされていなかった」ことが大きいと思います。
それでは、いつ頃から現在程にコンピューターが必要とされるようになったのでしょうか?
目次
パンチカード 暗号解読機の必要 ボンブとコロッサス プログラム可能機械
ホレリスのパンチカードシステム
バベジの死後40年程たってから、ハーマン・ホレリスという人物がパンチカードシステムを実用化しています。
これは、データを記述したパンチカードを、そのデータに応じて並びかえたり、集計を行ったりするためのものでした。
ホレリスのパンチカードシステムは、1つのカードに80件までの項目を記入することができ、1つの項目は12通り(1ダース)の選択肢から1つを選べるようになっています。
…つまり、カードには縦に12、横に80の穴を空けられます。
そして、このカードを機械で分類し、集計することが出来ます。それまで人手で行っていた集計を機械的に行えるようにしたことで、ホレリスの集計機は爆発的に普及することになります。
現在、「ディスプレイは横80桁」という常識があるのはこのためです。
このようなパンチカードシステムは20世紀初頭に多く開発され、アメリカの国勢調査や百貨店の売り上げ集計などに利用されています。
ここでは、急激な人口増加や大量消費社会への突入と言う「情報量の増加」が、計算機を必要とした背景があります。
暗号解読機の必要
しかし、本当に計算力が必要になったのは、残念ながらそれが戦争の武器となった時でした。
20世紀前半には、多くの人が知るように、世界を巻き込んだ2回の大戦がありました。これらの戦争は、それまで「職業軍人」同士の戦いであった国家間戦争を、市民まで巻き添えにした陰湿な潰しあいへと変貌させました。
この頃はまた、無線技術が発達した時代でもあります。遠くに離れた相手に対して効果的に情報を伝達できるこの方法は、すぐに戦争の道具として使用されるようになります。
こんななか、「情報戦」という新たな戦略が生まれます。相手の情報をいち早く掴み、自分の側の戦略を効果的に立てようとするものです。
無線というものは相手を問わずに発信するものですから、傍受合戦が始まりました。それこそラジオのニュースから最高機密まで、電波は常に相手に傍受されている可能性を考えなくてはなりません。
しかも、複数位置で同時に傍受することにより、電波を発信した部隊の位置までも知られてしまう恐れがあるのです。無線連絡は、必要十分な情報を、短時間に、相手に知られても意味が判らない方法で伝えなくてはならなくなります。
このうような状況の中で、暗号機が登場します。ドイツのエニグマ暗号機はその初期のものとして有名です。
これらの「暗号機」は、文字を計算する計算機にすぎません。コンピューター(計算の手順を正しく実行できる機械)を必要としたのは、暗号を解読する側でした。
ボンブ、そしてコロッサス
エニグマ暗号機を無力にしたのは、イギリスが開発した「ボンブ」と呼ばれるコンピューターでした。
エニグマには、その暗号化方法に特有の癖がありました。そこで、これらの癖を利用して、まずたった1通りでいいですから、暗号文と、それを解読した平文の組み合わせを作ります。
出来上がったら、これをボンブに入力します。ボンブには108個の回転ドラムが付いていて、これらはそれぞれ「エニグマ」のローターと同じ動作をするように作られていました。
エニグマにはローターが3枚ありましたから、1台のボンブは36台のエニグマと同じ性能を持つことになります。
ボンブは、モーターでこれらのドラムを自動的に回転させながら、平文を暗号化し、暗号文と比較します。そして、それが一致すると停止するようになっていました。 これらの動作は、36台分が並列に処理されました。この36台分にすこしづつ位置をずらしたドラムを用意してやれば・・・
つまり、しらみつぶしに「暗号を作るためのローター位置」をさがし出そうと言うのです。
ともかく、これでローター位置さえ割り出してしまえば、それ以降の暗号文はすべて解読出来てしまうのです。これがエニグマ暗号の欠点でした。
やがて、ドイツ軍はさらに強力な暗号機である「ゲハイムシュライバー」を開発し、イギリス軍はこれを解読するコンピューター「COLOSSUS」を作成します。
ボンブが機械式であったのに対し、コロッサスは2進数を使用した電子式で、暗号解読以外にもある程度汎用の計算も行なえるようになっていたようです。しかし、これは現在まで軍事機密として詳しい資料が明らかにされていません。
コロッサスの写真。未だに軍事機密であるため、公開された写真は少ない。 基本的には暗号解読機であり、それ以外の計算能力を持ってはいたものの「コンピューター」では無かったらしい。 |
プログラム可能計算機へ
その後、IBM とハーバード大学のハワード・エイケンが共同開発した「Mark-I」や、ドイツのコンラッド・ツーゼによる「Z1」などで、プログラム制御が実用化されます。
これらの計算機はリレーや歯車を使用していて、条件判断命令を持ちません。
ツーゼのZ4。Z1〜Z3は戦争により破壊され、残っていない。 Z3はCOLOSSUS以前に作られたものであったが、すでにプログラム可能な22bit浮動小数点演算を行なえた。ただし、電子式では無くリレー回路。 Z4ではZ3を拡張し、複雑なプログラムを可能とする予定であった(未完成)。 |
他にも、戦時中には軍事目的・学術研究目的を含め、数多くの計算機が作成されます。そして、その中からついに電子デジタル式の計算機が登場してくるのです。
参考文献 | |||
誰がどうやってコンピューターを作ったのか? | 星野力 | 1995 | 共立出版 |
トロンへの道程 | NHK取材班 | 1988 | 角川書店 |
月刊アスキー1998年4月号 | 1998 | アスキー |