8bit最後の砦
MSX2は、MSXの上位互換機種として1985年5月に発表された規格です。
後にMSX2は「8bit最後の砦」とまでいわれるようになるコンピューターなのですが、これから数回に分けてMSX2のアーキテクチャーについて伝えていきたいと思います。
MSX2 総合目次
第1回 8bit最後の砦
MSXからの脱皮 MSX2での拡張内容 MSX-AUDIO MSX-MUSIC
第2回 MSX-VIDEO
互換性 スプライトモード2 グラフィック VDPコマンド その他の機能
第3回 MSX2に限界はないのか?
MSXからの脱皮
MSX2のベースとなるのは、当然MSXです。詳しい話は以前の連載を読んでいただくとして、MSXの簡単な概要と、それを取り巻く時代の流れを示しておきます。
MSXは、1983年にコンピューターの統一規格として誕生しました。その一番の特徴は、安い部品を使って簡単に組みたてることができ、それでいて拡張性に十分気を使っていること。そして、家庭で使われることを想定してゲーム機能を充実させていたことです。
しかし、同時期に発表された「ファミリーコンピューター」が大ヒットとなり、MSXのゲーム機能は霞んでしまいます。さらに、各メーカーの独自性を打ち出せるように細かな規格を定めなかったのが災いして、MSXの長所であるはずの拡張性・互換性すらも犠牲にした安価機種が出回りはじめ、ユーザーの間にMSXに対する不信感が芽生えはじめます。
MSX2は、こんな時代に登場し、再び「業界の統一」を目指すのです。
MSX2での拡張内容
さて、それではMSX2はどんな点が改良・拡張されたのでしょうか?
いちばん目につきやすい、華やかな改良はVDPが変更になったことです。この変更により、それまでの最大解像度でも256×192しかなかったグラフィックは512×424(インターレース時)まで表示可能となりました。また、色数も16色固定から、最大256色同時発色まで増えています。これついては、次回詳しくお話しします。
しかし、むしろ重要なのはそれ以外の「地味な」変更でした。
- 搭載メモリ容量が「64K以上」とされました。
- 漢字表示について、乱立していた方式が統一されました。
- 漢字変換FEPが「MSX-VJE」として定められました。
- かな入力の方法として「ローマ字入力」がサポートされました。
- プリンタポートの乱立していた方式が統一、標準搭載になりました。
- ジョイスティックポートの数が、「2つ」に統一されました。
- クロックICが「標準搭載」になりました。
- 拡張音源について、「MSX-AUDIO」が定められました。
その他、ユーザーが求めていながら規格がなかった多くの機能について、規格が統一されました。これにより、MSX2はようやくゲームだけでなく、真の「ホームユース」コンピューターへと変化したのです。
MSXシリーズ最高傑作と呼ばれる、SONY HB-F900(MSX2)。残念ながらカラーの写真がなく、雑誌の白黒写真からの転載です。 MSXにもかかわらず、本体上に専用ディスプレイを乗せて使うことを意識したデザインとなっており、キーボードはセパレート、マウス標準装備である。 RAMは256K搭載。VRAMは128K。前面にはフロッピーディスク2基とカートリッジスロット1つがあり、背面にはもう1つのカートリッジスロットがある。 |
MSX-AUDIO
MSX-VIDEOについては話が長くなるので、次回じっくりとやります。
今回はちょっと脇役? のMSX-AUDIOと、その後継規格についてお話ししておきましょう。
MSXの時に、YAMAHAが積極的にFM音源を搭載し、音楽機能を充実させていたのは以前にも取り上げました。しかし、この音源はYAMAHAのMSXでしか使えないもので、MSXの「互換性」を損なう結果にもなっていたのです。
これに対する解答として、MSX-AUDIOという規格が定められました。
MSX-AUDIOは2オペレータのFM音源(Y-8950[YM-3526コンパチ])9声と、PCM1声を備えます。これにMSX内臓のPSGを加えることで、13声同時発音という、当時のどのパソコンにも負けない表現能力を持つことができるのです。
PCMは音階をつけることができるので、楽器として十分に使用できるものです。
また、MSX-AUDIOではFM音源用の音色データを64音内蔵していますが、このうち半分はROMに、半分はRAMに持っていました。RAMの部分は当然書換可能で、自分の好きな音色を作ることができます。
FM音源が2オペレータであるというのが引っかかる人もいると思いますが、これはMSXがホームコンピューターを目指していること、そのため安価にしなくてはならないことを考えていただければ納得できると思います。
しかし、残念なことにMSX-AUDIOは「オプション」と位置付けられた規格で、実際の製品は松下(Panasonic)から発売された「FS-CA1」のみでした。しかも、その製品は松下のMSX2にしか接続できないようなデザインで、値段は¥34800円もしたのです。
松下から発売になったMSX-AUDIO、FS-CA1。 同じく松下のFS-A1シリーズと組み合わせたときに、もっともしっくり来るデザインとなっている。 カートリッジが異様に大きいのは、マイク端子、オーディオ端子、ミュージックキーボード端子などを備え、PCM用のRAMも大量に搭載しているためだと思いたい。(まさか、自社のA1以外で使えないようにするための嫌がらせ・・・などということはあるまい) |
MSX-MUSIC
上のような理由から、MSX-AUDIOはまったく普及しませんでした。しかし、その基本スペックはゲームには十分で、捨て去るには惜しいものがあります。
このため、MSX-AUDIOからPCMを取り除き、32音分あった音色のRAMを1音分にまで減らした規格がつくられます。これがMSX-MUSICでした。
MSX-MUSICの最初の製品は、やはり松下から発売されました。この直前に松下が発売した「PAC」というS-RAMカートリッジが全然売れず、PACにMSX-MUSICの機能を追加した「FM-PAC」としての発売でした。
FM音源にS-RAMカートリッジとしての機能もついて7,800円という安値で、FM-PACは大ヒットとなります。もっとも、S-RAMバックアップに対応したゲームは依然としてあまり出ませんでしたが。
とにかく、MSX-MUSICの出現でやっとMSXでもまともな音楽環境が整ったのです。
FM-PACのパッケージ写真。右下の音符マークが、「MSX-MUSIC」のマーク。 パッケージには「FM音原付ゲーム用S-RAMカートリッジ」と書かれており、あくまでもFM音源はおまけとしての扱いである。 しかし、このFM音源が普及しすぎたために事実上の標準となり、「自由に音の作れないFM音源」という中途半端な規格がMSXの音楽環境として広まってしまう。 |
これは私の推測に過ぎませんが、MSX-MUSICは「売れたから規格にした」という経緯だったのではないかと思います。基本的にはMSXの関連規格はアスキーが定めていたのですが、このころには松下がかなりの実権を握っていました。
前述のPACも、名前は「Pana Amusment Cartridge」の略で、MSXのゲームのバックアップ規格にしようという割には松下1社の先走りに過ぎないことがわかります。
実際問題としてFM音源を普及させた功績は計り知れないのですが、どうせなら企業努力でMSX-AUDIOを、機能を削らずに安くしてほしかったところです。
今回はこれでおしまい。
次回はMSX2の機能の目玉、MSX-VIDEOについて、みっちりと解説します。おたのしみに。