WWI 初の現代的コンピュータ
目次
先進的なマシン
話の流れを悪くしてしまうので途中に書けなかったのですが、どうしても書きたい特筆事項があります。
WWI は、現代的な「クロックの CPU 倍率」が取り入れられていたマシンでもあります。
マシン全体の「ベースクロック」は、1メガヘルツでした。しかし、演算部分のみは、この倍速の2メガヘルツで動作します。(計画段階では、可能であれば4メガにしたい、と言及しているのですが、実稼働は2メガでした)
演算部分は真空管が多用されており、高速動作が可能です。しかし、周辺部分、特にメモリは大容量を準備するために、真空管ですべてを作るわけにはいきません。そこで、クロックを分離して演算部分だけを高速に動かす、ということを計画したようです。
現代のパソコンでいえば、1991年にインテルが「オーバードライブプロセッサ」を発売するまで、ベースクロックと CPU クロックを分離する、という考え方はありませんでした。
それを 1947年当時に計画し、1951年には実現しているのです。時代を切り拓いたマシンと言ってよいと思います。
最後に WWI で考案され、現代のパソコンでも使われている技術をまとめておきます。
- ランダムアクセスメモリ
- マイクロコード
- パイプライン
- 複数ビットの並列演算
- 演算回路のオーバークロック
- キーボードによる入力
- 画像による出力
- ディスプレイに対する「タッチ」入力(後述)
こんなものを 1951 年時点に作っていたとは…。まるでオーパーツを見ている気分です。
WWI は高価な軍事用システムでしたが、高速性を追求するために、徹底して「回路の無駄」を省いていました。
このため、UNIVAC や IBM のマシンに比べて、小型化・低価格化しやすい構造でした。
実際に WWI を参考にする形で、小型のマシンが開発され、やがてはパソコンを普及させていくことになるのですが…その話はまたいずれ。
WWI その後
WWI の完成後、 1954 年からは、WWI の「空軍版」の開発が開始されます。
開発拠点は、同じ MIT ですがサーボ機構研究室からリンカーン研究所に移されました。
WWII は作られることはありませんでした…が、WWI の空軍版では、WWII で使われる予定だった技術の一部が実装されます。
光学的入出力デバイス…CRT 出力と、ライトガン(ライトペンのようなものですが、当時はこう呼ばれました)による入力です。
つまり、表示をタッチしたら、その詳細情報を得られる、というようなインターフェイスが構築可能になったのです。
WWI は、ハードウェアだけでなく、インターフェイスも現代的だったのです。
また、空軍版は、2台のコンピューターがセットになっていて、片方が壊れたらすぐにもう片方が稼働開始することで、「絶対に壊れない」システムになっていました。
これは、必要要件からすると絶対に必要なものでした。全米の安全を守るためのシステムが止まってはならないのです。
これにより、壊れやすい真空管を使いながらもほぼ無停止で使用可能でした。
しかし、こうするためにシステムは非常に巨大になり…「1台分」のコンピューターだけで、4階建てのビルを埋め尽くす大きさでした。
1958年、完成した WWI 軍用版(AN/FSQ-7) はIBM によって量産され、半自動式防空管制組織 (SAGE : Semi Automatic Ground Environment) が構築されます。
1963年時点で、全米25か所に「4階建て」のコンピューターが作られています。以降も増えたようで、1979年までは使用されています。
IBM は量産により WWI の技術と、大規模システム構築の実績を得ました。
この技術は、やがて IBM のコンピューターシステムに使用され、IBM がコンピューター業界の巨人に育つ原動力となっていきます。
レーダーで「すべての」航空機を見守り、現在地などを逐一報告するシステムは、現代の航空管制システムの元にもなっています。
2014.12.26 追記
SAGE を運用するために作られた組織が CONAD で、現在の NORAD です。
NORADは北アメリカ大陸(アメリカ・カナダ)を中心に、世界中をあらゆる手段で監視し、アメリカに対して飛来するありとあらゆる「脅威」を早期に発見することを目的としています。
で、毎年クリスマスには、「サンタクロースを追跡する」というミッションを行っています。これも、世界中の「飛行物体」を監視できる NORADだから出来るお仕事。
おまけ
興味のある人はどうぞ…
参考文献 | |||
WHIRLWIND I COMPUTER BLOCK DIAGRAMS | R.R. Everett & F.E. Swain | 1947 | MIT |
空軍あて書簡 | R.R. Everett | 1948 | |
Review of electronic digital computers | R.R. Everett | 1951 | AIEE-IRE |
WHIRLWIND SUBROUTINE SPECIFICATION | 1952 | MIT | |
PROJECT WHIRLWIND - case history - | Kent C. Redmond & Thomas M. Smith | 1975 | MITRE |
「殻」としてのENIACの陰で | 高橋伸夫 | 2011 | GBRC |
その他、WEB上の各種ページ |